日々、葛藤。
「だいたいですね。貴方はですね――――」
そりゃあ、嬉しいとは言ったけどさ……。
何も、一ヶ月に一回来なくて良いだろう……。
そして毎回ご飯を食べて帰る。
まあ、ご飯の事は大歓迎だ。
だが……。
映姫を見る。
懺悔棒を上下に振って、ガミガミと叱っている。
これを百年行えば俺はマイナスがなくなるらしい。
たった百年と考えるべきか、だが、一ヶ月に一回だぞ? 永くないか?
しかし、今まで人間を殺めた事はあまり咎められていない。それは半分妖怪だからだろう。
月の民達も守った。これは大きな善らしい。笑顔で褒められた。
だが、人間の時に、寿命を永くしたり、人間の域を逸脱したのが大きな悪。嫁の多さも若干の悪なのだと。
あとは小さな悪、善が細々とある。それをありがたい説教で消化していくらしい。
説教で消えるのかは甚だ疑問だが。
声を大にして言いたいけど無理だから心の中で言う。甚だ疑問だ――――
「聞いてるのですか未知 神楽!」
「はい。聞いてます。すいません」
ちくしょう!!
やっと終わった。疲れた。一時間正座しっぱなし。久し振りだ。
カロリーは五百位消費したかな。
映姫が。
しっかし、本当にこんなので消化されるのか?
映姫を見てみると俺の料理を美味しそうに食べている。
「神楽、この料理は白ですよ!」俺に微笑む。
この場においては、美味しいという意味だ。
「これも善にプラスされる事でしょう!」うんうん。と首を数回頷かせた。
…………。まあ、いいか。
「美味しいか?」俺が映姫に問い掛ける。
よそよそしく話すのは黒らしくて、俺は友達のように接している。
箸を止め、再び笑顔を浮かばせ「ええ! 美味しいですよ!」
映姫が来たときは俺が作るよう言われている。閻魔様をもてなす。これも善の行い。なのだとか。
しかし、映姫の笑顔を見ると百年の説教とかどうでも良くなってくる。
「きっちり一ヶ月後に、また来ますからね」それでは。と、彼岸に帰っていった。
その時、見えたのだが、なんか、空に城が浮いている……のか?
そういえば、今日は二千十三年、夏だったな。
てことは……、輝針城か。もうそんな時期か。
早いな……。そろそろ俺がいた頃の幻想郷の年代も終わりだ。俺はこのまま生きつづけるのだろうか。
何もせず? ただただ嫁と過ごして?
そんな自問自答が沸き上がる。俺は館の屋根に乗り、寝転ぶ。
別に争い事はしたくない。ならそれで良いじゃないか。
だが、何か足りない。
これは何なのだろう。
ここはあまりにも平和で。
あまりにも残酷で。
そして、あまりにも美しい。
忘れ去られた幻想が集う楽園。
俺はここで何をした?
……、異変でもおこそうかな……。
だが、遊びのようなものだからなぁ……。俺がしてしまったら……、それこそ遊びにはならない。
しかし、昔見たゲームでのローグライク物になるような異変も良いな……。楽しそうだな……。
いやいや、洒落にならんぞ。
寝転びながらも顔を左右に振り、思考を止める。
一回考え出したらすぐ思考に溺れる。これも俺の癖のようなもの。でもある。
まあ、このまま平和に生きるかな。
屋根を降り、城に入る。
「神楽」すると、聞き慣れた優しい声がした。
「やあ、永琳」
永琳だ。嫁達はかわりばんこに俺の所へ遊びに来る。それも全部紫がスキマで送ってくれてるのだが。
豊満な胸を押し上げるように、腕を組み「また何かを悩んでたの?」
「まあな……」少しの気まずさを隠すように、俯き、帽子を顔の方に傾け「このまま何もせずだらだらと生きてて良いのかってさ」
「ねえ、神楽」永琳の呼ぶ声がして、帽子を戻し、永琳を見た。
片目を瞑り、諭すようにして「たまには思いきりが大事だと思うの」開き、俺に近付く。『かつかつ』と靴が床に当たる音がする。
「ここに名を刻みたいなら大きな異変でもおこせばどうかしら?」まあ、尤も、幻想郷縁起には貴方の名前が刻まれているけれど。そう付け加えて。
「何度も言うけれど、私達は貴方の味方よ。何があっても変わらないし、変えられない。それは極々当たり前の事。もし、貴方が違う世界に行っても、私達は貴方を忘れないし、貴方を知らなくても、思い出して見せる」
「……ありがとう」
半分は理解出来なかったが、愛情は伝わった。
数分間永琳を抱き締め、自室に向かう。
扉をあけた。
