新たな異変、幻想郷の危機
二千二十五年。秋。昼。
俺は今、ルーミアと城の近くを歩いている。
あれから極々平和に。たまに異変がおきるが、幻想郷は今も健在。
そしてとうとうと、言うべきか、前世よりも時間が過ぎてしまった。
外の世界も発展して、幻想郷の存在を知る人物も増える。俺達は結界を強化して、紫は幻想郷があると認識してしまった人間の処理。及び、記憶の消去に奮闘。
完璧に処理してくれた。
しかし、問題は結界の強化だった。結論から言うとこれは成功したが。
代償として、俺の極める能力。限界を操る能力が封印され、使えなくなった。創造も一部制限され。そして霊力、魔力、妖力の八割は使ってしまった。何故だか回復はしない。減ったまま。
簡単に言うと、持っている霊力等の力が八割無くなってしまったのだ。
更に簡単に言うと、上限が全盛期の二割になった。
霊力等の低さから、俺を弱いと判断して、襲い掛かってくる妖怪が増えた。
幸い、技術は失われていなかったので、撃退、殺す事は出来るが、今の俺はレミィにも勝てなくなってしまった。弾幕ごっこではないもので。まあ、勿論手合わせなんだが、やはり勝てない。光速も出せなければ音速も出ない。
言ってしまえば、大妖怪クラスが上だとすると、上の下にも勝てなくなった。これは酷い。
一応護衛としてルーミアが着いている。
だがまあ、問題ない。紫や嫁達が襲ってくる訳でもないし、幻想郷の全てを渡り歩いた俺は、実力者とはそれなりに交友がある。
寧ろ、原作キャラとは全員面識がある。だから安全――――
そこまで考えた時。
後ろから鋭く強大な殺気を感じた。それは俺の首に狙いを定めている。
間一髪、しゃがみ、その場を離れた。
振り向き、嫁の名前を呼び、構える。
「ルーミア! 敵襲だ!」
ルーミアの居た所を見るが、誰も居ない。敵も見当たらない。
何故だ。ルーミアは? そんな疑問が頭を支配する。
連れていかれたのか? 拐われたのか? いや、闇を操っているのだ。そんなに弱くはない。しかし、あの殺気は――――
――ん? これは……、赤い霧……?
俺の周り……、いや、少なくとも俺が見える範囲全体。赤い霧が覆っている。それはいつぞやの異変のようだ。
俺が見回しているといきなり。銀のナイフが飛んできた。
刀を創造して、弾く。
金属音と共に落ちる、ナイフ。
落ちたナイフを拾い上げ、見ると、これは咲夜のナイフだと気付いた。
何故咲夜のナイフが。そう考えた時、背中に触れる手。
刹那。
「ぐ……!!」
衝撃。
喉から出た血を吐く。
すぐに治り、辺りを一瞥。
どこへいった……!!
かつてない傷みが俺に焦りを生ませる。
霧のせいで視界が悪い中、必死に辺りを伺う。
頭上から妖力を収縮する音が聞こえ始めた。
上を確認する。
そこには――――。
紅い瞳を、更に紅くして、獲物を刈り取らんとするレミィが浮いていた。
普段からは考えられない。
いや、何かに操られているように、俺を見下し、口を三日月のように上げ妖力の塊。槍を放ってきた。
「う、うそだろ……!? レミィ!!」
最愛の嫁が――様子が可笑しいとわかってても――俺に敵意を見せ、殺そうとしている。
視線。何よりも禍々しい程の槍が俺を貫かんと。
反射的にバックステップで避けた。
妖力の槍が目の前の地面に突き刺さる。もしこれが当たったら。と思うと。ぞっとする。槍から視線を外し、上を見る。
しかし、そこには跡形もなく、誰も居なかった。
残ったのは赤い霧、槍、土が俺の血を吸って、赤黒くなった痕だけ。
すぐ近くの城に帰る。
溜め息一つ、扉を開け、中に入って、目に映ったのは、三月精が暴れている姿だった。
またしても目が紅く輝き、破壊の限りを尽くしている。
――これは……、本格的にやばいらしいな……。異変でもいきすぎだ。
止めるべく、三月精に近付く。
俺の存在に気付くと、赤、クリーム色、青の弾幕をそれぞれ放ってきた。
流石の俺も、妖精に負ける訳にはいかない。
一種のプライドを燃やし、今出せるスピードで距離を縮める。
高速。前より遅くなった視界の移ろいを感じながら、当て身をした。ガクッと糸が切れた人形のように倒れ、気絶する三月精。
幾分か散らかった城をみて嘆息。
担ぎ上げて部屋に寝かせた。
ソファーに深く腰掛け、状況整理。
まず、ルーミアと散歩しているところ、何者かに殺されそうになった。ルーミアが居なくなったことを考えれば、これはルーミアと考えて良いだろう。
ちらっと横目で窓を見る。未だに赤い霧が立ち込めている。
次に赤い霧。これはレミィで確定だ。最後のレミィを見るに、太陽の下では活動が出来ないから、赤い霧を出したんだろう。また襲ってくる可能性がある。
用心しなくては。
あのナイフの仕業は咲夜だ。なによりナイフが咲夜の物だった。
次に体の衝撃。あれは内側からだ。それに、咲夜、レミィと繰ると、これは拳法の達人、美鈴だ。
しかし、パチェとフランは……?
もし閉じ籠ってるのだとしたら何がある……?
考えろ。思考を張り巡らせろ!
まてよ……。いま、外には赤い霧――――!?
霊夢達が危ない!!
