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東方極限想  作者: みょんみょん打破
新たな異変
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記憶、意識





 次に目を開けると、そこは木造平屋が軒を連ね、人で賑わっている場所だった。ガヤガヤと活気があり、和服を着た老若男女が道を歩く。いきなり姿を現したのに、吃驚する人はいない。横目でちらりとみた後、なにもなかったかのように進む。

 流し目に見る。団子屋、蕎麦屋等がある。一軒の家の壁に、フラッシュバックで見た白髪でもんぺの女性が腕を組んで男らしく寄り掛かっていた。

 あの人かな? よし、近づいてみよう。

 その女性の所へ、人を避けながら駆け寄る。俺に気づいたのか、目を開けて、手を小さく振ってきた。

「えっと、貴方が八雲さんの……?」

「ああ。私は藤原 妹紅だ」

 ふじわらの……? いや、気のせいだろ。流石に藤原 不比等の娘。なわけない。出来すぎだ。それなら俺の名字が『織田』だったら織田信長の子孫になるからね。全国にどれくらい藤原がいると思ってるんだ。知らんけど百人は越えてそう。知らんけども。でも、なんだろう。凄い気になる。あってる気がしてしょうがない。

 気になり、聞いてみる。

「すいません。藤原。というと『藤原不比等』の子孫かなにかですか?」

 藤原さんは、忌々しげに舌打ちをした。

「話は私の家でする」

 と一言。里を進む。俺は返事をせず、後を追った。

 里を出て、竹林に入る。そびえる竹は、方向感覚を狂わせるだろうと容易に想像出来る。しかし、藤原さんは迷わずずかずかと進む。そうするからには方向やここの事を熟知しているようだ。

 これだけ歩いていて熟知してなかったら怒る。激おこプンプン丸だ。いや、激おこスティックファイナリアリティプンプンドリーム。もう古いかな。

 迷わず歩く藤原さんに着いていき、少しすると、一つの家が見えた。里と同じような家。扉を引いて入る藤原さん。無駄な話はしたくないらしい。

 全く。博麗さんも霧雨さんも藤原さんも、本当に無駄な話は嫌いなんだな。……、いや、俺とは話をしたくないのだとも見える。若干刺々しいし。

 家に入ると、真ん中に囲炉裏と呼ばれるもの。その周りに四つの座布団が敷かれて端に布団がたたまれている。そしてその横に棚。殺風景だと言えばそうだ。でも、一人暮らしでは十分すぎる。

 キッチンやトイレは何処なんだろう。……ん? あ、あそこの扉かな? ていうかこの囲炉裏? ってなんなんだろう。

 現代っ子の俺には理解出来ない代物だ。

 向かい合うように座布団に座る。飲み物を出してからポツポツと語りだした。

 なんでも、藤原さん――言い忘れていたが、博麗さん、霧雨さんは友達のような関係で、八雲さん、八意さん、蓬莱山さんの三人は嫁らしい。他にもいるらしいが――も嫁の一人であり、捨てられた後に、この男。神楽に拾われ、一緒に過ごしたらしい。そして不老不死。これには驚いたけど、あの藤原不比等の娘なら頷ける。生きてる訳がないからな。

 そして、その際またひと悶着あったらしいけども。

 ふーん。なんも思わないしなにも思い出さないんだけど。これ聞いてなにかあるのか? いや、なんか引っ掛かるものはあるけれど、あるだけでどうしようもないんだよなぁ。なにか切っ掛けがあれば思い出せそうではある。

 事件では、学校の先生が操られていた。その人の家に遊びに行った時、たまたまいて、襲い掛かってきたからなんとか気絶させたらしい。

 んー。思い出すのか? でも思い出したら俺はどうなるの? 毎回思ってるけどさ。なんかさ。話を聞いててなんなんだけど。どうでもいい。興味ないんだけど。無理矢理聞かされて、思い出せると思ってるのか? ていうか、ぶっちゃけると俺、記憶喪失ではないと思うんだよね。多分。うーん。言ってみるか。

「藤原さん。俺、記憶喪失じゃない気がするんですよね」

 空気が凍る。藤原さんが怪訝そうに聞いてくる。

「は? どういうことだ?」

「いや、確かに名前を聞いたときは、そんな名前だった気がする。って思いましたけど」

 一旦止め、かわいた口を飲み物で潤す。なんの変哲もない水だ。

「話を聞いてて、どうでもいいし、興味ないんですよね。それに他人事だし。記憶喪失って、何らかを聞いたり、みたりすると、多少なりとも思い出したりなんか違和感あったりするみたいなんですよ。俺は一般知識があるし、外はどんなのかはわかります。勿論今はわかりませんし、二千十四年までになりますけど」

 水を飲み干す。溜め息を吐いて続ける。

「確信はないけれど、例えるならば『一般知識がある魂が、この体にとり憑いた』みたいな感覚」

 よくわからんがそんな気がする。いま思えば、あのフラッシュバックは、もしかしたらこの意識の奥深くに眠る神楽の記憶なのかもしれない。やべ、聡明だわ。なんか刑事や探偵みたい。かっくいい。あれ? そうなると本格的に俺やばくない? やばくなくなくない? まあ、なんとかなるでしょ。

