神楽、ルーミア、三月精の妖怪の山探検
「旦那様、次は何処に行きますか?」
俺の背後でルーミアの声が聞こえた。
――どこにしようか……。妖怪の山でいいか。
振り向き、いつもの無表情で答えた。
「山にピクニックだ」
それを聞いたルーミアは、口に手をあて、上品に、クスッ。と笑い。
「ならお弁当を用意しないと駄目ですね」
「お弁当ー!」
サニーがお弁当と聞いて、喜び、跳び跳ねる。ルナとスターがサニーを窘める。別にそれくらいなら構わないんだが。
まあ、良いか。
……考えたら弁当を作る所が無いじゃないか。創造で済ませよう。
皆になんのおかずがいいか、どういう風な弁当が良いかを問い、創造した。弁当をボックスにいれて目の前にある――いつのまにか目の前にまで来ていた――妖怪の山に入った。
富士山よりも高いだろう、山だ。
ポカポカ陽気のピクニック。五人で飛び、山をのぼっていく。
「おい! 貴様! 何者だ!」
――あ、デジャブを感じる。前にもこんな事言われたな……。いやはや、懐かしい。
懐かしさに涙がちょちょぎれそうな感覚――実際はなんとも思わないが――を自分の中から感じるようだ。
上を見ると、天狗がいた。
そいつは俺達に剣を突きつけている。
その天狗を見て。
「害は出さない。お前達が文字通り、刃向かわないならな」
「知らん! ここに来たことを後悔しろ!!」
あの時と同じように、獲物を刈り取るように鋭く目を細めて、俺に向かって手に持った剣を降り下ろす。
――だが、同じことがあるように、変わっていることもあるんだよなぁ。そう。
その時。
「なにを言っているんです? 後悔するのは貴方ですよ」
言って、自分の身長位ある、闇の大剣を何処からか取りだし、瞬時に近付いた後。首の皮を薄く斬って。
「私の夫でもあり、旦那様でもあるこの方に指一本でも触れてみなさい……」
殺す。簡潔にそれだけ。たったそれだけの事が天狗には死神の言葉に聞こえるんだろう。自分の命はこの女に握られている。そんな風に。
皮を薄く斬られた首から一筋の赤い液体が服に付着する。さっきまで、俺達を殺そうとしていたのに、何があったのかわからないまま、今は自分が殺されそうになっている。
それを感じたのだろうか。天狗の顔は絶望に染まる。
俺からはルーミアの顔が見えない。だが、後ろから見えるルーミアは、禍々しい妖力を放っている。
三月精はそんなルーミアを怖がって、俺に抱き付いてくる。安心させるように、抱き返す俺。
天狗は情けない声を出し、汗を垂らす。
「やめなさい。ルーミア。この子達が怖がってるだろ?」
威圧感ばりばりのルーミアに、俺が窘めた。
――前来たとき、天魔とあの鴉天狗とかって会ったっけかな……。会ってないなら全員初対面も同然じゃないか? ……、面倒くさいな……。
思い出しながら、天狗を見る。地面に降りて、へたりこんでいた。
ルーミアは謝り、定位置に立つ。
俺は天狗に近付いた。
「さて、俺はこの山を歩き回りたいだけなんだ」
飛んでるけどな。冗談めかして付け加える。
すると、天狗は顔を手で覆い隠し、こう言った。
「まるで昔、鬼と戦い、圧勝した男のようだよ……。お前は……」
――ん? こいつ、昔、話を聞かなかった奴か?
