丁未の乱の終わり 紫 布都 神子
都に向かう途中、視線を感じた。
「誰だ……、見てるのはわかっている。早くでないと、引きずり出すぞ?」
「三秒以内に出てこい、さもなくば……、知らないぞ? 三…」
俺は視線の主に問いかけ、カウントダウンを始めた。
三で霊力を二割だし。
「二……」
二で五割出す。
霊力を五割出しただけで大地が唸りをあげる。
「一……」
一で妖力を五割出した。
大地が悲鳴をあげ、亀裂が走る。
「ぜ――」
零、言おうとした瞬間、“空間が割れる”
両端にはリボンがついており、“割れた空間の中”からは、大量の目玉が見える。
見方によっては欲望が渦巻いている様にも見える。
「待って待って! ごめんなさい! 隠れて観察しててごめんなさい!!」
そこから出てきた女の子は、何かはわからないがドアノブに付けるカバーの様な帽子をかぶり。
腰まである、金色の髪。
目の色は青く。
横髪は長い部分があり、それをリボンで束ねている。
真っ白のゆったりとした、ドレスに見えなくもない服だ。
その上に、前面、後面と紫色の布のようなものを着ている。
そう、後の幻想郷の賢者となる、最強の妖怪の一人。
八雲 紫である。
紫……なのだが、ちっちゃい。
少女だ。
紫は慌てて境界の裂け目から出てきて謝る。
敵わないと思ったんだろう。
「なんで見ていた? 納得出来る理由を言ってもらおうか?」
俺が理由を聞くと、紫は目を左右に動かし、焦る、そのあと、右上に目を動かす。
「そ、それは……、私、人を観察するのが好きなのよ」
……、三割本当の事であとは嘘だな。
「嘘を吐くな」
俺は目を見ていた。
目は口ほどにものを言う。
目を左右に動かした時は焦り、右上に目を動かしたらそれは嘘を考えたりしている時だ。
「くっ……、はあ……。本当の事を言うわ。貴方が半人半妖で、神の所にいたからよ。半分だけど妖怪の貴方が何故神といたのか気になったから……」
俺が問いかけると、紫は本当の事を言った。
「なんでって、確か俺が英雄だからと言われ少し世話になる事になったんだが」
そうだ、思い返してみれば、諏訪子は俺が英雄だからと住む場所がないからって世話になったんだ。
あのとき思えばよくそんなんで暮らそうと思ったな……。
少し無用心じゃないか?
……そう考えると心配になってきた……。
俺の心配を余所に、紫は英雄の部分に疑問を持った様だ。
「英雄? なんの英雄なの?」
「いや、まあ、人妖大戦と呼ばれる古代の戦争だな」
俺はやはり自分の話をするのが苦手なのか、吃りながらも人妖大戦を口にする。
すると紫は驚いた顔をした。
「人妖大戦!? 人々を守る為に自分を犠牲にし、その上唯一無二の親友をなくして、哀しみに暮れた、あの!?」
ん?なんか増えてないか?
あってるかと言われたらあってるが。
「誰から聞いたんだ?」
人妖大戦は少なくとも二億年も昔なんだ、紫が何故知ってる?
俺はそれが無性に気になり、聞いてみた。
「なんか、昔、その英雄に助けられた男だって言ってたわよ?」
……、誰だ?月人か?なにがあって地上にいるんだ?
