寂れた最後の楽園、幻想郷
「どうしたの――――その顔!」
沈んだ面持ちでそう問い掛けてきた。
皆が俺を見ている。何か顔についているのか? そう考え、顔に触れる。が、やはりわからない。あ、少し痩せたか? なんて場違いな事に気付く。
「な、なんだよ。早く言えよ」
少し聞くのに躊躇うが、口ごもりながら聞いた。
霊夢が憂いを含んだ顔で零す。
「神楽さん……、今にも死にそうな顔をしてるわよ……?」
どういう事だろうか。死にそうな顔? 死相か?
四人を見てどういう事か、ちゃんと話を聞く。
どうにも、俺の頬が痩せこけて、目が死んでるようだ。なんか光がないらしい。悲壮感やらが伴って、今にも死にそうだ。と。失礼な。訴訟も辞さない。まことに遺憾。
これは多分、十中八九『あれ』の副作用でもあると思う。別にそれだけなら大丈夫だろうに、何をそんなに。
それを言うと、妹紅に怒られた。
今は居間にいる。駄洒落ではない。凍りついた気がするが断じてない。
「ああ、そう言えば結構倒してくれてたんだな」
俺、妹紅、霊夢、魔理沙、聖がソファーに座って、俺が霊夢と魔理沙を見ながら声をかけて、礼を述べる。
それぞれ魔理沙は帽子を外した頭を掻いた。
「別に……、私だけ待ってる訳にはいかないし……」
視線を斜め下に移して言った。
霊夢はお祓い棒の紙垂の調子をみるように、軽く振る。
「その中でも特に萃香は強敵だったわ」
次に棒を眺め、撫でた。「マミゾウも、こいしも辛かったけれど、妹紅と聖がいてくれて助かったわね」
「そうだよ! 私頑張ったんだよ!」
妹紅が身を乗り出して身ぶり手振りで俺に伝えてくる。
妹紅は強い。なんてったって俺や鬼や嫁達が鍛えたんだからな。霊力でも肉弾戦でもばっちこい。ってやつだ。流石妹紅。凄いぞ妹紅!
「あらあら。そうねぇ、頑張ったわね」
頬に手を当て、ゆったりと、母性溢れるこの女性は聖 白蓮。魔界に封印されていた女性だ。
元々は伝説の僧侶『聖 命蓮』の姉だ。弟から法力を学んだ。命蓮の死に、嘆き悲しみ、それがトラウマになって死を極端に恐れるようになった。まあ、妖力、魔力の類いの力で、若返りや不老長寿をてにいれたのだと。
髪は長い金髪に紫のグラデーションがはいって、金の瞳。服は白と黒のゴスロリっぽいドレス。マント。黒のブーツだ。
武器。といって良いかは知らないが、魔人経巻というものを使っている。これは、法界といわれる場所に封印されている時に自作したのだと。器用だ。
聖は身体強化を主に扱う。確かにこの四人ならバランスが凄く良いだろう。遠中近、バランスよく戦える。…………。もうお前達だけで良いだろ!! おい!! なんで俺がここまでボロボロになってるんだ!!
なんてことは言わない。少しは思ってるがな。第一、幻想郷は俺達の最後の楽園だ。そんな所の窮地を俺が黙っていられるわけないよな。男だし。女の子達が頑張ってるのに……、ダラダラ出来ないよな。
「本当によくやってくれた。ありがとう」
改めて礼を言った。「俺は地底に行って、地底を一掃してきた。勇儀にはやはり勝てなかったが、永琳のドーピングを使って勝った。副作用には悩まされたが、吐き気以外は問題なかった」
霊夢がお祓い棒を膝に置き「薬? 大丈夫なの?」と怪訝そうに聞いてくる。
「そうだぜ、本当に副作用はそれしかなかったのか?」
「私は永琳から、副作用は『凄くきついもの』だって聞いたけど……」
腕を組み、目を瞑りながらそう告げる。
「それなら私を呼んで下されば行きましたのに……」
最後に聖。豊満な胸に両手を組ませ、囁くように言った。
「それは……、そうか。それがあったな」
頼めば良かったんだ。盲点だった。でももう脅威は限られてるし……。バラバラのほうが効率よくないか? これ前にもなんか考えた気がする。まあ、それは置いといてだ。これからどうしようか。あとはルーミアと藍、紫、その他多数か。
「障害になりうる人物は、ルーミア、紫、藍、幽々子位か?」
ある意味、幽々子は勇儀より危険だ。一瞬で殺される。妖夢はまだ楽に倒せるだろうな。妖忌? 勝てない。あいつはおかしい。しかし、幽々子をどう倒そうか……。霊夢達は一瞬で殺されるぞ。俺と聖ならなんと――――。
「あ、幽々子達なら無事だったわよ」
……ん? 今なんと? 無事?
