桃太郎ビフォアストーリー
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいた。
おじいさんは芝刈りに、おばあさんは川で洗濯をしていた。
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上の方からおじいさんが走ってきて言った。
「近くの村が鬼に襲われている!」とーーー
おばあさんはわなわなと口を震わせ、そんな…と今にも消えいりそうな声で言った。
村には、おじいさんとおばあさんの娘夫婦が住んでいたのだ。娘のお腹の中には新たな命も眠っている。
とにかく無事かどうかを確かめようと、老夫婦は駆け出した。
村は、そう遠くはない。余り知られていない裏道を使えば1時間かからずにつくことが出来る。
間に合ってくれとおじいさんとおばあさんは数多の神に願った。
村についた。
鬼は暴れ飽きたのか、姿は見えなかった。
しかしーーー
そこに広がっていた風景は、地獄絵図そのもであった。
そこらじゅうの民家は破壊され、かつて人だった肉塊は血の海に溺れ、どこからか聞こえてくる呻き声は、耳を塞ぎたくなるようなものだった。
「娘の家は?」
おばあさんが泣き出しそうな声でおじいさんに問いかけた。
「い、行こう」
おじいさんとおばあさんは恐る恐る我が娘の家に向かった。
「「!?」」
娘夫婦の家の前についた瞬間二人の老人は膝から崩れ落ちた。
家の前にいたのだ。娘夫婦がーーーー
お腹の子を守るように、優しい屍となってーーー
おじいさんがショックのあまりに今まで聞いたことのないような悲鳴をあげて、死んでしまった。
おばあさんは土砂降りのような涙を流した。
嗚咽で呼吸が困難になる程に。
その時だった。
「ォギャァ」
おばあさんは耳を疑った。
お腹を守るように死んでいた娘の方から、赤子の産声が聞こえたのだ。
おばあさんは溢れ出る涙を無視し、娘に近づいた。
生まれている。しかも、生きている状態でーーー!
孫が、孫だけは助かった。どうにかしてこの子だけは守らなくては!!
しかし、おばあさんは、こうも思った。
私一人じゃこの子を育てられない。心身共に疲弊し、一人になってしまった私では…と
。
おばあさんは祈った。この世の全てのものに願った。
どうか、どうかこの子を助けてやってください。私はどうなっても構いませんから。
願いに願い。祈りに祈った。
突如おばあさんの願いが届いたのか、おばあさんの体が溶けだし、たった今生まれたばかりの赤子を包みこんだ。
やがておばあさんの体は巨大な一つの果実となり、川へと転がり落ちた。
薄れてゆく意識の中、おばあさんは思った。
このまま流されて行けば、誰かが見つけて孫を育ててくれるだろう……。
そうだ、歌を歌ってあげよう。この子が退屈しないように。
川を下る巨大な果実は歌い続けるのであった。
「どんぶらこー、どんぶらこー」とーーー。
初めての投稿で、読み辛い所が多々あったかと思いますが、どうでしたか?
少しでも面白いと思って頂けたのであれば光栄です。
では、またどこかで。