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東方極限想  作者: みょんみょん打破
幻想郷編
45/67

探検と説教





 二千十一年、秋。昼。



 空は晴れ渡り、冷たく、澄んだ、秋の光が俺を包む。

 そんな中、俺は魔法の森、再思の道の入り口にいた。

 秋には一面、彼岸花が咲き誇る。

 ここは凄く結界が緩い。そして思い直す場所。外の人間が生きる希望をなくしたり、忘れられかけている人間が時々、ここに迷いこむ。

 そのまま幻想入りするかと思えば、引き返して行く。

 それは何故か。あまり明確ではないが、ここの咲き誇る彼岸花を見ているうちに、生きる気力が沸いてくる。のだとか。定かではない。

 だが、無事に帰れるか。といったら違う。

 ここに来ると言うことはそれを知っている妖怪もいる。

 ほら、そこの彼岸花の陰で、妖怪が目を爛々と輝かせ、今か今かと人間を待っている。



 ん? ……。たった今、外から絶望に打ちひしがれた人間が来た。


 俺は隠れて尾行する。

 人間はふらふらと、生気のない顔で進んでいく。

 少し経ち、彼岸花をぼーっと見て、幾分か生気の宿った顔に戻り、憑き物が落ちたようにはっきりとした足取りできた道を戻る。

 しかし、隠れていた妖怪が人間の前に立ちはだかった。

 人間はその異形を見て、自分とは違う容姿を見て、腰を抜かし、声をあげ、情けなく逃げる。

 だがそれは叶わない。

 いくら、助けて。殺さないで。

 そう哀願しても。

 そう懇願しても。

 どう喚いても。

 どう泣いても叶わない。

 絶対に。


 しかし、まあ――――





「よう、そいつ、見逃してくれないか?」



 それはこの場に誰も居ない時に限るが。



 人間と妖怪の間に立つ。


「アァ?」妖怪は俺を訝しげに見た。

 人間――――いや、高校生位の女の子は一筋の希望を見出だしたように、俺にすがる。


「た、助けてください!」泣き付く。


「待ってろ」女の子に命令して、妖怪に「ここで死ぬか、この子を見逃して、後日違う奴を襲うか。どちらが良い?」脅しかけた。


「そんなもん決まってんじゃねェか!!」少し間を置いて「お前も――――」

「じゃあ死ね」平淡と、抑揚なく。


 こいしから貰った帽子を汚さないよう、飛ばないよう、上に投げ、一気に近づいて掌底を当てる。

 そのあと、もといた場所に戻り、帽子を待つ。


 妖怪も、女の子も、俺が何をしたかは知らない。見えない。知る術もない。

 一瞬のように感じただろう。

 一寸遅れ、頭に落ちた帽子がのる。

 後に残ったのは女の子と俺だけ。

 妖怪は吹っ飛んでいった。


「力量がわからんやつは死んで当然。それが男なら尚更」いなくなった妖怪に、そう吐き捨て、向き直る。


「さて、君は戻りなさい。どうか、この事は他言無用で」未だに腰を抜かし、恐怖に顔を歪ませて俺を見る少女に伝えた。


 一目散に逃げていき、消えていった。



 帽子で顔を隠すよう、下に向けて「全く。助けて貰っておいてお礼も無し。まあ仕方無いか。人間は弱いからな」独りでに呟き、走っていった方を見て「大事なのは怖いか、ではなく、味方か、敵か。の違いだろうに」無表情で零した。もし嫁が見ていたら悲しそうに見えたかもしれないが。しかし、その言葉は虚しく空に消えていってしまう。


 人差し指で帽子の位置を修正して、道を歩き彼岸花を堪能する。




 再思の道を越えるとそこは無縁塚。

 周りは木で囲まれていて、秋には彼岸花。春には紫の桜。妖怪桜が咲く。

 無縁の者の遺体をまとめて埋める場所だ。

 ここは危険度が極めて高いと言われている。

 俺には関係無いが。

 しかもここまできてなんだが、無縁塚には用がない。誰も居ないし興味を示す物もない。

 次は中有の道かな。


 目的地を決めて、飛んだ。



 中有の道。

 妖怪の山の裏にある。

 この道は三途の河へ繋がっている。

 死者だけが通るのか。否。生者も通る事は可能だ。

 

