契約成立
窓からの光に照らされた少年はゆっくりと体を起こし、朝が来たことを確認する。昨日の疲れもあってか、まだ体の調子が優れていないらしい。
しかしそんな少年のお腹辺りに異様な重さの物体が乗っかっていた。
(ん? なんだこれ?)
少年は自分のお腹の上になにかが乗っかっていることに気付き、そーと、被っていた毛布をめくる。そこにいたのは、
「すぅ~、すぅ~」
「ク、クレフ?」
そう、少年のお腹に乗っかっていた者は少年のクラスメートのクレフ・マジリアだった。しかしなぜ彼女がここで寝ているのか? 本来は女子寮の自分の部屋で寝ているはずのクレフが少年の部屋でぐっすり眠っているのか?
それはクレフ本人に聞かなければ分からないことである。
少年はクレフの体を揺さぶりながら、
「クレフ、朝だよ起きて」
「う、うーん、あともう少しだけ寝かせて」
「いや、いくらなんでもこの状態を他の女子に見られたらどうするんだよ、僕はもう二度と牢屋には入りたくないよ」
「あぁそれなら心配ないよお兄ちゃん」
「どういうことなの? それは」
「だって、クレフの部屋はここの隣だから」
「は? 僕の隣の部屋がお前!?」
「そうだよ、クレフはお兄ちゃんの隣、だからお兄ちゃんと一緒に寝ててもなんの不思議もない」
「た、確かにそうだな、じゃなくてなんでクレフが男子寮の僕の部屋の隣にクレフの部屋があるのか聞いてるの!」
「あれぇ? もしかして理事長から聞いてないの?」
「なにを?」
「理事長、昨日私達2-D組の女子全員をお兄ちゃんの寮に入れたんだよ」
(なるほど、全てはあのくそ理事長の仕業か!)
「ん? 2-D組の女子全員をってつまりそれは、」
「そう、この寮にはお兄ちゃん、クレフ、ミチカ、レイゼ、ユズミが寝てるよ?」
(なんで入学二日目からこんな仕打ちを受けなくてはならないんだ?)
「ん? どうしたのお兄ちゃん、なんだか今日も怖いお顔だよ?」
「いや、なんでもないよ、それよりクレフとにかくそこをどいてくれないか? 起きられないよ」
「え~いやだぁもっと一緒にお兄ちゃんと寝てる」
「いや、早く起きないとHRに間に合わなくなるよ」
「あ、そう言うこと、それなら心配ないよお兄ちゃん」
「どういうこと?」
「だってほら、」
クレフの指差す先、キミトの部屋の窓の外には教室らしきものが見える。
「クレフ、あの教室がなんなんだよ?」
「なにって、あの教室はクレフ達の教室だよ? 」
「え、あそこが僕らの教室?」
「そう、二階にあるし、この窓からあの教室に飛び込んでも多分遅刻しないと思うよ?」
「いや、それより僕の寮の隣上が自分達の教室だったとは」
「昨日、ユズナが飛び込んできた時に気付かなかった?」
「全然気付かなかったな」
「でもまぁとにかく、これでお兄ちゃんの心配は無くなったね」
「ま、まぁそうだ...な...ん?」
「どうしたの? お兄ちゃん?」
「なぁクレフ、あと一つあったよ」
「なぁに?」
「なんでお前裸なんだよ!!」
いままで僕は寝起きだったため視界がよく見えていなかったのか、クレフが全裸でいたことに気付けなかった。しかしそんな中、クレフは『裸でいることのどこがおかしいの?』と、言いたげな顔で僕を見つめていた。
「クレフ! とにかく服を着てくれ!」
「えぇ~だってクレフ、洋服着たままじゃ眠れないし、それにいま暑いからいいでしょ?」
「いやいや、よくないよくない、頼むからそこをどいてくれ」
するとクレフは怒り顔で僕を睨みながら僕のお腹の上から離れた。
「ぶぅ、お兄ちゃんの意地悪」
「僕は別になにもしてないだろ? それに例えこの部屋からすぐそこに教室があるとしても早く行かないと」
「お兄ちゃんはもう少し気楽にした方がいいと思うな」
「そうかな? これでも僕は気楽にしてる方なんだよ」
「お兄ちゃんがそう思っても、クレフは絶対にそうは思わない」
とても真剣な眼差しでキミトを見つめるクレフ、
(今日のクレフはなんでそんなに真剣な顔をしてるのかな? 僕、なんかクレフを怒らせるようなことを言ったかな?)
クレフの真剣な顔をしている理由を考えるキミト、そんなキミトにクレフはあることを質問する、
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだい? クレフ」
「お兄ちゃんって、精霊と契約してないの?」
そのクレフの言葉に僕は言葉を失う。そして僕の脳内は遥か昔のとある僕の少年時代まで遡る。
その当時の僕はまだ人見知りであまり他人とはなるべく距離を置いていた。
そのころの僕はとある狩猟校の生徒であった。しかし僕は他の生徒とは違い僕にだけとある力があった。それは、
本来、契約精霊と契約できるのは一人につき一体の精霊と契約ができる。複数の精霊契約はできないのだが、僕はなぜか二つの精霊と契約することができていた。
そのため僕は他の生徒に自分が二つの契約をできることを隠すために距離を置いていたのだ。
それ以降、僕は一切他人とは関わらないようにしてきた。それとは別になぜ僕が契約をしないのか、それは怖かったからだ。まだ捺さない僕にとって二つの精霊との契約は心身に大きな負担をかけてしまう、それが理由でその時から今現在まで契約は拒んでいた。
僕は誰にでも普通に接して日常を過ごしていたつもりなのだが、それは全く別の話、僕はただ一人だけ他のみんなとは別の世界にいるのでらはと不安に悩む時もある。自分だけ他の人とは違うものを持っているのが怖いのだ。全人類の中で唯一無二の存在になるのはどうしても嫌である。
しかしそんな僕に救いの手を差し伸べてくれた人物がいる。それは、僕はよく覚えていないのだが、当初、僕の少年クラスのとある女子生徒がいた。その時の僕は全く女子との会話を避けて、 逃げるようにして毎日を過ごしていた。
しかし、そんなある日、彼女は話掛けてきた。
最初はとても怖かった。彼女から視線を反らすように話していた。それでも彼女は飽きずに僕に話しかけてきた。
いい加減、なぜ僕との会話を嫌がらないのか? それが気になり、ある日僕は彼女に問う。
“なぜ僕と話すのか?”と、
そんな問い掛けに彼女は笑って答えた。
『だって君、全然私のことを見てくれないから、だから君が私のことを見てくれるまで話すって決めたの。私はね、一度自分で決めたことは絶対にやり遂げるから、でもよかったよ諦めなくて、』
僕はもう一度彼女に問う。
“そんなくだらないことをしてなにが楽しいの?”
