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東方極限想  作者: みょんみょん打破
新たな異変
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最後の戦い






「あらあら、物騒ねぇ」

 妖艶な低く、胡散臭い声。それは俺達の目の前から。周りを見回していたのを、急いで前に視線を移す。

 ――紫……!

 スキマの上に座り、すらりと伸びた足を組んで、扇子を開き、目を細め、口元を隠している。この格好の紫を久し振りに見た。

 俺と話している時には絶対にしない。それは敵意。威圧。警戒。

 しかし、操られてる者とは圧倒的に違う部分がある。それは『目が輝いていない』のと『喋っている』事。今まで操られている者にはなかった。

 俺も警戒しながら、問い掛ける。

「紫。無事だったのか?」

「ええ」

「何故今まで幻想郷を放っておいた?」

「私も色々あったのよ。今までごめんなさいね。神楽」

 何回かのやり取り。相変わらずこの場所には物々しい雰囲気があり、俺達の間には警戒が消えない。

 全員が武器を手放さない。それは何故か。紫が何時もとは違うからだ。こう言うのもなんだが、紫は何があっても幻想郷、嫁達、それに俺を一番に考えてくれる。それを放っておいてまでの事とは何か。それに今の紫から感じるこの雰囲気は何か。操られてるのか、操られていないのか。疑心暗鬼になる。殺ろうと思えばすぐにでも殺れる筈。相手はスキマ妖怪。あらゆる境界を操る事が出来るのだ。

 判断材料が足らない。何故目が輝いてない? 何故喋っている? ひょっとすると操られていないのか?

「ちょっと……! 神楽……!」

 後ろから小さい声がする。霊夢だ。お祓い棒の先端で俺をつついてきている。

 思考に集中していたようだ。いけないいけない。頭を左右に振り、礼を述べた。

 紫に向き直って単刀直入に問い掛ける。

「お前がこの異変を?」

「そうねぇ。もう死ぬだろうし、冥土の土産に話してあげるわ。私が全ての妖怪を操ったのよ。一番厄介な貴方を殺すようにね」

 ――なっ……!? もう死ぬ……!? それに、俺を殺すようにだと……? いや、待て。じゃあなんであんなに幽香や勇儀、レミィやフラン達に個人差があった? なんであんなに表情の違いが? 一人一人に感じた違いは何だ?

 目線が右往左往する。焦り、動悸が激しくなる。 

 それに、考えてみるともっとおかしい。俺を殺すように操ったならば、何故俺の所に来ないのか。

 向かってきた者を殺す。これは自然だ。俺だけを殺そうとするなら、霊夢達には見向きもしないだろう。そういえば、異変直後はルーミアとレミィ、美鈴、咲夜は襲ってきていた。だが、その後は悠長に館で待っていた。他の原作メンバーは活動場所から動かなかったな。もしかして――――完全に操りきれていなかった?

 それなら納得もいく。人間や霊系統。神は操っていなかったし、俺を殺すようにインプットされたように動いていたのも小、中妖怪や妖精達だけだった。最強クラスや大妖怪はその場で待っていたし、何らかの表情を浮かばせ、何らかの意図が見える動きだった。

 逆に小、中妖怪や妖精はロボットのようにただ淡々と俺を殺そうと危害を加えてきた。

「そうか。じゃあ、何故人間や神を操らなかった?」

「それはせめてもの慈悲よ」

 慈悲? なにが慈悲だ。

 あくまで平淡に、口元を隠し、言う。

「貴方が人間と共に強大な妖怪達を打ち破り、最後に私の所に来る。と確信していたの。まあ、殺られていたらそれまで」

 だがそれになんの意味がある? ……嘘か? 殺そうとするならば、早く殺せるに越した事はない。

 構えを解いた。

「最後に一つ。なんで俺を殺そうと?」

 これが一番の疑問だ。そもそも俺を殺そうとするのは何故か。 これで操られてるかが分かるだろう。

「命を授かったからよ」

 ――!? これで確定した。寧ろそれ言ったら気づかない奴は居ないだろうに。

「紫……。お前は……、何かに操られてるな? いや――――『洗脳されてる』と言った方がいい」

 息をのむ音が聞こえる。

 紫は洗脳されてると断言してもいい。そう言うのも、矛盾やらがたくさんある。

 一つ目、何故妖怪だけを操ったのか。俺を殺すなら幻想郷全員を操ればいい。それに紫なら一瞬で殺せるし、全員を俺の所に向かわせたら俺だってお陀仏。

 それをしなかった。いや『出来なかった』そこまでの力がなかったんだ。最強クラス達なら、紫も完全に操る事は出来まい。だから幽香や勇儀達は少しの感情と表情があった。それに、何より、勇儀と天魔は傷だらけだった。これが一番大きい。

