銀の暗殺者
ある晴れた満月の夜の事。
いつも通り、椅子に座り。門の番をしている紅い女性が一人。美鈴だ。美鈴は何かの『気』を感じたのか、椅子から立ち、暗闇に紛れた人物に話しかけた。
しかし、ここで、美鈴という人物、能力を解説しよう。
《紅美鈴》ほん めいりんと読む。この女性は中国という国から、武者修行。俗に言う、俺より強いやつに会いに行く。という行動をした人物である。最近噂の紅い館に、道場破り。基、館破りをした。結果、惨敗し、門番になったが。
彼女の能力『気を使う程度の能力』これは、他人のオーラを視たり、放出したりと、結構使い勝手が良かったりする。
「貴方の時間も、私のもの」
森の中からそんな言葉が聞こえた。次の瞬間、謎の人物のオーラは消えていた。
「あれ? 気の……せい? 一応報告しておこうかな……っと」
美鈴は門を開け、主人の下へと歩いていった。
俺は今、食堂でレミィ達と、ある遊びをしている。だが、この遊びについてはいつか語ろう。
レミィ達の勇者の演技にも似た話をしていると、突然扉が開いた。美鈴だ。
「老公、怪しい者が館に潜んでいるかもしれません」
――なに? 怪しい奴?
少しの違和感が脳裏に過った。
美鈴が門番をしてからというもの、一人も通していないし、通っていないからだ。そんな美鈴から、『かもしれません』と言わせているのだ。相当の手練れか、暗殺に長けているか、能力持ちのどれかだろう。
若しくは――全て当てはまるかもしれないな。
俺はその人物を一人、心当たりがあった。
しかし、レミィ達はそんなこと、露知らず、興味を示している。なんせ何年、何十年、の間、平和に生きていたからだ。これも美鈴のおかげで、なにかご褒美をあげないといけないんだが。そんな暇はないみたいだな。
俺はレミィ達に「少し待ってくれ」と言って、探知する。
館の中から感じ慣れた三十、四十の霊力、妖力が伺えた。しかし、一つ、見知らぬ霊力を感じた。
図書館の辺りだ。
俺は美鈴の頭を撫でて、礼を言う。
そして、全員に断りを入れて、図書館に向かう。
あそこにはいま、リリーだけだったはず。リリーは弱く、戦えない。ならすぐに行かなくては。
そう思い、急いで図書館に向かう。飛んでも良いのだが、それでメイド達に当たってしまったら間違いなく絶命、及び、『一回休み』になるだろう。
それはともかくとしてだ、図書館の扉を開く。
すると、黒いローブを身に纏った――身長や手の細さからして――女の子がいた。
その女の子はリリーに向かって銀のナイフを振り上げ、今にもその脅威を振るおうとしていた。
「リリー! あんた誰よ」
後ろから聞こえた声に、俺は振り向く。そこにはパチュリー、メイド以外の全員がいた。
その声を発したのはレミィだ。
声の主を見て、ローブの女の子のいた所を見ると、ローブの女の子は跡形もなく消えていた。
次の瞬間、横からナイフが飛んできた。それを片腕で弾く。カラン。という音が聞こえる。すると、ナイフはもう無くなっていた。
「どこにいるの……?」
「ここよ」
他が唖然とする中、レミィが絞り出すように言った。
声が聞こえた。俺達の前、十メートルの場所に立っていた。
「貴方は誰ですか?」
ルーミアが問い掛ける。女の子は、小さい鎖の付いた、銀の懐中時計を取りだした。
次に、鎖を持って、手品師や催眠術をするように、懐中時計をぶら下げて、左右に振った。
「貴方達の時間は私のもの。例外は無い。だから貴方達はもう、死んだも同然」
無駄な話はしない。と言った風に、消えてはナイフを投げ、消えてはナイフを投げる。
レミィはスピア・ザ・グングニル。フランはレーヴァテイン。ルーミアは闇の大剣を取りだし、俺は本や、カーペットに燃え移ったり、破壊されないように、魔法を使い、維持していた。
幾度も攻撃する。しかし、相手は時間を止めれる。じり貧だろう。
ここら一帯を壊しても良いが、それをしても、時間を止め、遠くに逃げるだろう事が容易に想像出来る。
――これはどうしようか。打つ手が無いわけではないが、能力を止めないと厳しいぞ……。ん、待てよ……。能力を使って止めるのには、少し、ほんの、刹那だが、時間を要する……。それなら人間が反応出来ない位の速さならどうだ? やってみる価値はあるな。
打開策を思い付き、実行に移す。
俺は魔法の一つ、テレパシーを使う。
この魔法は、近くにいる人が対象。しかし、相手を決めることが出来る。脳に直接、魔力を通して語りかけるという魔法だ。燃費は少し悪いが、培った魔力だ。どうともならない。イタズラ目的で覚えていて良かった。
まあ、そのイタズラは見事成功したが、それは割愛しよう。
【聞こえるか? 奴を俺の直線上に誘導してくれ。刹那で無力化する】
その声を聞いたレミィ、フラン、ルーミアはお互いに頷き、見事なコンビネーションで、ローブの女の子俺の直線上に誘導する。
その間に、クランチングスタートの要領で足に力を入れ、音速を出せるようにしておく。翼を出すと光速にはなるが、翼を出すと相手にバレてしまう。
少しして、三十メートルはあるが、直線に来た。
――ここだ!!
