神楽の妖怪の山探検、玄武の沢編
小鳥のさえずり、日の光り。
俺は目をさます。
――これだよ、これ。このさえずりと光りが良いんだよ。
紅魔館に居たときは日の光りもさし込まない。守矢神社も窓が無いから、さえずりは聞こえても日の光りは入らないのだ。
窓があるにはある。しかし、俺が寝ていた所にはなかった。むしろ寝室には窓が無い。何故なんだろう。
まあいい。
一緒に寝ていたルーミアは、もう起きたんだろう。ベッドにはいない。一応メイドではあるからな。軽い身仕度をして、昨日見れなかった内装を見る。
広さは二十畳程。しかし、床はカーペットを敷いている。黒のフワッとした物だ。寝転んでも気持ち良い。
部屋から入って、右には景色を見るための場所に通じている。右奥はベッド。キングサイズ。
左手前はトイレ。左奥は洗面所と大きい風呂。
それ以外は収納スペース、棚等がある。
時間を見ると、今は七時。
部屋を出て、廊下を見る。窓から光が差し込み、ポカポカと俺を暖かくしてくれる。そのせいでまた眠くなってくる。
しかし、メイドが足らないな。ルーミアと三月精じゃ、少し厳しいか……。
そう思いながらも、食堂を探す。探知すれば、早いんだろうが、扉を見て予想するのも楽しい。
まあ――俺の部屋から降りた、一階の大広間にあったんだが。バレバレだ。予想もなにもあったもんじゃない。
俺は紅魔館より少ない料理を見ながら、ルーミアと三月精に「皆で食べよう、一人で食べるのは寂しい」
それを聞いて、クスッと笑い「わかりました。では」と、隅に立っている三月精の方を向き「食事にするわよ。三人共座りなさい」そのままの優しい笑顔で言った。
サニーは「わーい!」小さい身体を跳び跳ねさせながら、俺の右椅子に座る。
次に、ルナが「はい」落ち着き払った表情、歩きをして、サニーの隣にある椅子に座った。
そして最後にスターが「ん」と、短く返事して、ルナの横の椅子に腰掛ける。
何故誰も向かいの椅子に座らないんだ……? まあ良いか。
よし、では食べよう。いただきます。皆で合掌して食べる。
何時もながら美味い。ご馳走さま。また皆で合掌する。
ルーミアは母性溢れる笑顔で「お粗末様です」言って、片付けを始める。
我ながら出来た嫁だ。スタイルも良いし、性格も良い、顔も良ければ強い。なんだこの嫁。全世界の男が羨むじゃないか……。最高だな。しかし、嫁全員最高だから誰が一番良いとか決めれないが。
――おっと、また癖が出ていた。ついやってしまうんだよな。
いつの間にか組んでいた腕と目瞑りを解く。
すると、テーブルの食器達は綺麗に無くなっていた。もう片付けを終わらしたんだろう。
長く考えていたのか、片付けが早いのか……。両方だろう。
本当に仕事が早いな。今は何をしてるんだ?
ルーミア達を探すも、見つからない。廊下に出て、左右を見てもいない。
――もう良いか。山を探索しようかな。
そう思った時。
「何処かにお出掛けですか?」
聞き慣れた声が背後からする。
後ろを見るとルーミアが立っていた。
目を見て、いつもどおり、無表情で「妖怪の山探索だ」
――妖怪の山って何があったっけな……。天狗と河童と神と……? あとは仙人? 位かな? それくらいしか知らないな……。しかしたしか、河童のアジトは『玄武の沢』のはず。うん、まあいいか。
「お供致しましょうか?」
どうしようか。居てくれた方が助かる事は助かるけど、メイドの仕事もしてるから辛いだろうしな。別に何も無いだろうし、来ないでも良いだろう。
「いや」俺は首を左右に一度振って「疲れているだろう。休んでてくれ。サニー、ルナ、スターも休ませてやってくれないか」断った。
ルーミアは頭を下げて「恐れ入ります」笑顔で言った。
別にルーミアとの間に距離があるとかではないんだ。よそよそしく言ってるが、本当に距離がある訳じゃない。断じてない。寧ろ良好だ。二日おきにやってる。ナニをとは言わないし言えない。
一応ルーミアは俺の事を夫としてより、主人としてのが大きいようだ。これは、俺のメイドになった時のが早いから。だそうだ。元メイド長の教えでもあるしゃべり方が抜けなくなった。だと。
元メイド長とは、紅魔館で働いていた――
それはさておき。
今は妖怪の山上空にいる。
いつ見ても見事な滝だ。だが、誰も居ないな。
そこから、俺は麓に行く。すると、小さな沢を見つけた。
ここが玄武の沢。
魔法の森奥部にあると言われているが、その奥部の所が俺の今いる麓にあったようだ。
降りる。
崖の上に木が鬱蒼と生い茂っており、崖の深さもあり、日当たりが悪い。
そしてそこは周りを深く切り立った玄武岩に囲まれていた。無数の洞穴があり、中には光苔。暗さと相まって、綺麗だ。
「ここに河童のアジトがあるのか? それに――厄神様の活動場所でもあるらしいしな……」
光苔を見ながら、古くなった記憶を手繰り寄せ、そう呟く。
暗い道。足場が悪い中、足を前へと進ませる。『ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ』と、音がする。
ハイペースで歩き、十五分程だろうか。それくらい経つ。
すると、前に光が見える。俺は急いでその光に向かった。
目に飛び込んできたのは、小さい滝。石や岩があり、そのせいか、大きい水溜まり等がある。
そこで何十人――何十人? 匹?――の河童が素足で『ぱしゃぱしゃ』と足を振りながら、にこやかに話していた。
その河童達の場所へ向かう。
俺に気づいた河童が周りの河童にひそひそと報告する。しかし、一人の女の子が此方にやって来た。
「やあ、盟友」そう言って、片手を挙げて「私は河城 にとりだよ」フレンドリーに挨拶してきた。
河城 にとり。
青の帽子に青の髪をツインテールにしている。背中にリュックを背負って、それから紐がある。その紐は胸の辺りにクロスして、真ん中に鍵を垂らしていた。いっけん、胸を強調しているように見えるが、ペッタンこ。ペッタンこである。あまりの事に二回いってしまった。
服は雨合羽のような青い服。スカートはポケットがある。全体的に青。真っ青。顔も青く……、見えない。
よく見たら逆に少し赤い。何故だ?
