東方極限想、終
「ッ――!」
飛び起きた。真っ白の、清潔そのものを体現したかのような部屋で。白い毛布が捲られる。荒い息を整えて、高まっている心臓を静ませる。
壁に立て掛けられている時計を確認すると、午前七時。いつもの起床時間だ。身なりを整え、自分の顔をうつし見る。痩せこけてもいない。目は多少なりとも暗いかもしれない。
しかし、そんなことはどうでも良くなるほど、浮き足立ち、心がおどっている。もうあんな地獄のような事をしなくて済むのだ。それに黒幕を苦しめる。
――そんなに苦しかったのか?
んむ? そうだ。嫁達にあと一歩で殺し、殺されるというのは辛いどころではない。俺は不死身ではないんだ。当たり前だろう?
――あそ。
病室を出る。向かうは居間だ。人魂の話によれば、居間か、七時に病室に訪れるらしい。もう七時半なのに来ない。なら、居間だろう。
しかし、予想とは反して、居間はもぬけの殻だった。
――あるぇー? おっかしいなー……。俺あとどこにいるかなんて知らないぞ。
仕方ない。外に行くか。誰とでもいるだろう。
――そういうもんか?
そういうもんだ。
外に出ると、見慣れた竹林があった。まだ竹林を歩き慣れてはいない俺は、飛ぶ。
――おっおっおっ!? 飛んでるー!!
俺の知り合いはほぼ全員飛べるぞ?
――まじで!? おっほ。すげー。
竹林を抜けて人里に。妹紅の家にも寄ったのだが、いなかった。人里はいつもとかわらず賑わい、騒がしい。蕎麦がうまそうだ。団子もうまそう。おむすびもいいな。
――食べ物ばっかじゃないか! あ、でもまじでうまそう。
だろ? ここも異変が起きてから来てないからなぁ。団子とか本当久しぶりに感じる。よし、食べよう。
団子屋に行き、お茶と団子二本を注文して、代金を支払う。まったりと、ふっくらしていて、しつこくなく、甘い。あの昔、行きつけだった店主の場所には負けるが、なかなかに美味。
――団子ってこんなうまいんだな。知らなかった……。
舌鼓をうっていると、頭にそんな言葉が響く。どうやら味覚等も共有しているようだ。しかし、うまい。もう本当久しぶりだ。うまさに涙が出てくる。
――……、そんなにか?
ああ。これがどれほど幸せな事か。改めて思い知らされたよ。
そうか。とだけ返事をして、黙りこむ人魂。首を傾げながらも食べる。
食べ終わり、改めて探す。
さて。どこにいるのか。城に行くか。
――なあ、あそこの神社、人がたくさんいるぞ。
そうだな。知ってる。
飛んで、人里から妖怪の山に向かう途中。博麗神社に大量の人が集まっている光景が見えた。遠いから誰か。なんてのはわからないが。
博麗神社に近づくにつれて、なにか布に書かれた文字が見える。なになに。『神楽、ありがとう!』か?
――ちょ、おい! なんで冷静なんだよ。普通こういうのって驚くんじゃないのかよ。
いや、嬉しい。嬉しいんだが、これ、実際にこれされて、驚くのって一握りじゃないか? まずシチュエーションがおかしいだろ。ありきたりってレベルじゃないぞ。
――いや、確かにそうだけどさ。ごめん、そう考えたら笑えてきた……。
頭に笑い声が響く。凄く鬱陶しい。それを無視して、境内に降り立つ。何人もの声がする。ありがとう。と。
「神楽、幻想郷を救ってくれてありがとう」
代表としてか、紫が前に来て、握手を求めてきた。
――なに、この、茶番みたいなの。
言うな。紫も慣れてないんだ。顔が少し赤い気がするけど、気づいてないふりをするんだ。
――お、おう。
「なぁ、紫。お前はなにがしたい?」
一応握手をして、問う。ピシッと石のように固まった紫。
もしかして、失言だったか? 後悔するが、遅かった。
「わ、私は……、皆とこうしたら神楽が喜ぶかもという話をしたからしたのよ……それはそれは、残酷な事なのよ……」
いや、訳がわからないからね。
――うーん、この俺と話をしてた時とは全然違う感じね。
仕方ないさ。
後ろに、原作メンバー全員が立っている。その上、境内にはテーブルがあり、酒類、料理が所狭しと置かれている。
「だけど、本当に神楽と妹紅、霊夢、魔理沙、聖白蓮のおかげで、私達は救われたわ。異変は解決。皆、解決した後はなにがあったかしら?」
紫が振り返る。全員手を挙げた。
『宴会!!』
――異変? 宴会だと?
