宴会と諏訪子の異常
「アリス、今度見つけたら家に寄らせてもらうよ」
「ええ、その時は歓迎するわね」
お互いに手をふり、俺は離れ、アリスは人形を操り、置いていた皿をとる。
さて、次はどこに行こうかな……。
俺が迷っている時、急にスキマが開いた。
真下に。
――紫だな。相当焦ってるか急いでるかのどっちかだな。
紫は俺に『いきなりスキマに入れる』なんて事はしない。それをしたということは、なにか、急を要してるのだろう。
目玉が俺を、ギョロリ。と見るなか、落ちていく。
着地した場所は、守矢神社。居間の廊下。
目の前にある、襖を開く。
居間にいたのは、紫、神奈子、藍、そして、何故か『お腹の大きい』諏訪子だった。
「す、諏訪子? どうしたんだ?」
「神楽……」紫は少し間を持ち。「おめでたよ!!」一気に花を咲かせたように言った。
――おめでた? おめでたって……、子供?
実感が湧かなく、呆然としていた。
しかし、おかしい。あれからまだ一ヶ月も経っていないぞ……?
それを言うと。
「神って無機物とも産めるし、その上結構早くお腹の子も大きくなるんだよ?」
知らなかったの? これも神力が成長を促してるんだよ。言って、見た目不相応のお腹を愛おしそうに撫でる。
「ゆ、紫、嫁皆連れてきてくれ!」
わかったわ! 笑顔で嫁達を連れてきた。
「あ、あれ、私宴会してたわよね?」
「ここどこ?」
「なにか神聖な空気が漂っていますねー」
「神社……、のようです」
上から、レミィ、フラン、美鈴、ルーミアが来て、諏訪子を見て、黙りこむ。少し遅れて、永琳と輝夜も出てきた。
「いきなりどうしたの? ゆか――」
「お邪魔するわ……、ん……?」
皆、諏訪子のお腹を見て、驚く。かく言う、俺もまだ驚いている。
――俺が……、お父さんになるのか……。まだ信じられないな……。
徐々に大きくなる所を見たなら分かる。頷ける。でも、いきなり大きくなっている所を見たのだ。まだ夢のようだ。それに神は無機物とも産めるし、出産が人間の比じゃない。
「みんな、諏訪子が神楽の子供を孕んだわよ!」
少し沈黙して、一気に歓声を上げる。悔しそうにしながらも。
「おめでとう!! 諏訪ちゃん!」レミィが言って、「私達の子供でもあるのよ! 先を越されたのは悔しいけど……」紫。「わかるけど、精一杯可愛がらなくちゃ!」最後に輝夜がしめる。
嫁達が祝い、騒いでいる。その中でも、俺は諏訪子をずっと見ていた。
――こんな小さいのに、産めるのか? 大丈夫なんだろうな?
俺は一人、諏訪子の身を案じていた。嬉しいんだ。跳び跳ねる位、嬉しい。が、諏訪子になにかあるかもと思うと……。しかし、素直に喜ぼう。神なんだ。大丈夫だろう。
不安を拭い、諏訪子を抱き締める。
「神楽がお父さんになるんだよ? えへへ……、私、今凄く幸せ!」
今まで見た中でも、最高の笑顔を浮かべて、お腹をさする。
「諏訪子……、ありがとう……」
礼を言って、キスをする。
はにかみ、再度笑顔をその可愛らしい顔に出した。
拍手が起こる。
この場は、幸福。そんなものでは足りないなにかがあった。
皆帰って、俺と諏訪子、神奈子が神社に残った。
今は、諏訪子と一緒に居たかった。神奈子は、お邪魔ものは退散するよ。そう言って、自分の部屋に行った。
「いつ、産まれるんだ?」
「わからないけどすぐだよ。明日も考慮にいれた方が良いんじゃないかな?」
そ、そんな早いのか……? 逆に怖いな……。
腹をいまだに撫でている諏訪子を見て、正座しながら「諏訪子は……、大丈夫なのか? ほら、産むのに――」
そこまで聞くと、手を止めて、俺を軽く睨み「小さいから産めるのかって言いたいんでしょ? 女は強いんだよ?」言った。
まあ、そこまで言うなら信じよう。俺にはそれしか出来ない。
二日後に出産を迎える。
その前は、安静にしないと駄目なのに、神奈子は作れないから私がご飯を作る。と言い出したり、掃除しなくちゃ……、うっ。気持ち悪い……。等で吐きに行ったり。
大抵出来る俺に任せたら良いのに。多分久しぶりに俺がいるもんだから張り切っているんだろう。お母さんにもなるしな。
丁重に休ませて、俺が全てした。神奈子は手伝ってくれていた。しなかったら怒っている所だ。
出産は永遠亭で永琳に任せて、俺と嫁全員が待っていた。
「もう、レミィ。歩き回らないでよ」
「そう言うパチェだって、本逆さまよ?」
言う通り、レミィは歩き回り、パチェは見ている本を逆さまに持っている。
ルーミアは目を瞑りながら立っており、美鈴はさっきから中国語を喋りながら武術の舞。
