異変、紅い霧。
今、俺はスペルカードを考えている。
まず、レミィとフラン、ルーミアの武器を参考にした、剣符『ジュワユーズ』
これは一本の剣が俺の手に現れ、それを振ると、霊力の弾が三発出る。三発なのは振れば出るからだ。適当に振れば出る。実質なにもしなくていい。
その次は、パチュリーと紫で考えた魔法のスペルカードだ。次元『マジックファンダジー』
主に次元魔法を意識した。
ボックスが出て、そこから色とりどりの弾幕が列を成して出てくる。そして一斉に動いて色とりどりの弾幕が魔方陣を作り、少し大きめのビームが放出される。あまり使い勝手は良くない。だが魔方陣はロマンだ。勿論ビームも。
その次は永琳と輝夜で考えたスペルカード。
御伽『人妖の英雄』
大量の青い霊力弾が俺の側に出る。相手の背後に大量の赤い妖力弾が霊力弾と向かい合うようにして出てくる。そこから、霊力弾と妖力弾がぶつかり合うように高速で相手を挟み撃ちにする。最後に残るのは大きくなった、半分赤、半分青の大きな弾。それが相手に襲いかかるというスペルカードだ。
勿論、青は人。赤は妖怪。最後に出来る、赤と青の霊妖力弾は俺をイメージした。
そして、最後に皆で考えた。
人妖神『二億四千年の圧縮』これは耐久スペルカード。
簡単に言えば、名前通りの俺が体験した事を圧縮に圧縮した物だ。
最初は凄く隙間がある、誰でも避けられる弾幕を出す。これはこの世界に来た時の俺の弱さをイメージした。
その次から、段々と霊力弾は増えていく。剣の形をして、二対の剣が打ち合いする。これはある親友との打ち合いをイメージした。その次は剣が爆ぜて一瞬だけ、なにも無くなる。これは核爆発をイメージ。その次は洩矢の鉄の輪らしきものと、御柱らしきものがぶつかり合い、暴れる。これは諏訪大戦だ。言葉では言いにくいが、結構密度がある。
ここから、段々と移り変わりが早くなる。
幽香の妖力ビームを意識したものが左右に出て、勇儀の三歩必殺。順番に妖力弾、大きい妖力弾、凄く大きい妖力弾が直線に飛ぶ。
その後、西行妖の枝を妖力で再現して、最後にフランのレーヴァテインとレミィのスピア・ザ・グングニルのようなものが相手を襲う。これで終わりだ。これを耐えると俺の負け。ゲームと違って避ける所なんか沢山ある、穴だらけのスペルカードと言えるだろう。むしろ肉弾戦派な俺にとって、弾幕を考えたりするのは苦手なもんだ。ここまで作れたのも嫁達のおかげだろう。
まあ、基本はジュワユーズで戦いそうだ。
それはさておき、紅魔館の皆も一通り作れたようだ。
これで、あとは異変だな。そう言えばあの腋を出した紅白の巫女はいるのか? むしろ、今何年だ?
外は既に夜だ。永琳達は永遠亭。諏訪子達は守矢神社に。紫も帰ってしまった。
残っているのは当然、紅魔館の何時ものメンバーた。
何時も通り、談笑して、食事をして、パチュリーとレミィ、フラン、美鈴、ルーミアでやることやって寝た。
暑苦しい中、目をさます。起きて気づいた。六人で寝ていたのだ。そりゃあ暑苦しい。全員を起こし、服を着替えて食事をする。その時、レミィが言った。
「お兄様、私、紫から聞いた『異変』を起こそうと思うの」
「そうか、やりなさい。でもあくまで遊びだからな?」
「ええ、ありがとう。お兄様」
若干空気が、沈黙が重い。何故だろうか。
しかし、あの巫女と魔法使いが来るのか……、隠れていようかな……。戦いたくない。
「レミィ、皆も聞いてくれ。異変を起こした時は言ってくれ。隠れるから」
「なんで?」
「それは俺が勝っちゃうからだよ。それに、レミィ達の強さも知りたいし、ルーミアも本気で相手をするなよ? 終わって、宴会には顔を出すから」
少し、いや、凄く嘘臭いか?
