神楽、ルーミア、三月精の太陽の畑、無名の丘探検
文々。新聞。
新しい妖怪の山移住者。
なになに。
『この度、新しく山に移住してきた『未知 神楽』神楽氏は妖怪の山、九天の滝付近に城を作り、使用人兼、嫁であるルーミア氏。使用人のサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアと共にここで永住する模様――』
ふむ、まあ、何もないな。なんの違いもない新聞だ。香霖堂の広告、紅魔館のメイド募集等々。
出ていってから紅魔館は広くなったからなぁ。
俺が当主をレミィに任せたことで、レミィが『館の広さは主の器の大きさよ!』なんかで咲夜の能力を使い、迷路のようになってしまった。だから妖精メイドだけでは足らなくなったらしい。
俺は食堂でコーラをお供に、食事を終える。
――今日は……。妖怪の山じゃなく違う所に行こうかな……。そうだ、幽香もいるんだ。そこに行こう。
古い友人。風見 幽香。
昔戦った相手でもある。
コーラを飲み干し「今日は太陽の畑に行ってくるよ」コップをルナに渡して言った。
心配そうにルーミアが「太陽の畑と言うと、あの大妖怪がいるところでしょうか?」俺の腕をとり「私もお供致します」
そうだな、戦闘は無いから大丈夫だが、景色を楽しんでほしいから皆で行こう。
「今回はサニー、ルナ、スターも連れていく。勿論お前もな」ルーミアの頭に片手を置き「景色が綺麗でな。そこで酒も良いもんだ」
食堂にサニー、スターが来た。どうやら皿洗いを終えたようである。
サニーが真っ先に俺の所に来て飛び付く。それを受け止め、頭を撫でながら問い掛けた。
「サニー、皆で綺麗な景色を見に行こうか?」
満面の笑みをして「うん! 行く行く! 行きたーい!」
スターとルナの頭を撫でながらも「ルナもスターも行こうな」
「はい」
「はーい」
幻想郷は円形で、博麗神社から大抵は一望できる。
太陽の畑も例外ではない。博麗神社から見て、左の一番奥にある。逆に、博麗神社から右の一番奥には『中有の道』『三途の河』『冥界』がある。冥界なら行けるが、あまり行きたくない場所。
妖怪の山から霧の湖。人里。迷いの竹林を越えて、太陽の畑に着く。
向日葵が太陽の方向を向く。これは妖精達がしているのか、幽香がさせているのかは知らないが、いつ見ても見事な景色、向日葵だ。大きくたくましい。
俺以外全員がこの景色を唖然としてみている。それだけ壮観なのだ。今は夏。向日葵の季節とも言える。
その時、空から一人の女性が降りてきた。日傘を広げて。
「やあ、幽香。久し振りだな」俺はその女性に話し掛けた。
幽香は優雅に笑って「うふふ、久し振りね。神楽」片手を挙げて挨拶をした。
続けて「そちらの可愛い子達はお子さんかしら?」
子供は別にいるんだよなぁ。これが。
首を左右に振り「いやいや、子供は別にいるんだ。この子達は使用人をやっているよ」
「へぇ、お子さん出来たの? なら教えなさいよ! 今度連れてきて頂戴?」
俺と話をするのに夢中で、ルーミア達をそっちのけにしてしまっている。
よろしくないので、ルーミアと三月精に「好きにしてていいぞ」と言って、幽香に聞く。
「なあ、この子達を好きにさしてていいか?」
にこり。と笑って「ええ、良いわよ」ただ。と「花をいじめないでね」一言付け足した。
それから幽香の部屋に行き、ルーミアは三月精を見ている。
椅子に座って頬杖をして「さて、新聞見たわよ。また嫁さん増やしたんですって?」
俺は椅子にもたれ「そうだな……。あれには俺も吃驚したが、嫁は居すぎてもあまり困らないだろ?」
多分。
いや、流石に五十とかになってくると色んな意味で辛い。
やっぱ無理。
クスッ。妖艶に笑って「変わらないわね。来るもの拒まず。だっけ?」
「よく覚えてるな。あれから永い月日が経った……」
「フフフッ。なにしんみりしてるのよ。でもそうねぇ。永いわ。私達からしたら短いのだろうけど……」
そういえば。と立ち上がり「お茶を淹れてくるわね」キッチンに向かった。
改めて部屋を見る。フローリング、木のテーブル、椅子。木のベット、窓に緑のカーテン植木ばちに黄色の花。
棚、キッチンからは幽香がピッチャーを傾けて、一つのコップにお茶を淹れている。それをお盆に置いて、持ってきた。
「これ飲んでて。外の四人も呼んでくるわ」
やはり優しいな……。出来た女だよ。
幽香は玄関に行き、呼びにいった。玄関から「暑いのだから程々にしなさーい! 此方来て休憩しましょう!」張り上げた声が聞こえる。
幽香が帰ってきて、数分後。四人が此方に来た。サニーが汗だくだ。
俺はタオルを創造して、顔を拭いてやる。
「んむ」くぐもった声をタオルから漏らした。
「よし、いつもの可愛い顔だ。ほら、お茶飲みなさい」笑顔で麦茶を差し出す。
それを照れたようにして、受け取ると、一気飲みした。
「はぁ~! 美味しい!」
ルナとスターは既に座り、幽香にお礼を言ってお茶を飲んでいる。
そんなとき、視線を感じた。その視線を辿ると、幽香が口をぽかんと開けて、目を皿のようにして俺を見ていた。
「な、なに見てるんだよ」
「…………」はっ。と我にかえり、「いや、貴方、お父さんしてるわね……」
――え、似合わないか? 一応これでも早苗を諏訪子と育ててきたんだが。
