妖怪の山、天狗を駆逐
朝。準備運動やら、軽く食事やら、身支度なんなりを終え、九天の滝。
水飛沫が顔に掛かって鬱陶しい。
そして寒い。今はいつもの武装だ。腰に二対の銃。ジュワユーズ。
しかし、一人の少女が九天の滝を眺めていた。
白髪、犬耳に哨戒天狗の服装。左手に紅葉が描かれた丸い盾、右手に大きな剣。
犬走 椛。
椛は哨戒天狗の中でも結構強かったりする。しかし、時間なんてかけられない。
少し遠くから狙撃する。衝撃がして、打ち抜く。倒れる椛。
口笛を吹いた。
「よし。流石だ」
自画自賛。
手前味噌。
手前勝手ですが、お味噌、お裾分けです。ってか。いや、訳が分からないです。
それなら、手前勝手ですが、銃弾、プレゼントです。だろ。
本当に手前勝手だな。迷惑極まりない。手に負えんわ。
何を言っているのだろうか。いや、言ってはいないが。こんな独り言していたら操られてる奴にも『お前は何を言っている』と変な顔される。
椛に近づき、ボックスに寝かせる。 道中の敵はマシンガンで落としていく。
マシンガンで伝わる衝撃に高揚しながら、蹴散らしていく。
すると、何故か俺は落ちていた。なにがあったかは俺も知らない。ただただ頭が痛い。かち割れそうなほどに。
なんだ? 頭の中で反芻させ、霊力を操作して、浮く。上を一瞥する。
そこには、文がいた。
――そうか。俺は知らないうちに攻撃をされていたんだな。
もっと詳しく説明するなら――恐らくだが――俺がマシンガンを撃っている最中、どこからか、音速やら光速で、俺を殴るか何かをする。それで俺が落ちた。
簡潔?
まあ、そんな感じだろう。しかし、どう対処しようか。見えるなら良いんだが……。
文を見上げた。
ほう、黒か。いやいや。違う違う。そうじゃない。
見上げた先はスカートの中。頭を左右に振り、邪念を滝の水に流して、再び文を見上げる。視線がぶつかった。
無表情で見下し、葉団扇を後ろに向け、軽く振る。その直後、視界が回る。
また攻撃されたみたいだ。
遅れて感じる頬の激痛。
皆は勘違いするが、文は最強クラスの妖怪だ。下手をすれば、幽香ですら負ける。速さ=強さ。でもあるのだ。恐ろしい。
速さを乗せた一撃。これはどれ程の物か。それは俺の体に表れるだろう。
血を吐き捨て、睨む。が、しかし、再三攻撃を受けてしまった。また落ちた俺。視界に水が激しく飛び散ったのが見え、そのあと、呼吸が出来なくなる。急いで息を止めた。少し水を飲んでしまい、ついでとばかりに鼻の中に入ってしまった。鼻の奥が痛む。それは慣れない痛みだ。
水の中から、文らしき人影が窺える。
霊力合わせた三種類の力を開放。水流が変わる。俺を中心に回り始めた。上からはどう見えているだろうか。そんなこと、今はどうでもいいな。
手のひらに三種類の力を溜める。霊力が青を彩り、妖力が赤を混ぜる。魔力が紫にした。
紫の霊妖魔力を片手で放出。眩い程の光量と、紫の色が視界に悪影響を及ぼす。それは水を纏い、文らしき人影を襲う。霊妖魔力放出の最後に見えたものは、水を別け、背中から放出を受けて、吹っ飛んだ文の姿だった。
そして撃ったは良いが、あまりの強さに、反動を受けて水底の岩に腰をぶつけた。肺の空気が強制的に出され、複数の泡が、淡くも割れながら、海の空へと登っていった。
急ぎ、泳いで水面まで行く。目眩と息の限界を感じながら。
やっとこさ空気に触れられた俺は、ここぞとばかりに息を吸い、肺に溜める。何回か深呼吸して、咳き込みながらも落ち着かせた。
改めて飛ぶ。水を吸いとった服が気持ち悪い。
水滴を垂らしながら、肌にまとわりつく服。それに顔をしかめながら、岩陰に向かう。
左右上下、全てを、事細かに一瞥して、誰も居ないことを確認してから、服とタオルを創造し、拭いてから着替えた。
勿論。上から順に、一枚づつ脱いでだ。全裸になんてなれないからな。
黒い動きやすいセーターにジーンズ。
秋で少しだけ寒いからな。これくらいでちょうどいいだろう。もう天魔位しか強いのはいないし。
着替えが終わった俺は、文を探しに行く。どこかに飛んでいったと思うし。
しかし、検討外れ。文は水の上に、ぷかぷかと浮いていた。回収して、ボックスに入れ、寝かせた。着替えさせたいが、そんな暇はない。まあ、妖怪だし、これくらいで風邪は引かんだろう。
なにより、多分俺がもたない。うむ。
滝を越え、何故か少ない天狗を蹴散らし、天狗の里に着く。
里に降り立ち、初めて気付いた。
――嗚呼、そうか。ここに居たんだな。
