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黄色い糸1

理科室がある棟と、教室のある棟を繋ぐ連結廊下で、僕はたじろいでいた。



他の生徒は、授業が終わると、足早に教室に戻り


そこには、僕と一人の女子生徒だけが残っていた。



僕をたじろがせたのは、その女子生徒が言い放った一言だった。



「呼び捨てにしないで」


視線の先には、警戒心をあらわにした真理子が


胸の辺りで教科書を抱きしめて立っていた。



真理子が難しい気質の持ち主であることを


その受け答で、僕は納得ができた。



「あ〜、真理子…さん」


「なによ……変態くん」


さらに、まさかとは思ったが、僕のことを本当に変態だと決め付けている。


僕は堪らず、こめかみを人差し指で擦りながら、苦笑いを見せた。




真理子と話したい訳ではなかったが、どうしても知りたいことがあった。


黄色い糸が見えているのかどうかを、確認したかったのだ。


それは、僕のなかですでに、見えていない、と結論付けていたことだった。


それでも一応、念のために本人の口から聞きたかったのだ。


ただそれだけだというのに、ここまで嫌悪感をあらわにされるとは


僕は思ってもいなかった。



「な〜真理子、ちょっといいか?」


連結廊下で、僕はそう真理子を呼び止めた。


その言葉に対して、真理子が返した言葉が、呼び捨てにしないでだった……。



クラスメートなのに呼び捨てが許されないことに、僕は落胆し


思ってもいなかったことを言われ、僕はたじろいでしまったのだ。


真理子に話し掛けたことを少し後悔した。



僕と真理子を挟む空気が、重苦しく感じた。


しかし、その空気を切り裂くように、真理子が不機嫌そうな口を開いた。


「なに?早くいってよ、あたし忙しいだけど」


「あ、黄色い糸になんか覚えない?」


「黄色い……糸?」


「そう!黄色い糸!」


「知らない!」


真理子が興味なさ気に、きっぱりといった。



「本当に知らない?」


「知らないって」


真理子はそういうと、眉間に皺を作り


話しの途中にも関わらず、僕に背中をむけた。



「ちょっと待てって!話し聞けよ」


僕は立ち去ろうとする真理子の腕を掴んだ。


その腕は思いのほか細かった。


すると真理子は一瞬、痛がるように表情を歪めた。


僕は腕を掴む力を緩めた。


しかし次の瞬間、真理子の顔は、怒りの表情に変わっていた。



「離してよ!意味解んないし、この変態!キモチ悪いのよ」


真理子は早口にまくし立て、勢いよく僕の手を振りほどくと


その勢いで背中を向け、教室へと歩き始めた。



今度は止めなかった。否、止められなかった。


真理子の背中に強い意思が示されていた。


僕は、その意思に圧倒されていたのだ。


曲がり角で完全に見えなくなるまで、呆然と真理子を見送った。


見えなくなったのを確認すると


「ハア〜……」


大きなため息を吐いた。



正直、緊張した。


真理子と会話をすることが、こんなに緊張するとは思わなかった……。




そして、真理子には見えていないのだと思った。


嘘をついたところで、得は何もないからだ。


結局それ以上のことはわからなかった。



そのくせ、代償は大きな物になった。


少なくとも真理子には、変態でキモチ悪い存在になってしまった。



目の前には、風も無いのに黄色い糸が揺れていた。

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