「え? 無事とは?」
思わず二度見してしまった。若干の恥ずかしさが隠しきれてなさそうだが、放っておいて、聞き直す。
何を言ってるんだ? とでも言うように、首を傾げた。
「え? 無事よ? 操られてないの。他には妖夢、廃洋館なんかも無事だったわ」
「あと厄神と秋姉妹も無事だったぜ」
「それと小野塚小町って死神と比那名居天子って天人も無事だったよね?」
霊夢と魔理沙、妹紅が教えてくれた。
なるほど、それなら霊系統、神達、あとは仙人? は無事って事か。なら未だにわからんが、何故、パチェ、咲夜は操られていたのか。
それを聞いてみると、聖が分析した事を話してくれた。
どうにも、聖が言うには、操られている者から何らかの方法で感染? するらしい。その際呪文らしきものを唱えるのだと。それを聖達が豊聡耳神子の所に言って、話を聞いたらしい。
物部布都は元々操られておらず、マミゾウに組つかれ、少しした後に、同じように目を輝かせ、操られた。と神子から聞いたらしいな。
うむ、それを仮定するならば、辻褄はあうな。
「ほう、そうだったのか。すっきりしたよ、ありがとう」
嘆息。
「本当、やっとここまで来たって感じがするわ」
やれやれ。といった風に、左右に手を軽く広げ、首を横に振った。
座りながら話をするなか、俺は一人でに思考を巡らせる。
流石に吸血鬼二人がいる館で人間が対抗出来ないだろう。
咲夜ならレミィ達に攻撃出来ないからと言いそうだし。でも能力で助けを呼ぶのなんか容易だろうに。それをしなかったのは何故だろうか。
まあいい。幽々子と戦わなくて良いことを喜ぼう。よっし!! やった!! 戦わなくて良いぞ!! …………。ふぅ。うん。疲れた。いや、そうじゃない。
これで実質紫とルーミア、藍だけになったな。後は残党狩り。三人は一人だけでも相当な戦力だ。しかし、どうしたら会えるんだ? もうほぼ倒したぞ?
「神楽? どうしたの?」
いつもの癖をして考え込んでいたようだ。目を開き、声がした方を見る。妹紅だ。全員俺をじっと見ていた。なにこれ、恥ずかしい。
頭を掻いて、疑問を口に出す。
「いや、すまんな。後はルーミア、紫、藍だけだろ? どこで会えるんだろうと思ってさ」
一斉に黙す。
俺と同じく霊夢が腕を組む。
「そう言えば考えてなかったわ……」
また口を閉ざす。十秒ほど経った。
「まあ、何処かにあるんじゃないかしら?」
酷く楽観的だが、霊夢が沈黙を破る。
まあ、そうだろう。ずっとこのまま。なんてことは流石にないだろうし。あってほしくない。お願いします。
しっかし、それなら色んな所を回る必要がある。面倒だな……。
「そうだな。俺も残党狩り及び、色んな所を回ってスキマを探してみるよ。引き続き、君達も頼むよ。何かあればここで落ち合おう」
泊まりたい人は自由にしてくれ。そう締めくくった。
結局泊まるのは妹紅だけらしい。
弁当を食べて寝る。
起きて妹紅と別れ、幻想郷を回る。今では人間と神、霊系統しか居なくなった幻想郷は、かくも寂しく、静かだ。
霧の湖。紅魔館。妖怪の山に玄武の沢。
暗くなったので帰って寝る。
起きて大蝦蟇の池、太陽の畑に無名の丘。中有の道に三途の河。暗くなり帰り寝る。
起きて――――。
それを繰り返しちょうど一週間後。帰ったら、霊夢が城にいた。
「ごめんなさい!!」
いきなり頭を下げて謝る霊夢。
聞いた話では、霊夢と魔理沙は魔法の森をくまなく探し、妹紅は人里と迷いの竹林。聖はなにか適当に探していたらしい。今日の昼、神社をみていない。と思い出し、まああるわけないか。等とのたまいながらも探したのだと。
そしたら、なんと、神社の裏にあったらしい。スキマが。ふざけるなと。もうね、お前は馬鹿かと。今までのはなんだったんだと。少し怒ってしまった俺は悪くないと思う。
だけど、なんか凄い申し訳ない顔をするんだ。そして、謝るんだ。言い訳しないんだ。なんかね、俺が悪者みたいでさ。アハハ。うん。逆に謝っちゃったよね。
もう、悪いことしてないけど罪悪感がいっぱいでさ。
いや、どうでもいい。しかし、スキマか。操られてると思って良さそうだな。心してかかろう。しかし、今日は良いだろう。もう暗いぞ。明日、皆を集めて入ろう。
翌朝。霊夢の神社に四人集まった。
守矢、永遠亭の娘と嫁達には待機してもらってる。いま神社にいるのは、俺、霊夢、魔理沙、妹紅、聖。この前と変わらない。
しかし、現状では明らかな最強メンバー。
恐らく、ルーミアもこの中にいるはず。居なかったらおかしい。しかし、多分、五対三にはならないはず。分断してくるだろう。最悪、そうなっても、このメンバーなら大抵は対処できる……、と、思う。腰に刃が引かれたジュワユーズ、二対の拳銃を差し、霊夢はお祓い棒と札。魔理沙は箒と八卦炉。妹紅は素手。聖はエア巻物。エア巻物とは、自作した巻物だ。
両端のリボン。禍々しい目玉の数々。
慎重に入る。相手の本拠地なんだ。入って即ギロチンなんてのも……。
予想とは正反対に、出た先はだだっ広物々しい空間。何だろうか。床は硬い何か。カツカツと音がする。光はある。だが、何か強固な倉庫みたいに見える。物は何もない。者はいる。後ろに四人だ。全員で見合わせ、頷いて、構える。
「あらあら、物騒ねぇ」