何百年ぶりの地下少女
起きた。
パチェ達はまだ起きてない。霊夢と魔理沙は話をしている。
立ち上がり挨拶を済まして、準備運動をした。
今回はどうしようか。
はっきり言って、地下はそんな広くない。三人で戦うと、狭く感じるだろう。後、ルーミアなだけあり、霊力やらを存分に使って、出し惜しみなく戦って終わらしたい。
一日でも休めば全快するんだから今回は良いだろう。
そう考えて、霊夢達に提案した。
「霊夢、魔理沙。今回は地下だ。俺だけで――」
「駄目よ!」
霊夢が遮る。
それを窘めて、「ちゃんと話を聞け。俺だけで行く。だが、お前達は、ここを探索してほしい。もしルーミアがいれば、気絶させろとは言わない。退避して俺に知らせてほしい」今回は、本気を出すからすぐ終わる。そう豪語して、説得した。
少し黙り、考え込むが、折れたようだ。
「はぁ……。わかったわ。貴方が死ぬなんて天地がひっくりかえってもあり得ないもの」
いや、普通に死ぬし。まあ、嫁がいる間は死ぬ気ないけれども。
「ああ、死にはしない。安心して探索してくれ」
そう告げて、図書館を出た。
ここからは俺一人だ。
道中は不気味な程静かで、気味が悪い程何もない。一階の何処か。封印されるようにある、重苦しい鉄の扉を開ける。
そこは地下への長い階段。窪みに燃えた蝋燭。何故消えないのかは知らないが、昔来たときと少しも変わらない。これであの、無表情メイドでもいれば、完全再現されるだろう。
一分もの間、降り、また、重々しい扉の前に着いた。
ここが終焉だとでも言うように、扉の左右に火の灯った松明が立て掛けられていた。
扉を開ける。
暗い。だが、部屋の壁に昔、俺が立て掛けた灯りがある。消えていなかった。
それを懐かしそうに目を細めて、真ん中に立って、紅い目を輝かせているフランに問い掛けた。
「なあ、フラン」
呼んでから、首を左右に振る。「いや、“フランドール”。久し振りにここに来た。前はお前が狂気に悩んでいた時だったな」
「…………」やはり機械のように無表情だ。
聞こえないのは知っている。だが、言いたい。
「あの時は今のように無表情だったよな。けれど、その中に悲しさを秘めている。俺はそれを見て、手を差しのべたいと思った。だから――――」
ジュワユーズを構えて、心に響くように叫んだ。「今のお前を見ていても助けたいと思う。だから助ける!!」
火蓋は切って落とされた。
霊力、妖力、魔力を全て出す。
ジュワユーズを横向きに投げて、二対の拳銃を連射。
それをしゃがみ、側転で避けるフランドール。
暗い。戦うには不向きだ。相手には俺が見えてるようだしな。それなら。
魔法を無詠唱で使った。《光》名前通り、ただの光。今の状況にはおあつらえ向きだ。この魔法が出来ないなら魔法の才能はない。と言われている。
明るく照らされる。壁は所々赤く彩っており、ベッドやぬいぐるみが置いてある。前に俺達が片付けてそのままだ。
よし、派手に暴れよう。それで、また、笑って片付けよう。皆で。
再び構える。フランドールも合わせるように黒い棒に炎を纏わせた。
向かい合う。俺は右手にジュワユーズ。左手に霊力銃。腰に妖力銃。フランドールは両手でレーヴァテインを持っている。
レミリアのような威圧は感じない。
冷淡で。
冷酷で。
事務的。
ただただ俺を殺す。というよりも、邪魔だから殺す。というものを感じる。レミリアとは違うなにか。
出始めにジュワユーズを投げる。レーヴァテインで弾き、壁に当たってから落ちた。
創造して本格的に戦い始める。
走り、ジュワユーズをフランドールに叩き付けた。フランドールは受け、鍔迫り合い。確実に力負けする。相手に隙を作らせる為に、相手の力を流すように、ジュワユーズを傾けた。
流された事によって、フランドールの体勢が崩れ、俺の横に来た。左手の霊力銃を撃つ。吹き飛び、壁に激突する。追い討ちにと、ジュワユーズを投げ、妖力銃を抜き、連射。
壁が割れ、その上に霊力と妖力の衝撃が上乗せされ、壁にめり込んで、動きが止まった。
――終わった……? 呆気ないな……。連れていこう。
簡単に終わった事に疑問を抱きながら。割れた壁に背中をもたれさせ、俯いているフランドールに近付く。
手の届く距離にまで近寄った所で――――
俺の胸が裂かれた。
血が舞う。壁の乾いた血の痕を、新しく俺の血で彩る。フランドールにもかかる。紅い服を違う赤に染めた。唖然もしながら、フランドールを見た。
口の端を三日月のように上げ、右手を上に振り上げていた。その爪は長く、鋭い。
やられた。
そう思う少しの時間すら許されない。右手を下げる。妙にゆっくりと見え、俺は動けない。
一瞬暗転する。が、戻った。
しかし、相手にとって、その一瞬だけで良かった。
もう下げた腕。また血。フランドールの顔を赤く。黒く。
「ア……!」
痛覚が遅れてやって来た。
無理矢理にでも後ろに跳んで、距離を取る。
胸にクロスの傷。ジュクジュクと高速で自然治癒して、治った。血を失った事で多少のふらつきを覚えるが、まだ大丈夫だ。そう自分に活をいれ、立ち上がる。
フランドールは既に立っていて、顔についた俺の血を舐めている。
好機だ。二対のジュワユーズを創造し、振り上げ、クロスするようにして叩く。
黒い棒で受けきり、前蹴りを繰り出した。まともにくらってしまい、吹き飛んだ。壁に背中から当たり、肺の空気が強制的に出され、嘔吐しそうになるが、飲み込むように我慢する。咳き込みながら急いで肺に空気をいれ、立つ。しかし、目眩を起こし、膝を床につけてしまった。
隙を逃す訳もなく、気づいた頃には目の前で拳を作り、振り抜いていた。
揺れて、口の中が鉄臭く、視界にはフランドールではなく、床と壁だけが見える。
殴られたのだ。それが発覚するときには、もう、腹部に第二の衝撃を受けた時だった。
何度も殴られては治り、蹴られては治る。
まるでサンドバッグ。
まるでストレス発散。
不甲斐ない。
霊夢達に偉そうに言った結果がこれだ。
なにがフランは力業だからだ。
なにが簡単だ。
レミリアよりもぼこぼこにされているじゃないか。
痛いなぁ……。苦しいなぁ……。悔しいなぁ。辛いなぁ。
でも。
拳やら、蹴りを受けながら、立つ。無理矢理にでも。
俺には後がない。だからこそ立つ。
でも――――
「俺のフランも戦ってるんだ!!! 負けてられるか!!」
吼える。フランの為に。
叫んだ口から血が飛ぶが、気にならない。どうでも良い。守るためにここまで来たんだ。最強と言われてきたんだ。弱音を吐けない。吐けられない――!