いや、霊夢達も操られていたらどうする……?
チッ! そんなこと後だ!!
眠るように気絶している三月精を置いて、急ぎ、博麗神社に向かう。
博麗神社。ここは結界を守る役割をしている。
その巫女は重役。もし操られていれば……。
最悪の状況を考えながら、境内に降り立ち、居間を開け、霊夢の安否を叫ぶ。
奥の方で耳を傾けなくては聞こえない位小さな声が聞こえた。
万が一の事を考え、構えながら奥の部屋を開けた。
引き戸の音がして小さい声で無事を確認する。
部屋は真っ暗で、何も見えない。今まで外にいたから尚更だ。
「なによー……、いたた……」
「だ、大丈夫か?」
暗がりの中、声と音を頼りに、歩き、細い体を支える。服とは違う、布の感触と、何かぬめっとした物を感じる。
電気をつけていいか確認して、つける。
明るくなった部屋にいたのは、腕に布を巻いている霊夢だった。
その布は赤く濡れ、布団をも赤くしている。
その姿に心底驚き、心配して「だ、大丈夫か!? 何があった!?」と布を丁寧に外し、霊力で治癒を施す。
傷は切り傷、火傷。
霊夢の顔を見ると、血の気が引いた、青い顔。
「ありがとう。いつ……!」
治癒をしているが、じわじわと治っていってる。空気に触れて痛いのか、顔を歪ませ、「……、紅魔館よ……」ぽつぽつと説明してくれた。
どうやら、赤い霧に気付き、またレミリアか。と思いながら魔理沙と解決に行ったらしい。しかし、道中の敵がいつもより強く、凶暴。
なんとか紅魔館に着くも、門番は居なく、中に入る。すると、いきなりフランが襲いかかってきて、レーヴァテインで斬りつけられ、魔理沙と共にここまで体勢を立て直しにきたんだと。
肝心の魔理沙は? そう聞くと、今はお粥を作りに行っているらしい。
「霊夢、おかゆ――――」
魔理沙が入ってくる。両手に小鍋、足で引き戸を開けて。おい、品がないぞ。
「あ、神楽じゃないか!」
どうしたんだ? と聞いてくる魔理沙。
「どうしたもこうしたもないさ」
帽子を取り、脇に置いて経緯を話す。
因みに、霊夢も魔理沙も大人だ。魔理沙も幾分か胸が大きくなって、大人の色気を感じる。しかし、行動や性格はボーイッシュだが。
霊夢も髪が伸びて、今は腰まである。何回か切っている様ではある。そして胸も大きくなった。早苗には敵わないが。
どちらも今言うことではないな。失礼。
経緯を語り終わり、傷が塞がった腕を見て、三人で腕組みをする。
「恐らく、いや、絶対、あれは操られているな」
両目を瞑り、断言した。
「その根拠は?」
霊夢の声がする。
「あの目。それに嫁が俺に敵意を、殺意を向けてくるか? おかしいだろう。そして、何より普段のレミィ達ではなかった」
「ほう、夫が言うならそうなんだろうな。しかし、それをしている犯人は?」
「それはわからない。だが、こんなこと出来るのは紫以外に俺は知らない。他にもいるだろうが、まだわからないな。しかし、戦闘不能にすれば良いのかも」
思うのも三月精。あれだけ暴れ、攻撃してきたのに、気絶させた後、目が戻っていたのだ。
そう。三月精が寝ていた時、目を開けて、瞳を見たが、元の色に戻っていた。
まだ確証は持てないが、ほぼ、当たりといって良い。いまこの場では言った方がいいだろうな。
しかし、問題は何故霊夢達が操られていないか。
そこはまだわからない。
これは遊びじゃない。本格的な殺しあいでもある。下手すれば霊夢や魔理沙、俺は死ぬかもしれない。全盛期なら余裕だったが、今の俺はあまりにも非力。なんだ、こう考えたらゲームみたいだな。
レベル一の主人公が――――いや、やめよう。不謹慎だ。
閉じていた目を開けて交互に見る。
「これは異変ではあるが、本当の殺しあいだ。少しでも気を抜けば死ぬぞ。お前らは解決に動くか?」
諭すように言ってから、「引いても責めない。寧ろ、プライドで居られたら邪魔だ」と、切り捨てるように。吐き捨てるように問う。
霊夢はお祓い棒を左手に取り、力いっぱい握りしめた。
「当たり前よ、私は博麗の巫女、幻想郷の事なのに引けないわ!!」
霊夢は博麗大結界、強化作戦から真面目に取り組むようになった。今はだらだらと過ごすだけではなく、修行もしている。元々の才能と相まって、以前より遥かに強くなった。
大きな戦力だ。
俺は一つ頷いた後、魔理沙を見る。
八卦炉をじーっと見ている。
「親友が、ここが危険な状態になってるのを、私はそれを黙って見ておく事は出来ない。そんなに器用じゃない。私も行くぜ!!」
瞳に、確かな炎を滾らせ、決意した。
魔理沙は戦力的には霊夢に敵わないが、十分だ。
霊夢に追い付こうと必死で努力しているのを俺は知っている。才能は平凡なのに努力だけでここまで登り詰めた。
霊夢は天才。魔理沙は努力の天才。二人の天才が手を取り合ったら、一体どれくらいの戦力なんだろうか。
俺はまだ知らない。彼女達の強さを。
俺はまだ知らない。彼女達の本当の力を。
さあ、解決に乗り出そうか……!!
なんて、ドラマチックに演出してみたが、まず休もう。