使用人探し
「ん……」
俺は起きた。今は何時か分からないが、恐らく7時半だろう。最近はそのくらいに自然と起きるのだ。横には二人の少女、俺の上には女性。……ん? 女性? なんで?
俺は霊力を使って電気を付けた。すると金色の髪が見えた。
――もしかしなくてもルーミアじゃないか! お前メイドはどうした!?
俺の横にはちゃんとフランとレミィがいるからあとはルーミア以外あり得ないだろう。その上この紅魔館にはこんな発育の良い身体の子はいない。
今でも寝言だろうか、「ん……、旦那様のえっちぃ……」なんて少しあざとい感じの言葉を発している。ていうか絶対起きてるだろこいつ。承知せんぞ。
そこで俺はルーミアに軽く手刀を落とした。
きゃっ! そんな悲鳴を出して、俺の上に寝かせていたその身体を重々しく起こした。
「あふ……。旦那様に触れながら、顔を見て起きる。最高の目覚めだわ……」
欠伸をして、言った。
そんな好かれるような事はしていないと思うが……。まあいいか。
考える事をやめ、俺はルーミアを退けて、レミィとフランを起こす。
「フラン、レミィ。行ってくるからな」
「んむ、いってらっしゃい、お兄しゃま……」
「ふあ……、うん、いってらっしゃい、お兄様」
フランは寝ぼけ目で、むにゃむにゃと口を動かし、若干口調がままなっていないが、挨拶してくれた。
レミィは起き、少し欠伸をする。その後、はっきりと言った。
「よし、行くぞ。ルーミア」
「はい、旦那様」
ここに来てからは少し礼儀を学んだようだ。その証か、優雅にお辞儀してみせる。
ところ変わって、館の門の前。
昨日同様、太陽が俺とルーミア、仕事をしている美鈴の肌を焼く。俺の肌がこの前より黒くなったような気がする。そんな日。
「あ、当主様、お出掛けですかー?」
創造した椅子に座っていたが、俺を見ると立ち、穏やかな笑顔で問いかけてきた
「ああ、そうだ、昨日に続き、メイド探しだ」
俺の言葉を聞いて美鈴は昨日の事を思いだしながら、言った。
「あー、昨日連れて帰った妖怪二人と横の女性ですね?」
「ええ、私はルーミア。ずっと昔に封印されてまともに食事を取れなかった所を旦那様に出会ったの」
ルーミアは綺麗にお辞儀して、自己紹介をした。美鈴もまた、掌にポン、と握った手で軽く叩いた。
「ほう、貴方も新しいメイドさんですか。私は門番をやっている。美鈴と言います。よろしくお願いしますね」
頭に手をやり、爽やかな笑顔で、美鈴もまた、自己紹介した。
少し談笑をして、俺とルーミアは歩きだす。
「旦那様? 今日は何処に行くのかしら?」
「そうだな、妖精を探したいんだが……」
「妖精? メイドにしても大丈夫なの?」
大丈夫なの? とは、恐らく、役に立つのか? という事だろう。役に立つのか? か……。結局どうしようか。メイド達が教育してもちゃんと動いてくれるのか……? やはり永琳の力を借りないと駄目なのか? 出来れば永琳の手を煩わしたくない。最終手段にしよう。
まず妖精が何処にいるか、だな。
小気味良い足音、鳥の囀り、木々のざわめきが聞こえる中、俺はルーミアと目を合わせ、聞いた。
「ルーミア、妖精のいるところ、知らないか?」
ルーミアは顎に手をやり、目を瞑って考える。
「うーん。妖精も結構自由な子達なのよね……。自然が好きだから、もしかしたら自然を感じれる場所にいるかも知れないわ」
目を開き、そう言った。
溜め息。基、嘆息をする。
――しかし、自然を感じる場所……か。何処だろうな。なにか湖とか森とか、か? しかし森はここなんだよな。
考え、俺達のいるところを見る。
森だ。誰が見ても。後ろにある紅い館がマッチしている。森の広場やなにか洞窟とかにいるのか? まあ、何事も行動か。
思い、ルーミアと飛ぶ。そして、広場や洞窟。果ては少しでも気になった所を探す。
朝から探し、今は日が落ちかけ、森や俺達を赤く照らし、美しく彩る。
俺は金色の懐中時計をボックスから出して、時間を見た。
五時半。
この懐中時計は凄くお気に入りの一品だ。無名の人がつくったらしい。たまたま店に並んでいて、一目惚れしたのだ。衝動買いだ。目が離せなかった。
――進展はなし……か。
俺は懐中時計の蓋を閉める。小気味良い音が聞こえたあと、ボックスに納した。
二度目の溜め息の後、ルーミアが俺を呼ぶ。
「旦那様! あそこ!」
「ん……?」
ルーミアが指を指した所を目線で辿ってみると、小さな――と言っても、おおよそで、縦一キロ、横に八百メートルの大きさ。これが小さいかどうかは知らないし、調べる術を今は持っていないが――湖があった。これが今日最後の探索になるだろう。そう思い、ルーミアと共に湖の近くで降りた。
「凄い……」