その質問に彼女は、
『くだらないわけない、だって人は諦めなければ必ず報われるって信じてるから』
“君って不思議なことを言うね”
『そういう君だって、そうだよその両手の紋章』
僕は彼女に自分の両手を指摘された時に、
“あ、”
今更気付いても、もう後の祭りだ。
自分自身の過ちに気付いたとて世界は変わらない変わるのは自分の時間のみ。
僕は咄嗟に両手を隠した。
『どうしてそれを隠すの?』
僕は彼女になにも答えることができなかった。知られてしまったこの事実を明るみにされるなら『死』を選択する。そう覚悟していた。
『やっと、私とおんなじ人が見つかった』
“おんなじ人?”
『そう、それが君なの君は私と同じでこれを持ってる』
彼女は自分の両手の袖をめくった。それを見たとき僕は泣いていた。なにを見て泣いたのか、それは
『私はね、君と同じく両手に二つの紋章があるの、これは君も知ってると思うけど、二つの契約ができる証拠。本当に見つかってよかった。』
“君はその紋章を持っていて、どうも思わないの?”
『思うよ、だって他のみんなには一つだけなのに私には二つあるの、それがとても嫌なの』
“君は僕と同じ気持ちなんだ”
『そうだね、それなら私と友達になろうよ!』
“いいの? 僕と友達になるのが嫌じゃ”
『私と君は同じだからこそ一緒にいたい私はずっと君の側で楽しくお話ししたり遊んだりしたい』
“うん、僕も同じ気持ち、だから僕も君と友達になりたいです”
すると彼女は僕に手を差し伸べて、
『これからもよろしく』
“うん、よろしく”
それ以降、僕と彼女は親友と呼べるほどの仲になった。
これはただ僕の記憶の一部にしか過ぎない。例え過去が変わらないとして時間が過ぎたとしても、未来を変えてしまえば全てが軽く一転する。
誰の記憶の中にだって、一度は経験するだろう、
『思い出したくもない嫌な記憶』それは僕も同じく持っているものだ。一度過ぎた時間はどうあがこうが変えられる奴なんていない。いるとすればそれはもう神以外存在しないのだろう。
記憶なんて死んでしまえば後には残らない。
そして僕の脳裏は、
“本当、この世は僕にとってはもうどうでもいい世界だと思ったけど、彼女がいるなら少しだけ楽しいかもな”
と、思ってしまうほどに変化した―のだ。
人間はいらない記憶はいつの間にか消えて忘れてしまっているそうだ。
僕の記憶は永遠に残るのだろうか...
「お兄ちゃん? お兄ちゃん!!」
僕はクレフの呼び掛けに気付き我にかえる。
「お兄ちゃん、大丈夫? お顔が暗いよ?」
「あ、あぁ大丈夫だよクレフ、それよりなんの話をしてたんだっけ?」
「もう、お兄ちゃんがなんで精霊と契約をしないのかを聞いてたの」
「あぁそうだったね、答えるのが難しくて考え込んでたんだよ」
「クレフ、お兄ちゃんに嫌な質問しちゃった?」
「いやいや、嫌なことはないよ、ただちょっとどう答えればいいのか考えてただけだから、クレフは心配しなくてもいいんだよ」
「それでお兄ちゃん、考えてた答えは出たの?」
「そうだね、まだちょっと答えるのが難しいかな?」
「分かった」
クレフは部屋の窓の外を見つめながら話始める。
「お兄ちゃん、クレフはね、ずっとお兄ちゃんの側にいたい、はなさないでほしい、だからお兄ちゃんもクレフとずっと一緒にいてほしいの」
「クレフ、でも、僕と一緒にいたらきっと君を悲しませることになるだから」
すると、クレフは僕の方へと向き直り、僕の両方の頬に手を置いて。
「大丈夫、クレフはお兄ちゃんと一緒にいるだけで幸せだから悲しむことなんて絶対にないよ」
そんなクレフの言葉にいつの間にか、僕は瞳から涙を流して泣いていた。
それに気付いたクレフは僕を胸の中へと抱き締めた。クレフの体はとても温かく気分が和らいでいた。
「お兄ちゃん、もっとクレフの中で泣いてもいいんだよ? だってクレフはお兄ちゃんの妹なんだから」
ここまで僕のことを考えてくれる人がいるのは、クレフとあの時の彼女で二人目である。やはりあの時といまの感じ方はとてもよく似ていた。彼女もクレフもとても優しく我慢していたものが溢れ出るように体の底から沸き上がる。
二人の空間を邪魔させないかのように、窓の外からの太陽が二人を温かく見守るように光で包み込む。こう空間がいつまでも続かないかと願っている者もいる。反対にそれを壊そうとしている者もどちらもこの世に存在している者。
世界の平穏を保つ為にはなにが必要でなにか別に誰かの犠牲が無ければ成り立たない世界などあっていいはずがない。
(この世界はクレフみたいな神に近い存在が他にいるのだろうか、こんなに優しくしてくれるのは他にいないと思うな)
「クレフ、もうそろそろ離してほしいんだけど」
「もういいの? お兄ちゃん」
「うん、クレフのお陰でなんかすっきりした気分になったよ、ありがとうクレフ」
と言って、僕はクレフの頭を撫でた。するとクレフはとても嬉しそうに笑っていた。
「ふふふふっ、」
「なにかおかしいかな?」
「やっとお兄ちゃんの朝一番の笑顔が見れたから嬉しくて」
「なぁクレフ、ずっと気になってたんだけど」
「なぁに? お兄ちゃん」
「お前、いつになったら服を着てくれるんだ?」
朝目覚めてからいままで、僕は全裸の美少女と
会話をし、その美少女に抱き締められた、これはかなり犯罪級のことである。
「早く制服に着替えて教室に行こう」
「うん、分かった、じゃあ着替えてくるね」
そしてクレフは制服に着替えて僕と共に部屋を後にする。この卒業するまでの時間が今後どんな波乱を巻き起こすのかと心配で仕方がないのだが、
とにかく進まなきゃなにも始まらない。
「にしても、僕達の寮、中がやけに広いね」
「それはそうだよ、だってここにいるのはお兄ちゃんとクレフだけじゃないんだから」
「そうだったな、ミチカ、レイゼ、ユズミもいるんだったな」
「でも、ここの寮は他のみんなの寮とは違っていろんな機能があるんだよ」
「どんな機能があるの?」
「例えば、これかな?」
クレフは廊下のあるくぼんだところを足で強く踏みつける。すると壁側からなにかの機械の歯車が回り始めた音が聞こえる。
するとキミトは達から見て、左側の奥の廊下からなにかがこっちに向かって走ってくる。
よく見るとそれは機械、いや人間型ロボットのようなものが近付いてくる。
その人間型をロボットはクレフの前に立ち止まりひざまずいてクレフに問い掛ける。
しかし僕の視力が低いせいなのか、それとも僕の考えが正しいのか分からないが、
(どうみても、あのロボットは人じゃないの?)
