国譲り
俺はあれから世話になることにした。
もともと諏訪大戦を見るため、都合が良いのだ。
諏訪子から、私だけ能力聞くのは不公平だから教えるね?
と言われ、知っているが能力を教えてもらった。
坤を創造する程度の能力。
坤っていうのは八卦における、地のことなんだと。
土着神の頂点だ。
俺はそんなことを一人で考えながら、神社の居間で座布団に座りながらも、出されたお茶を飲んでいる。
「あーうー、あの英雄に会えるなんて、えへへ」
……と、さっきから俺の顔を見て、にやにやしている諏訪子。
「しかも思ったより格好いい……。んふふ」
……本当にさっきからこの調子である。
凄く機嫌が良いのか、凄く良いお茶を淹れてくれた。
嬉しい……、嬉しいのだが。
「えへへへー……」
――なんなんだこの空気は!?
諏訪子の周りから何故かピンク色のオーラが見える。
実際見えないのだが。
俺は空気に耐えれなくなり、口を開く。
「あー……諏訪子?」
すると諏訪子は、はっ!? としたように我にかえる。
「な、なに!? もしかして人妖大戦の話をしてくれるの!?」
そこまでは言ってないのだが……。
むしろまだなにも喋っていない。
「え、えーっと……、その話はまた今度してやるから」
そう言った瞬間諏訪子は、余程嬉しいのか、座布団の上で子供の様にとび跳ねている。
だがそうじゃない。
「諏訪子……、まだ大和の国から何も来てないな?」
そうだ、これから先、大和の国から果たし状?とは口だけの無条件降伏を言い渡される筈だ。
そう聞くと諏訪子は不思議そうにしながらも言う。
「ん? 来てないよ? なんで?」
どうしようか……、大和から侵略が来る、と言っておこうかな……。
だがしかし……、いや、あえて言おう。
「洩矢の王国に来る前、大和の国が今度、国をかけて戦争をかける。と風の噂で聞いたからだよ」
俺がそう言うと、諏訪子は顔を青ざめ、俺に問い掛けてきた。
「えっ!? どうしよう……、あーうー……、私あまり戦いは得意じゃないよ……」
俺の知ってる限り、諏訪子は負ける、今の時代では最先端である鉄の輪をもってしても。
いや、単純に圧倒的な神力、力量の差なのだろう。
ふむ、少し位なら稽古をつけてやるか。
「そうだな……少し、力をつけようか」
「うぐ……、面倒だけど、民達を危険にさらす事は出来ないし、仕方ないか……」
諏訪子もまた、国の主として自覚はあるようだ。
そこから、俺と諏訪子は手始めに手合わせをすることにした。
まず力量を見ないと何をしたらいいかわからないからだ。
一度、王国を出る。
そして丁度良い大きさの広間があった。
そこで諏訪子と向かい合い、諏訪子は構える。
一向に構えない俺を見て諏訪子は首をかしげて言う。
「構えないの?」
「構える程ではないから良いんだ」
その言葉を聞くや否や、怒り、神力を爆発させる様に解放した。
「その余裕……、絶望に変えてやる! いくら英雄だからといっても手加減はしない!! 後悔するな!!」
安っぽい挑発にのる……減点だな。
そこから神力でつくった弾を俺に投げつけてきた。
それを俺は右に跳んで避けた。
当たった瞬間、地面が砕け、砂埃が舞う。
しかし、尚も諏訪子は弾を一心不乱に、俺に向かって投げる。
だがそんな見え見えの攻撃に当たるわけもなく、それから二分が経った。
ひたすら神力を溜め、投げる、溜め、投げるを繰り返した諏訪子はもう、息も絶え絶えだった。
恐らく神力切れだろう。
そりゃあ地面を砕く程の弾を二分間投げ続けたら神力切れも起こすだろう。
「はぁっ、はぁっ……、なんで当たらないの……?」
何故か? 当たり前だが諏訪子は怒りに任せ行動していた。
怒りに身を任せると大振りであったり、ワンパターンになる。
これは……結構深刻だな……。
俺は汗を流し、神力を溜めようとした諏訪子に言う。
「諏訪子、休憩だ」
「まだ一発も……! ハアっハアっ……」
そろそろ神力も底をつくだろう。
神力は信仰によって、量はかわるので、使いきっても回復するだけで、最大量は増えない。
「そんな……! ここまで強かったなんて……!!」
いや、これは自爆だと思うのだが……。
まあいい、気絶させるか。
言っても今の諏訪子は聞く耳を持たないだろう。
俺は顎から汗を垂らし、地面を濡らす諏訪子に身体能力だけを使い、一気に近づく。
まだ溜めきっていない神力の弾を投げる諏訪子。
それをさらりと避け、諏訪子に当て身をした。
すると糸が切れたように倒れる。