「一応お父さんではあるからな。娘一人だけだが」
「ふーん。変わったわね。優しくなったわ」
逆に優しくなかったのか。そう聞きたいが、飲み込む。
そんな事もあったが、今は午後六時だ。長く居たが、もうサニー達が退屈そうにしている。
立ち上がり、頭を軽く下げて「結構長居してしまった。すまなかったな」
それを見て、手を左右に振りながら「良いわよ、私と貴方の仲じゃないの」
飛んで結構離れるまで幽香は見送ってくれていた。
「次はどこに行きましょう?」道中、飛んでいるとルーミアが聞いてきた。
「『無名の丘』だ」
ここから近いとなると無名の丘しかない。
午後六時十五分。
『無名の丘』
そこは低い山の草原。鈴蘭の花が咲き誇り、『一体』の少女が踊っている。鈴蘭と月、少女が妖しくも俺達を招いてるようだ。幻想的な風景を演出している。
何故無名の丘なのか。
それは博麗大結界が出来る前。名無しの赤子を鈴蘭の毒気で安楽死させて、間引きする場所だったから、らしい。
その赤子は捨てられた後、楽に死ねたのかも知れないし、生きたまま妖怪に喰われたかも知れない。はたまた優しい妖怪が拾って、育てているかも知れない。
さて、女の子だが、その子は人間ではない。人間に捨てられた人形の妖怪だ。
近くに行き、少女に話し掛ける。
「やあ、綺麗な鈴蘭だね」
俺達に気づくと、隣で浮いていた手のひら位の人形を後ろに隠し「貴方だれ」警戒心をむき出した。
心なしか顔も無表情ではなく怒って見える。
それに呼応するようにして鈴蘭の花も揺れ動く。
出来るだけ刺激しないように「機嫌を損ねたのなら謝る。すまん。俺は妖怪の山に住んでいる未知 神楽だ。こっちは」ルーミアを見て自己紹介を促す。
「私、使用人兼、嫁でございます」深く頭を下げる。
元気よく片手を限界まで挙げて「私妖精メイドのサニーミルク! よろしくね!」
ルーミア同様、頭を下げ「同じく私はルナチャイルド」
髪を人差し指で弄りながら「左に同じでスターサファイアよー」
「そう、私はメディスン・メランコリーよ」
まだ警戒しているが、名前を知った事と、妖怪の山に住んでいると聞いて少し安心したようだ。
メディスン・メランコリー。
金髪のウェーブのショートボブ。青の瞳、頭には赤いリボンがヘアバンドのように結ばれていた。
黒い洋服に赤の長いスカート。胸元に赤、腰に白の大きなリボンをつけている。
身長はチルノと同等だろうか。外見は人形には見えない。球体間接ではない。
横に飛んでいるのは恐らく鈴蘭の妖精だろう。
人間ではないと思ったのだろう。妖怪の山に住む人間とか逆に恐ろしい。普通の人間ならここまで来るのにも辛いだろう。寧ろ道中で命を落とすかもしれない。
「で、何のようなの?」妖精を守りながらも、顔に陰を差して問い掛けてくる。
しまった、何も考えてなかった……。どうしよう……。まあ、なるようになるか。
頭を掻いて「いやー、何をしに来たかと問われれば……。何もないかな。ただ見事な景色を見たかっただけ」
「あっそ」興味を無くし、踊りを再開した。
踊りと言っても、両手を広げて、回ったりしているだけだが。
横を見るとサニーがうずうずしている。遊びたいんだろう。
サニーに「遊びたいなら遊んできたら良い、あの子と仲良くなってあげてくれ」
ルナとスターも同様に言う。
一目散にメディスンの所へ向かう。少し話をして、一緒に回っている。
目を回したりしていた。
それをルーミアと一緒に笑いあったりと、平和に時間が流れた。
メディスンは飲食をするんだろうか。元は人形だからしないのか? いや妖怪だしな……。さらに言えば付喪神だ。そこのところどうなんだろうか。
まあいいか。今は小さな女の子達の月明かり舞踏会を見ていよう。
コーラと紅茶を創造し、ルーミアに紅茶を渡す。そして俺はコーラを飲む。
懐中時計を見ると、午後七時半だった。
時間を知ると急激に腹が減る。
今日はここで晩飯を済ます事にして、皆に晩飯にしよう。と提案した。
鈴蘭の無い草原でシートを敷き、飯を色々創造する。
メディスンは食べずに、じっと料理を見ている。
「食べないのか?」
「一応人形だし……、食べれるかわからない。寧ろ今まで食べたことないし……」料理を見ながらも答える。
箸を持たせて「じゃあ食べよう。何事も経験、行動が大事だ」諭す。
その箸を受け取り、勇気を出して唐揚げを掴もうとするが『ポロッ』落ちてしまった。それはそうだろう。箸の持ち方がおかしい。×になっている。
落ちた唐揚げを見る。その後、涙目になって俺に助けを求めてくるように見てきた。
唐揚げを処分して、おにぎりを創造して渡した。今度は持つだけなので大丈夫だろう。
おにぎりを口に含み、噛み締める。
幾度か噛んだ後、飲み込んだ。
「なんか、満たされる感じがする……」
満たされる感じとはあれだろうか。胃に入れたあの感じ。
「味はどう?」
サニーが問い掛けた。
「わからないけど……、いいんじゃないかな……」
食べたことがないだけに『美味しい』という言葉、感情がわからないんだな……。
「それが美味しいって感情だよ。覚えておきなさい」俺が教える。
美味しい。という言葉を口ずさむメディスン。
「なんか――」満面の笑みを浮かべて「温かくないのにほかほかするね!」嬉しそうに言った。