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東方極限想  作者: みょんみょん打破
紅い館編
18/67

不死身と謳われる吸血鬼

「ただいまー」


 俺が帰って、挨拶をすると「おかえりー」という声と共に嫁達が迎えに来てくれた。

 やはり背負っている玉藻前が気になるのだろう。皆の目線が玉藻前にいく。


「その九尾はどうしたの?」


 代表して永琳が問いかけてきた。別に敵意等はない。

 俺は居間でこれまでの事を話した。傘の事、ぬえの事、傾国の美女、玉藻前の事、安倍晴明の事。


 まだ少ししか行ってないのに結構濃いな。



 次の日、玉藻前が起きた。最初は戸惑い、嫁達とも馴染めない様だった。しかし紫はうずうずしていた。

 式神にしたいと思っているんだろう。

 まあその次の日にはもう式神になっていたが。

 しかし使っている時に紫色の傘が人形になったのには驚いたな。そしてその直後から満足気な顔をしていた。

 水色の髪と水色のワンピース。右目は水色、左目は赤色。全体を見ると一本だたらという妖怪に見えなくもない。

 素足で下駄を履いている。

 なにより傘を持っていた。一つ目に大きな口、長い舌、下駄履きという少し古臭い化け傘。


 多々良 小傘だった。

 そしてその事を言ったら「なんと、わちきが時代遅れと申すか」って言っていた。ボケ……なのだろうか?

 極めつけは俺の事をご主人と呼んでいた。

 小傘は拾って使っていてくれる事が凄く嬉しかったらしい。だからこの呼び方なのだと。

 あとぬえの事だが、旅に行くときは一緒に行きたいらしい。本人曰く「神楽の強さに惚れ惚れとした!」らしい。恐らく安倍晴明との戦いを見ていたんだろう。


 あれから何百年と経った。

 てゐが永遠亭にきたり、幻想入りと呼ばれる仕組みが出来たり、紫の話では永遠亭と妖怪の山等その他色々幻想郷に移ったらしい。鬼達は人間に愛想を尽かせ、旧都に行ったり、妖忌が初代専属庭師になったり、富士の山が大噴火したり、日本円紙幣が出来たり、あと博麗大結界なるものが幻想郷に出来たり。






「そして今に至ると……」


 今までの事を思い出し、つい口に出してしまう。俺は今どこにいるかだが、永遠亭? スキマの中? 太陽の畑? 守矢神社? どれも違う。


 赤い館の前だ。

 なぜここにいるかと言うと何年か前に吸血鬼がいるという話を聞いたのだ。この時代ならレミリアだってフランドールだっているだろう。余談だが俺は紅魔卿が一番好きだった。だから飛び出すようにここに来た次第だ。小傘やぬえも、やはり来たがっていたが、丁重に断った。今からどうなるか分からないからだ。

 今宵は満月。幾多の妖怪が力を強める日だ。俺は変わらないが。

 森の奥深くにひっそりと佇むその館はしかし、不気味だった。

 風は不気味に唸るように聞こえ、満月がその異様さを増していた。その雰囲気は何処からか狼の遠吠えが聞こえてくるようだ。

 横に塀があり、正門がある。俺はその前にいて周りを見ていた。そして門番は――まあ吸血鬼なら必要は無いだろう――いない。

 どんな経歴で日本にいるのかは解せないが、外国にはあまり行きたくないしちょうどいいと言える。

 さて、蛙が出るか蛇が出るか。いや、これは弱者が出るか強者が出るかという意味だ。どっちかというと狂者も出るだろうが。

 初めて見る壮麗な景観に少し唖然とする。

 壮大な森に豪壮な構えの館。

 俺は門に向かい、開けた。

 インターホンが無くてどうしたらいいか分からなかったからだ。

 敷地内に入り、扉の前に立って、インターホンを押した。怖々しい館と違い、軽快な音がなる。

 そして少し後に低く、しかし良く響く男性の声が聞こえた。


「はい、どなたかな?」

「未知 神楽と申す者だが、ここは吸血鬼の館で合っているか?」

「確かにそうだが、君は何しに来た?」

「強いて言えば、仲良くなりたい」

「……ククク……良いだろう。入りなさい。ようこそ、吸血鬼の館。“紅魔館”へ」


 そう言って開かれる扉。重苦しい音と少し錆びたような音を発し、ひとりでに開く。

 風が俺を押す。その風は俺に入れと言っているように思えた。


 俺は館に入る。中は血のように赤いカーペット、天井にはシャンデリア、真っ直ぐ進んだ所に階段があった。その階段の上に一人の男がいた。その男は優雅に降りていく。


「よく来たね、未知 神楽君。元英雄。現、最強の半人半妖」


――えっ……。俺はそんな風に呼ばれているのか?

