窓際のクラスメート2
その瞬間、地震のような振動と共に
「お〜い、起きろ翔!」
遠くの方から、男の声が聞こえてきた。
「ん…う〜」
苦悶の表情を浮かべ、唸りながら片目を開くと
締まりの無い金田の顔が、まじか見えた。
「カネ?……夢か〜」
その顔を見て、夢を見ていたのだと気付いた。
しかし、寝起きに金田の顔というのは、気分の良い物ではないと思い。
すぐに金田から視線を外した。
「あ!」
視線を外し、僕は思い出した。
「カネ!佐伯は!?」
佐伯のことを……。
「は?佐伯?……あ〜!社子春か〜」
「そう!社子春は?」
「もうとっくに職員室に帰ったんよ」
「まじ!……」
僕は、しまったと思い、眉を寄せた。
変な夢を見ている間に、佐伯は職員室に帰ってしまっていた。
さすがに職員室のなかでは訊けないだろう。
他の教師に聞かれる可能性がある……。
時間潰しに寝るんじゃなかったと、後悔した。
「なに〜社子春に用事でもあったのか?」
「いや、用ってほどのことじゃ……」
僕は言葉を濁した。
「ふ〜ん、それより次の授業、理科室だぞ」
「は?」
教室を見渡し、僕と金田の2人しかいないことに、ようやく気付いた。
僕と金田は、必死に廊下を疾走していた。
この学校は、二つの棟で構成されている。
仮にA棟に生徒の教室があるとすると
音楽室やパソコンルームのような専門的な教室が、B棟にあるのだ。
そして、僕等が向かう理科室も、その棟にあった。
「カネ!なんで早く言わないだよ」
僕は走りながら金田にいった
「いやいや、翔が起きないからでしょ〜」
それを言われると、僕には返す言葉が無かった。
「ひ〜、脇腹が痛て〜」
金田も脇腹を押さえながら、必死に走っていた。
しかし……始業の鐘は、無情にも鳴り響いた。
「あ……」
「鳴っちゃっ……た」
僕等は、その鐘が鳴り止むまで、二人で立ち尽くして聞いていた。
「紅葉かな〜」
鐘が鳴り止んですぐ、金田が顔を引き攣らせてそういった。
「だろうな……は〜」
バチーーーン
「あーー……」
バチーーーン
「うーー……」
悲鳴が響いたのは、僕と金田が理科室に入り、30秒後のことだった。
紅葉である。
僕は、余りの痛さに顔を歪めた。
隣には、膝を少し曲げ、左手を背中に、右手を天に掲げながら
口をあんぐりと開いた金田がいた。
その背中には、真っ赤に綺麗な紅葉が見えていた。
紅葉とは、理科教師が男子生徒限定に編み出した必殺技である。
手の平をいっばいに広げ、その広げた手で、背中をおもいっきり叩くのだ。
すると、叩かれた背中は、手の平の形に真っ赤に腫れ上がる。
その形が、まるで紅葉のように見える為、必殺技は紅葉と命名された。
「あ〜……」
ワイシャツが背中を擦れるたびに、痛痒い激痛が走り、思わず吐息が漏れる。
それが面白いのか、理科室にはクスクスと、笑い声が聞こえていた。
その笑い声は、女子生徒だけのものだった。
紅葉の痛さを知る男子生徒は、誰も笑ってはいなかった。