どこから見ても、ロボットではやなく人間にしか見えない。
髪は腰まで伸び、メイドの格好をしたロボットなのか人間なのかも見分けがつかないほどのものだった。
(僕の視力が落ちただけなのかな?)
そう自分の中で考えていると、ずっとクレフと話していた。ロボットがキミトの方へと目を向ける。
そしてロボットはキミトの方へと歩み寄ってくる。
「お兄ちゃん、その人はねクレフや他のみんなのお願いを聞いてくれるの」
(奴隷...じゃないよね? そもそもこの子は人間じゃなくロボットなんだよね?)
するとロボットはゆっくりと頭を下げて、
「ご主人様、アイラになんなりとお申し付け下さいませ」
「い、いや特になにも頼みたいことはないけど、」
「そうですか、ではご主人様の身の回りのお世話をいたしましょう」
「いや、大丈夫だよ、自分のことは自分でするから」
「そうですか、」
ロボット? の彼女は悲しんでいるような表情していた。どうにかしないと、と思いキミトはとあることをお願いする。
「それなら、君に一つお願いをしてもいいかな?」
するとその途端に素早く顔を上げて、
「はい、なんでしょうか、ご主人様」
「君について教えてほしいんだ」
すると彼女はキョトンした顔でどう対応すればいいのか困った、ような顔をしていた。
そんな表情を見せる彼女に僕は確信を抱いていた。
『やっぱり、この子は普通の人間だ、ロボットじゃない』
すると、横からクレフが、
「お兄ちゃん、このロボットのお姉ちゃんに頼めばなんでもしてくれるよ」
(いや、違うと思うんだよクレフ、多分だけど、この子は普通の人間なんだ)
そして僕は真剣な眼差しでこう話す。
「そこまで難しいお願いはしてないけど、君のことについて知りたいだけだよ」
彼女は不思議な顔で僕に問い掛ける。
「ご主人様のご命令は私について知りたいのですか?」
「うん、その通りだよ」
「分かりました、」
すると彼女は下をうつむきながら語り始めた。
「私は...昔の自分の記憶がございません。なぜ記憶が無いのかも、自分はどうやって育ったのかも、全くなにも思い出せないのです」
「記憶が無いんだね」
「はい、その通りでございます。でも私はここに来る前はとある山奥で一人で暮らしていたそうです」
「その言い方だと自分が本当にそこで生活をしていたのかも知らないような言い方だね」
「はい、でも私がここにいまいられるのはこの学園の理事長様のお陰です」
「姉s...理事長が君をここに雇ったの?」
「はい、当時の私は人と話をするのも怖かったので初めて理事長様に会ったときは警戒をしていました、ですがそんな私に理事長様はとても温かく迎えてくれました。こんなに薄汚い私に居場所を作ってくれた、とても感謝しています」
(いま、すごく姉さんに友達が多い理由が分かった気がする)
「それは良かったね、理事長が優しい人で」
「はい、とても感謝しています」
「それで、君は...」
「アイラです」
「え?」
「ご主人様、これから私のことアイラとお呼びください」
「いいけど、それじゃあアイラ、君は理事長のことをどう思う?」
「私にとって理事長様は私の母のような存在です、側にいるだけでとても心が和らぎます」
「なんとなく分かるよ、その気持ち」
「ご主人様も理事長様とお会いになったことが?」
「勿論あるよ、まぁ事実言うなら理事長からの僕は姉弟だからね」
「そうなのですか!」
「そう、まぁだから君の感じた優しさは僕も感じたことがあるからね、分かる気がするよ」
「貴方が理事長様の弟様」
「様付けはできればやめてほしいな」
「では、なんとお呼びになればよろしいのですか?」
「気軽にキミトって呼んでいいよ」
「そうはいきません、私はご主人様のものなので呼び捨てになどできません。ましてや理事長様の弟様ならばなおさらできません」
(この子も結構頑固...なのかな)
「でも僕と君はまだ初対面なんだしまぁお互いに呼びやすい呼び方をした方がいいと思うんだよ」
「しかし、」
(それにしても、この子は最初に会ったときからずっと表情を一切変えてないな、やっぱりこの子はロボット...なのか)
「いいんじゃない? アイラ、お兄ちゃんがそう言ってるのだし」
「では、キミトsa...ごほん、キミト、なにか私にお申し付けたいことはございませんか?」
「なら、この寮の中身について分かりやすく説明がほしいんだ、まだここにいるのは初めてで正直なにがどこにあるのか分からなくて」
「分かりましたお任せください」
そして、僕とクレフはアイラと共に寮の中を見回ることにした。
「キミトsa...キミト、あちらのお部屋はミチカ様のお部屋です」
アイラの左隣の扉には名札がありしっかりそこに『MITIKA』と、書かれていた。
(うん、ここは間違いなくミチカの部屋だね)
「それではキミトs...キミトこちらへ」
アイラに連れられてやって来たのはリビングのような広間に到着する。一つ気になるのが天井がやけに高いことである。
「ねぇアイラ、ここの天井、なんか無駄に高くない?」
「そうでしょうか? 精霊契約をなさっている皆さんにはちょうどいい高さだと思うのですが」
「ん? アイラ、精霊契約をするとなにか異様に高く飛びたくなるのか?」
「いえ、決してそのようなことはありません。ただ精霊と契約をされた皆さんは精霊の力をまだ使いなれていないと理事長様から聞きましたので、」
「使い慣れていないのなら何かマズイことでも起きるの?」
「はい、かなり厄介なことが起きるんですよ」
「例えばどんなことが?」
「そうですね、まだこの寮が立つ前のお話なのですが、確かクレフ様は覚えていますか?」
「うん、クレフが寮の半分を消した時の話でしょ?」
「はいその通りです」
「ちょっとまて、なに二人で盛り上がってるんだよ、ぼくにも分かりやすく説明してくれクレフが寮を消したって何の話だよ」
「心配しなくてもキミトs...キミトにも説明します」
(アイラ、段々僕の名前を呼び捨てが出来るようになったかな?)