言った後で後悔した。これ以外理由が思い付かないからだ。
別に理由は無いんだがなぁ。何故か異変中のあの二人には会いたくない。
「それもそうね! 流石私達のお兄様!」
なにが流石かは知らないが、良かった。杞憂だったようだな。
両手を合わせて、少し熱っぽい視線を送ってくるレミィ。その姿もまた、可愛らしく、愛らしい。
「それで、レミィ? どんな異変をおこすの?」
パチェがテーブルに肘を置き、頬を手にのせ、レミィに問い掛けた。
「赤い霧をおこすのよ。理由は……、外に出れるから。でいいかな?」
凄い適当だな。まあ異変をおこすのはそれくらいのほうが良いかもな。
俺は人差し指を顎につけ、斜め上を見ているレミィを見てそんなことを思った。
すると、そんなレミィに少し呆れたのか、パチェは溜め息を吐き、あらそう。と言って、本を開いた。
「私は何時も通り門番をしたらいいんですね?」
次に美鈴がこちらに問い掛けてくる。
「俺は今回、一切介入はしないつもりだ。それはレミィと決めてくれ」
俺がキッパリと、ハッキリそう言うと、珍しくレミィが猫なで声で言ってきた。
「えぇー? お兄様冷たいー! なにか助言とか頂戴……ね?」
そう言われてもなぁ……。言うこと無いし……。
無い頭を絞り出して言えるのはこれしかない。
「相手は人間。人間じゃなくてもだが、ここでは殺しは無し。異変だってスペルカードルールだって全て遊びだ。それを心しておけ。それ以外は言えない」
「むぅ……、わかったわ……。お兄様のけちんぼ……」
それを聞いて、レミィは口を尖らして少し拗ねた。
俺はレミィの頭を撫でて、機嫌をとる。すると笑顔で抱きついてきた。
ちょろい。ちょろすぎて大丈夫かと心配になってくるが、しかし、俺の妹で嫁だ。そこらへんは大丈夫だろう。いざとなったらルーミアもいる。
「あのー、結局私はどうしたら……?」
言ってなかったな。そのまま忘れる所だった。
レミィは俺から離れて、頬杖をする。
「何時も通り門番で良いわよ。スペルカードで戦いなさい」
「はーい!」
元気よく返事したところで、今度はフランがどうすれば良いかを聞く。
全員が当日、どうすればいいかを綿密に会議をして、今日を終わる。
して、当日。
幻想郷中は紅い霧に包まれた。あるものは解決に行き、あるものは解決を手伝い、またあるものは解決に来た者を妖しい笑みで待つ。
そんな中、俺はというと。
「あ、この団子美味い。美味しいなー、妹紅!」
「うん、美味しいね!」
娘である妹紅と呑気に、陽気に団子を食べていた。
咀嚼し、飲み込む音が聞こえた後、妹紅が聞いてきた。
「これってレミィちゃんがしたんだよね?」
「ああ、そうだな」
「神楽行かないで良いの?」
俺としてはいつからちゃん呼びするほどの仲になったのか聞きたいが、良く良く考えると妹紅のが歳上だったな。失念していた。
「んー? 俺は今回、介入しないことにした。あれはレミィの威厳にも関わる事なんだ」
「ふーん、難しいもんだね」
「だなー……、あー、ほのぼのとして良いなぁ」
「紅い霧が出てるけどね」
それは気にしない方向で。しかも見慣れた紅だしなぁ。なんとも思わん。しかし、本当に癒されるな。妹紅って癒し系だったんだな。知らなかった。
と、そんなことを考えながら食べてたら無くなってしまった。長居するのもなんだ、出るか。
「店主、幾らだ?」
「はい、三門になります」
三門って安いのか? 高いのか? よくわからんな。
外では円だったしなぁ。
三門を渡し、店を出る。
「妹紅、次、どこいきたい?」
「んー……。あ、私の家に来る?」
なんと、家があったのか。そういえば小傘とぬえはどこに住んでるんだろうか。まあいい、今は妹紅がいるんだ。無粋だろう。
「他に無いなら行くか、どこにあるんだ?」
「竹林の方にある。案内人をしてるよ」
案内人。つまり仕事か? 偉いじゃないか。流石は俺の娘。
「おー、仕事してるのか? 偉い偉い」
「んふふ……」
そう思い、妹紅の頭を撫でてやる。するとくすぐったそうに笑い、照れながらも、こっちだよ。と、案内してくれる。
竹林に入った。竹が高々と、地面から生え、天へとその身を伸ばす。しかし、紅い霧が太陽光を遮り、そのせいで少し元気がないように伺えた。その不鮮明な竹林の中を、妹紅は迷いなく、足を前に動かす。俺なら迷う自信がある。ていうか今、この場に妹紅がいなかったら、迷った挙げ句、全てを破壊するかもしれない。こんな竹、壊してもまた生えるだろうし。
八十%位の嘘を誰ともなく、考える。
歩いて十分。一つの木製建築の家があった。
そこに入り、俺に入って。と促す妹紅。
「お邪魔しまーす」
「ふふ、神楽、どうしたの?」
「いや、なんか緊張する」
「ふふふっ!」
なんか笑われた。仕方ないだろう? 何百年も紅魔館に入り浸っていたんだ。緊張するさ。
手で笑う口を隠す妹紅。自分が笑われている事で少し居心地悪そうにする俺。
「神楽、家、どう?」
「どう? なにがだ?」
「ほら、生活感無い。とか、女の子らしくない。とか、あるでしょ?」
そう言われ、家の中を見回す。真ん中に囲炉裏。その周りに四つの座布団が敷かれて、端に布団、その横に棚がある。
――……殺風景?