 唖然と、呆然とする藤原さん。辺りを沈黙が制する。

「お前なんで早く言わなかった!?」

 怒鳴る。心なしか、部屋が暑く感じる。それに、藤原さんが揺らめいている。

「いや、今感じましたし。しかも確信はないですよ? もしかしたらの話ですし」

 どうどう。と、窘める。藤原さんは女性らしからぬ、荒々しい舌打ちをして、あからさまに不機嫌だ。

 わーこわーい。しかし暑い。なんだこれ。

 服をぱたぱたと扇いで涼を確保する。その様を見て、藤原さんは何故か謝った。

「紫ー!」

 いきなり叫ぶ藤原さん。一瞬ビクッとしてしまったが、ばれていないようで安心する。俺の背後から低く、大人を感じさせる声がする。後ろを見ると、やはり八雲さんだった。

 いきなりどこから現れた? いや、なにも言うまい。なにかの能力と呼ばれるものだろ。こんな胡散臭い人だ。きっとなにかある。それも特大のが。世間(幻想郷)知らずの高枕。知らぬが仏だ。

 癖なのか、扇子で顔の半分を隠している八雲さん。

「意識の底に神楽がいるのね」

 獲物を漸く見つけた猛獣のように目を妖しく光らす。

 あれ、なにか危ない気がする。気のせいだったらいいなー。

 そんな思いを嘲笑うかの如く、俺を拘束する。拘束といっても、なにもないのに、何故か体が動かないのだ。

 ですよね。知ってた。こんな時でも俺は冷静。これはとくこうに補正がつきますわ。しかし、まったく動かないな。はぁ。これからどうなるんだろう。

 俺を見下すように見る八雲さん。藤原さんも何処と無く俺を睨んでいる。

ほせい あー、死にたくないなぁ。消えたくないなぁ。

 眠くなってきた。もう、いいや。寝たら楽になれるよね。


 俺は永遠の闇に囚われていた。

 最後の記憶は紫を倒して、起きた後に俺が気絶したこと。あれから何時間経ったか。何週間か。はたまた何年か。わからない。ここでは能力もなければ霊妖魔力もない。空腹や五感も失われているように感じる。真っ暗で、動いてる感覚も、嗅覚も、視覚も、聴覚もない。ただただ闇。匂いも、音もない。何度か既に発狂したこともあった。

 何もかもが嬉しく、愉しい。笑いが込み上げてくるのだ。闇が面白い。音がないことも楽しい。匂いがないこともうれしい。

 今は至って正常。多分だが。それに、時々声が聞こえる。

 ひろがりんぐ。だとか。ついさっきは、知らぬが仏。とか言っていた。この闇に慣れてくると、次第に優しく包んでくれてるようにも感じた。ルーミアを連想させるからだろう。ああ、やっと異変が終わって、黒幕を殺りたいのに、何故こんな所にいるんだ。今すぐ拷問してやりたい。

 そういえば、こんなところにいるんだ。自ずと時間には余裕が出てくる。少しあの薬の副作用について考えてみた。

 まず、激しい嘔吐。これは成分やらなんやらを体から出す為のことだろう。

 次に、目眩。これは知らん。

 他に、残虐性や、加虐性を増す。というものもあると思う。今がそうだ。早く黒幕を苦しめたいと思っている。前は一瞬で殺る位の生優しさはあったはず。しかし――おっと。ここに来ていつぶりだろうか。光が見える。

 俺は上手く動かせてるかわからないが、歩く。どんどんと近づくその光に歓喜しながら、走る。

 ついに光に包まれる。これで戻れる。と、思っていたが、そこは真っ白の空間だった。左右上下。どこを見回しても白。いつかの神を思い出す。懐かしさと眩しさに目を細めていると、人魂が現れた。

 ――おっと、ここは……、どこってあんただれ。

 キィィャァァ!! 喋ったぁぁ!! なんて驚いたりはしない。オーバーすぎだろ。しかし、無視するのもなんだ。

「未知 神楽だ。お前は?」

 ――おー! あんたが神楽か!! 俺? 俺は……、わからん。

「わからん。とは?」

 ――俺、気付いた時には半壊した江戸町にいたんだよね。赤い星のついた角の女性を止血させて、探索してたら眠ってしまったんだよね。

 ん? それは……、勇儀のことか。あの布を巻いていたのはこいつのおかげか。

「ほう、礼を言おう。ありがとう」

 礼を言おうと思ってたからな。言わねばならんだろう。しかし、どういうことだ?

 ――……。おう。あんた、記憶喪失だとか言われてたぜ。八意さんが薬を服用する度に生気をなくし、記憶をうんたら。って言ってた。俺の見立てで言うが、多分、あんたは幾度なる薬の副作用で心が壊れそうになるところを、本能的に意識の底に眠る事で、守ったんだろう。それの代わりなのかは知らないけれど、その間は俺があんたの体を動かしていた。

 むう。そういうことがあったのか。色んな人に迷惑をかけてしまったな。謝らなければ。

「そんなことが……。すまない。それと、ありがとう」

 ――別に。八雲さんがあんたを起こすようになにかしてる筈だ。これで俺はお役御免。グッバイサイナラ。オタッシャデー! ってやつだ。

「なあ、お前、俺の中で生きていかないか? お前、もっと生きたいだろう。俺も神様の不慮の事故で昔死んだんだ。でもさ、神が生き返らせてくれたんだ。ここに」

 ――なんだよそれ。神様転生かよ。小説で見たぞ。燃えるな。……。あー、そんなことが出来たらいいな。いや。お願いだ。まだ生きていたい。生きて、幻想郷を、見たい。

「わかった。一段落したら、幻想郷を見てまわってやるよ。よし、俺に飛び込め」

 多分だが、この人魂は俺の体に入ると、二重人格として生きる筈だ。今の俺は霊体のような存在の筈。それなら、確証はないが、行動あるのみ。

 ――え、そんなんで良いの? うっそだー! そんなんで取り込めたら苦労しないからね。で、でも、行くぞ……? 本当に行くぞ? いいんだな?

「早くこいよ。なにちんたらしてんだ」

 ――お、おりゃーー!!

 人魂が俺に飛び込み、一層俺は光に包まれる。そして確信した。これが正解だったんだと。

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