「其のときのクレフ様は個室で確か精霊の力の使い方をマスターしようとしていました。しかしなんらかが原因で寮の半分が吹き飛んでしまいまして」
「それって、その半分の寮にいた生徒は大学だったの?」
「えぇでもほとんどの生徒が重症を負っていました」
「死人はいなかったの?」
「その時は理事長様が怪我人の手当てをしてくださったので誰一人死人は出ませんでした」
「まぁ流石に姉さんが怪我人を出すだなんて見過ごすわけないか、クレフはその後どうなったの?」
「それは勿論こっぴどく叱られたそうですよ、その後クレフ様は理事長様から半年の寮外禁が下されたそうです」
「半年の間ずっと寮の中でこもったのか」
「うん、すごく退屈だった」
「でもまぁそれはクレフが悪いと思うけど」
「それでクレフ様は学園では問題児の一人目になったのです」
「それでお前はあの2-Dに編入するはめになったのか」
「はい、それでその後はミチカ様、ユズミ様、レイゼ様の順で編入されたそうです」
「つまり、その皆はなんらか学園で問題を起こしてあの教室にいるのか」
「はい、その通りです」
「でも学園の半分を吹き飛ばすってクレフはなんの精霊と契約してるの?」
「クレフの契約精霊は『爆破』を司る精霊」
「爆破を司る精霊?」
「単に申せばいたるところで爆発させてものを破壊することができる精霊です」
「なるほどね、それは学園半分が吹き飛んでもおかしくはないね」
「クレフ、あの時は結構手加減したはずなんだけどなぁ」
「いや学園半分が吹き飛ばせるくらいの威力を持っててクレフはよくこの学園に残れたね普通なら退学するのに」
「うん、他の女子からも言われたけど、理事長はクレフを退学にしないって言ってくれた」
「姉さんらしいな」
「うんお兄ちゃんのお姉ちゃんは優しい」
(なんか結構ややこしい言い方だと思う)
「ではキミト案内の続きをしましょう」
「そうだね、それでここはリビングなんだよね?」
「はい、その通りですが、」
「誰がここを使うの?」
「それは...」
アイラの言葉を聞く前にそれを邪魔するように廊下から声が聞こえる。
「あ、おはよう!! キミっち!!」
「レイゼ、おはよう」
廊下にいたのはパジャマ姿のレイゼだった。まだ起きたばかりなのか寝癖がひどかった。
「あれ? キミっちとクレフ早いね」
「君が遅いだけじゃない?」
「あはは、そうか僕が起きるのが遅いだけか」
「レイゼ、早く制服に着替えて来たら?」
「うんそうするよ、それじゃあまた後でね」
「あぁまた後で」
そしてレイゼは廊下の向こう側へと消えていく。
「話の続きだったね、それでここは誰が使うの?」
「普段は私が使わせていただいてます」
「へぇ、アイラって料理上手なの?」
「お兄ちゃん、アイラの料理はねすごくおいしいの舌が吹っ飛ぶよ」
「舌が吹っ飛ぶ料理は食べたくないけどアイラ君はこの寮の料理担当なの?」
「そうですね、基本的には私はここの家事全般が仕事です」
「家事全般って、大変じゃ」
「いえいえ、私にとってはいつものことですので何も大変ではありません」
「そう、何か僕に手伝えることがあるならなんでも言ってね」
「いえ、ご主人様にはゆっくりお休みなさって下さいませ」
「そうはいかないよ、君一人だけに家事を任せるのは大変だし手伝うのは当たり前だよ」
「では、もし時間があれば声を掛けるのでその時はお願いをしてもよろしいですか?」
「うん、もちろんだよ」
「お兄ちゃん、そろそろHR始まるけど」
クレフに言われ咄嗟に時計に目を移す、もう残り3分でHRが始まる時間帯になっていた。
「ごめんアイラ、この続きは昼休みにでもお願いしていいかな?」
「はい、ご主人様のご要望ならお引き受けします」
「クレフ、急ごう!!」
「うん! お兄ちゃん!!」
そして僕とクレフは勢いよくドアを開けて教室に走って向かう。
・.・.・
やはりクレフの言っていたことは正しかった。窓際から見てすぐしたにさっきまでアイラと話していた寮がそこにあった。よく見ると一階の窓にアイラが一瞬見えた。
教室にはなぜか僕とクレフの二人だけしかいなかった。スナカ先生の姿も見当たらず、どこにいっているのかと、辺りを見回していると、
「すまない遅れた」
教室の扉からスナカ先生が入ってきた。
「あ、おはようございますスナカ先生」
「おはようキミト君、クレフ」
「おはようスナカ」
「クレフ、スナカ先生のことはちゃんと『先生』って言わなきゃダメだよ」
「いいんだよキミト君、クレフはそういう性格の子だから」
「は、はぁスナカ先生がいいなら」
(性格って、クレフはどんな性格なんだ?)
「それより、君達だけか?」
「らしいですね、他の皆はまだ寮でしょうか、」
「全く二日目だと言うのにだらしない連中だな」
「まぁ皆もいろいろ事情があるのではないでしょうか」
「事情がねぇ、あ、そうだった、キミト君」
「はい、なんでしょうか?」
「先程、理事長に会ってね、君を私のところに来てくれと伝言を預かった」
「分かりました。では、行ってきます」
「クレフもぉ、いくぅ」
しかしクレフはスナカ先生に捕まえられ、
「クレフ、キミト君はこれから大事なお話をしに行くんだよ」
「いやだぁ、クレフも一緒にいく!」
「もしクレフが我慢してくれるなら、キミト君が後で頭を撫でてくれるよ」
するとクレフの態度が急に変わった。
「それならクレフずっと待つ」
「よしよしいい子だクレフは」
「先生、餌で釣りましたね」
「はて? なんのことだ?」
(先生、ごまかすの下手すぎです)
そして僕は部屋を出て理事長室へと向かった。
・.・.・
理事長室の前
ここに来るのは入学する前から数えて何回だろうか? 正直もうここには来たくないな。
と、心の中で思いながらも扉の二回ノックし、
「理事長、キミト・レスジークです」
「...」
しかし理事長室からは何もヘンジガ返ってこない。もう一度同じくノックし呼んでも誰も返事がない。
不思議に思いドアノブに手を伸ばすと、
(開いてる)
ドアにはほんの少しのすきまが見えていた。中を覗くがやはり誰もいない。
そしてドアを開けて中に入るもやはり何度確認しても部屋には誰もいない。
「理事長! キミト・レスジークです。スナカ先生に話を聞いて来ましたどこにいますか?」
しかし 誰からの返答が返ってこない。
仕方なく理事長室を出ようとしたその時、
「全く私の存在に気付かないなんて呆れたわ」
背後からの姉の声に驚き振り向くが誰もいない。
「姉さん? いるなら返事してよ」
しかし、また姉さんからの返事はない。
(これは、多分僕は遊ばれてるな)
そして僕はこの部屋にいるであろう、姉に少しイタズラをしようと思い付いた。部屋のソファに腰掛けそして、
「ふぁ~姉さんもいないみたいだしここで寝ても起こられないよね?」
そう、僕は寝たフリをして姉さんを誘き寄せることにしたのだ。すると、思った通りに、
「あらあら、私の部屋で寝るだなんていけない弟ね」
(やっぱりこの部屋に同化してたな、この作戦でよかった)
しかしこの時の僕は後に後悔することになるのだ。
(そろそろ起きてもいいかな?)