 幽香と文なんかは放出をくらっても怪我なんかしなかった筈。だがあの二人は怪我をした。いや、勇儀の場合は断定ではないか。腕折ったからな。

 二つ目。慈悲と言ったが、恐らくあれも嘘。

 そう思うのも、殺すのに慈悲なんているか? おかしいだろ。今の俺なら全員操ってあらゆる方法で確実に殺す。神は妖怪の天敵でもある。

 それを操らなかったのは慈悲ではなく、ただ単純に力不足なだけだ。妖怪は神を操れない。

 三つ目。俺を殺すのは命を授かったから。

 そもそも誰の命だよ。紫程の妖怪が敬意をもつなんてちゃんちゃら可笑しい。出せばまだあるが、こいつは俺の嫁ではない。

 数分とも感じれる沈黙。

「…………。なにを言ってるのかしら」

 更に目を細めた紫の視線が俺を射抜く。今までのとは違う圧倒的なまでの威圧感は、冷や汗、胃が熱くなり、背筋が凍って、戦慄させる。

 それを押し退けるように、右手に持ったジュワユーズを力いっぱい握りしめた。ギリギリと痛むが、恐怖を取り除くにはちょうどいい。ありがとう。いい痛みです。

「お前がそんなに尊敬する奴がいるとはこれまた奇怪。恐ろしいな。一目見てやりたいよ。そして殺したい。もういい。やる事殺ろうぜ」

 構える。そういえば、さっきから静かだが、霊夢達は――――。

 後ろを振り向くと、誰もいなかった。やられた。もっと早く気づくべきだった。恐らく、俺が悠長と、長々と考え込んでいた時だろう。なにが『洗脳されてると断言してもいい』だ。そんなこと考えてる暇なかったろうに。しかし、後悔しても今更すぎる。

 一人で戦うことは想定していたんだ、やるしかない。しかし、霊夢達は大丈夫か? どうか勝ってくれ。いや、時間稼ぎするか。勝てないとわかってる相手に突っ込む程愚かではない。藍達が勝ったなら薬。霊夢達が勝ったならば僥倖。

 紫が扇子とは別の手を掲げるように挙げる。紫の横から一つのスキマが開く。

 足に力を入れて、避けれるようにしておく。

 開いたスキマから、何かの光が窺える。それは何かの『ライト』のようで――――て、これ電車!!

 スキマから出てきたのは恐るべき轟音と速さで走る外の乗り物。電車だった。四角いそれは猛然と迫って、俺を襲う。スキマから出る前に気付いた俺は、横に跳び、間一髪で躱した。

 受け身をとり、立ち上がると、頭上から何か重々しい物を感じる。更に転がり込んだ。すると、いまさっきいた場所から、重い岩の落下した音。見ると、要石だった。あれに潰されたらと思うと肝が冷える。

 ジュワユーズを投げつけ、腰の霊力銃をぬく。残念ながら、そのジュワユーズはスキマに入っていったが。横に走りながら、銃を連射。そのついでに五本の指、それぞれに霊妖魔力を溜める。少ないとはいえ、五つも溜めるとやはり辛い物がある。

 飛んでいった霊力弾も、やはりスキマに吸い込まれる。

 一瞬で足に力をいれ、地を蹴り、紫に向かって妖力の小さい塊を爪のように操作して、伸ばす。

 扇子で口元を隠しているが、少し虚をつかれたのか、細めていた目が少し開く。が、すぐに戻し、俺の前にスキマを開いた。俺をそのままスキマにいれようとしてるらしい。

 そうはいかんざき。そう言いたくなるが、我慢して、その場でスキマを避けるように回り込み、スキマの後ろで優雅に座っている紫に飛び付き、腕を振るう。むらさきの爪は、唸っていた。その様は紫電にも見える。