それを抱き止め、空を飛んでゆっくり、ふよふよと効果音がつきそうな飛行をして、神社に戻る俺。
――俺飛ぶのあまり得意じゃないんだよな……、羽があれば良いのに……。
なんて事を考えながら。
神社に着き、寝室の布団に、諏訪子を寝かす。
そして俺は布を創造して、霊力の水に濡らし、絞って諏訪子の額に乗せる。
勿論帽子は外して。
起きるまで暇なので、武術の練習をする。
一人ならあまり極められないんだが、こればかりは仕方ない。
二時間ほど経ち、汗を創造した布で拭う。
そろそろ暗くなってきた。
今日はやめにして、飯を作るか。
今更だが俺は料理が出来る。
創造の能力を手にいれてからは、結構料理する機会が増えたのだ。
米を創造したり、フライパン等も創造して料理を作っていた。
まあ、何故いきなりこんなことを言ったかというと。
「なんでこんな美味しいの!?」
絶賛している諏訪子がいるからだ。
そりゃあ極めたら美味しいだろう。
と、言っても諏訪子はお粥だ。
極めたお陰なのかお粥でも凄く美味しい様だ。
俺もお粥だ。
流石に隣でお粥を食べてる女の子の前で、俺だけ豪華な食べ物なんか食べてられない。
「そんな美味しいか?」
俺がそう聞くと諏訪子は花の様な笑顔を見せ、言う。
「うん! 凄く美味しいよ!!」
……そこまで喜んでくれるとは……。
なんか、嬉しいな。
「そうか……、ありがとう……」
俺が少し頬を赤くしながら礼を言うと。
「あれあれー? 照れてるのかなー? かわいいー!」
と、にやにやしながら隣に来て、肩を、ツンツンと指で小突く諏訪子。
「や、やめろ……、もう稽古つけてやらないぞ!」
「えー? それは困るよー! ごめーん!」
いまだにやにやしている、諏訪子の頬を親指と人差し指で掴み、引っ張る。
ビヨーンと伸びる頬。
「いはいいはい! ひゃめてよはふらー!」
痛い痛い! やめてよ神楽! と涙目で許しを乞う。
まだ怒りは収まっていないが、許してやる。
指を離し諏訪子の顔を見ると、頬が少し赤くなり間抜けに見えた。
「はははっ! なんだその間抜けな顔!」
と、指を差し、笑ってしまった。
「これは神楽がやったんでしょー!? 女の子の顔を見て笑うなんて酷い!」
冗談めかして怒る諏訪子。
そうして夜は更けていく。
あれから諏訪子の修行を手伝い、一秒で神力の弾を何個か同時に作れる様になった。
次の日の昼。
一通の手紙がきた。
内容はこうだ。
洩矢の祟り神に告ぐ。今すぐ洩矢の民の信仰、及び国を大和の神に明け渡すがよい。抵抗ないしは断った場合、全面戦争は避けられないであろう。
元々神奈子は諏訪の地の平定を任された天津神達の尖兵だ。
凄い勢いで勢力を拡大する大和の神達は『単一の神話を持って、すべての国を統一する』っていう大きな目標の為、諏訪の地も飲み込もうとしているんだ。
しかし予想していたが、やはり酷いもんだな……。
ただの脅迫じゃないか……。
「か、かぐらー……、どうしよう……。」
顔を青くさせ、焦ったように、俺に問い掛けてくる。
「落ち着け、俺がお前と大和の神が一騎討ちになるよう交渉してやる。向こうも民を傷付けたくはないだろう」
しかし俺が交渉してくると言ったら一層顔を青ざめさせ、酷く焦りながら言う。
「え!? あぶないよ! 敵の本土に一人で行くんだよ!?」
「俺をなめてもらっては困る、これでも英雄なんだ」
自分の事を英雄というのは恥ずかしいが、諏訪子を安心させる為だ、致し方ない。
心の中で自分を正当化させる。
そして俺は自分の背中に“黒く、蝙蝠のような翼”を創造する。
衝撃の限界を操り、衝撃を限り無く零に近くし、音速で神社から飛ぶ。
目まぐるしく景色が動き大和の国らしきところが見え、着地する。
翼を仕舞い、門に向かって歩きだす。
「何者だ! ここをどこだと思っている!」
そこで一柱の神が問い掛けてくる。
「俺は諏訪王国からやってきた!! 八坂神と交渉したい!!」
「はっ!! なんだと思ったらただの人間か! 即刻たちさ――」
「お待ちしてましたよ~? どうぞついてきて下さい~」
一柱の神が、立ち去れと言い終わるや否や、間延びした声が聞こえる。
「あんたは?」
俺が門からきた、女性に問い掛ける。
「きさ――」
「黙りなさい」
顔を赤くさせ激怒する一柱の神。
それを遮る女性。
そこには圧倒的な神力と、殺気が込められていた。
まあ、俺には効いてないが。
「どうかお許し下さい、人妖大戦の英雄様。私は天照大御神と言う神です」
天照大御神!?