ルーミアが驚嘆している。俺も見てみると、そこには、湖に映る夕陽、森や空、全てをオレンジに染め上げている。勝手な意見だが、その景色は俺達を歓迎している様にも見えた。
俺達が見入っていると、何処からか複数の声、笑い声が聞こえた。
「あの人は悪い人じゃ無さそうだよ」
「あはははっ!」
「きゃははっ!」
「私達を探してるみたいだよ!」
「最近は私達を視ることも出来ない人ばっかだからね!」
「久し振りだね!」
俺達が探し回ってる事を知っているらしい。やはり自然と会話をすることが出来るんだろうか。
俺は何処からか聞こえる声に問い掛けた。
「妖精、いるのか? いるんだったら出てきてほしい。話をしたいんだ」
「いいよ」
言い終わると同時に返事が聞こえる。
無意識の内に少し眉を動かしてしまうが後ろに振り向き、その声の主を見る。
その少女としか呼べない外見。髪は輝夜のように黒髪のストレートの前髪が綺麗に揃えられている少女だった。額に青のリボン、青色のドレスを着ている。なにより揚羽蝶のように大きい羽根を持っている。
スターサファイアだった。
スターサファイアは他の妖精と大木に住んでいたはず。遊びに来ているってことか? しかし、他の妖精が見当たらない……。
俺が他の妖精を探していると、急に、突然に。耳元で大声が聞こえた。
「わっ!!!!」
思わず肩が動いてしまった。それを見て、満足気に姿を現した二人の少女。
片方の少女は、頭にカチューシャのようなものをつけ、服は襟の部分が赤い、白のメイド服のようなもの、金色ブロンドのツインテール、笑った時に見える八重歯が眩しく可愛らしい。二対の透明な羽根がキラリと夕陽に反射している。
サニーミルク。
もう片方は、ナイトキャップを被り、金髪の縦ロール。三日月型の二対の羽根、白の服に黒のリボンをつけた落ち着いた感じのワンピースになっている。
ルナチャイルドだ。
光の三月精だった。
その他にも掌位の大きさであったり、五歳位の大きさ、色んな妖精がいた。
ゆうに二十は越えているだろう妖精達をみて、俺は唖然とした。流石にここまでいるとは思わなかったからだ。
「……驚いたよ、色んな意味で」
「でしょ! あははっ! 肩がびくっ! ってなってたよ!」
そうサニーミルクに言われて、少し顔が赤くなるが、平然を装う。
「流石妖精だ。いたずらはお手の物か、俺は未知 神楽だ」
「私はサニーミルクだよ! サニーって呼んでね!」
「私はルナチャイルド、ルナって呼んで」
「私、スターサファイア。スターでいい」
三月精は文字通り三者三様の自己紹介をして、サニーにはハイタッチを、ルナとスターには握手した。
自己紹介を終わらした所で、時間も程よくなってきたので、俺は本題に入った。
「お願い事があるんだが、聞いてもらっていいか?」
「いいよー、なに?」
サニーが首を傾げ、聞いてきた。
「俺の館、紅魔館というんだが、そこで何人かメイドになってくれないか? 多い程嬉しい」
「んー……。どうする?」
サニーは傾げていた首を戻し、後ろにいるルナ、スター、他のメイドに問い掛けた。
ルナは少し考え、言った。
「今考えつく事は、衣食住、報酬、仕事の内容かな……」
「勿論、補償するし、報酬はなにがいいかわからんから相談することになる。仕事の内容としては、掃除したり、料理したりだな。詳しい話はメイド長に聞いてほしい」
それを聞き、わからない妖精がいるらしく、ルナがわかりやすく説明した。
――ルナが頭脳役、サニーが実質的リーダーで行動力がある。スターが……なんだろうか。サボり役? え、なにそれ。
そんなことを考えながら、妖精達の会議を見守る。
少し経って、だんだんと賛成が多くなってきた。
あとは三月精だけだ。
そう思った時。サニーが発言した。
「やろうよ! メイドさん可愛いじゃん! 憧れてたんだよねー!」
「可愛いかはともかく、サニーがそういうなら私はついていくわ」
「そうね、リーダーみたいなもんだもんね」
順に、サニー、ルナ、スターが同意した。
――良かった、これでメイドは困らないだろう。うまく動いてくれるのならだが……。
安堵した。心の底から、とは言えないが、それでも現状はましになる。
隣でルーミアも微笑んでいる。すっかり存在を忘れていた。すまない、ルーミア。心の中で謝り、妖精達を連れていく。ちゃんとついてきてくれるかわからなかったので、ボックスに入ってもらった。
道中でルーミアが安心したように言った。
「良かったわね、旦那様」
「ああ、心の底からとは言わないが、良かった。これからちゃんと働いてくれるかが問題だ」
「あのメイド長なら大丈夫じゃない?」
「それなら良いが」
笑いながらそんな話をして、帰った。
門を潜って、玄関を開けると、レミィとフラン、もう一人少女がいた。
「貴方様がここの当主様……でいいのでしょうか?」