 それは何故か。地獄に落とされた罪人が屋台を開いているからだ。地獄も経済には勝てないらしく、少しでもと屋台を開かせているようだ。

 生きている者がここにきて、買ったりもするらしい。

 俺も買ってしまった。

 とうもろこし、唐揚げ、ソーセージ、焼きそば、一通り買ってボックスに入れる。

 とうもろこしを食べながら歩く。


 サニー達とも今度来よう。金魚すくいとか色々あるし。


 色んな屋台を見ながら、そう考える。このまま進めば三途の河だ。そこを通ると次の生まで戻る事は出来ない。

 彼岸に行きたくても無理なのだ。

 まあ、彼岸に行ってしまうと死んでしまうんだけど。


 三途の河。

 静かだ。川の音もない。動物の声もない。

 しかし、一つの鼻歌が聞こえる。


 そこに向かうと赤髪の女性が彼岸花の茎を咥え、しなやかで長い足を組んで寝転んでいた。


「やぁ、休憩中かい?」


 何をしていたかなんてわかりきっているが、会話だ。知らないふりをしなくてはならない。ましてや初対面だ。


「んー?」視線を空から俺に移し、咥えている彼岸花を放り投げ「珍しいね、生者が来るなんて」口にした。


 三途の河だしな。そりゃあそうか。死者とは一方的に話すだけだし。死神仲間か彼岸の映姫だろうし。

 いや、他にも喋るだろうけど、知らない。


 肩を竦めて「見学って所かな。彼岸も見てみたいけど、死ぬんじゃ、諦めるしかない」

「はっはっは!」大口を開き、笑って「そうだねぇ。死んだら元も子もないしねぇ」

「だろう?」片目を瞑り「幻想郷見学も楽しいが、結構見ちゃってね。あとはここら辺かな、と思って来た次第さ」

 よっと。声と共に起き上がる「まあ、ここに面白いもんはないよ。死者を彼岸に連れて終わり。音も何もない所さ」周りを見て、告げた。

「あるじゃないか、面白いもの」

「ん、なにさ? 彼岸花と絶滅した捕れない魚しかないよ?」心底疑問だと言う風に。

 死神を見て「お前さ。面白い者じゃないか」

 少しキョトンとして「あっはっは!」爆笑され「アンタも面白いねぇ! よし、気に入った! 私は小町だよ! 小野塚 小町」抑揚たっぷりで名乗った。


 癖のある赤髪でツインテール。赤い瞳。服は半袖の着物のような服。越巻もしている。

 身長は俺が勝っているが、僅差ではある。

 そして大きな鎌。しかし、その鎌は奇妙に曲がっている。

 前世で見たのだが、実はこれ、全く切れないらしい。ほぼ飾りなのだと。

 死神ってやっぱり大きな鎌を持っているんだぁ。と結構好評。だが武器にはつかうらしい。


 あと、死神には三種類いる。

 一つは死者の魂を迎え、刈り取る死神。

 二つ目は地獄の雑務一切をこなす死神。

 三つ目は小町のような、船頭。


 帽子をとり、胸の辺りに留め、お辞儀をする「俺は未知 神楽だ。よろしくな、小町」

「いやー、ここ何もないから暇で暇で……」両目を瞑りながらも喋る小町。



 なら働けよ。と思った俺は悪くないはず。しかし、死者は見えない。来てないのか? 外のも合わせると量があるはずなんだが……。


 そう考え、キョロキョロと周りを見る。


 そんな俺に気づいて「今送ったばっかだから待ってるのさ。全員、常に私の所に来られたら私がもたないよ」


 ああ、他にも死神はたくさんいるんだよな。ならそこにも流れているのか。

 一日にどれくらい死ぬのだろうか。

 一日にどれくらいここに来るのだろうか。

 一日にどれくらい航るんだろうか。

 まあ、知ってどうこうする事ではないが。


 帽子を頭に乗せ「ほう、まあ、確かにそうなのかな?」目を細めた。

「そうなのそうなの」無理矢理言いくるめるように言う。続けて「立つのもなんだい。そこで座ろうじゃないか」近くにある、二人が座れるくらい大きい岩を指差す小町。