そんな大物がお出迎えとは、その上俺の事はもう分かってる様だ。
自らを天照大御神と名乗ったその女性の顔は、絶世の美女で聖母の様な笑みを浮かばせていた。
服は赤色の着物で、所々に軽い装飾が施されている。
「いや、こちらこそいきなり来て申し訳ない、少し交渉をしたいんだが。いいか?」
俺がそう言うと天照大御神は俺の用事が分かったみたいだ。
「あ、はい~、ついてきてください~。神奈子ちゃんが待ってます~」
か、神奈子ちゃん……。
まあいい、さて、書いた奴は誰だろうか……。
俺の大切な人を脅迫したんだ、楽に殺してはやらんぞ?
「ああ、わかった」
そこから門に入り、大和の国の神社に行く。
長い階段を上り、神社に入る、複数の視線を感じる、神奈子が束ねている雑魚神だろう。
居間の戸をあける天照大御神。
そこにはテーブルと座布団だけの質素な部屋だった。
座布団の上に神奈子が座っており、横に天照大御神が座るその他の神は後ろに立っている。
「ようこそやま――」
「御託はいい、これを見ろ」
俺は持ってきた手紙をテーブルの上に置く。
それを訝しげに開き、見る。
天照大御神は横から見て、あらあら、と口に手をあてる。
そして神奈子は激怒し荒々しく、後ろの神達に問い掛ける。
「……。なんだこれは!! 誰が書いた!? お前か!?」
「ヒッ……! お、俺じゃありません!」
と、後ろの神達は口々に、こいつが、こいつが、と責任転換をする。
「……黙れ! お前ら! なんてことをしてくれたんだ!! 全員同罪だ!」
「大和の神には悪いが……、お前らには消えてもらう。しかしここは大和の神社だ、穏便に……」
そういった瞬間、霊力と妖力を五割解放する。
床や天井、壁が軋む。
天照はにこにこと笑っている。
神奈子は少し顔を青ざめさせながらももう止めることは出来ないと悟ったのか、何も言わない。
後ろの神達は足や体を震わせ、恐怖で歯がガチガチと不愉快な音を出している。
「俺の大切な人を脅迫したんだ……、その罪は消失という罰だ、俺が一思いに消してやる」
俺は神達に触れて、神力の限界を操り、零にする。
神力を零にされた神達は、存在自体が消えた。
神力が無くなった事で存在出来なくったのだ。
「恨みたければ恨め。その恨みすら俺は守る力にかえてやる」
「流石です~! 英雄様~! きゃ~! 素敵です~!」
なんか黄色い声が聞こえるが……。
「すまないな……。勝手に消して」
俺が謝ると神奈子は手をぶんぶんと左右に振り、言った。
「い、いやいや! 然るべく処置だ! 逆に礼を言いたい位だ!」
神奈子は俺の事が少し怖くなった様だ。
それはそうだろう。
触れたら神の存在を消すことが出来るんだから。
「あ、怖かったか? 本当にすまん……。頭にきて、ついやってしまったんだ。神奈子達には絶対しないから、安心してくれ」
「きゃ~! 焦る英雄様もかわいくて良いです~!」
……外野うるさいぞ!