「神楽、遅いわよ。全く、私を待たせるなんて」そうぶつくさ文句を垂れるのは輝夜。
「輝夜……」
「私もいるよ!」輝夜の背後から顔だけを出したのは妹紅。
「妹紅も……。どうしたんだ?」
「どうしたんだ? じゃないわよ。神楽が少し思い悩んでるって聞いたから渋々来てやったのよ」
「え? でも輝夜姉ちゃん、神楽と会えるってうれし――――」
急いで妹紅の口を塞ぎ「こら、妹紅。そういうことは言っちゃ駄目なのよ?」若干の黒さを感じる笑顔でそう口封じをした。
いつもこうだ。輝夜は俺の前ではあまりあまえてこない。あくまで、私のが立場は上なのよ。とでも言いたげに振る舞う。しかし行為中はあまえ――
「何を考えてるのかしら? 神楽」口封じをやめ、そのままの笑顔で俺に問い質す。
何故わかったんだ。しかし、まあ、そんな輝夜も愛らしいが。
「なに、愛らしい嫁だな。と思っただけさ」肩を竦めて、考えた事の一部を言った。
「ふふ、まあね。当然の事よ」胸を張り、自慢気に肯定する。
そんな和やかな雰囲気が漂う。
俺が笑い。
妹紅も笑い。
永琳も笑う。
輝夜は胸を張る。
この三人といる時はいつもこんな感じだ。
それが幸せで仕方ない。
次の日。
俺が夜、城に帰ると。
「お兄様ー!!」
フランが俺に飛び付き口付けをしてくれる。
「お兄様お帰りなさい!」
レミィも少し遅れ、抱き付き、口付けをする。
「やあ、フラン、レミィ。いらっしゃい」二人の頭を撫で、歓迎して、食堂で晩飯を食べて、話をする。
「レミィ、最近どうだ?」ベットに三人で座って、左にいるレミィに問い掛ける。
「うふふ、あのね、美鈴がまた居眠りしていて、咲夜に怒られていたのよ」
紅魔館の話をするとき、レミィは本当に嬉しそうに話す。それがまた可愛くて、俺は知らず知らずのうちに微笑んでしまう。
「そうか。フランはどうだ?」右に座っているフランにも聞く。
「パチェがね、『魔理沙に魔導書をとられるー! むきゅー!』って泣いてたよ!」
恐らく泣いてはいないし、パチェはそんなにか弱い女の子らしくないだろう。
これはフランが大袈裟に言っているだけだ。
「そうか。俺は昨日、また閻魔様に説教をされちゃったよ『貴方は――――』ってさ」
二人の頭を撫でながら、語る。
この他愛もない時間が幸せだ。
また次の日。
「老公! お帰りですー!」
美鈴が走って迎えてくれた。
「遅いわよ、どこいってたの?」美鈴の少し後ろから、パチェが聞いてくる。
「ただいま。そしていらっしゃい。少し三途の河にね」
俺は暇があれば、太陽の畑やら、無名の丘やら、果ては三途の河まで交友を深めに行っている。
最近はそれが楽しみになっていて、探検やらをしている。
「そう。早く部屋に行きましょ」氷を彷彿とさせる無表情で俺の腕を掴み、引っ張っていく。
「パチェは最近どうだい?」
昨日と同じように、近況を聞く。
「魔理沙が魔導書を持っていくのよ。本当勘弁してほしいわ」鬱憤が溜まっているようで、溜め息を吐き「リリーもうるさいし、集中出来ないわよ」更に続けて「泥棒! 返して! って言っても『泥棒とは人聞き悪いぜ! 私は死ぬまで借りてるだけなんだ』って言うだけ。いつか殴ってやるんだから」
パチェが殴っても少し痛い程度だろう。寧ろパチェのが痛がるような……。
「俺からも今度言っておくよ。美鈴はどう?」
退屈そうにしていた美鈴の方を向き、同様に。
「いやー、また咲夜さんに怒られちゃって……、たはは」頭に手を置き、照れ笑いを浮かべ「私も寝ないようにしてるんですけど……、如何せん平和で……」「貴方は魔理沙が来てもすぐに負けるじゃない」パチェが割って入り、水を指す。
「いやー、遠距離は苦手で……」気まずそうに縮こまる。そんな美鈴の頭を撫でた。
「老公!」ぱぁっと咲いたような笑みを浮かべ、抱きつく。
しかし、美鈴が本気になったら魔理沙には引けをとらないどころか、勝てるはず。だが、そうしないのは彼女の優しさだ。美鈴は強さを見せびらかさない。常に力を隠している。俺も彼女の本気を未だかつて、見たことがない。
「それで、平和でどうしたんだ?」話の続きを促す。
「そうですね。前に比べて、敵もいなくなって、暇なんですよねー。しかも朝はポカポカしてて眠くなっちゃうんですよ……」再び照れ笑いをして、そう告げた。
「わからないでもないよ。俺もたまに眠たくなってしまう」
「そうですよね! えへへ! 老公はやっぱり優しいです!」
