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ネクロマンサー現る  作者: 闇夜のカラス
2/10

死霊術

 話を元に戻そうか、俺たちの前に死体がある。


 勿論、先程、心無い騎兵共に、無残に殺された少女の亡骸である。


 改めて観察すると、中々ひどいものだ。


 少女の全身は痣だらけで、日頃から暴力を振るわれていたのだとわかる。


 身に着けているのは、ぼろい布切れと評しても差し支えない程の衣服。


 風呂にも入れてもらってないのであろう、髪は泥だらけで酷い悪臭を放っていた。


 足枷でもかけられていたのであろうか、足首にひどい擦過傷の跡があった。


「何と酷い。」


 ミリアが目元に、涙を溜めながら少女の亡骸を整えている。


「この少女にとって、死だけが唯一、自由なるための手段だったのだろう。」


 普段口数の少ないデュランドも、やるせなさの為かその口から言葉が漏れ出していた。


「なら、これから俺がするのは、もっと酷いことになるんじゃないかな?何せもう一度不自由をこの子に与えようってんだから。」


 俺の言葉に、二人が顔を見合わせ、ミリアの顔がパッと明るくなる。


「では、なさるのですね!」


「当たり前だろ、二人とも知ってんだろ?」


 そう言いながら、俺は少女の死体を持ち上げる。


「俺は、バットエンドってやつが大嫌いなんだよ」


 そう言いながら、俺は街道を逸れ、林の方へと向かい歩き出そうとして、二人に振り返った。


「すまん!デュランド!持ってくれるか?重い!超重い!!」


 忘れてた、死体ってのは超重たいんだよ。


 デュランドが、やれやれといった感じで少女を受け取る。


 我ながら、この貧弱っぷりがなさけない。


「ほら、行きますよ」


 ミリアが、背中を押してくれるのが、正直有り難かった。




 俺達は、人目につかないため、街道の横にある林の中へと来ていた。


 夜のとばりがおりつつあるとはいえ、これから俺がすることは、人目につかせたくないというのが、ここに来た目的だ。


「ミリア、灯りを頼む。」


「はい!リョウジ様。」


 そう言うと、ミリアが腕をスッと横に振ると、そこから燐光が舞った。


「光の精霊よ・・・我が基に来たれ・・・」


 彼女の得意とする、精霊魔法だ。


 青白い光が、辺りを照らすが、これ、遠くからは見えない光らしい。


 さて、では俺の番だな。


 少女の死体を前に、手に持っていた杖を振る。


 途端、生ぬるい風があたりに吹き抜けた。


 俺の着ていた安物のローブがはためき、デュランドとミリアが一歩下がる。


 これから行うのは、死者復活の魔法だ。


 おいおい、それ死霊術ネクロマンシーとは言えないんじゃね?という突っ込みは無視させてもらおう。


 何故なら、死体を操り、死者の霊に働きかけることが死霊術の本質なのだ。


 元々は、不死身になるための研究だったものが、副産物として動く死体ゾンビや、骸骨戦士スケルトンウォリアー更には、死霊王リッチーなんてのを生み出しただけだ。


 なら、完成された死霊術とは何か。


 それは、生命そのものを操ることに他ならない。


 まずは、破損した肉体の修復だ。


 これは、比較的楽な作業だ。


 破損する前の状態、つまり完全な形に整えるだけだ。


 足枷の跡や首輪で出来た傷も、きれいさっぱり無くした。


 内出血でボロボロだった手足も、白く瑞々しい肌に治してやった。


 体表面にあった不純物を取り除いてやると、波打つような金髪が現れた。


「綺麗・・・」


 ミリアの感嘆の声が、背後から聞こえるが、今は目の前に集中だ。


 次は、肉体から乖離した霊魂を肉体に戻す作業だ。


「死にたては、楽でいい。」


 俺が杖を、一振りすると薄い霊体となった少女が飛んで来る。


 恐らく、先程、殺された場所で途方に暮れていたのだろう。


 突然、自分の身に起きた出来事に目を白黒させている。


 といっても、俺にしか見えないがね。


 さて、ちょっと痛いかもだけど我慢してくれよ。


「汝の霊よ!在るべき所に還るがいい!!」


 俺の言葉と共に、大気が揺れる。


「ゲホッ!」


 死んでいたはずの少女が、跳ね起き咳き込んだ。


「ゲホッ!ゲホッ!」


 咳き込みながら、信じられない様子で辺りを見回す。


「なんで・・・わたし・・・死んで・・・」


 両手で自分の体を抱え込み、ブルブルと震えだす。


「大丈夫!もう大丈夫だから!」


 そう言って、ミリアが抱きしめると、少女はその腕の中でワンワンと泣き出した。


 それを眺めながら、俺は一人溜息をついた。


「今日は、野宿だなあ。」


 街は、目と鼻の先だが、この少女に、自分の置かれている現状を理解してもらう必要があるしな。


 少女のことは、ミリアに投げっぱなして、俺はデュランドと二人で野営の準備を始めた。






「おいおい!そんなに慌てて食うな!死ぬぞ!」


 野営の準備が終わり、まずは飯にしようということで、軽めのシチューを作ったのだが、少女は余程、腹が減っていたらしく、掻っ込むというより、流し込む勢いで食べていた。


「胃が慣れていないんだ!ゆっくり噛んで食え!」


 突然、どなった俺に、びっくりしながら、少女はミリアの後ろに隠れる。


「・・・ったく、これでまた死なれても、生き返らしてやらんぞ!」


 腹を立てつつ、俺はミリアの作ったシチューに手を付ける。


 うむ、塩味の効いたミルクシチューだ。確かにうまい。ミリアの奴、いい嫁になるな。


「ほら、貴女を助けてくれたのは、リョウジ様なのですよ。お礼を言わないと。」


 ミリアの言葉に、おずおずとその背から出て来た少女は、皿を置くと、俺に対し深々と頭を下げた。


 勿論、土下座である。


「あ、ありがとうございました。この、ごおんは、いっしょう、わすれません。」


 たどたどしいながらも、しっかりとした返事が返ってきた。


「ああ、いいから頭あげろ!そこまで、畏まることねえよ。」


 俺がむっつりとそう言うと、ミリアはクスクスと微笑み、デュランドはフッと鼻で笑った。


 悪かったね、庶民主義で。


「さて、とりあえず名を聞かせてもらおうか。俺の名は、リョウジ。リョウジ・タツミヤだ。そんで、そっちの女が」

 

「ミリア・ナウマ・ユグドラシルです。」


「で、こっちの大男が」


「デュランド・レオン・ハートだ。」


 少女は、俺たちの顔を見渡し、頷くと。


「アーニャです。アーニャ・ストレング。それが、あたしのなまえです。」


 そうして、俺たちは出会った。


 死臭漂う街の前で。

不定期で、更新しますので、たまにでいいので覗いてみてください。

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