そう言えばあの天狗も一本下駄で黒い翼だったな。
俺は天狗をちゃんと見る。
一本下駄で黒い翼。しかし、あの時の天狗よりも、翼が一回り大きい。
無表情で、顎に手をやり、問い掛ける。
「お前……、話を聞かなかった天狗か? 一応昔、鬼三人と戦った事はあるが……」
ん? 声を発して、俺の顔すぐ近くまで来る。もう首の傷は治っていた。
じーっと、俺を見る。少し経ち。
一気に顔を青くして後退る。
「ウゲェーッ! あの時の人間!?」
俺ってそんな怖いか? 確かに天狗を気絶さした挙げ句、鬼と三連勝したけどさ……。
あ、思い当たる事ばかりじゃないか……。
でもこんな怖がらなくて良いと思う……。
天狗を見る。
しゃがんで頭を手で隠し、黒い翼は体を包み込んでいる。守っていない場所はない。と言いたげに真っ黒になって、ガタガタと震えていた。
――酷くないか? こいつに酷いことはしてないと思うんだが……。ただ気絶さしただけで。
鬼に三連勝した事が恐怖の対象になっていることを俺はまだ知らない。
なんとか落ち着かせて、今、その天狗の案内で住んでいる所に連れてきてもらっている。
人里とは違い、機械があったりと、ここは発達していた。
河童の技術なのだろうか。俺が転生する前の時代とは違い。まだ未発達だが、調和していた。自然と科学が両立し、生きている。
一際大きい屋敷に入って、ある扉をノックして、言った。
「天魔さ――」
「入るが良い」
女性にしては少し低い声が聞こえる。男のような低さではない。妖艶ながらも、美しい声色だ。
天狗が「失礼します」と言って扉を開く。
俺とルーミア、三月精も言い、入る。
その中は高そうなソファーがテーブルを囲み、テーブルはガラス。床は大理石だ。高級。
どこかの社長が使いそうなふかふかの椅子に腰掛け、机に置いてある無数の書類を忙しなく片付けていた。
髪は艶やかな黒で、目は朱。鼻立ちも整っており、こぶりな口。黒いスーツのような服。体の線は細い。身長は……、霊夢と同じくらいだろうか。
その天魔と呼ばれる女性は椅子から立ち、俺達に向かい合った。
俺は天魔を見て、目を疑い、驚愕した。
――美乳だ!! 大きくもなく、小さくもない! ちょうどいい大きさのきれいな形だ!!
スーツからでもわかる、その形。心底どうでも良いような事だが、初めて見た美乳に少し、いや。凄く取り乱してしまった。
顔はいつも通り無表情みたいだが。
「ん? 妾になにかついておるか?」
俺がずっと見てることに気付いて、天魔は疑問に思いながらも自身の体を見ようとする。しかし、背中は見えないからか、体を回転させている。
――俺、背中は見てないんだけど、何故背中を見ようとするんだ……? しかし、可愛い。
それでも見えなかったようで、天狗に「お主、妾になにかついておるか少し見てくれ」言って、またまわる。
腰まである黒髪が、少し腰から浮き、遅れて、動いた頭と共に動いた。
まわる天魔を見て、「いえ、なにもついておりません」と、床に膝をつけて言った。
その後、「それでは、私はこれで失礼致します」出ていった。
今、この場は、俺、ルーミア、三月精と天魔だけになった。
天魔は「少し見苦しい所を見せたな。すまない。座ってくれ」テーブルを手で示し、促した。
俺達は大人しく座り、自己紹介してから、話を切り出した。
軽く頭を下げて「俺は未知 神楽だ。家を建てる場所を探している」
俺とは対称的に深々と頭を下げ「私は旦那様の嫁で、メイドをやっております。ルーミアです」
片手をいっぱいいっぱい挙げて「私サニーミルク! メイドさんをやってる!」
次に細い太股に、小さい手を置いて、礼儀正しく「私はルナチャイルド。同じくメイドをやってます」
最後に、落ち着いた雰囲気。しかしどこかチャラく、髪を右人差し指でくるくると遊びながら「私はスターサファイア」
天魔もソファーに座って、姿勢と服を正し「妾は天魔。天狗を統べる長をやっておるよ。よろしく頼む」そう、頭を下げた。
流石、長だけはある。佇まい、気品が違う。
なにより――胸が違う。
――いや! そこじゃない! どうしてそこになるんだ! 俺は! さっきからそればっかりじゃないか!!