僕が起きようとしたその時、
ドスンッ!!
僕のお腹にとても大きなものが乗っかるあまりの衝撃に僕は目を開くそこにいたのは、
「ね、姉さん!!」
「ふふふ、私を驚かそうと考えてたみたいだけど残念、キミト、貴方は私の罠にまんまと引っ掛かったわね」
「それはどういう? って姉さん!! なんて格好してるの!?」
目の前の姉さんの姿は、
「あ、これ? 初めて見たでしょ? 実の姉の下着姿。どう? 似合う?」
「似合う? じゃなくていいからそこをどいて!」
姉をどかそうとするもやはり姉の力には敵わない。
「諦めなさいキミト、まんまと自分から罠にハマったのだから」
「姉さんだから止めてって」
「確か、キミトはここが弱点だったよね?」
すると姉さんはぼくの耳たぶを甘噛みする。
「う、頼むから姉さん、ひっ、止めてって!!」
「えー、ひゃって、ひみとのみみたゃぶにゃわらきゃくてきもちゃいいんだゃもん
(えー、だって、キミトの耳たぶ柔らかかくて気持ちいいんだもん)」
(もうなんて言ってるのか理解できないよ)
「姉さん、僕になにか用事があってここに呼んだんでしょ?」
「あ、そうだったね、すっかり忘れてたよ」
姉さんは僕への用事を思いだし瞬間的にいつもの正装に身を包む。
そしていつのもごとく、自分の机に座り、僕を見る。
「それで? なんなの僕に用事って、」
「実はね確かキミトはまだ彼女達の日常を知らないのよね?」
「彼女って、ミチカ達のこと?」
「そう、彼女達の毎日している日課のことも知らないのよね?」
「全く知らないよ」
「それなら、今日お前の教室には誰もいなかったんじゃない? クレフとお前とスナカ以外の生徒は」
「あぁ確かにそうだった、けどまだ寮の中で準備でもしてるんじゃないの?」
「実はね、多分いまならまだやってると思うよ?」
「なにを?」
「キミト、ここから見えるあの時計台の裏に行ってごらん、おもしろいものが見れると思うよ」
「時計台の裏に? なにがあるの?」
「ヒントを出すなら修行の場だね」
「修行の場ねぇ、まぁ分かった行ってみるよ」
「うん、いっておいで」
そして僕は理事長室を出て一旦、クレフとスナカ先生のいる教室に戻ったのだが、
(誰もいない)
教室には誰もいなかった、仕方なく一人で時計台の裏へと急ぐ。
(にしても時計台に裏なんてあるのか、最初に見たときは暗くてよく見えなかったからな)
そして僕は時計台の真下に到着した。
(これの裏になんかあるのか?)
僕は時計台の裏へと回るそこには、
「これは、闘技場?」
目の前にあったのはレンガの石で回りを囲んで作られたような闘技場らしき建物が建っていた。
(姉さんの言ってたおもしろいものってもしかしてこれのことなのかな?)
僕は回れ右して帰ろうとした、その時、
「あ、お兄ちゃん!」
後ろから聞こえた声に反応し振り向くと、クレフとスナカ先生が僕の方に走ってきた。
「キミト君、こんなところに来ていたのか、」
「ええまぁ理事長にここに行くといいよと言われたので来てみたのですが」
「理事長から言われたのか」
「はい、それでこの建物は一体なにに使うんですか?」
「あぁそれはいま中で使ってるから実際に見た方が...」
ドカーーーーーーーーン!!
闘技場の内部からとてつもない光の閃光と闘技場に響き渡る爆音の衝撃が体全体を襲うようにほとばしる。
「スナカ先生! いまのはなんなんです!?」
「あぁ、あれは多分、ユズミとレイゼが手合わせしてるんじゃないかな?」
「て、手合わせだけであんな威力が出せるのか」
「そりゃあ、彼女らは精霊の力を使っているからね、あれくらいは彼女達にとっては普通のことなんだよ」
「とにかく今すぐに止めないとここ一体が崩れる。行くぞクレフ!!」
「あ、待ってよお兄ちゃん!」
「あ、キミト君! HRまでには戻るように彼女達に伝えておいてくれ!!」
「分かりました!!」
そして僕とクレフは闘技場の中へと走っていく。
中に入るとやはりさっきの衝撃の威力が闘技場の地面を真っ二つに割いていた。
土煙が辺りを包む中、二つの影が次第にはっきりと鮮明に見えてくる。そこにいたのは、
「ユズミ! レイゼ!」
「あ、キミト君、どうしたのですか? なんだか慌てているようですが、」
「慌ててるもなにもないよ、二人はここでなにしてるの?」
「なにって、あそっか、キミっちは知らないのか、僕ら精霊契約を交わしてる生徒はこの闘技場でいつでも訓練していいことになってるんだよ」
「精霊契約の訓練かなにか?」
「そうだね、分かりやすく言えば互いの精霊の力をぶつけ合って強くなるための修行場かな?」
「そうか、レイゼとユズミは精霊と契約を交わしてるんだよね」
「そうだよ、だから僕と彼女は毎朝ここでまぁ言っちゃあれなんだけど僕らにとっては遊びなんだよこれも」
「いや、さっきの衝撃波のどこが遊びなの? 下手したらこの闘技場吹き飛ぶよね?」
「僕だって加減くらいしてるよ、」
「勿論私もしてますよ」
「そう言えば、二人はなにを司る精霊と契約してるの?」
「僕はね、『光を司る精霊』と契約してるよ」
「ユズミは?」
「私ですか? 私は『大地を司る精霊』ですね」
「ユズミの精霊の力はなんとなく分かるけど、レイゼ、君の精霊ってどんな能力なの?」
「まぁ確かによく聞かれるね、僕の精霊は基本的に光で照らすだけなんてイメージもあるようだけど」
「でも実際はそうじゃないんでしょ?」
「うん、その通りだね。僕の精霊の力は光だけど説明しても多分分からないだろうからいまここで見せるよ」
「レイゼ、見せてくれるのは嬉しいけど少しは加減してよ。さっきのは無しね」
「分かってるよさすがにそんなことはしない」
そう言うとレイゼは闘技場の中央へと走り立ち止まる。
両手を組み合掌するレイゼ、そしてゆっくり手を開くと小さな光のエネルギーの塊が浮かんでいた。それをレイゼは勢いよく空に天高く投げ飛ばす。
(あれでなにをする気だ?)