 一瞬遅れ、体を後ろに倒す。しかし、俺の爪は、紫の扇子を三等分にわけた。そして、紫は扇子を離し、スキマの中に籠った。

『まさか、ここまで強くなったのね。私と同等だなんて』

 どこからともなく紫の声がする。それは窓もない倉庫らしきこの場所では、拡声器を使っているようによく響いた。しかし、紫の艶やかな声は損なわれていない。

 何が同等だ。合わせているだけだろ。

「紫はか弱い少女だからな」

 目線を巡らせながらの皮肉。

『そうよ。か弱いから動けないわ。扇子より重いものは持てないのよ』

 戯言をほざくなっつーの。

 くそ、霊夢達、早くきてくれ。このままだと確実に死ぬ。相手が油断している今しかないんだ……。

 今薬を飲んでもいい。しかし、霊夢達が勝てる保障は何処にもない。もし紫を倒して、薬の効果がきれた後に藍達が来てしまったらお仕舞いだ。

 ここは時間稼ぎだ。

「何を言う。前に俺を抱き上げたじゃないか」

『あれは能力を使ったのよ。能力を使っていない私は外で言う、女子高生のようなものよ』

 ははは。笑える冗談で。お前のような大人の魅力たっぷりの女子高生がいてたまるか。

 最後まで魅力たっぷりだもん。だよ。

 しかし、本当によそよそしい。まるで知り合いと話しているようにつかめなく、今の紫は胡散臭い。

『さて、時間稼ぎはもう良いでしょう?』

「……なんの事だ? 俺は久し振りに会ったお前と話しを――――」

『いい加減にして。貴方の思惑はわかってるわ。薬を飲みたいけど、霊夢達が負けた事を考えるとリスクが大きいから必死に時間稼ぎしているんでしょう?』

 ばれてた。流石紫だ。俺の思考を熟知している。お前覚り妖怪だろう。と、言いたい。

 僅かに怒気を含んだ声は、引いていた汗を呼び戻す。それは冷たく、大粒のさらりとした汗。

『さて、藍とルーミアはやられたみたいだし。流石あの四人ね。人間とは思えないわ。貴方の思惑はこれで完了。さ、どうするのかしら?』

 本当か? どうにも信じられない。真偽がわからんな……。しかし、嘘を吐くメリットが紫にはないか。多分。んむ。やるか? だが、この余裕。なにかあるな。まだ様子を見ておこう。

「勝ったのか。良かったよ。これで後はお前だけかな?」

『そうね――』

「薬を飲むまで待ってあげるわよ」

 真後ろから声がした。

 どうしようか。飲むか? 相手方は待ってくれるみたいだし、お言葉に甘えるかね。さっさと終わらしたいし。

 倒して、吐き気が無くなれば、後は紫を洗脳した奴を倒す。これで終わりだな。

 いや、あと一つだけ。

「紫。お前を倒せば寝たっきりの妖怪や人間達は無事に起きるのか」

 そう、これだ。紫が操り、俺達が気絶させた女の子達は。あとついでに霖助。これらが起きるのかが気になる。起きるなら薬を使おう。

「起きるわよ。保障するわ。早く終わらしましょう」

 スキマから落ちて、両腕を広げる。その片手には新しい扇子が握られていた。

 ボックスを開き、薬を取り出す。これで最後だ。戦いもこれで最後。きっとな。確実に倒す。遊んでいる時間はない。肝に命じておこう。

 しかし、これを飲むと自分が自分で無くなるようなんだよな。加虐、破壊の限りを尽くしそうで怖い。

 まあいい。飲むしか選択肢はないんだ。

 ボックスからペットボトルに入った水を取り出す。キャップを回し、薬を口に含んで、水を飲み込む。

 溜め息を吐き、水をボックスにしまって、両腕をだらりと下げた。

「終わらそうぜ。この最悪で――――」

 紫がギラリと殺意の目を向けた。「最高の異変を!!」

 火蓋は切られた。     

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