土の中で
俺は目をさます、さましたのだが、上下左右どこを見ても真っ暗。
まるで目隠しをされてるみたいに。
それになにか凄く臭う。
まるで“何かが腐ったような”臭いだ。
その上、虫の羽音が聞こえる。
俺は嫌な予想に身を震わせた。
「だ、大介……? 起きてるか……? 返事をしろ……」
なぜ暗いのかは解った。
意識を失う前に土で包み込んでいたから、これは土なのだろう。
だが、しかし。
それならこの臭いは何なんだ……?
そうだ、きっと……俺と大介以外に何かの生物か妖怪の死体を入れてしまったんだ。
そうに違いない。
少しの希望を抱きながらも俺は震える手を抑え、恐る恐る土のドームをといた。
その瞬間、眩しくて目を瞑り、腕で目をかばった。
少し経ち、目が慣れる。
俺は真っ先に、足元の辺りを見渡した。
「う、うそ……だろ……?」
――横に大介がいた。
しかし、その顔、その体は少し腐り、虫が少し集っていた。
そう、大介は、“大介だったもの”に変わっていた。
俺は顔を青ざめ、急いで大介に心臓マッサージをする。
虫が飛ぶが、知ったことではない。
「大介……? お前が死ぬわけないよな……? そうか、わかったぞ! そうやって俺を驚かせようとしてるんだろ!? そうなんだろ!? 大介!!」
無駄だと分かっててもやめる事は出来ない。
ここでやめると、大介が確実に死んだことを認めるみたいで、やめれなかった。
まだ希望はあるかもしれない。
もし、もしかしたら、が俺の中に芽生える。
「起きて大丈夫だって俺に笑いかけてくれよ!! 親友だろ!! 俺に看取らせろなんて無理なことは言わない!! せめて……、せめて……!! 大介ぇ……! くっそおぉ!!」
俺は叫びながらも溢れでる涙を拭えなかった。
いや、拭う気にもならなかった。
俺の涙は頬を伝い、顎から滴り落ちる。
その涙は大介の顔や大地を濡らす。
そこから俺は心臓マッサージをやめ、大介だったものの横に座る。
何もする気が起きない、立つことも、大介だったものから目を離し、空や核爆発がおきた後の大地を見ることさえ億劫で。
いまだ絶え間無く流れる涙を拭こうともしなかった。
そこから数時間、いや、本当は数十分なのかも知れない。
一秒が十秒に感じる。
その上時間がわからないのだ、別に知りたくもないが。
俺はせめて大介を埋葬しようと、無理矢理身体を動かす。
そして目線を大介だったものから周りに移した。
俺達二人の場所を除いて、大きなクレーターが出来ている。
恐らくこれが核爆発の跡なんだろう。
だが今はそんなものに興味はなく、適当な場所に目をつけ、そこを一心不乱に手で土を掘る。
霊力で土をとって埋めてもいいんだが、それでは大介がうかばれないだろう。
これが大介への、最期の手向けだ。
俺はそう考え、手で土を掘る。
指が切れ、爪が剥がれて血が出ても、無視する。
どうせすぐ治るんだから。
今はその血、自然治癒さえも憎く思えてくる。
そういえば大介は死んだのに、なぜ同じ人間である俺は死ななかったんだろうか…。
そこまで考えて俺が生きれた意味を知る。
心臓マッサージしてるときぼやっと見えたが、大介の耳から血が出ていた。
恐らく、あの衝撃、音で鼓膜が破れ、脳に伝わったのだろう。
大介の死因に気づいてしまい、止まっていた涙がまた溢れてくる。
俺は涙を腕で拭い、一層力を入れて掘る。
恐らくだが、俺は自然治癒を高めているから鼓膜が破れても再生を繰り返して死ななかったんだろう。
手で耳を少し掻くと血の固まりがとれた。
そしてある程度掘れた後、大介の死体をその跡に入れる。
そしてついさっき掘った土をまた、手で大介の死体を埋めていく。
埋め終わった後に気付く。
墓になるものがない、と。
しかし、無いものは無いので、妥協して石を探し、積み上げる。
そして手と手を合わせ、黙祷をする。
今まで世話になった、大介のおかげで俺は大切な人を守れる位には強くなった。
いや、守れてないな、親友であるお前を死なせてしまった……。
謝って済む問題じゃないのはわかってる。
だが言わせてくれ。
本当にごめん。
もし……、もし、あの世で会えたなら杯を交わそう。
黙祷を終え、前に進むべく、涙を拭い、俺は立った。
その時、今まで無風だったにも関わらず、一陣の風が吹いた。
まるで大介が、気にすんな! 俺はお前と親友になれて幸せだったぜ!