少なくとも、俺にはそう見えた。これが普通なのだろう。だが、俺は館に住んでいた。よくよく考えると、俺って結構豪華な所に身を置いてるのだ。そんな俺から見たら、殺風景他ない。
「んー、殺風景?」
「あはは、神楽ならそういうと思ってたよ。たまに寂しくなっちゃうんだ……」
ポツリ、ポツリ。と妹紅が不安を口から漏らす。
「私も千年近く生きてるでしょ? 時には無力感に苛まれた時もあったし、妖怪に八つ当たりしたこともあった。神楽に会えなくていらいらしたし、恋しかった」
黙って相槌を打ち、聞く。
ん? 恋しかった?
「この前の事で気付いたの。好きなんだって」
え? あれ? なんか流れがかわったぞ?
この前ってあれだよな。気づいたら裸になってたやつ。
「ねえ、神楽。あのときみたいに、もう一回、愛して?」
パチリ、パチリ。とシャツのボタンを外す音がする。俺は今の言葉を頭の中で反芻させていた。
え、え、なに、また襲われるの?
そう考えてる間も、どんどん服のボタンを外していく妹紅。いつのまにか大人になり、その色っぽい仕草や、動き、妖艶な雰囲気に俺は見惚れてしまっていた。
「神楽、好き」
そう言って、俺を押し倒す。その背中の衝撃で我にかえる。
――きゃーおそわれるー! 誰かオタスケヲー!
俺と妹紅の唇が重なりそうになったとき。
「しよ、かぐ――」
「妹紅、はい……、る……、ぞ?」
沈黙。黙り。空気が死んだ。
入ってきたのは。
腰までの長い、青のメッシュが入った銀髪。頭には六面体と三角錐の間になにかの板を挟んだような形の青い帽子。その上には赤いリボンがある。 青い服。袖は短く白。襟は半円をいくつか組み合わし、胸元に赤いリボンをつけている。スカート部分には幾重にも重なった白のフリフリがついている。
上白沢 慧音だ。
――良いところだったのに……。
少し、いや、凄く残念という感情が俺の頭を支配する。
あの時位から吹っ切れたように、毎晩――とはいかないが、二日のうち、嫁達としている。
「な、な、ななな! なにをしてるんだ妹紅! 早くそいつから離れろ! なんだ? 弱味を握られているのか!? だからこんなことをしているんだな!? よし、貴様! そこになおれ!!」
「はい、すいません。全ては私の勘違いでした。はい」
「あはは、ごめんね、神楽。この人は上白沢 慧音って言うの。私の友人だよ」
「そんな謝らなくていい。確かに少しざん――げほ、まあ、反省してくれたらいいよ」
危なかった。もうすぐで残念だったって言ってしまう所だった。
なにと勘違いしたのか、激怒した慧音をおさめるのは骨が折れた。今は慧音が正座し、顔を青くしている。
その言葉を聞くと、慧音は一層縮こまる。申し訳なさそうにして、もう一度、丁寧に謝った。
「貴方が妹紅の言っていた、英雄か。英雄に凄い失礼な事をした……。改めて名乗ろう。私の名は上白沢 慧音。人里で寺子屋をやっている」
「ふむ、俺ももう一度名乗っておこう、礼儀だしな」
そう言って姿勢を正し、名乗る。
「俺は未知 神楽。英雄は昔の話だ、あと、もう気にしないでくれ」
「これはご丁寧にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
「いえいえ!」
「いやいや」
「もうっ! いつまでそうやってるのっ!」
無限の返しが行われていた所を妹紅が止めてくれた。
しかし、こうも生真面目だとこっちも調子狂うなぁ。
「いや、実際、私の歴史にもあるんだよ。貴方の話が」
「ほう。だがもう二億年以上も昔だ」
そう、二億年以上も前なんだ。そんな前の事でずっと英雄だ英雄だと持て囃されても困る。
それよりも最強の半人半妖が気になる。
「しかし――おっと、紅い霧がおさまったようだ」
「本当だ」
慧音が気付き、妹紅が外に出る。俺はそれを見ながら思った。
レミィ達が主人公に負けて、終わり。何時もの。テンプレな物語。悪い者は負け、正義が勝つ。
悪役がいるからヒーローは存在する。悪役無くしては存在し得ない。
本当はレミィ達が負けるのを見たくないだけだったのかもしれないな。俺の何よりの苦痛は嫁達が傷付く事だ。それを見たくないが為に、逃げたのかもしれない。
何時かの幽香のところだってそうだ、攻撃をしないと分かっていても、俺は我慢出来ず、力を出してしまった。
もし、遊びだと言われても、弾幕が当たれば、怪我はする。それを目の前で、俺は平常心でいられるのか。わからない。
――しかし、今は、今を、楽しむか。このあとは異変解決の宴会が始まる。
神楽は見届けずに、異変、紅魔郷は終わる。
何時もの、悪者は負けて、正義が勝つという形で。
これを良く思わない神楽。彼もまた、大切な者が傷付くのを恐れている。それも異常なまでに。