14-1 目覚めはリビング
スキュラ戦から一夜。平日の先鋒、月曜日。
疲労していた体は貪欲に睡眠を欲していたため、俺は朝がきても眠り続けていた。
……リビングの床で。
セーフハウスの部屋にまだ余裕はあるのだが、何故か住民の共有スペースが俺の寝床となっている。
学生である魔法少女達は、卒業が近くても授業がある。よって、午前七時になれば皆が共有スペースたるリビングに集まってくる。
他人の足音というものは存外大きい。耳障りなのでいつもの俺なら起床していただろうが、疲れている俺はまだ眠ったままだ。
「御影、おはよ……う?」
寝床で皐月の気配を感じる。
セーブポイントでテントを使用しているはずなのにモンスターと遭遇した気分。身の危険を感じるが、吸血鬼のように朝にエンカウントするのであれば安全な子なので、安心して眠れる。
皐月の語尾が震えているのがやや気になるが、眠っている人間はそんな細かい事を気にしない。
「…………ねぇ、アジサイ。そこで、何をしている訳?」
「魔法使いはオフタイム。今は浅子」
「なら、浅子。どうして浅子は御影と添い寝しているのか、教えてくれる?」
「……? 皐月がそんな当たり前の事を聞いてくる理由が分からない」
「素の反応を返すあたりが浅子よね。そこは尊敬してあげる」
りんごが落ちてくるのは重力があるから。
天が落ちてこないのはアトラスが支えてくれているから。
妹が添い寝するのは妹だから。
宇宙がひもで出来ているのは超すごいひも理論だから。
そんな他人には理解し難い理論を、浅子は皐月も共感できると信じているようだった。
まるで抱き付かれているかのような距離感で、俺は浅子の呼吸を感じている。抱きマクラを抱いて寝る習慣はないので、この感覚は寝ボケによる幻覚だろう。
昨日は一人で寝たのは確かである。仮に浅子が俺と一本足りない川の字で寝ているとすれば、浅子自身の意思で毛布に潜り込んだ事になってしまう。嫌われていないとは思うものの、流石に添い寝される程に好かれているはずがない。
数度しかなかった共闘では、仲が深まる時間はなかったと断言できる。
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“『吊橋効果(大)(強制)』、恋愛のドキドキと死地の緊張感の類似性を証明するスキル。
死亡率の高い戦闘であればあるほど、共に戦う異性の好感度が指数関数的に上昇する。
指数関数的なので、まずは2以上に好感度を上げておかなければ意味はない。
異性であれば誰に対しても有効なスキルであるため、不用意に多数の異性と共に戦うと多角関係に発展してしまうので注意が必要――人生において決死の戦いを挑む機会などそう多くはないだろうが。多角関係を円滑に保つ効果はないため、刃傷沙汰は回避できない。
強制スキルであるため、解除不能”
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「御影は私の彼氏だっ! シスコンの氷の魔法使いは離れろ!」
「……? 処女が何彼女面しているの?」
俺は現在、睡眠のステータス異常中です。だから隣で誰が何を言おうと関係ありません。物理攻撃ではない魔法攻撃では睡眠は解けずにオーバーキルになるだけなので、決して試さないでください。
「そ、そんな事はないわっ。御影と私、やる事やっているからっ」
「でも処女」
「覗いていたなんてっ!! この出歯亀魔法使いッ!」
「別に独り占めするつもりはない。皐月は友達だから、必要な時に貸してくれれば良い」
「友人の彼氏奪うなっ。この馬鹿!」
二人の魔法少女が一人のマスクを奪い合う。喧嘩を止めてください。誰か二人を止めてください。
それと浅子、いくら皐月に奪われたくないからと言って抱きしめるのは危険です。朝の男の子は敏感肌です。
股座に片足を突っ込んで絡み付くのは酷くね。そのね。
「皆さん、おはようです。料理はできないから、誰かに朝食を任せたいのです、が……。朝一から見苦しい人達なのです」
セーフハウスの新住民、落花生が朝餉を強請り始めたため、場のカオス度は更に高まった。
学園生達には、人生でもう訪れる事のない貴重な学園生活を最後まで全うして欲しい。きっと数年置きぐらいに、ああいう奇妙な日々もあったのかと思い出して懐かしがる。面倒なだけなら、出席すべきなのだ。
天竜川の黒幕共の心配はあるが、奴等が本気で人を襲い出せばどこにいても被害は出る。
「私は別の学園なのに、どうして二人と同じ学園に行かないといけないのですか!」
完全に雲隠れしてしまう手もあるが、まだ助けていない魔法少女が残っている。助けた三人分の負担が残りの魔法少女に降り掛かってしまうだけの悪手は打てない。
「落花生だけで行動して、また誘拐されたくないでしょうに。御影、行ってくるからね!」
「御影、行ってきます」
「制服違うですっ!」
けっして、三人寄って姦しい魔法少女達から解放されたくて、セーフハウスから追い出した訳ではない。俺もすぐに大学に出掛ける。
大学生にとって、単位は金貨よりも重いのだ。
二月末は春休み直前の期末テストラッシュが開始する。講義は影武者に出席してもらっているが、流石に二人分のテスト問題まで解いてもらおうとは思わない。
「ちなみに、これが俺の今の最新ステータスだから、昼間までに目を通してくれないか。優太郎」
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“●レベル:22”
“ステータス詳細
●力:18 守:6 速:36
●魔:0/0
●運:10”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●アサシン固有スキル『暗躍』
●アサシン固有スキル『暗澹』(New)
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』
●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(大)(強制)』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『救命救急』(New)
●スキュラ固有スキル『耐毒』(New)”
“職業詳細
●アサシン(Bランク)”
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「……お前な。毎週のようにステータスが更新されているのは目を瞑るにしても、俺も同じ講義の期末テストがあると知っていて、何故遠慮しない」
久しぶりの学生食堂で向かい合う紙屋優太郎。彼は眠気覚ましのブラックコーヒーを、苦い顔で飲み干した。