嫁達の近況を聞くのも俺の幸せだ。
またある日。
「お父さん! おかえりー!」出迎えてくれたのは実の娘、早苗。
その後ろには諏訪子と神奈子。
「神楽、お邪魔しているよ」そう発言したのは神奈子だ。
「や、神楽」
片手を挙げて、挨拶してきた、見た目娘と言っても差し支えないような容姿。諏訪子。
「む、いま失礼な事考えたでしょ!」ぷんぷんと怒るように両頬を膨らます。
「馬鹿だねー、諏訪子、大人の女性ってのはそんなことで怒らないんだよ」ほら、こんなふうに。と、胸を押し上げるように腕を組み、煽った。それはガソリンに火を投下するよう。
「わ、私だってもうすぐばいんばいんになるし! 毎朝牛乳だって飲んでるし!」胸を押し上げるようにするが、この中で比べるなら絶壁とも言えるその胸は。しかし、反応を示さなかった。崩れ落ちる諏訪子。それをニヤニヤと悪どい顔で見ている神奈子。
「お母さんだってすぐ大きくなるよ!」早苗が慌てて説得を試みるも。
「一年や二年そこらでそこまで大きくなった早苗に言われても誰も納得しないよ!!」更に崩れた。
そして、この、この。と少しの反抗として、早苗の胸を揉む諏訪子。
「やっ……! んっ……。ちょ! お母さん!!」妙に艶かしい声を出し、真っ赤な顔で怒った。
このまま見ていても眼福だが、止めに入る。
「諏訪子。胸の大きさは関係ない。お前自身を愛してるんだ。気にするな」フォローして、頭を撫でた。
「やっぱ持つべきものは夫だね!」そういうや否や、抱きついてきて「しっしっ!」追い払うように手を振った。
「お母さんに嫌われた……」勘違いした早苗が涙目になり、絶望の顔で此方を見る。
早苗はまだ産まれてまだ少ししか経ってない。この姿なのは神の子供だからだ。こんな高校生位の容姿をしていても、精神はまだ子供ではある。だから今の冗談を本気で受け取り、泣きそうになっているんだ。
「うぇ……! ひぐっ! おかあざんに……、ひくっ! 嫌われたー!!」嗚咽を出しながら、とうとう泣き出してしまった。
神奈子が焦る。
諏訪子も焦る。
俺も焦る。
俺が霊夢と同じ位の身長をもつ、早苗を抱き、あやす。
「諏訪子は嫌ってない。あれは冗談だから」そう落ち着くよう言い聞かせ、優しく抱き締め、撫でる。
「んくっ……! ほんと……?」まだ止まぬ嗚咽を出しながらも、問い掛けてきた。
ゆっくり頷き「ああ、本当だ。お前を嫌う訳がない」
幾分か落ち着き、早苗のお腹が可愛らしく鳴る。
恥ずかしそうにして「お、お腹空いちゃった……」
それを俺達が笑う。
笑ってるのを見て、早苗も笑う。
この確かに感じる幸せが堪らなく好きだ。
その次の日も。
「お帰りなさい、神楽」
「おかえりー、神楽お兄ちゃん!」
姉妹揃って出迎えてくれた。
今日はさとりとこいし。
「やあ、さとり、こいし。よくきたね」俺が歓迎のキスをした。すると二人とも目を糸のようにして微笑む。
部屋に入り、案の定というか、ベットに腰掛ける。
膝の上にさとりを乗せ「さとり、最近どうだ?」こいしは背中にもたれかかってくる。
「そうね、お空がまたやらかしたわ」呆れたように言ったさとり。
お空。地底の異変の少し前。神奈子が力を授けた鳥の事だ。鳥だけあって頭も鳥なんだとか。まだ会ったことはない。
そもそも俺が地霊殿に行くことはあれから一回もない。
さとりとこいしが此方に来るからだ。
紫のスキマで。
それにお空とやらがいるところは熱くて堪らないのだと。
「ほう、どうやらかしたんだ?」
溜め息を吐いて「お燐と遊んでたらしくて、地霊殿の館の角がなくなっちゃった」憂鬱そうに。
「……。それは、災難だったな。でもお前達に何も無くて良かったよ」かける言葉が見当たらないが、無事に安堵した。
「怒っても『え? 私そんなことしてないよ?』って平然と言うんだから……」項垂れるさとり。
「あ、あはは……」苦笑をして、流す。
どう言えばいいかわからないからだ。
「まあ、私はそんなところかしら」そう言って、自ら膝を降りて、こいしに「こいしの番よ」
「はーい!」元気よく膝にのる。さとりが俺の背中にもたれた。
「この前ね! 幻想郷を散歩していたらね! 人里にピンクの仙人っていうのがいたよ! 団子やおむすび食べてた!」
ん? 仙人? 仙人って確か欲を捨てた者のはず……。思いっきり食欲あるじゃないか!!