複数……。いや、何十もの視線に。なにも感じないが、強いて言うなら、殺気の混じった視線だ。
家から、道から、木から。あらゆるところから、ざっと、四十以上の天狗に囲まれた。白浪。鴉。等々。それぞれ刀、剣を持っている。
さて、やるか。
戦いのゴングは鳴らない。
しかし、俺が動いた時、それが合図だ。
ジュワユーズを二対創造して、構える。そして、翔た。
真っ直ぐ突っ切って、叩き付ける。一人吹っ飛び、家に激突。
左右に並ぶ天狗達を流し目して、横の天狗にジュワユーズを投げる。当たったかは知らないが、無視。着いてくる天狗達を確認して、走る。その先には一軒の家。壁を伝って走り、腰の二対を引き抜いて、下を見ずに撃つ。
多いだけに、邪魔しあって、適当に撃っても投げても当たるのだ。
屋根に足をつけて、振り向き、マシンガンを創造して、構え、天狗が来るのを見計らい、撃つ。連続した衝撃が心を踊らせ、アドレナリンを分泌させる。
続々と倒れる天狗。十人倒した所で尽きた。舌打ちして、屋根を飛び降りる。
受け身をして、走り、広場に向かう。
死神の武器。鎌を創造して、体を踊らせるように、回転して、振り回す。
刃は引いてるので、斬れないが、相手を巻き込み、吹き飛ばす。体を回しながら飛んだ天狗は他の天狗をクッションにして、家にぶつかる。
何回か当てた後、柄が割れ、使い物にならなくなった。即座に捨てて、トンファーを創造。
殴り、撲り、蹴る。
無双。
トンファーも耐久が無くなり、折れて、捨てて、ジュワユーズを創造。右手に持ち、妖力銃を手に掛けた。
一瞬の隙を突き、天狗が切りかかる。それを紙一重に躱し、カウンターに、腹に向かってぶっ叩く。
離れたところにいる天狗は撃ち抜き、近くは叩く。
それを何度か繰り返し、あと数人になったところで、ジュワユーズを一人に投げ、速射で落とす。
――あー疲れた。やっと終わりか。あとは、天魔だけだな。
溜め息を吐いて、辺りを見回す。
家の壁をぶち破られていたり、道端や広場にはおびただしい程の倒れた天狗。屋根で倒れたり、俺が伝った壁には足跡があったり。
これ、俺はしらね。不可抗力だ。無罪だ。うむ。
正当化して、結構減った霊力等、三種類の力を回復させるために、城に戻る。
恐らく、天魔は家に居る。何故かあれだけ暴れてもでなかった。操られたまま、いつも通り椅子に座って待っているか。だな。
なるべく戦いたくないな……、あいつとは戦ってもいないし能力も知らない。武器も知らないしどんな戦い方をするのかも全くわからない。
ん? 逆になんで全員気絶させているんだろうか。そんなことする必要あるのか?
戻って料理をしながら、ふとした疑問が浮かび上がる。何故戦わないといけないのか。それに意味があるのか。
なんでここまでしてるんだ。
考え始めたらキリがない。
無意識の内に料理を仕上げ、盛り付ける。
紫は出ない。妖怪やらは操られている。何故か霊夢、魔理沙、聖、妹紅、人里、永遠亭、守矢、俺は無事。紫も藍も操られてるとみて良いだろう。紫なら真っ先に来るからな。藍だって式の効果でスキマを使える筈。なら操られてるで良いと思う。しかし、ここまでの手練れやらを操る事が出来る者は誰だ? この幻想郷には『居ない』と断言しても良い。
俺は幻想郷中をまわった。だがそんなやつは居なかった。
じゃあ誰? なんで俺は操られていない?
霊夢は? 魔理沙は? 妹紅は? 聖は? 人間だから操られていないなら何故に咲夜やパチェは操られていたんだ?
くそ! 全くわからん!
苛立ちが堪る。料理を運ぶ途中、割れた壷を蹴り飛ばした。けたたましい音。
歩き、自室に入り、粛々と食事をして、皿洗い。
拭き、自室に戻り、淡々と銃の手入れをして、就寝。
朝、起きて、ベッドを、整える。そのあと、服を着替え、天魔の家に向かった。
さて、勝てるかな……。いやいや、弱気になってどうする。勝たなきゃいけないんだ。結構永く生きているらしいからな。レミィ達よりも辛い戦いが強いられるだろうな。
嘆息。
里に着いた。昨日と変わらず、天狗達は寝ている。
無視して、油断をせずに、歩く。
見上げた先は他の家に比べて、大きい、一つの家。外観は和風で三階建て。中も見た目通りに広い。インターホンやらなんやらを無視して、扉を開けた。
階段を昇り、仕事部屋に向かう。慎重に扉をスライド。
覗き見して、窺う。中でソファーに座り、外を眺めている天魔を。
顔を見れないだけに、操られているのかはわからない。歯がゆい気分だ。
一思いにと、扉を勢いよく開けた。
天魔が後ろを向いた。その目は――――。