と言って、赦してくれているようで、重い身体が少し軽くなったような気がした。
あれから多分二年経ち、二度目の墓参り?に来た。
去年は無かったのに、何故か積み上げた石の間から一本の小さい木がある。
これは神から大介への手向けなのか、はたまた大介の意思が木をつくらせたのか。
その木に霊力で水を出し、あげた。
飯はたまにいる、動物?っぽい生き物を捌き焼いて食べたりしている。
そういえば何ヵ月か前に湖があって、久しぶりの天然水が飲める!
と、喜び顔を洗い、久しぶりに自分の顔がどうなってるかを見るため、湖で写してみたら何故か目が黒から若干紅くなっていた。
多分人妖大戦の時、妖怪の血が目に入ったり少し飲んでしまったからだろうと考えている。
それにしてはなんか違和感を感じる……。
それから更に一年。
どうやら俺は半人半妖になっていたようだ。
あのとき感じた違和感は妖力だったみたいだな。
俺もとうとう人間ではなくなった。
ただそれは妖怪達を大量に殺した罰だと考えると悪い気はしない。
そこで、俺は妖怪として能力があるかを視ようとした。
あらゆる物を×造×る程度の能力
……?まだこの先はわからないようだ。
文面からしてなんかこう……造るんだろうな、うん。
あとは妖力の修行か、あの頃を思い出すな。
俺は森にいた頃を思い出す。
あの頃は右も左もわからず、修行も曖昧にやってたな。
俺は昔を思い出し、懐かしむ。
あれから一億年。
俺は墓参りも毎年行っている。
結構前から恐竜がいる。
何故か俺には襲ってこない。
霊力や妖力を五割垂れ流しにしているからだろうか?
それとも恐竜達を食べているからだろうか?
そういえば最近の俺は霊力を五割出したら人妖大戦時の最大霊力になっているみたいだ、結構あがった。
妖力は七割で大戦時の最大霊力までにあがった。
そこから更に一億年。
氷河期が過ぎ去り、原始人が、原始人から知恵をつけ、村を作り、まともな生活をするようになった。 神をたたえ、人間からの畏怖や恐怖を元に妖怪が誕生した。
その光景を見て俺は、やっぱり人間は強いんだな。と確信した。
どんどん成長していく世界、人間、虫や微生物、動物。
どんどん増えて勢力を増していく妖怪。
どんどん増えて信仰心を得る度、力を手にいれ、時には人を見下し、時には温かく見守る神。
そんな中、二億年もの長い間誰にも会わず、修行し、誰にも負けないような力を手に入れた俺。
能力も解った。
あらゆる物を創造する程度の能力らしい。
なんとも凄い能力だと思った、それと妖力の扱いも極めた。
そして俺は今、霊力や妖力を零にして、諏訪の国と思しき所に着いた。
軽いバリケードのようなものがあり、そこの手前、左右に見張りがいた。
左の男が俺に問い掛けてくる。
「まて、ここからは諏訪王国だ。余所者がなんのようだ?」
……永琳達の街に着いたときのやりとりを思い出す。
「すまん、旅人なんだが、休める所を探している。宿かなにかあれば教えてくれないか?」
俺は旅人として接触し、宿がないか聞く。
「旅人……、良いだろう、入れ。宿はここから真っ直ぐ行って二つ目の左の道だ。丁度あそこにある諏訪の神社から向かいの道だな」
成る程、あそこが諏訪子のいるところか。
俺は見張りに礼を言い、諏訪の国に入った。
神社に向かい、端の方で階段を昇る。
そして鳥居を端の方でくぐる。
「半人半妖がこの諏訪の王国の洩矢神社に何の用だ? ここは神聖なる場所ぞ? お前のような下賎な者が来てよい場所ではない。即刻立ち去れ」
なぜばれたかは知らないが、可愛らしくも威厳のある声色。