愕然として「仙人? どんな人だった?」容姿を聞く。
少し考えるような素振りをして「えっと、頭に二つの白い布があって、ピンクの髪にピンクの服。あと、茨の柄が服にあったよ!」
間違いなくあの仙人だろう。会ったことはまだないが。
「ん、神楽は知ってるの?」後ろでさとりが聞いてくる。
「ああ、話では山に住んでいるらしい。なんでも、雷獣だっけか? そんなのを使役したりだとかも聞く」
その仙人の詳しい事は知らない。見てないからだ。
「まあ、それでどうしたんだ?」
「なんか、巫女を説教してた。いつもいつもー! って」手振りでも俺に伝えてくる。
「あはは、俺と閻魔様みたいだな。ありがとう。面白い話が聞けたよ」お礼を述べて、さとりとこいしと一緒に寝る。
一緒に寝れる。ただそれだけでも幸せだ。
例の如く帰る。
「お帰り、神楽」扇子を広げて立っていたのは紫。
「お帰りなさいませ。旦那様」黒のワンピースに身を包んだルーミアが腰を曲げた。
「いつもありがとう、紫、ルーミア」日々のお礼を言ってから、キスをする。
今日はメイドとしてではなく、嫁としてルーミアはいる。ただ、言葉づかいは変わらないが。
「お安いご用よ。同じ嫁の事なんだから。それに」一旦区切り、俺を真っ直ぐ見て「貴方の幸せの為ですもの」くすくすと静かに笑う。だが、静かな部屋の中ではよく聞こえた。
紫は俺の幸せを一番に考えてくれる。嫁が増えても喜び、毎日送り迎えまでしてくれる良い嫁だ。
そんな紫を愛している。勿論、誰が一番。だなんて考えられない。
俺がしたいこと、やりたいことをいち早く気付き、文句も言わずに手配やら何やらをしてくれる。至れり尽くせりだ。
お礼だけでは全然足りない。
「旦那様、お慕い申し上げます」忠誠を表すかの如く、俺に接吻をしてくるルーミア。それが濃厚で、くらくらと麻痺する。快楽に誘うように、二人が妖艶に微笑む。
「ねえ……、しましょう……?」耳元で囁くのは紫。ルーミアが俺をベットに押し倒し、迫りくる快楽に身を任せた。
「ふふ、良かったわよ、神楽」荒い息を整えて、お腹をさすりながら優しく微笑む。
「旦那様、ありがとうございます……」ルーミアもまた、お腹をさすり、母性を感じさせる笑みを浮かべた。
「早く欲しいわね……」
「ええ」紫の言葉に、ルーミアが頷く。
「なかなか身籠らないな」
これでも結構している。なのに諏訪子以外は身籠らないのだ。もしかしたら。と嫌な予感が俺の頭を過る。しかし、諏訪子は出来たんだ。なら他の嫁に出来ない筈がない。と、無理矢理納得させた。
少し残念そうに「そうねぇ」でも。と続けて「貴方と居れるだけでも凄く幸せよ。これ以上願うのは贅沢じゃないか。と思えるほどね……」
「そうですね……。子供も欲しいですが、今でも最高に幸せです」
全く、どこまで謙虚なんだろうか。
しかし、この時間。肌を重ねる時も俺の幸せだ。
願わくば、この幸せが永遠に……。