こほん、少し外野が喧しいが放っておく。
「あ、別に怖いわけじゃないぞ!? 寧ろ優しくしてくれて……。ってそうじゃなくてだな!」
神奈子は変な事を口走りそうになって、慌てて話を戻す。
改めて神奈子の容姿を見る。
紅い目、紫色なのか、はたまた濃い青なのか、はっきりとは分からない。
ウェーブだろうか、横に少しボリュームがある。
だがそれも相まって美人だ。
服は赤い服に濃い赤色の長いスカート。
ついでに少し顔も赤い。
「交渉はどうするんだ!?」
「その話だが、うちの神と神奈子で一騎討ちをしてくれないか?」
俺がそう提案すると、神奈子は想定通りの返事をした。
「それをして私達に得があるのか?」
俺は少し殺気を出しながら言った。
「俺と戦わない。それだけで大和は得どころの話じゃないだろ?」
「……確かにそうだ。触れられただけで消えるなら勝ち目はない。その上まだ本気ではないんだろう?」
そうだ、利口だな。
本当はこんなこと言いたくないが。
「そうだ、まだ半分しか出してない。さあ、のむか?」
「ああ、というかその提案をのむしかないじゃないか……」
俺はその言葉を聞いて満足げに笑い、神奈子の頭を撫でる。
「よしよし、俺はお利口さんが大好きなんだ。いい選択をしたな」
神奈子は敵わないと思っているからか、若干顔を赤らめながらも大人しくされるがままになっている。
「英雄様の力に敵わずされるがまま……。こうして神奈子ちゃんも英雄様の手込めにされるんだわ~!! 英雄様~! 私にもなでて下さい~!!」
我慢出来なくなったのか、使っていない腕の方に抱きつき頭を撫でる事を要求する。
「……はいはい」
撫でてやると顔を紅潮させ、妙に色っぽい声を出す。
「んっ……、うふふふ~」
右には顔を伏せる神奈子。
左には顔を紅潮させにこにこと笑う天照大御神。
なんだこれ。
なんなんだこれは。
そこから改めて交渉し、諏訪子の神社に帰ってきた俺。
交渉の内容は。
一
諏訪の神、洩矢 諏訪子と大和の軍神、八坂 神奈子の一騎討ちとする。
二
その他の神及び俺は終始、傍観に徹する事。
三
負けたら潔く認め、諦める事。
場所は俺と諏訪子が修行した広場だ。
期限や時間は一週間後の朝十二時だ。
何故十二時か、だが、お互い起床し、準備運動等を出来る様にだ。
それを聞いた諏訪子は、神楽がここまで好条件を出してくれたんだから、絶対負けれないね!
と言ってくれていた。
決闘当日。
両者共に身体を充分に休み、決闘前日は、諏訪子にとびっきりのご馳走を振る舞った。
その時の諏訪子の目の輝きは、以前永琳の街の食堂のメニューを見たときと同様だった、と言っておこう。
両者向き合い、殺伐とした空気が辺りに伝わる。
そんな中、俺と天照大御神は地面に座り、酒を呑んでいた。
「天照大御――」
「天照とお呼びください、英雄様」
「……神楽でいい。英雄って言われると変な気分だ」
「うふふっ、はい~、神楽様!」
まあ妥協点だ。
ふむ、酒は初めて呑んだがこれもなかなか……。
寧ろコガコーラが飲めなくなった今は酒で代用だな。
対決している向こうとは空気が百八十度くらい違う。
「諏訪子……と言ったな、お前は向こうで酒を呑んでいる二人をどう思う?」
「神奈子……でいいな? はっ倒したいよ。でもそれ以上に私の為にここまで舞台を整えてくれたんだ。その期待に応えなきゃいけない。だから絶対勝つ!」
「良い目だ、だが、軍神であるこの私に、一筋縄で勝てると思うな!」
お互いに高々と宣言して始まった、土着神と軍神の国を賭けた戦い。
最初は勢いが良く、神奈子を押してる様に思えた、だが軍神、神奈子はまだ余裕がある様に見える。
攻守交代だ。
神奈子が御柱を飛ばしたり神力弾で諏訪子を攻撃している。
諏訪子は飛んで避けたり、そして時には弾いたりしている。
しかしやはり手数が凄いのかどんどん劣勢になっていき、当たる事も増えてきた。
「はあ、はあ……、ふぅ。神奈子、これから準備運動はおしまいだよ!」
諏訪子は強がるが、息切れを起こしている所を見るともう余裕はないのだろう。
「なんだい? 息切れしてるじゃないか! そんなんで本当に勝てると思ってるのかい?」
「なんの! これを見ろ!」
と、自分を奮い立たせる様に声を荒げ、何かを取り出した。