フランドールのラッシュを浴びながらも、ゆっくりと、拳を振り上げる。意識が朦朧としながらも、握り、力を込め、渾身の力でこめかみを撲った。
吹き飛び、頭から壁にぶち当たり、倒れる。
ふらつき、目眩がある中、歩き、フランドールの目を開き見た。
輝きはなく、愛らしい紅の瞳。
戻った。心の底から安堵した。
冷たい。
俺は床に倒れていた。
どうやら血を流しすぎたようだ。
死か……、気絶か……。
眠い。目を開けてられない……。せめて……、手を……――
「ん……」
目を開ける。本の匂い。体を起こす。
横には霊夢と魔理沙が椅子に座って、談笑している。
これは……、どうなったんだ? 何時間経った?
頭にクエスチョンマークが大量に出て、俺の思考の大方を埋める。
まあ、結局聞いたんだが。
俺が行ってから、一時間半が経って、あまりにも遅いんじゃないか。と思い、地下に来たらしい。扉の前に聞き耳を立て、戦ってるかを確認して、入った。すると、俺とフランが寝ていた。
しかし、俺とフランの手は固く繋がれていたらしい。
まあ、何はともあれ、ルーミアだけだな……。
だが、チルノ達が気になる……。何故、パチェ達も操られていたのだろうか……。いや、まだ操られてるとはっきりわかっていないが……。
霊夢と魔理沙は無事だった。推測をたてるにはあまりにも材料が少ない。ここは月の頭脳。永琳に頼ろう。紫は来ないし。
決め、迷いの竹林に三人で向かった。
道中、妖精や名も知らぬ妖怪が目を輝かせ、襲ってきた。が、始末した。
永遠亭。
扉をノックして、永琳と輝夜を呼ぶ。
「永琳! 輝夜!」
暫し待って、扉が開く音。
「あら、神楽」
俺の顔を見るや否や、驚いた顔で呟いた。
永遠亭も久し振りだ。そりゃあ俺が来た驚く。しかし、なんだろう。この悲しい感じは。
まあ、いい。
中に入り、これまでの事を話す。
ルーミアらしき者に斬りかかられた事。
それが終わったら、咲夜、美鈴、レミィに襲われた事。
なんやかんやあって紅魔館の嫁達、メイド達と戦った事。
目を覚まさない事。
永琳は黙り、瞑目して、聞いていた。
「操られてる可能性が高いわ。そう言うのも、家のてゐと鈴仙が私達に襲ってきたからよ。同じく無表情で、目を輝かせて……、ね」
まさか、永遠亭までもなんて……。一体全体どうなってんだ。
少し苛立ちを感じる。
不愉快だ。嫁を操り、戦わせる。そいつは高みの見物。見てるかはわからないが。
「お前達が無事だった。って事は気絶させたんだな?」
「当たり前よ。私と永琳が負ける訳ないじゃない」
今この場に居るのは、俺、霊夢と魔理沙。永琳と輝夜だ。全員座っている。
「どうなってるの?」
霊夢が不安気に、質問をしてきた。
貧乏揺すりを止めて、腕を組んでから「レミィ達は何者かに操られてる。無表情で、目を輝かせ、気絶すると治る。しかし、レミィは感情があったのか、何故か嘲笑ったり、鼻で笑ったりもしていた。レミィが特別だったのか、知らない」結局はまだわからないな。そう締めくくり、終わらした。
まだわかってないからここに来たんだ。しかし、ここもそうなってるとしたら、他の場所はどうなってるんだろうか。
幻想郷中の妖怪やらが操られているとか。そんな事になったら手に負えんわ。正直辛い。弱音も吐きたくなる。だが、まだ決まってないからな。流石にそんなことにはなってない筈だ。それならどうして永琳や輝夜、霊夢と魔理沙が無事だったのかわからない。
「…………」
全員が沈黙する。
気まずい雰囲気が部屋に漂い、俺は頭を掻く。
「少し、人里を見てくる。妹紅の安否も気になるし」
そう切り出してから、頭を掻くのを止め、視線を全員に渡らせ告げた。
「その後、守矢神社に行くよ」
霊夢と魔理沙は少し永遠亭に留まるようだ。なにか意図があるんだろう。
永琳達には、戦わないよう、ここを出ないように注意した。いくら強いからと言っても、永琳と輝夜達が操られて、起きなかったら相当痛手になる。
治療が出来なくなるからだ。
決めて、永遠亭を出ていった。