気になるあの子②
あなたを振り向かせることができるのなら
わたしはなんだって出来る気がする
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【Side B】
「お疲れ様でしたー。」
「おう、お疲れー。」
バイトの先輩と挨拶を交わし、コンビニを後にする。
手には、帰り際に買ってきた安いアイスとジュースが入ったがぶら下がっている。
今日は待ちに待った給料日。だけど、先月あまりシフトが入れられなかったので
思ったよりも少ない報酬だった。
「もうちょっと行くと思ったんだけどなー。」
田舎から上京してきたひとり暮らしの学生には辛いぜ・・・。
ふと空を見上げる。雲一つない快晴だ。
「今日もあっちーなー・・・。」
まだまだ夏真っ盛り。太陽もそうそう休んではいられない。
本当は給料日だから買い物にも行きたいんだけど、予想外の給料の少なさに
街に繰り出す気が失せてしまった。
もういいや。帰ろ。暑いし。
バイト先から自宅までは、歩いて1キロちょっと。
苦にならない距離だけど、この暑さの中歩いていくとなると、気が滅入ってしまう。
定期圏外だが、お金がないので歩いて帰宅することにした。
家に帰ったら、クーラーガンガン付けてシャワー浴びて涼んでやる。
あ、でも電気代かかっちゃうなー。うーん。
毎日、学校に行ってバイトに行って、自分のことで精一杯だ。
現在大学3年生という身も相まって、そろそろ就職についても考えなければいけない。
ほかのことを考えている余裕なんて、私にはない。
そんなに器用な人間なんかじゃない。
もうちょっと器用な人間に生まれたかったなー・・・。
そうすれば、「彼女」とだって
もっと近づけたかもしれない。
「彼女」のことは、先日の夏期講習以来見かけていない。
夏期講習以来学校に行っていないから、当たり前か。
どこに住んでるかも知らないし。紗英に聞けば教えてくれるのかもしれないけど、
奴はどこか鋭いところがあるから、私が聞いたことに対して、いろいろ疑問を持たれそうだから聞けない。
今まで学校でしか見かけたことなかったし、校外で見かけることなんてない。
それに、学部が違うから
新学期が始まったところでお目にかかれるのかもわからない。
言い方は悪いが、紗英を利用すればいいのかもしれないが、
私にとって「彼女」は、あまりにも高嶺の花過ぎて、いざお近づきになれたところでまともに会話できる気がしない。
この前も大失態を犯してしまったばかりだし。
もうあんな思いはごめんだ。
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先日の夏期講習の後、校内で「彼女」を見かけた。
紗英ではなく、知り合いと思われる男性と仲良さそうに歩いていた。
「彼女」よりも身長が高くて、小顔で、顔が整ってて
雑誌とかに載ってそうな、モデルみたいな人だった。
---年上の人なのかな・・・
---少し日に焼けてるな。一緒に海とか行ったのかな・・・
---きっと、趣味とかも合うんだろうな。音楽とか。
そんなことを考えながら見てたから、結構な時間「彼女」と男性を見つめていたと思う。
我ながらキモいな。
でもやっぱり、「彼女」は本当に綺麗で、笑った顔や仕草の一つ一つが可愛くて、
それでいて、気取らずみんなに同じ笑顔を振りまいている。
そりゃ周りに人集まるわけだよね。
そんな人に近づきたいとか、やっぱり高望みだよなー。
---あ
男性が「彼女」の頭にさりげなく手を置いた。そんな男性を見上げながら「彼女」が微笑む。
---キスするときとか、背伸びなんかしちゃうんだろーな。
「あの二人お似合いじゃない?」
「男の人イケメンだよねー。あんな人学校にいたっけ?」
私の後ろを通りがかった女子二人組が、そんな会話をしていた。
だよなー。お似合いだよなー。
性別の違いを抜きにしたとしても、私があの男性に勝てる要素なんか何一つない。
---あれ、つーかあんな男の人、ホントにうちの学校にいたっけ?
---あそこまでイケメンだったら、噂の一つや二つたってもいいもんだけど。
---アイツ、誰だ?
