黒い糸1
なんだよ……これ?
僕は、頬に添えた手に、違和感を感じた。
それに気づいたいのは、いつもと変わらない騒がしい朝だった……。
「翔!いつまで寝てんの、また遅刻するわよ!!」
母親の急かす声が聞こえ
シャーー!
カーテンが、勢いよくレールを滑るの音が響いた。
開け放たれた窓からは、眩しい朝日が差し込んで
僕の全身に降り注いだ。
「ん〜……」
夢のなか、なぜかどす黒い空を浮遊していた僕は
むりやり現実へと引きずり戻される。
微かに開い目に、呆れた表情を浮かべる母親の顔が映った。
「ん〜、あと5分だけ寝かせて〜」
僕は顔を歪めて、毛布を頭まで被りながらいった。
「なにいってんの!」
パン!!!
「あう〜」
途端に、お尻に渇いた音と共に刺激が走る。
「だから毎晩早く寝なさいって言ってるでしょ!」
「へいへい……」
僕は、お尻を撫でながら空返事を返した。
はっきりいって、母親の忠告など、はなから聞く気がない。
片方の耳から入てくる忠告は、もう片方の耳から抜けていった。
部屋のドアが閉まる音が聞こえ、母親のため息と階段の降りる音が続いた。
その音でようやく、ベットから体を起こす。
「あ〜眠い……」
僕は朝が苦手だった。
毎晩のように、漫画やゲーム、深夜番組を見ているせいだ。
理由を解っていたが、辞めることが出来ないし、辞める気も無かった。
そのせいで毎朝、母親の怒鳴り声で目を覚ます。
僕は仕方なく、眠い目を擦りながら背伸びをし、続けてあくびをした。
あくびをする口のなかに、清々しい空気が入り込んで来る。
朝の空気は冷たかった。
11月も半ば、もう冬が近いからだろう。
「いー!」
冷たい空気は、このまえ奥歯に出来たばかりの、真新しい虫歯を刺激した。
その刺激に、思わず言葉を漏し、自然に痛むほうの頬に手を添えた。
「ん?」
僕は添えた手に違和感を感じ、その手を顔の前へとスライドさせた。
「なんだよ……これ?」
僕の目には、不思議な物が見えていた。
スライドさせた右手の小指に、何かが絡まっているのだ。
それは見覚えのない
――黒い糸だった。