「さぁ僕の光の精霊よ、僕の願いに応え、その力をしらしめせ!」
レイゼは空に向かって手を伸ばして手を三角形の図形を作りその三角形の中に光の塊が入るように誘導する。
「キミっち、少し目をつむっててでないと目が逝っちゃうよ」
「分かった」
(目が逝くって本当になにをするつもりだよ)
「それじゃあ派手に弾けろ!!」
レイゼは手のひらで作った三角形を光の塊が挟まるように交差する。その瞬間に光の塊はさらに強力に眩しさを増し閃光弾よりも強い光を発した。それはもう、太陽の光と同等の光を放っていた。
(ちょ、これさすがに眩しすぎない? 全世界の目が逝くってこれ絶対に)
そしてその後はレイゼの光は無くなったのだが、
「あれ? 普通に大丈夫だ」
「そりゃそうだよ、まぁさっきの光は強すぎたけどね」
「それより、いまのあれはなんなの?」
「ああ、あれはまだ未完成なんだけど、調整がうまくいけば閃光爆弾とでも名付けようかと思ってるんだよ」
「新しい技の研究というわけか、」
「まさしくその通りだね」
「でもね、できればそれは止めておいた方がいいと思うよ」
「どうして? 結構キレイだったでしょ?」
「いや、光が強すぎて見れないよ、そもそもあんなの使ったらここだけじゃなく、全世界の人の迷惑になるよ」
「あ確かにそうだね、使うのはやむを得ない時に使うことにするよ」
「そうするといい」
「ねぇそれじゃあキミっちも僕と訓練しようよ」
「え? 僕が?」
「あ、それいいですね、私もキミト君の力を見たいです」
「いやいや、止めておくよだって僕はまだ契約してな...」
「この前の試験でお兄ちゃんかなり余裕ぶっこいてたね」
「クレフ、ねもはもない偽りを述べるなよ」
すると突然、レイゼの拳が神々しく光出す。
「へぇ~さすがキミっち、あのリザグルゼを倒したし僕なんか相手になんないってこと?」
「いや、違うってそんなこと言ってないよ」
「いやでもお兄ちゃん、あの時すごく余裕の顔をしてたね」
「いやだから、そんな覚えはな...」
ゾクッ!! 僕とクレフの会話を強制的に終わらせるかのように、レイゼからとんでもなく異様な殺気のオーラを感じ取れる。
「もう、殺るしかないよね? キミっち?」
「おいクレフ、君のせいでなんかレイゼが怒ってるように見えるが」
「キノセイキノセイ」
(完全に棒読みだな)
「ねぇ早くしようよ、キミっち?」
(これはもうやらないと終わらないかも)
そして結局、僕はレイゼと手合わせをすることになった。
「じゃあキミっち、僕は一応手加減しておくけど嫌なら嫌って言っていいよ?」
(なんかなめられてる気がするが、まぁ別にレイゼに対して本気だしてもかわいそうだし手加減しとくか、)
「じゃ、いくね?」
レイゼが言葉を発したほぼ童子に彼女の姿は消えていた。どこへ行ったのかと辺りを見回すが姿は見えない。
(でもまぁレイゼもやる気になってることだし少しだけ力を見せようか)
するとキミトは両手を地面に付けて、
(体の至るところの全神経に力を込めて、そして思いっきり放つ!!)
(ふふふ、キミっち地面にひざまずくとは、隙だらけだよ!!)
レイゼはキミトの背後に回り強い蹴りを入れたのだが、
(これは絶対に当たる)
だが、
「遅いよ、レイゼ」
「え?」
一瞬だった、レイゼの蹴りを受けたはずのキミトがレイゼの背後に回っていた。
キミトの体は青く光る静電気がまとわりついていた。
(そんな、いまそこにキミっちはいたはずなのになんでここに!?)
「レイゼは気付かなかった? 君が見ていた僕が偽者だってことを」
レイゼは地面に両手を置いていたキミトの方へと目を向けるがそこには、
(誰もいない、じゃあさっきのキミっちはまさか!)
「分かった? 正解はあれは僕の残像なんだよ」
「そんな、あれが残像」
「あ、ようやく喋ったね」
「でもこれだけのことで僕は簡単にはやられないよ」
「うん知ってる、けど一つ悪い情報を伝えておくよ」
「なんです?」
「レイゼ、君は僕との手合わせには勝てないよ」
「言ってくれるなキミっち、なら僕も本気で行くぞ!」
「いやいや、だから君はもう負けてるの」
「負けるわけな...ごほっ!」
「だから言ったじゃん、もう終わってるって」
レイゼのお腹に殴られたような後が残っていた。
「これは、一体」
「それはさっきレイゼが僕に蹴りを入れようとしたでしょ? その時に少し殴った」
(そんなあの一瞬の間に僕に攻撃をしていただなんて)
「どうするレイゼ? まだやる?」
「ごほっ、げほっ、当たり前、ですよ、まだ僕は倒れてませんから!」
「そう、それなら君が倒れれば僕の勝ちなんだね?」
「そうだね、じゃあ始めようかキミ...」
「だからさ、レイゼは話す暇があるなら、まずは僕に仕掛けてきなよ、その時間がもったいないよ」
(そんないつの間に僕の背後に回ったんだ?)