「今日も今日とて、アンタ楓のこと見すぎ。」
頭の中がグルグルしてきたところで、後ろから紗英に呼びかけられ、
私の勝手な妄想タイムは終了した。
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「あ、そういえばアイス買ったんだった。」
ボーッとしながら歩いてたけど、アイスを買ったことすっかり忘れてた。
早く食べないと、せっかくの給料で買った貴重な食料が無駄になってしまう。
歩きながら食べるのは、流石に行儀が悪いので
たまたま通りかかった公園のベンチで食べることにした。
幸い、平日の昼間のせいもあってか人もまばらで、
ちょうど日陰のベンチが空いていた。
「よっこいしょっと。」
年甲斐もなく、そんな言葉を口にしながら
ベンチに腰掛ける。
買ってきたアイスは、幸いにもまだ溶け始めたばかりだった。
「彼女」と一緒にアイスとか、食べてみたいなー。
なんか、ストロベリーとか好きそうだし。可愛いなー。
今日も勝手に妄想を繰り広げる。
いや、近づけない分、妄想で我慢しているようなもんだ。
でも、
やっぱり、
会いたい。
目の前の角から飛び出してきてくれないかなー。
無理だよなー。
そんなことはわかってるけど、やっぱりどこかであきらめがつけられなかった。
自分のことで精一杯の毎日だけど、「彼女」の笑顔を遠くからでも見れるだけで
少し癒されていた。
いつも笑顔の彼女だけど、きっと笑顔じゃない時の方が多いんだと思う。
そんな時、自分がそうであったように、今度は彼女を支えてあげたいとか、思ってしまう。
お互いの弱い部分を見せ合えれば、人間関係ではぐっと距離が縮まるってテレビで言ってたし。
そうすればきっと、彼女が私に目を向けてくれる可能性だって
「・・・・・・・・・あるわけないか。」
どう頑張っても無理がある。
彼女と話したのは、この前が初めてだし。
近しくない人なんかに、弱み見せるわけないし。
もう3年だから、これからもっと出会う機会だって少なくなっちゃうだろうし。
夏という魔法の力を持ってしても、きっと、多分、絶対、無理だ。
そこまで考えてたら、いつの間にか手に持っていたアイスを完食し、
木の棒だけになっていた。
この考えはさっさと止めて、早く家に帰れってことだな。これは。
「さてと、帰りますか。」
アイスの棒をゴミ箱に捨て、ジュースだけが入った袋をぶら下げながら、
公園の出口へ向かう。
日陰にいたとは言え、真夏の昼間に外にいたので汗だくだ。
「早くシャワー浴びたい・・・」
そう言いながら出口を出て右へまがった時だった。
「あ!」
聞き覚えのある声が、前から聞こえてきた。
何事かと思って顔を上げてみると、
ついさっきまで考えまくっていた人が、私の大好きな笑顔でこちらを見ていた。
【Side A】
紗英に教えてもらったはいいけど、こっちの方角であってるのかな・・・・。
あんまり来たことないところだからわかんないや。
紗英も一緒に来てくれるって言ってたのに、急に用事出来たとか言って断られちゃうし。
急にバイト先に行くとか、迷惑かな。迷惑だよね。
でも、そうでもしないと、学校が始まるまで顔見れないし。
無効は、アタシのこと知ってるのかな・・・。
この前初めて話したけど、忘れられてるかな。
それはそれで悲しいけど・・・。
ん、公園?
あれ、紗英から教えてもらった道の途中に、公園ってあったっけ?
もしかして迷った?
やばい。せっかく来たのに会えないかもしれない!
それだけは嫌だ。
時間が無駄になったとかそんなんじゃなくて、あの人に会えないのが。
とりあえず、ここから先に進むんじゃなくて
一旦紗英に電話して合ってるか確認しないと!
あれ、紗英のやつ出ない。
ちょっと!こういう時に出てもらわないと困るんだけど!!
と、とりあえず、公園内に地図とかないか確認してみなきゃね。
ん?今公園から出てきた人、なんとなく似てるような・・・・。
「あ!」