 頷き、二人で石の上に座る。その時死者が来る。

 人魂。

 小町はそれに気付き「おーい! そこのアンタ! 他の死者が来るまで待ってな!!」言い放った。

「良いのか?」俺が連れて行かなかった事に、確認をとる。

 頭を掻いて「大丈夫さ。一人一人送っていくより一気に送ったほうがいいんだよ」


 確かに……、その通り、……なのか? いや、確かに効率は良いだろうが……。


 まあいいか。


「こらー! 小町!」


 ん? 後ろから声がする。二人で振り向いた。


 あからさまに嫌な顔をして「げ! 四季様!?」

「小町! また貴女……は……」映姫は俺に気付くと言葉を失ったように止まる。

「あ、君は、いつぞやお世話になった四季 映姫様じゃないか」


 そう、この見た目女の子は昔、幽々子の事でお世話になった、四季 映姫・ヤマザナドゥ。その人物だった。


「そういう貴方は……、未知 神楽?」目を細め、確認する。

「あ、覚えててくれたか。ありがとう」礼を言って、帽子をとり「久し振りですね」姿勢を正し、お辞儀をした。



 敬語に違和感を感じる。これまでにない違和感を。


「おひさしぶりですね。未知 神楽。何年ぶりかは知りませんが、ずっと言いたい事がありました」凛と。


 なんか嫌な予感。


「そう、貴方は少し――――いえ、お嫁さんが多すぎます!」



 始まった。


 俺は正座を自らして、大人しく説教を聞く。


「ん? 素直な所は褒めましょう。ですが――――」



 たまには説教されるのもいいかもしれない。

 俺は罪が重すぎる。それに、前世で俺の事を想った説教をされたことがない。

 甘んじて聞こう。

 なんか――――


 暖かいな……。



 空を見る。

 秋の空は澄みきっていて、汚い俺には眩しかった。

 だが、この空のように、俺もきれ――――


「こら! 説教をしてるのに余所見とは何事ですか!!」


「すいません……」


 くっ……!















 あれから一時間ぴったり。

 やっと終わった。しかし、俺の事を想って説教をしてくれてるとなると、ありがたく、暖かいものを感じる。

 満足したのか、帰ろうとする映姫。


 俺が引き留めて「映姫様」

 振り向き、俺を見て「なんですか?」

「……俺の為に時間を割いてまで説教、ありがとう」俺は頭を下げる。

「なっ!?」小町が驚く。


 そりゃそうだ。しかし、これだけは言いたい。


「俺はさ、昔、親に虐待されて生きてきたんだ。まだ小さい俺にあれしろこれしろ。って命令して、少しでも失敗したら殴って怒鳴ってさ」無表情を作り、語る。

「…………」

 二人は黙って話を聞いてくれる。


「親の愛情もわからない。何も信じられないでさ。愛情のこもった説教をされた事がなかったんだよ……。」でも、と続けて「映姫様の説教を受けてさ、こんなに暖かいものなんだって気付いたよ……。虐待のような冷たさはない。俺の為にって考えたら暖かくて――――」


「もう良いです」そう言って、俺を抱き締め「それ以上は言わないでください。貴方、泣いてますよ」


 不思議に思い、俺は頬を触る。しかし、涙は流れていない。


 そんな俺を優しく微笑み「心が。ですよ。貴方が悪いことをしたら私が叱ってあげます。それが私の仕事でもあるんですから」諭して。それに。と続け「貴方は業が深い。私がそれを少しでも軽くしてあげます」




 凄い優しい人――――


「説教で」



 …………。




 小町の「ぷっ……」という笑い声が聞こえた気がした。   

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