――洩矢の鉄の輪だ。
両手に二つづつ持ち、鉄の輪を投げた。
――これが当たればもしかしたら……。
と諏訪子は汗を流しながらも勝利の可能性を見出だしていることだろう。
しかし、それはあっさりと打ち砕かれた。
神奈子は細い植物の蔓をかざし、鉄の輪を錆びさせたのだ。
諏訪子は絶望したような表情を浮かべて、こちらを見てきた。
俺は、最後まで諦めるな。
という意味をこめて、諏訪子に首を縦に振った。
すると通じたのか、さっきとはうってかわって、笑った。
「神奈子……、流石だね……。私の最後の武器を防ぐなんて」
「なに、私は軍神なんだ。これくらい動作もないことさ、それより最後と言ったね? これで終わりかい?」
「いや、もう勝とうなんて思えないよ。圧倒的なんだもん。だからあとは精一杯足掻く! もう国を賭けた戦いとは思わない……。ここからは私自身の為の戦いだ!!」
そう言った瞬間、諏訪子の目や表情、辺りの空気が変わったのだ。
錆びさせられた事で今まで弱気だった表情から一変、強気に笑い、闘志を静かに、しかし激しく燃やした。
もうここからは国を賭けた戦いではない、諏訪子の最後の足掻きである。
これはもう勝てないのは分かってる、でもせめて俺の期待に応えたい。
だから少しでも驚かせて見せる、そして私の戦いを魅せてやる。
ということなんだろう。
そこから神奈子は防戦一方だった。
色とりどりの神力弾を、土を手足の様に操り、神奈子に、そして俺に魅せた。
その様は土着神の頂点と呼んでも差し支えないだろう。
「私が、押されている……!?」
すると諏訪子の攻撃が止んだ。
「はあっはあっ……! これが……! 私の想いの力だよ……!」
しかし限界の様だ。
「神楽の期待に応えられたかな……?」
そう言い終えるや否や、力を無くした身体は重力に従って、前に倒れる。
「……、全く……。大したもんだよ……。この軍神である私を、負けたとはいえ、最後に翻弄したんだから。まだ攻撃が終わってなかったら私が負けてたかも知れない」
そういって倒れた諏訪子と神奈子の両者は、晴れやかな笑みを浮かばせていた。
「あらあら、負けちゃいましたね~」
いつも通りのにこにこ顔で少し残念がる素振りを見せる天照。
「なにいってんだか、最初から知ってただろ?」
「うふふ~、あと一歩の所でしたね~」
全く……。
そこから諏訪子が起きるまで待ち、国、信仰を差し出す事になった。
しかしミシャグジの祟りがやはり怖いのか、民は神奈子を信仰出来なかった。
それはそうだ、今まで諏訪子を信仰していたのに、それを新しくやってきた神を信仰対象にかえろ、など言われても難しいだろう。
結局、神奈子が表向き、実務等をやり。
諏訪子がミシャグジの祟りを持って、裏で国を取り仕切るという事になった。
そして神奈子は強者である、蛇を連想される注連縄を背中につけ、諏訪子は弱者である蛙のマークを服に縫い付けた。
そして諏訪神社の宝物である、真澄の鏡を神奈子は胸に付けた。
そこから年月は過ぎていった。
諏訪子や神奈子にいま何年かと聞くと、今は五百八十七年の七月らしい。
五百八十七年の七月といえば、丁未の乱だろう。
たしか布都達が兄、物部守屋を討ち取り、物部一族を滅ぼした年だったはずだ。
俺は布都や神子が気になり、旅に出ることを提案した。
勿論諏訪子や神奈子は反対した。
結論を言うとだが。
結局旅には行けた。
ただ、時々戻ってきて、との事だ。
あとは、諏訪子と神奈子から告白された事だろうか。
言ってしまえば、気持ちには気付いている。
ただ、永琳にもプロポーズや告白をしていないのに諏訪子達を先に嫁にするのはどうかと思ってしまった。
そこで俺は。
先約がいる。でも、その先約が良いと言って、お前達も良いのなら、俺の嫁になってくれ。
と言った。
一夫多妻と言うのだろうか、俺は気にしない、寧ろそっちのが良い、男の夢だ。
諏訪子達はこれで諦めると思ってたが、全然気にしないらしい。
諏訪子曰く、女は強い男に惹かれるのだと。
神奈子曰く、別に気にしないし、英雄色を好む。だそうだ。
確かに多数の女性を好きになるが……、うーむ、否定出来ない。
まあそんなこんなで俺は都……でいいのか?
に、行くことにした。