輝夜は忙しなく宝物を見て、フランは何故か立ったり座ったりを繰り返す。
神奈子は酒を呑んで落ち着かせ、紫は優雅にお茶を飲む。しかし、その手は震えて、カチャカチャと喧しく鳴らしている。
かく言う俺も、さっきから忙しなく足を動かしている。
赤ん坊の泣き声が聞こえる。全員が一斉に扉を見る。
扉が開く。そこからは、赤ん坊を抱いた永琳が、にこにこと微笑みを浮かべていた。
詰め寄り、赤ん坊を見て「永琳! その子がそうか!? 諏訪子は!?」半ば叫ぶように聞いた。すると、微笑みを絶さず、「共に無事よ。諏訪子ちゃんも早く抱きたいって言ってたわ」続けて、「今、諏訪子ちゃんは中で着替えてるわ」言った。
可愛い! や、女の子だ! 等、色々聞こえる。
俺は心の底から安堵して、赤ん坊を抱く。
――そうか、本当に、父親になったんだな……。
子供を抱いた事で実感が湧く。これが新しい命。
俺と嫁達の娘。
髪が僅かに生えていて、その色は鮮やかな緑髪。女の子だった。
永琳が出てきたところから、何時もの服を着た諏訪子が来る。
お疲れ様、女の子だぞ。そう労い、まだ首の据わっていない娘を気を付けて全員に見せながら、「……、この子の名前は……、早苗だ!」名前を発表した。
あれから九ヶ月。俺はずっと守矢神社で早苗、諏訪子、神奈子と住んでいた。たまに嫁達が紫に連れられ遊びに来たりもする。
早苗は『小学生』位の大きさになり、舌足らずながらも喋るようになった。
最初はおかしい位の成長の早さに、俺は驚いた。しかし、諏訪子から、『神の子供だよ? 出産じゃなく、概念として、生まれる事もあるらしいし、生まれた直後から、成人の姿をしてる事もあるんだって。お父さんが神じゃないからこうなってるんじゃないかな?』と、気楽に捉えていた。
まあ、別に娘であることに変わりはないからいいんだが……、こう成長が早いと学校に連れていけない。
そこで、俺は慧音の寺子屋を思い出した。しかし、守矢神社は外にあるのに、寺子屋に通うなんて無理な話だ。
そんな話を紫が聞いていたみたいで、私が毎日送ってあげるわよ? 娘を見送るのも母親の仕事だもの。なんかで、送ってもらうことが決まった。
紫から、新しい異変が起きて、渋々霊夢が解決に行った。という話を聞く。しかし、まあ、俺は異変を解決しに行く気はさらさらない。言ってしまえば、今は嫁達と早苗を支えたいのだ。
高校生、もしくは中学生位まで大きくなったら俺は幻想郷に館を建てる。
それが俺の目標だ。
結局異変も遊びに近いものだしな。それを俺が解決しに行く。という事ほど可笑しいものはない。
あと、永遠亭に月から逃げてきた兎が住むようになったらしい。名前は聞いてないが、てゐか鈴仙。もしくは二人ともだろう。
それから四ヶ月後。
二ヶ月前に宴会の異変があったらしい。
今また、紫から聞いた。『異変が起きそうだったけど、永琳達に結界の事を言ったら安心していたわ』と。
永夜抄だ。
元々は、兎から「満月の晩、月の使者が訪れる」ということを聞いたらしい。それを俺や、紫他、嫁達に相談したのだ。「私達は月で、罪人になっているの。だから満月の日は、異変を起こそうと思うわ」それを聞いた紫が、博麗大結界の事を話した。
それを聞き、永琳は安心して、「なら大丈夫ね」
それで異変は起きる前に解決した。
大体こんな感じだ。
まあ、原作の永琳は紫と仲が良いわけではないからな。
早苗はもう小学生『高学年』位になってる。相変わらず成長が早い。
『ある程度大きくなったら成長が止まると思うよ。私達みたいに』諏訪子は涙目で、神奈子は笑いながら言っていた。諏訪子も思うところはあるんだろう。そっとしておこう。
更に八ヶ月後。
今は二千五年、五月。
原作で言うと、花映塚。
幻想郷中に不自然な花が咲き、幽霊が大量に現れる。しかし、これは放っておいたら死神が仕事をするから、異変は治まるらしい。
早苗ももう、おおよそ、中学生の三年生に見える位の容姿になった。寺子屋を辞めて、表向きは巫女として働く事になり。
俺は諏訪子、神奈子、早苗に「幻想郷に住居を構える事にするよ。どこにするかはまだ決めてはいないが、紫なら知ってると思う」諏訪子と神奈子はその事を知っていたから「そっか。まだ一緒に居たかったな……」だけで済んだが、早苗が少し大変だった。パパ行かないでよ……。と悲しそうに言ってくるのだ。何度やめようかと思った事か。
今更だが、俺は親馬鹿でもある。だから妹紅にも結構甘いのだ。
沈痛な思い。断腸の思いで幻想郷に帰ってきた。