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夜会へ


夜会当日、アスキスはコリーヌの指揮のもと侍女数人がかりで磨きあげられた。

複雑に結い上げられた髪にはあの髪飾りがそっとつけられた。


コリーヌはアスキスが急に差し出してきた髪飾りを見てから頭の中で様々な考えを巡らせていた。


(アスキスお嬢様はいったいどうやってこの髪飾りを手に入れたのかしら……この刻印は王族御用達の工房のものに間違いないのだけど。町の雑貨屋で売っているわけはないでしょうに)


アスキスはいつも薬を納品する雑貨屋で買ったというが、この刻印のものはほぼ王族が自身のものか贈り物にオーダーする以外ありえないはずだった。


アスキスは久しぶりにきちんと正装して輝かんばかりの美しさであった。

当のアスキス本人は既に疲れきっていたが……ただ、鏡で髪飾りを見るたびにほんの少し心が浮き立った。

手には今晩マイエンヌ公爵宅にいるはずの庭師に渡す薬の小瓶が握りしめられていた。


次兄のフランソワにエスコートされマイエンヌ公爵の屋敷に降り立ったアスキスを招待客は皆注目した。


「ねえ、あのバルトリ伯爵家のフランソワ様がエスコートされているご令嬢はどなたかしら?」


噂好きの伯爵婦人が目ざとくアスキスをさりげなく扇で指す。


「ん?ついにご令嬢をエスコートしてきたということは誰にもなびかなかったフランソワ様もついに年貢の納め時か!しかしあんな透き通るような可憐な美人どこで知り合ったんだ? 」


遊び人と名高い侯爵も呟く。


「僕も知りたい!」


辺境からでてきた伯爵家の次男が叫ぶ。


「私の頭に叩きこまれた貴族のご令嬢リストにはございませんわ!あんなに儚げですもの、いままでどこかのお屋敷でかくまわれていたのでしょうか?」


公爵婦人も興味津々だ。


「隣国の貴族令嬢とか?」


と先の伯爵婦人。


「皆様よくご覧になって、髪色と瞳の色はバルトリ家のものですし面差しも似てらっしゃいませんこと?」


公爵婦人が気がつく。


「……あ、バルトリ家の隠れ花と言われるアスキス嬢じゃないか!」


遊び人の侯爵が思いだした。


「まぁぁあの方がアスキス嬢」


伯爵婦人が大袈裟に驚いて見せた。



当のアスキスは会場中の注目にも気がつかずどうやって庭へ抜け出そうかとそればかりが頭を巡っている。


フロアの庭に続くガラス戸のたっぷりとしたカーテンに隠れるようにして艶やかな黒髪を撫で付け紫色の瞳の美麗な青年がたたずんでいる。

彼こそ王太子で今回の夜会の実質の主役である。

アスキスが到着するまでそれこそ若い令嬢を中心に皆の関心を集めていたが、いかんせん彼の周りは護衛を兼ねた名だたる青年貴族で固められていておいそれと近づけない状態だった。


(マリーいやアスキス、やっときちんと出逢える……)


ノエルは今日のこの日をどれだけ待ち望んでいたかわからない

アスキスのデビュタントの際に心奪われてから恋い焦がれ続けて3年。

アスキスの出席しそうな夜会には何度も忍んでみたが彼女は一向に現れなかった。

表向きは病弱で外出もままならないとのことだったが、信頼できる従者を使って調べさせたところ彼女は社交嫌いで家にこもっているだけだった。

調べを続けるうちに薬作りの才能があり街の雑貨屋に卸していることを知り、その雑貨屋に援助をするかわりにアスキスが来る時だけ店主と入れ替わり、代替わりした若い店主としてマリーとなのるアスキスと短い逢瀬を重ねてきたのだ。






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