 少し驚いたが、しかし、顔には出さずに返事をする。

 

「なぜ知っている?」

「フフ……、吸血鬼の情報網をなめてはいけないよ?」


 まあ知られて何ら悪いことはないから良いだろう。


「さて、君は仲良くなりたいと言ったね? それはどうしてだい?」

「なに、ただの興味本意だよ。気高い吸血鬼が見てみたかったのさ」

「どうだい?」


 両手を広げる吸血鬼。


「ふむ、噂通り気高く知性に溢れているな」

「それは良かった」


 おっと、名乗っていなかったね。失礼。と言って名乗った。

 黒いタキシードを来た黒髪のオールバック。いくら生きているのかは知らないが、その体、顔は若々しさを保っていた。


 その男の名は



 クレイン・スカーレット。


 クレインは優雅に礼をして、よろしく頼むよ、最強の半人半妖。と言ってきた。


「俺の事は神楽と呼んでくれ。むず痒い」

「はははっ! わかったよ、神楽君」

「所で、少しここに居ていいか? 嫁達が幻想郷に行ってさ。俺はまだ行きたい所があるからここに残ったんだよ」

「そうなのかい? ならいくらでもいるといい。最高のおもてなしをさしてもらおう」

「いや、最低限で良い。なにか俺に出来る事はあるか? 働かざるもの食うべからずだ」

「お客さまを蔑ろにすることは恥じだ。だがそうだな……。なら私の愛娘達の相手をしてくれたら良いよ」


 そんな事で良いんだろうか? そう聞くとクレインは「最近私は愛娘と遊んであげられなくてね。だから君にお願いするよ」そう言ってくれた。優しい吸血鬼で良かった。

 そこから少し世話になる事にする。


「そうだね、吸血鬼は日が落ちた頃から活動する。だが君は慣れていないだろう? そして疲れているようにも見える。今日は休んでくれ」


 そう言ってすぐ近くの部屋まで向かい、その扉を開けた。中は普通に生活するのに不便は無いだろうと言える。

 ベッドや机、墨と万年筆、棚に服、トイレに簡易的な風呂と洗面所。俺は部屋の説明を聞き、また明日。と挨拶をして、出ていくクレインを見送った。


――さて、明日からなにが起きるかな……。


 おもいを馳せながらベッドに身を委ね、微睡みに意識を沈ませた。




 次の日の……、朝か? 夜? 今気付いたが窓がない。真っ暗だ。俺は電気をつけて壁に掛かっていた時計を見る。すると針は朝7時を示していた。


 トントン。と扉を叩く音と女性の声が聞こえる。


「神楽様、朝食の準備が出来ました」


 ん? 誰だ?

 俺は疑問に思いながら、少しだけ待ってくれ。みなりを整える。といって時間をもらう。

 顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直す。

 最後に鏡で確認して扉を開ける。


「すまない、待たせたな」

「いえ、お心遣い感謝致します」


 女性はメイド服を着た、腰まである黒髪の女性だった。その女性の顔は綺麗だが表情の変化がない。


 こちらへ。とだけ言って、さっさと歩いていく。

 階段の最上段の真下に位置する普通の扉をより大きいそれをあけた。

 その中は長いテーブルにテーブルクロスを敷き、真ん中に蝋燭を置いて色とりどりの料理が並んで、椅子も置いてあった。良く見る貴族の食堂だ。

 その一番奥には暖炉があり、上には幻想的な風景が描かれていた。


 一番奥の椅子にクレインが座り、その真横にメイドが二人。

 クレインの手前には凄く美人な、背中まである赤色の髪で、ドレスを着た女性が笑顔で座っている。その後ろには一人のメイド。

 そして向かいには小さな女の子がいる。頭にリボンのついたピンク色のナイトキャップを被り、髪は青のショートヘアー、目は血のように紅く、ピンクのフリフリドレスを着て、襟元にブローチを付けている。背中には蝙蝠の翼と大きなリボン。手首にも可愛らしいリストバンドを付けている。