「その男は何か言ってたか?」
「さあ? 禁忌がどうのこうの言ってた」
もう一度その事を問うが紫は知らないらしい。
しかし、禁忌か……。
蓬莱の薬……ではないはずだが、いや、可能性はあるが限りなく少ないだろう。
「そうだ! 英雄さんに聞きたいのだけど、私は人や妖怪や神が共存出来る世界を作りたいのよ……。共存って出来ると思う……?」
俺は幻想郷を知ってるからどうなるかわかるのだが。
「うーむ、出来ない事はないと思うぞ? お前の夢を馬鹿にはしないし、笑ったりもしない。むしろ応援しよう」
俺がそういうと紫は花が咲いた様に、笑顔を浮かべ、はしゃぎ言う。
「やった! あの英雄に応援されちゃった!! あ、私の名前は八雲 紫! これから仲良くしてね!」
やっと名前を言ってくれたか。
それじゃあ俺も名乗ろう。
「俺の名は、未知 神楽だ。これからよろしく頼む」
「神楽……、神楽……。えへへ」
紫は俺の名前を繰り返し、はにかみながらも噛み締める様に名前を連呼する。
俺が紫をじっと見ていると、紫はその視線に気付く。
「な、なに? 神楽」
「いや、ただ、可愛いなと思ってさ」
思ったことを正直に言ったら、紫は顔を赤くさせ戸惑いながらも言った。
「えっ!? 嬉しいけど……、そんな……。い、いきなり可愛いなんて」
両手で赤い顔を隠す。
あ、落としちまった。
と、いま気付く俺。
女の子を落とす事も極めているんじゃないかと思うほどだ。
もし極めていたら凄い事になるんじゃないだろうか……。
俺は色んな女の子が嫁になっている妄想をした。
……結構悪くない……。
そんな邪な事を考えてると紫が頬を膨らましながら少し怒った。
「むー……、他の女の人の事を考えてるわね……」
「すまんすまん、だが紫の事も考えてたよ」
嫁にするという邪な考えだが。
「そ、そう……?なら、良いかな……。えへへ」
なんなのだろうか、このちょろさは。
しかし、まあ、可愛いから良いか。
文字通り、英雄色を好むとはこの事なのかと合点がいく俺。
「あっそうだ、もし良かったら理想郷作りを手伝ってほしいなぁ……、なんて……。いや! 無理なら全然良いの! 別に一緒にいるだけで嬉しいし……」
最後の方はごにょごにょとしていたがばっちり聞こえている。
だがまあ、永琳を迷いの竹林に連れていって貰わねばならんし、他にもいるし、協力するか。
「協力しよう。ただ、あまり指図は受けないぞ? 縛られるのは嫌だからな」
俺がそう言うと紫は快く了承してくれた。
「うん! 協力してくれるんですもの、文句は言わないわ! ありがとう! 神楽!」
そのあと少し話をして、別れる。
そして俺は引き続き、都に向かった。
都に着いた。
空から都に入り、隠密をしていた。
今は丁未の乱が終わり、布都は神子の元で、国を治める事になったらしい。
少し前の、五百八十七年、五月に戻ってしまうが、青娥が日本に渡来して、神子に取り入り、神子は青娥に道教を勧められた。
偉人はやはり寿命で死にたくないのだろうか……。
五百八十七年、八月。
順風満帆だった布都は徐々に変わってしまう。
何故か? それは布都達が討ち取り、討ち滅ぼした、物部一族の怨念がそうさせたのだ。
怨念達が布都にとり憑き、頭の中で、裏切り者、裏切り者。
と毎晩囁くのだ。
そこから布都は奇行をするようになった。
具体的には、仏像等を燃やし始めたのだ。
表向きには仏教を布教するよう命じられているが、それに背き、燃やす。
しかし、普段から阿呆だと思われている為に、誰もその異変には気付かない。
悲しい事だ。
さて、ここで軽く布都の能力の説明をしよう。
風水を操る程度の能力。
この時代では食料があまり安定していないため、気の流れを読んで、気運を上げるこの能力は重宝したようだ。
ただ、当時の大陸は風水の概念のようなものが存在してた程度で、情報を得ること自体が物理的に難しい。
布都の風水は大陸からやってきた青娥から風水の起源となる概念を学び、自己流でアレンジを加えたのだ。
それが彼女の能力。
しかしそれが原因で周りに高圧的な態度をとるようになったようだ。
その先も火災を起こしたり、娘である屠自子の復活等を邪魔したりと、行動に適合性が見いだせなくなっている。
神子にも止められているが何故かやめないのだ。
一回、聖が激怒し、布都を何発も殴ったことがあった。
そもそも聖は布都に仏像を燃やされた先代達の意志を継ぎ、仏教を信仰しようとしたんだが、結局燃やされてしまう。
そりゃ聖でも激怒するだろう。
しかし、布都も精神が限界の様だ。
自分が何をしているか、何をしたかがわからなくなるんだろう。
そこから時は過ぎ、六百二十二年。
神子が戸解仙になる為、眠りに就いた。
しかし、道教を信仰して、仏教を欺いたとして、仏教の僧侶達に霊廟ごと、封印されたのだ。