「はあぁぁぁぁ!!」
「くっ!!」
バチッ!! 雷がほとばしる音が聞こえたと同時にキミトとレイゼの足蹴りがぶつかる。その衝撃で闘技場の地面が割れる。
(このままじゃ、本当に僕が負ける、)
するとレイゼの頭の中に声がささやかれる。
『どうした? 我の主は契約すらしていない下等生物に敗北を許すのか?』
(この声は、光の精霊)
『汝は我との契約を交わし、強さの極限を極めると言っていた、だがこれでは極めるどころか敗北を得て終わるぞ。』
(こんなところで負けるわけには)
『強くなりたいか?』
(当たり前だ。僕は強くなるために君と契約をしたのだから)
『いい返事だ、ならば行くぞ主よ我と共に勝利を!!』
(勿論、キミっち君には負けないよ。僕らに勝利を!!)
(さぁて、そろそろ終わらせるか、)
「ごめんねレイゼ、そろそろこの手合わせを終わらせるよ」
「...」
「レイゼ? 大丈夫?」
「大丈夫だよキミっち、でもごめんね。手合わせはそう簡単には終わらせないよ?」
「それはどういうこと?」
「すぐに分かるよ」
「いや、できれば説明してもらうと、たすか...」
「話してる暇があるなら仕掛ける。でしょ?」
「な!?」
「いまの僕は普通じゃない」
(レイゼ、いつそんなに速くなったんだ?)
「さぁキミっち、続きを始めようか」
すると闘技場の観戦の場に座って見ていたユズミが叫んだ。
「キミト君!! 気を付けて!! レイゼは精霊との契約をさらに強固なものになってる!!」
「強固になってる? それって」
「キミっち、いまはユズミより僕との手合わせを終わらせるんでしょ?」
「レイゼ、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ、それなら証拠を見せてあげよう」
「証拠を?」
証拠を見せる。それは最初利いた時はどうやって証明するのか、正直分からなかったが、いまはもう分からないと僕の命の危機にさらされる。
闘技場いまではそこは戦場と化していたのだ。
「さぁキミっち、もっと僕を楽しませてくれよ」
「レイゼの光の精霊、あれの能力は恐らくだが、光の速さみたいにとてつもなく速く、レーザー光線みたいなのが普通に打てる能力なのか、」
「正解だね。でもあと一つあるよ、」
「あと一つ、まさか」
「光はね太陽が出ている間は僕の精霊は最大パワーをフルに使えるんだよ」
「つまり逆に言えば、暗闇の中では力はそこまで強く発揮できない。か、」
「相変わらず君の解釈のスピードは神を越えてる気がするよ」
「そりゃどうも」
(さてと、とりあえずどうやってレイゼを負かせるか考えないと、本当に間に合わない)
「僕をどうやって倒すのか、見たいな顔してるけど、多分答えは出ないと思うよ」
「レイゼ、君はエスパー?」
「いや、違うよ。ただキミっちがそんな顔をしていたからね。」
(僕の顔ってそんなに分かりやすいのかな?)
僕の頭の中でのレイゼに対する勝利への道は全く思い付かない。雲でも出せるなら話は別だけど、でもいまの僕は精霊と契約をしていない、言わば無契約者なんだ。
(この状況でレイゼに勝てる方法が見付からない)
(はぁ、はぁ、はぁ)
『ん? どうした我が主よ。もしや疲れているな?』
(しょうがないよ、僕だって君の力をここまで引き出したのは初めてなんだし、体に負担くらいくるよ)
『うむ、あまりこの力を使えるのも時間の問題かもしれん』
(つまりそれって)
『タイムリミットが迫っている、ということになる。』
(あとどのくらい持つ?)
『せいぜい、5分弱だろうな』
(5分弱、ならその間に)
『あぁ、勝負を付けよう』
(ならもう遠慮はいらないよね?)
『よいのか? ここもろとも吹き飛ぶぞ?』
(構わないよ、彼に勝てるならなんでもいい)
『では主よ、最後に問おう。あの男にそこまで執着するのはなぜだ?』
(答えは簡単、キミっちが強いから)
『強いから、なるほど強いからこそ倒しがいがあるのか。いいだろう、我の力を全力で放つがいい』
(うん、そうさせてもらうよ)
「はあぁぁぁぁ!!」
レイゼは突然、声をあげて、同時にレイゼの体が光出す。
(また、閃光弾か?)
「キミっち、終わりにしよう」
またしてもレイゼはキミトの前から姿を消す。
そして、
(レイゼ、悪いけど君は背後に回ったとしても僕を倒せないよ)
キミトは後ろを振り向く、そこには思った通りにレイゼがいた。
「そこか、」
キミトはレイゼに向かって蹴りを入れるも、そのレイゼは霧のように消える。
(まさかこれは、残像)
「よく気付いたねキミっち、でももう遅い!!」
レイゼはいつの間にかキミトの頭上に蹴りの構えをしていた。それに気付きキミトが防御の構えに入るも、
「遅いよキミっち」
レイゼの足はキミトのお腹のギリギリに入っていた。そしてそのまま、
「いっけえぇぇぇぇ!!」
レイゼの叫び声に反応するように足が輝きキミトの腹部に直撃する。
「がはっ!」
そして、キミトはその勢いのままに闘技場を突き抜け、裏山を越えて吹き飛んでしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、やった勝った」
『あぁ我らの勝利だ』
「うん、僕らのしょう...」
ビクッ!! レイゼの背後からとんでもなく恐ろしく邪悪なオーラがレイゼの背後から感じ取れる。
レイゼは恐る恐る後ろを振り返るとそこにいたのは、
「り、理事長」
そうそこにいたのは、表情は笑顔なのだが、誰が見ても怒っているようにしか見えない顔をした理事長が立っていた。
「理事長、いつからここに?」
「そんなこといまはどうでもいいじゃないか、それよりもさっき吹き飛んでいったのはもしかして私の弟じゃないよね?」
『主よ気を付けろこの者とんでもなく強い』
(そんなの分かってるよ)
「クレフ!」
「何? 理事長」
「すまないけど、キミトを探してきてくれないか?」
「うん、分かった」
「それとユズミ、君もクレフと一緒にキミトを探してきてほしい」
「はい、分かりました」
二人はキミトが飛んでいった方向を探していく。
(ど、どうしよう、これってなんか嫌な予感しかしない)
「さぁてと、じゃあレイゼさん? 色々と話を聞かせてもらいましょうか?」
「いやあの、えっと」