 レミリア スカーレットだ。後ろに二人メイド。

 しかし何処を見ても妹がいない。

 やはり地下にいるんだろうか。


 まず、俺が全員を見回して挨拶をする。


「おはようございます。私は未知 神楽と申します」

「そんな畏まらないで良いよ。昨日も言ったが、クレイン・スカーレットだ。これからよろしく」

「私はクレイン・スカーレットの妻のクレセット・スカーレットです。よろしくお願いいたします」


 赤い髪の女性はクレインの妻、クレセット・スカーレットと名乗った。


「わ、私は……、レミリア・スカーレットです……」


 レミリアは緊張しているのか、どんどん声が小さくなる。

 それをクレインが軽く叱った。


「こらレミィ、ちゃんと挨拶をしなさい」

「レミリア・スカーレットです! よろしくお願いします!!」

「良くできました」

「これから少し世話になる。よろしく頼む。」


 そう俺がしめると拍手がおこる。


「どこでも良いから座ってくれ。朝食にしよう」

「この人ったら、貴方が来て嬉しがってましたよ? 今朝だって、朝は起きないのに皆を起こして回ったんですから」

「こ、こら! 言うな!」


 そう言ってクレセットは上品に笑い。少し焦りながらクレインはクレセットを静める。


「それはなんだか悪いことをしたな……すまない」


 俺は少し負い目を感じて謝ってしまった。


「あ、謝らないでくれ! 私が勝手にやったことだ!」

「まぁ……、慌てちゃって。うふふ……」

「ま、まあ、食べようじゃないか! な? よし、新しい住民に出会えたことを、乾杯!」



 乾杯! 全員が言って、呑み、食べ始めた。

 フランスパン、肉類、野菜類、色々ある。一通り食べてみての感想だが、何時かのハンバーグと肉じゃが並みに美味しい。


「これはメイドの人が作ったのか?」


 ふと気になり聞いてみた。するとこれはクレセットが作っているらしい。なんでも料理や家事全般得意なのだと。だからメイド達と料理を作ったり、掃除したりと一緒に家事をしているらしい。

 美人で気配りが出来、夫を支え、夫を立て、優しい。誰もが思う理想の妻だろう。


 俺達は食べ終えて、片付けをしようと動き出した。


「神楽君はいいよ」

「そうよ、座ってて?」

「しかし、住まわせてもらうのだから甘えてはいられない……」

「やはり律儀だな君は。別に良いんだよ、同じテーブルで食べる、乾杯する、住む。もう家族のようなものじゃないか」


 そう言われてうんうん唸っていると服を掴むレミリアに気付いた。


「あそぼ」

「神楽君、君の仕事はレミィと遊ぶ事だ。わかってくれたかい?」

「そうね、レミィには申し訳ないけどそのほうが私も助かる所はあるし……」

「……わかった。恩に着る」


 頭を下げて、レミリアと遊ぶ事にする。

 レミリアの部屋に入る。熊のぬいぐるみ等があり非常に可愛らしい。


「じゃあ何して遊ぶ?」

「んー、おはなしがしたい!」

「そっか、わかった。俺が英雄と言われた時の事を話そうか。あれは二億と少しだ……」



 そうしてレミリアに人妖大戦の話をする。

 抑揚、感情、その他諸々を駆使してレミリアに語りかける。

 レミリアは必死になって聞いてくれている。


「妖怪の血が目や口に入った事で俺は半分妖怪になってしまった……」

「かっこいー!!」


 天使のような――悪魔なのに――笑みを浮かばせ、激しく拍手する。その姿が可愛らしくてついつい自然と笑顔が出てしまう。


――少しは仲良くなれただろうか?


 そう思った時、扉が開いた。


「どうだい? 仲良くなれたかい?」


 クレインだ。終わった直後に来たことを考えると、もしかしたら扉の前にいて俺の話を聞いていたかもしれないな。

 ノックもせず、入ってきたクレインにレミリアはぷんぷん怒っている。


「もうっ! おとうさま! れでぃのへやにはいるときはノックしないとだめなのよ!」

「悪いな……。やり直してくるよ」


 何故か出ていき、扉を閉める。そしてノックをし、扉の向こうから「開けて良いかい?」という声が聞こえた。レミリアは満足気に頷き「いいよー!」 と、大きな声で返事した。

 扉が開き、少し困ったような笑顔をしながらこちらを見るクレイン。その姿が微笑ましくて笑ってしまった。するとレミリアとクレインもつられて笑う。

 少しだけ欠けた月の下、赤い館にて三人の笑い声が響いた。





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