俺は足で思いっきり――衝撃を限りなく零にして――床を蹴る。
ローブはまだ気付いてない。それはそうだろう。人間が気づける速さでは無いのだから。
そのまま、相手に組み付き、逃げれないようにする。
「お兄様、見事だわ」
「格好いい!」
「流石は旦那様」
「老公! やっちゃって下さい!」
嫁達から絶賛の言葉を受け、ローブに言った。
「さて、お遊びも終わりだ」
「なっ……くぅ……! なんで……っ!」
腕を掴み、捻る。ギリギリと音がなり、激痛に顔を歪ませながら問い掛けてきた。
「簡単な事。お前は時を止めれるな?」
「ッ!?」
「図星。それがわかればあとは簡単。人間が反応出来ない速さでお前を無力化すればいい」
「くッ!! 降参!! 煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」
この言葉を聞き、俺は腕を離した。
「なら、好きにしよう。お前、メイドになれ」
お兄様!? や、何故!? 等の声が聞こえる中、ローブの女の子は驚愕した。
「な……、何故殺さない……?」
「ナイフ投げが得意みたいだな? ならお前の料理はさぞ、絶品だろう」
あまり関係無さそうだが、無い頭を捻った結果がこれだったのだ。普通なら殺す。だが、俺はこの子を知っている。
「た、確かに料理は得意だけど、私が逃げたらどうする?」
「逃げないよ。それならとっくに逃げているだろう?」
手を離した時に。と付け加えた。
「……仕事の内容は?」
「使用人だ。することはメイド長に聞いてくれ。衣食住は保障しよう。どうだ?」
「……、願っても無いこと。生きて、衣食住があるなら万々歳」
ローブのフードを外し、顔を見せた。
無造作な銀髪。青の目。
小さくもその顔は美人で、大人びている。色んな修羅場を潜ってきたと思える立ち振舞いだ。
「お前、名前は?」
「……ない」
「ふむ、レミィ、名前をつけてくれ」
「わかったわ、お兄様」
渋々、といった風にこちらに歩み寄り、女の子を観察する。なかなか出てこないようで、俺が少し、助言をした。
「レミィ、その子の能力は時間を操る程度の能力だ」
考え、ローブの女の子に指差し、自信満々に言った。
「今日から貴女はこの紅魔館のメイド! 『十六夜 咲夜』よ!!」
こうして、十六夜 咲夜が誕生した。
「でも、貴女達は良いの? 見ず知らずで、それもついさっきまで殺そうとしてたのよ?」
心配気な表情の咲夜の問い掛けに、レミィはウインクをして、こう言った。
「お兄様が決めたことなら異論はないわ。ただついていくだけ」
――良い家族を持ったな。俺には勿体ないかもしれない。
レミィの言葉に、俺と咲夜以外の全員が頷く。
その時、図書館の開いたままの扉から一つの人影が見えた。
「はぁ……はぁ……。速いわよ……!!」
パチュリーだ。今までずっと走っていたのか? だとしたら相当運動不足だな……。少し鍛えてやるか? いや、喘息だったな。無理はさせれない。しかし、喘息なのに走って来てくれたのか?
そう思うと急にパチュリーが愛らしく思える。いつも愛らしいが。
「パチュリー、ありがとう」
俺は頭を撫でて、礼を言った。
「むきゅ……、何するのよ……」
そう言いながらも満更ではなさそうだ。嫌がる素振りを見せない。
また、少し嫉妬させてしまうので、早々に止め、咲夜と向き合う。
「これから君はこの紅魔館の家族であり、メイドだ。俺はここの当主、未知 神楽だ。よろしくな」
続けて、レミィ。
「血は繋がってないけど、妹よ。レミリア・スカーレット。よろしく、咲夜。因みにお兄様の嫁よ」
「えっ」
「私はフランドール・スカーレット! 同じく妹でお嫁さん!」
「えっ!」
「私、ルーミアと申します。メイドで嫁です」
「…………」
「はぁ……私はパチュリー・ノーレッジよ、はぁ……はぁ……。嫁だから」
「四人……?」
「あ、私、紅 美鈴と申します! 門番やってます! 同じく老公の老婆です!」
「ん? らおごん? ら、らおぽ?」
――反応が面白いな……。
驚きの十面相を披露してくれた、咲夜に拍手して、笑ってあげたいが、美鈴の言葉が気になる。
ラオポとはなんだろうか……。今度勉強してみよう。
「パチュリー、いつまで息を乱してるんだ?」
「し、仕方ないでしょ……、普段あまり動かないし喘息があるんだから……はぁ……ケホ」
俺が聞くと、弁解して、少し咳き込むパチュリー。
「大丈夫か?」
俺が心配して腰を擦ってあげると、だ、大丈夫よ……。と言ってその場で座った。
そういえば全員棒立ちだったな。
その事に気付き、全員を食堂に連れていく。パチュリーは動けなかったので、丁重にお姫様抱っこをしてあげた。
真っ赤でむきゅむきゅ言っていた。他の嫁達はそれを羨ましそうにして見ている。そこで、今度してやるから。と言ったらジャンプして喜んでいた。そんな喜ぶ事か?
まあ、そこからは食事をして、咲夜を風呂に入らせ、メイド服に着替えさした。あまりにも似合っている。と思ったのは内緒だ。
その後、咲夜はメイドとして鍛えられるようで、メイド長に連れていかれていた。
言葉遣いやメイドとしての立ち振舞い。仕事だのを教えられたようである。しかし、別に本人は嫌がっていなかった。むしろ少し楽しそうにしていたような……? それは寂しかったということか、はたまた……。
とまぁ、俺や嫁達、メイド達もまた、朝を迎える。いつも通り、テーブルトークロールプレイングをして。