ややぎこちない動きで「きょ、今日は良い天気だね!」
――ん……? あ、人見知りって聞いた事があるぞ。だからか?
俺は昔、人間が好きだが人見知り。というのを見たことがある事を思い出した。恐らくそれだろう。
刺激しないように出来るだけ笑顔で「ああ、俺は未知 神楽だ。良い天気だな。滝が綺麗だ」最後に滝を見てそう言った。
他の河童は俺とにとりの話している所を見ている。
「そ、そうだね! アハハ……」ちらっと後ろの河童達を見る。後ろの河童達は何かのジェスチャーかは知らないが、頷いている。
――なにこれ。明らかな壁を感じる。
そうだ! 胡瓜をあげよう。そうすれば仲良くなれるはず。
我ながら子供っぽい事を考えるもんだ。そんな事も考えながら、手を後ろにやって、胡瓜を創造する。
そしてその胡瓜を「そういえば、こんな物を持っているんだ」芝居がかった動きでにとりに見せる。
胡瓜を見ると目の色を変えて「胡瓜!」叫んだ。
にとりの後ろで『バシャッ!』勢いよく水を弾く音が聞こえた。
胡瓜を左右にゆっくり振って「これが欲しいか?」問い掛ける。
左右に動く胡瓜の動きに目を合わす。よだれまで垂らして「欲しい……! くれるの……?」期待に満ちた目。
一気に引っ込めて「あげなーい! 俺のだから」ニヤリとして意地悪する。
にとりは顔を真っ赤にして「意地悪! くっそー!」地団駄を踏んだ。
――はははっ! 楽しい! なにこれ!
久し振りに楽しめた。ので、あげることにする。何個でも創造出来るし。
「嘘だよ」そう言って笑いながら胡瓜を手渡す。
その胡瓜を受け取ったにとりは『パアァ』っと効果音がつきそうな程の満面の笑みでお礼を言ってくる。
それを肩を軽く叩いて返す。
手にいっぱいの胡瓜を出し、後ろの河童達にも聞こえるように「胡瓜は沢山あるからお前達も来いよ!」叫んだ。
滝の中からも更に数十人出てくる。
あっという間、俺は三十人位の河童に囲まれた。その全ては女の子である。何故なのかは知らない。男が俺しかいない。楽園か? シャングリラか? パライゾなのか!? これじゃ俺、外の世界に戻りたくなくなっちまうよ……。
霧が出てきたような錯覚を覚えるが、そんなことはなかった。
創造をフル活動して、胡瓜を出す。
「おお、貴方が神か……」
「凄い、まるで胡瓜が彗星のようだ……! いや、でも違うな、彗星はもっとこう、バァーと動くもんな」
「なに? 胡瓜の宝石箱?」
「間違ってはいない! 胡瓜うわぁーい!! 盟友大好きー!」
――お前らは何を言っている。
つっこみに疲れるので無視する。何人か抱きついてきた。
やはりペッタンこ。どう抱きついてもペッタンこ。神言『当ててんのよ!』も涙目だ。当たらない。逆に痛い。鍵が。刺さる。おお。痛い痛い。
混乱。
錯乱。
発狂しているようだが、いたって冷静だ。今も無表情――少しにやついてるかもしれないが、概ね無表情。多分。
その後、十分で河童達が満足して、俺から離れる。
口々に礼を言われて、私達のアジトに案内するよ! と言われて今はアジトにいる。
その中は工場のようだった。機械臭いとか、油臭いとかはない。何故か無臭だ。
俺が転生する前にあった工場の中とあまり変わらない。と思う。働いた事はないからわからないが。
扇風機の破片というか、分解した物があったりと、ごちゃ東風谷している。
――我ながら最悪な親父ギャグをしたもんだ。これは酷い。
自虐も程々にして、見学を再開する。
やはり分解された跡とかが凄いな。たまに服もあったりする。あれは何か? と聞くと「私達が着ている、光学迷彩だよ」あっけらかんと返された。
光学迷彩って……。
あと、見た目が銃の物が二つもあった。それが気になり、思わず聞いた。
「これ……、銃じゃないか?」
「お! 知ってるのかい盟友!」
知ってるも何も、その時代に生きてたし幻想郷にくる前敵が持ってたしな。
なんでも、少し前、無縁塚に行ったら落ちていたらしい。
それを持ち帰って解剖した挙げ句、魔改造したのだと。
見ると、色は金、もう片方が銀。色を変えたらしい。残念ながら、種類、どんな強さとかは知らないが、マガジンに弾は入ってない。曰く、金が妖力。銀が霊力なのだと。都合が良い。運命を感じる。レミィじゃないけど。
いるなら持ってって良いよー。胡瓜をかじっている河童達から許可を得て、礼を言ってからボックスに入れた。
気が付けば今は午後一時。そろそろ次の場所に行かないと駄目だ。また何時でも来れるし。そう思い、河童達に、また来るよ。と言ってから玄武の沢を後にした。