傷ついた子ギツネを食べようと思ったらカーチャンに怒られたぞ!!
道端に傷ついた狐の子がよこたわっていた。雌ライオンがやってきた。雄ライオンもやってきた。
雄ライオンはお腹が空いていた。狩りもうまくいかなかった。そこへ上手い具合に狐の子がしかもうまそうな血の匂いをしたたらせながら這いずっているのだ。子狐は懸命に威嚇し、傷ついた足を引きずって逃げようとするが身体が自由に動かない。雄ライオンは一口に食べてしまおうと近づくと雌ライオンが雌ライオンが強く吠えかかる。驚いた雄ライオンはひるんだもののしかし空腹は抑えがたい。なんだよ?
そんな表情で狐と雌ライオンの周りをぐるぐると周り、スキを突いて狐をかっさらおうとした。雌ライオンはそれを許さない。雄ライオンに体当たりを食らわせる。しばらく攻防を繰り返した後、雄ライオンは不貞腐れながら去っていった。雌ライオンが子狐をいたわるように舐めた。それを見て雌ライオンの子どもたちも子狐を勇気づけるように優しく舐めた。そして子狐を守る母ライオンの意を汲むと隠しておいた岩の下の食料を持ってきて子狐に与えた。その間中雌ライオンは子狐のそばに立って周囲に目を光らせ、不心得者が現れないように守り続けた。ライオンもコヨーテもハイエナも子狐に近づくことはできなかった。やがて子狐は体力を回復し元気に草原へと帰っていった。その間中何度もライオン母子を振り返って礼を言うように鳴いた。ライオン母子も応えるように小さく吠えた。1年後、ライオン母子の元に一匹の狐が現れた。あの日の狐が子狐を連れている。狐たちは元気にライオンたちの周りを走った後、あの日のように名残惜しそうに鳴いて去っていった。ライオンたちもそれに応えて小さく吠えた。母ライオンは子ライオンに目配せをすると狐の親子を付けさせた。案の定ライオン親子の秘密の貯蔵庫から食料をくすねていたのは狐の親子だった。子ライオンからその報告を受けた母ライオンは何も言わず減った食料を追加しておくのだった。成長した子ライオンには母ライオンの考えていることがわかった。狐を餌付けして増やし、太らせてから食べようというのだと。子ライオンは兄弟たちにそれを伝え、貯蔵庫の食料が盗まれたときには欠かさず補充しておいた。
ある日のこと、油断しきった狐がまるまると太った小狐達を引き連れて貯蔵庫をあさっている。子ライオンは母ライオンに報告した。母ライオンは子ライオンたちを率いて貯蔵庫の近くに忍び寄った。しかしいつまで立っても見守っているだけだ。焦れた一匹の子ライオンが駆け出そうとすると母ライオンはその腹を突き飛ばして制止した。狐たちがくすねた分の食料を食べ終わり、満足そうに引き上げようとする時、母ライオンは子ライオンたちに命令を下した。
「帰るよ」
子ライオンたちは驚いたが母ライオンには逆らえない。
そうして狐たちを振り返りながらも去ろうとするとき、物陰が走り来ることを察知した。
獰猛なコヨーテも狐たちを狙っていたのだ。しかしライオン親子がいることを知って自重していたのである。しかしライオン親子が去ろうとする僥倖を得て、今だとばかりに襲撃を開始したのだ。
母ライオンは再び踵を返すと一直線に走り出し、一瞬のうちにコヨーテを仕留めた。子ライオン達も一斉に駆けつけてコヨーテ達を一網打尽にした。この騒乱に紛れて子ライオンの一匹が、戸惑い逃げ遅れた子狐の一匹に襲いかかろうとした。母はなぜか止めるのだが、食料をくすねる狐を許すことができなかったのだ。いよいよ子狐に牙をかけようというとき母ライオンの大きな吠え声が轟いた。
子ライオンは慄いて引き下がった。子狐は走り去ると母狐たちと合流してそのまま走り去った。
母ライオンはコヨーテの一匹を子ライオンたちに与えると、獲得した他の獲物をその場に放置した。食べ盛りの子ライオンが近づこうとするとまたも激しく吠え立てた。
辺り一帯には血の匂いが漂い、ハゲワシ達が飛び回り、叫びまわっていた。
その声と匂いに釣られてハイエナたちが集まってきた。その頃母ライオンは草原に横になって寝たままである。ハイエナの肉は味気がなく食べごたえもないが空腹には代えがたい。子ライオン達が目配せをしていざハイエナたちに襲いかかるべく走り出した。その横を大きな塊が駆け抜けたかと思うと先にハイエナたちに駆けつけて追い散らした。母ライオンはハイエナを追い回すものの一向に牙にかけることがない。
結局その後に来たジャッカル達がコヨーテの肉を全部平らげてしまった。これに対しても母ライオンは脅かして追い散らすだけで一向に襲いかかることがない。子ライオン達が襲いかかろうとするのを厳しく制止し、時には体当たりさえするのである。更に母ライオンがなぜか普段よりも執拗にジャッカル達を追い回したせいで子ライオンたちはすっかりくたびれてしまった。もう動く気力もない
母ライオンが貯蔵庫から食料を持ってきて子ライオン達に食べさせたがこんな量では全く腹が膨れない。
貯蔵庫にはまだ少しだけ食料が残っていたので子ライオンの一匹がこっそりとくすねるべく近づくと
母ライオンが稲妻のように走ってきて前足で張り倒した。よってこの数日間はライオンたちは寝っ転がっているだけである。夢に見るのは巨大な水牛が現れてそれに襲いかかってさんざんに食い散らかすことである。水牛の肉はハイエナの肉などとは比較にならないほど美味であるがサバンナに水牛が現れることはめったにない。そのような夢想に囚われながら横たわるライオンたちの前にまたしてもあの狐親子が現れて素知らぬ顔でくるくると走り回り挨拶するかのように鳴いてみせる。
これはご機嫌をとっているつもりなのであろう。何ら露見していないと思っているようである。
母ライオンが険しい顔で鼻息を荒くする子ライオンを睨みつけた。そして狐たちに向かってこれまで聞いたことのないような大声で吠え立てた。狐たちは突然の咆哮に恐れおののいて狂気に取り憑かれたような表情で逃げ去っていった。
母ライオンはそれを追うことをせず、付いて来いというように子ライオン達を促した。
そこは丘の上で一面の草原をその地平線まで見渡せる場所だった。
そこに陣取ると母ライオンはまた寝転がってしまった。従って子ライオン達も寝そべって何かしら待つしか無い。果たしてそれから数日の後に地平線の向こうから水牛の群れが現れてサバンナを横断しようとするのである。横たわっていた母ライオンは目をカッと見開くと咆哮を発しながら駆け出した。それを合図に子ライオン達も丘陵を一気に駆け下って遂に水牛の群れにたっぷりと牙を食らわせその肉を存分に味わった。もうこれ以上無いほどに空腹を癒やし終えると獲物の部分をそれぞれ口に咥えたまま貯蔵庫へと向かって保存した。その部分部分を更に小さく砕いて別に置いたのは狐たちのためだ。今は逃げ去った狐たちはまた戻ってくるだろう。狐の行動範囲はそれほど広くはないから逃げたところでそれほど遠くへは行けはしない。しかしそれを狙うコヨーテ、さらにそれを狙うハイエナ、ジャッカル達を太らせながら追い立てれば、より貪欲に食料を求めて移動せざるを得ない彼らによって追い立てられた獲物たちが入れ替わるようにライオンたちの範囲に到達することを充分に理解したからだ。