この後、レイゼはみっちり理事長に叱られたそうです。
「お兄ちゃん、どこまで飛んでいったの?」
「まぁあれほど派手に飛ばされるならかなりの距離は飛んでますよそう簡単に見つけはれないのも、無理はないでしょう」
二人は森の中をくまなく探すもキミトの姿はどこにもない。
「なにか手掛かりが見付かれば場所を特定できるのですが」
「ユズミあれ!」
クレフの指差す先には小さなバックらしきものが落ちていた。
「このバックは誰のでしょうか?」
「ユズミ、それちょっと貸して」
「は、はいどうぞ」
ユズミがクレフにバックを渡すと、
「くんくん、くんくん、」
バックの匂いを嗅ぎ始めた。
「匂いで分かるのですか?」
「うん間違いない、このバックはお兄ちゃんのもの」
「ではこのあたりにキミト君がいるのですね?」
「恐らく、お兄ちゃんはここのどこかにいる」
「では、私に任せてください」
「どうするの?」
「こうやって、地面に手を付けて足音を探るのです。キミト君の足音は鮮明に覚えてますから、すぐに見つけられそうです」
「ユズミの精霊って、便利だね」
「まぁ大地を司る精霊ですからこれくらいのことはできますよ」
「それでお兄ちゃんはどこにいるの?」
「キミト君はここから先にある洞穴にいますね」
「洞穴?」
「どちらかというと洞窟に近い場所にキミト君の足音が聞こえます」
「なら急ごうお兄ちゃんも待ってるだろうし、」
「はい、急ぎましょう」
二人は急ぎでその洞窟に向かう。
洞窟に到着したのはいいがやけにどこにでもありそうな洞窟を前にして二人は同じ感想を述べた。
「「この洞窟って番人いそうだ」」
ハモった。
二人は洞窟に入っていく。コウモリやれ小さな虫やれいろんな生物がいるが通常なら女の子は叫び声を出すのにこの二人と来たら、
「ねぇユズミ」
「なんですか? クレフ」
「この洞窟、壊して...」
「ダメです」
などと洞窟に入ってから、ずっとこの会話を繰り返していた。この二人の会話は壊すか壊さないかのまぁ実際にどうでもいい話で時間が過ぎるが、
「とにかく、キミト君を探しましょう」
「うん、そうしよう」
初めて二人の意見が一致した。
そして広間に出る二人は見付けた。
「キミト君!!」
「お兄ちゃん!!」
広間の中央にただずむ人の姿、二人はこの人物が誰なのか分かりきっていた。
「クレフ、ユズミ、どうしてここに?」
「どうしてって、さっきレイゼにキミト君が吹き飛んで理事長から探してきてと頼まれてそれでこの洞窟で君を見付けたの」
「お兄ちゃん、早く教室に帰ろう?」
「折角来てもらったのに悪いね二人とも、僕はもう少しこの洞窟にいないと、」
「どうして?」
「いや、アレを見付けたからさ」
二人はキミトの前方にあるアレに気付く。それは、
「剣、ですよね? あれは」
「そう、ここに飛ばされた時に見付けたんだ。多分この剣は契約精霊が宿っているんだと思う」
「剣の契約精霊ですか」
「ユズミだって契約する前にこんな感じに武器を見付けたんだろ?」
「はい、確か私の時は金槌でしたね」
「大地を司る精霊らしい武器だね」
「それでキミト君はその剣の精霊と契約をするのですか?」
「うん、レイゼの精霊の力を見て確信したんだ。いまの僕じゃ誰にも勝てないって」
「それならお兄ちゃんも今日から精霊契約なの?」
「まぁそれは契約が出来たらの話なんだけどね」
「あの剣の精霊はそう簡単には契約してくれなさそうですよね」
「まあ見た感じ、危ない精霊なんだろうけど」
「気を付けてねキミト君」
「心配するなユズミ、多分死なない程度に痛め付けられると思うが」
僕は剣の前へと歩みを進めた。剣の目の前にきて一つだけ分かったことがある。
(寝てるよな、この剣の精霊)
そう、普通のごく一般的な精霊は生物が近付いた時に頭の中にノイズのような映像を見せることが多いのだが、
(これに至ってはノイズがこない、というかまた新しい精霊なのか?)
精霊契約の条件は二つある。
一つ目
契約を遂行する無契約者は精霊との交渉を行いその精霊を納得させれば契約成立。
二つ目
もし交渉できない場合の精霊は自分の力を精霊に証明させて認められれば成立。
の、この二つのパターンが存在している。
(それで現在進行形で僕の前にあるこの精霊の場合は、どう契約すればいいのか)
「とりあえず剣に触れてみたら?」
と、てっきり教室に帰ってるかと思ったが、クレフが僕に提案する。
「でも、触っていきなり腕を切りつけられたらたまったもんじゃないよ」
「でも、急がないとHR始まるよね?」
「あ、そうだった肝心なことをすっぽかしてた」
(そうだよ、俺はとりあえずクラスのメンバー全員を教室に連れ戻すのが目的で来たのに)
「まぁいま考えても後の祭りだし、とりあえず剣を抜いてみるか」
僕は剣を握りしめ力を込めて剣を抜こうとした。すると、
スポンッ!!
(え?)
思っていたよりあっさり剣が抜けてしまった。
「抜けた」
「抜けましたね」
クレフとユズミは剣を抜いた僕に対しての反応がなんかちょっと薄い。
まぁそれはどうでもいいとして、いまはこれで契約出来たのかどうかを知りたいのだが、
「お兄ちゃん! 右手!」
クレフに言われ右手を確認すると、
「契約の紋章」
僕の右手の甲には精霊と契約をしたときに必ず刻まれる紋章。それが『契約の紋章』である。
この紋章が付いたときから死ぬまでこの紋章は消えない。
「いつの間にか契約されてたのか、」
「それよりも、キミト君!! 急ごう!! このままだと本当にHRに間に合わないから!」
「そうだった、でも後何分後だ?」
「えーと、後残り3分だね」
「となると、ここから教室に戻るまで走っても30分以上は掛かる。全然間に合わない」
「お兄ちゃんのあれならできるんじゃない?」
「あれ?」
「確か、全神経を込めるなんか凄いやつ」
「そんな凄い技を隠していたのですか!?」
「いやまぁ出来なくはないけど、加減を間違えたら大惨事になるけど」
「そこらへんなら大丈夫ですよ、私の大地の力ならなんとか」
「なにか策があるのか?」
「とにかく急ごう。時間がありません」
「ああ、分かったなら二人とも僕に掴まっててくれ」
そして僕らは急いで教室に戻るのだが、結局のところそんなに急がなくても普通にHRに間に合うことをまだ僕らは知らない。