聞いてないか? 異変は誰かがおこした……、まあ、お前が言う事件さ。それが解決すれば、円満。酒を呑み交わすのさ。楽しいぞ。
――ふーん。まあ、あんまり呑みすぎんなよ? 酔っ払うとか嫌だぞ? 俺。
おうともさ。
始まった宴会。鬼や妖怪。人間、霊。神。相容れない存在達が楽しみ、騒ぐ。久しぶりの酒についはめをはずしちまった。結果。
――何度も言ってるけど、酔ってないだろうな?
んー? ははは。酔ってないよ。当たり前だろ? 俺が酔わないのはコーラを飲んでげっぷするのと同じ確率だ!
――え、ごめん意味わかんない。
人魂くぅん。君の肉親を俺はどんどんおみまいしてくぞぉ。
――え。
君に近い者から順番になぁ。
――え。え。
待ってろ。待ってろ。人魂一族。
――そんなのいないんだけど。しかし、敢えて言おう。家族に手ェ出すなよ。
選べよぉ。幻想郷か? それとも君の家か?
――パイが腐らないうちに?
どーも奥さん。知ってるでしょう? 未知神楽でぇ、ございます。
――お? くるか? くるか?
おい。パイ食わねぇか?
――きたー!!
子供たちもおいでぇ。パイ焼くぞぉ!
――あははは!! 大丈夫かよ! まじで!!
そんなこんなで宴会は三日三晩続いた。吐きながらも。終わった次の日は一日中頭痛と吐き気に悩まされた。しかし、その吐き気や頭痛は薬とは正反対に、心地よく感じた。
今は俺の城で、紫とソファーに向かい合っている。他の皆はそれぞれ帰った。
「お前は人間にはめられた。でいいんだな?」
確認する。そう言うのも、人魂が俺に話してくれた。
しかし、紫程の妖怪がはめられるとなると、油断は出来ない。妖怪でも最高峰の紫がだ。ここまでこけにされたんだ。一体どんな人間なのか。
「ええ。詳しく言うと、脅した人間に教えられた場所が、ちょうどその機械の中だったのよ」
どういうことだ? 人間に、ここだ。と教えられ、案内された場所か? いや、口振りからすると、スキマで移動したんだろう。そこが機械の中だった。って事か。
「そうか。お前をはめた人間と、作った奴はスキマで連れてこれるか?」
「お安いご用よ」
さて。これからはなんでそんな機械を作ったのか。と報復だな。
――基本的になにするんだ?
素直に話さないだろうしな。そりゃあ、拷問だよ。言わせんな恥ずかしい。
――……。まじか。俺、寝てようかな。
好きにしていろ。
連れてきた人間二人は、研究服を着た見た目普通の冴えないおっさん。二人は最初こそ強気でいたが、蹂躙させたら、簡単に話してくれた。
どうも、あの機械は最高傑作で、洗脳させたり等、活用できるらしい。前々から幻想郷を支配して、妖怪、神達を操れれば、天下はとれることが確実。と考えていたらしい。それを具現化させたのがあの機械。チャンスだと思った研究員は、嘘を教えて、紫を欺くことに成功。操り、一番強いもの、仇なす者を殺せと紫に洗脳させ、この異変がおこったらしい。
分かりにくいな。
――幻想郷支配したい。なら洗脳させれるものがいる。出来た。八雲さんがくる。これチャンスじゃね? 洗脳成功。強いものや操れなかった奴は殺せ。これでおけ?
おけおけ。ありがとう。異変の全貌はこんなものらしい。ふう。これで完全に終わりかな? この二人以外はもう記憶を消したらしいし。もう、あと数百年は穏やかに暮らしたい。一生分の戦闘をしたような気がする。
はあ。よもやこんな異変がおきるなんて思ってもなかったよ。もうないことを祈ろう。弾幕ごっこや戦いすらしたくない。
――そうだなぁ。俺も戦いなんてしたことないし、経験したくないよ。
「お兄様! 手合わせしましょう!!」
「もう勘弁してくれ」
――勘弁してやれ。