帝国の裏話
「お主の勘働きも、偶には鈍るようだな!」
そう言うとバルナスは、再び領主の椅子に座った。
溢れ出る不満感を隠そうともせず、マグナードをねめつける。
だが、不満をぶつけられたマグナードの方は、どこ吹く風といった風情である。
それが、余計にバルナスの機嫌を損なうのだが、マグナードは、一切構わずこう続けた。
「叛徒である可能性が、あったというだけのことです。それに、彼等の素性にも、少々不審な点がありましたからな。」
「あの娘のことか?」
バルナスは、射貫くような眼でマグナードを見た。
「そのご様子では、お気付きになられていたようですな。」
「気付かいでか!!」
ドン!とバルナスの拳が、椅子のひじ掛けを打つ。
「真紅の瞳は、皇族に連なる者の証ぞ!何故このような辺境に、あのような者が現れるのだ!」
マグナードは、バルコニーから見える、前領主の死体が片付けられている磔台見ながら答えた。
「解らぬではありませんな。バルナス殿も皇帝陛下の御乱行は、ご存知のはず。」
それは、帝国が抱える大きな問題の一つ、皇位継承権に関わる問題である。
「皇帝陛下の生した御子の数は、三百を超える。そして、この問題に対し、陛下の出された答えはひとつ。より優秀なものに跡目を継がせると。・・・本国では既に、血で血を洗う争いに発展しているそうではないですか?」
「ぬううう。」
「恐らく、彼等はその敗残者でしょう。後ろ盾のない身では、本土での復権など夢のまた夢でしょうからな。」
「もうその話はよい!」
バルナスは、一歩的に話を打ち切ると、自分の背後の壁に掛けてある長大な曲刀を手に取った。
そして、デュランドの断ち切った自らの彫像の前に立つと、おもむろに切りつけた。
ドドン!!
彫像は切れず、砕け散った。
「チッ!!」
バルナスは悔し気に舌打ちする。力においては負けぬものの、技量にあってはデュランドのほうに軍配が上がると確信したためである。
「そういえば、バルナス殿は、第二王子を擁する大将軍閣下の派閥でしたな。」
「何が言いたい?」
「うまく使うとよろしい。手駒としても良し、大将軍閣下への手土産にするもよし。違いますかな?」
「ふん!」
バルナスは曲刀を元に戻すと、一言だけ「片付けておけ!!」と怒鳴って退出していった。
その後ろ姿を見ながら、マグナードは不気味に微笑みながら呟いた。
「一体、どちらの意味でしょうね。」
どちらにせよ、一行はマグナードらの手中にある。
彼等の運命など、自分達の思惑で好きなように出来る。
マグナードは、そう思った。
それは、大きな間違いであるとも気付かず。