しかし外見は威厳というものはない。
目玉の付いた帽子を被り、金髪で服は紫色のワンピースだろうか?を着た、可愛らしい少女。
洩矢 諏訪子だ。
ミシャグジ様という白蛇っぽい外見の神を統括している。
ミシャグジについてだが。
ミシャグジ信仰は東日本全体に広まっていて、それぞれの地方で信仰形態などが違うらしい。
諏訪地方ではソソウ神と習合されたため、白蛇の姿をしているとされている。
それはさておき、いま諏訪子と向かい合っている。
諏訪子は身長が低い為、上目遣いの様になっているが。
「俺はなにもしない、民に危害もくわえない。ただ俺が半分人間で半人妖怪ってだけだ。どうしてそこまで警戒するんだ?」
「ふんっ! そんなこと決まってる! 混血でもあり妖怪だからだよ! ここは神社なんだ! 少しでも妖怪の血が混じってて警戒しないわけないじゃないか! お前がそう言った所で本当に危害を加えないって証拠はない!」
言ってる事は分からないでもないが……、複雑だな。
半妖がここまで来てデメリットになるとは……。
……一か八か……。
「それならこれで信じてくれないか?」
「なにを――」
諏訪子がそう言った直後、俺は新しい能力でナイフを創造して、“自分の腕を斬った”
「なっ! なにをしてるのさ! とち狂ったのか!?」
「大丈夫だ、このくらいならすぐ治る。俺は民やお前に危害をくわえた瞬間。このナイフで自害しよう。誓おう、危害は加えないと!」
そう叫ぶと諏訪子に届いたのか、諏訪子は笑う。
「ぷっ! あはははっ! あんたみたいな馬鹿で面白いやつ、初めて見たよ! ふぅ…、お前、名前は?」
「未知 神楽っていう名前だ」
俺の名前を聞いた瞬間、諏訪子が驚き、声を荒げる。
「神楽だって!? あんた、人妖大戦で英雄って言われてる、あの神楽!? あれ……? にしてもなんで人間だった筈の英雄がいまここにいるの?」
……何故知ってるのだろうか……。
というか英雄ってなんだ……?
「確かに人妖大戦にいたが、なんで知ってるんだ?」
そう言うと諏訪子は、はっ!?とした後、言う。
「いや、それは神無月の日に月読命様から聞いたんだ。他の者を月に行かせるため、自らを犠牲にした英雄だってさ」
そ、そんな話になってたのか……。
な、なんかむず痒いんだが……。
「今度はこっちの番だ、あんたが英雄なら何故生きてる?」
「そうだな、俺の能力の話になるんだが。ありとあらゆるものを極める程度の能力、もうひとつは、ありとあらゆるものの限界を操る程度の能力。この限界の能力で寿命や身体能力等の限界を操って生きてるんだ」
俺が説明している間も大人しく聞いている諏訪子。
「でも、それだとしてもなんで半妖なんかになってるの?」
尤もな疑問を俺に問い掛ける諏訪子。
「……人妖大戦の時に、妖怪を多数殺めた、その時に血が目や口に入って飲み込んだんだ。これは妖怪を殺めた罰なんだろう。この少し紅い目もそうだ、だが俺は大切な者を守るなら全てを犠牲にする。この罰すらも守る力に変えよう」
俺がそう言うと諏訪子は少し申し訳なさそうに謝ってくる。
「ごめん……聞かれたくないことだったんだね……」
「いや、全然気にしてないが」
俺が気にしてない事を伝えると、何を思ったのか、諏訪子は俺にこう提案した。
「そうだ! 神楽は住む場所ないでしょ? ならこの神社で一緒に暮らさない?」
なんでわかったのだろうか……。
その疑問を聞くと、諏訪子は。
「ふふーん! 神は何でも知ってるんだよー!」
と、可愛らしく無い胸を張り、得意げな顔でそう言った。