またもや胸に視線がいく俺。必死に自重して、なんとか視線を天魔のむ……だから、違う。目に合わせる。
訝しげに俺を見ていた。
ルーミアも俺を見ていた。ジト目で。
しまった。調子にのった。真面目にやろう。
そう思いながらも、チラチラと胸にいく俺だった。
知らない天魔は首を傾げている。
そろそろ本題に入ろう。茶番が過ぎた。今から本気出す。
そんなニートじみた事を考え、漸く本題に入った。
「天魔、俺は館を建てようと思っている。だが、場所が無いんだ。なにか良いところないか?」
尋ねると、天魔は神妙な顔で「ふーむ、建築場所とな? なら妖怪の山をすすめる」
だが。と付け加え「他の天狗達がなんと言うか……。お主、未知 神楽と言ったな?」
少し考えて。「まあ、いいじゃろう」と、許可してもらった。
しかし、やけにあっさりだな。説得なんかはどうするんだろうか。
その事を聞くと「お主『最強の半人半妖』じゃろ? なら誰も文句は言わんさ」そう言っていた。
天魔は結構長生きしてるだろう。なら知ってて当然だ。それで天狗が言うことを聞くか? でも……、天魔の言うことには逆らわないか。
住めたらそれで良いしな。
やはり最後はそこに行き着く。
長生きしていたら考える事があまり意味を為さない事がわかる。
長生き故に交友はあるからこういう時は相談出来るし、戦いだって圧倒的。只でさえこの世界は平和なんだ。自然と考える事が必要な場面は限られてくる。
まあ、平和が一番だがな。
だが、たまには刺激がほしい。
天魔は腕を組み「住むなら『九天の滝』近くの場所が良いのではないか?」と言ってきた。
九天の滝! そういう所もあったな……。河童が住んでるところだったっけか……。それ以外はあまり知らない。
そこに建てよう。河童とかが面白そうだし。
一つ頷いて「うむ、じゃあそこに館を建てていいか?」
「よいよい! 歓迎するのじゃ!」
あと、天狗全員に連絡をしておくからの。そう言うや否や、黒電話のような無線を取り出して「今から妾の友人でもある、最強の半人半妖! 名を、未知 神楽はここ、妖怪の山の一員となった!! これから攻撃した者ないしは、敵対した者を厳重に処罰する!」大声で警告にも似た言葉を放った。
すると、外から全く同じ声、言葉が聞こえた。
黒電話に向けて言うと、それが何らかの形で妖怪の山に響く。と。
でもそれなら関係ない事も拾ってしまわないか? なにかスイッチがあるのか?
どうでもいいや。
九天の滝を見に行こう。若干暗くなってきた。
そう思って、窓から外を見ると、夕日があり、山をオレンジが侵食している。もうじき、闇のように暗くなるだろう。
暗い山は危険でもある。俺とルーミアは無事だが、三月精はわからない。
急ぐ必要がある。それにご飯を食べていない。これは由々しき事態だ。
天魔に断りをいれて、九天の滝に飛んで向かった。
滝がある。それも、ただの滝ではない。規模が違う。
轟轟と滝の音が鳴りながらも、夕日が滝をオレンジに染め上げ、彩る。
見ている場合ではない。早く探さなくては……。
自制して、どこか良い場所が無いかを探した。
体感、十分程飛び回り。少しの広場を見つける。紅魔館一つ建てても、もうちょっと余りがある。
――ここで良いか。むしろここしか無いな。そろそろ疲れたみたいだし……。
ちらっと三月精を見る。サニーが欠伸をしていた。
ルナ、スターはまだ大丈夫みたいだが、そろそろ辛いだろう。
ルーミアはいつもどおりだ。ルーミアに死角は無し。流石だ。
俺は急いで創造する。が、想像が出来ない。忘れていたのだ。どんなのにするかを。
必死に考える。
なにが長生きしていたら考える事が無い。だ! 三時間と経たずに考える事になったじゃないか!
結局、出来たのは、考えていた館なんかではなく、どっちかというと、城に近い物が出来てしまった。
煉瓦で作られていて、しかし、その全体的な色は清爽な白。屋根の部分は青。
見るのもそこそこに、入って、ボックスに入れていた弁当を食べて、さっさと寝てしまった。