12-12 裏切りのアサシン
俺は何をしているのだろうか。
アジサイを襲っているのは分かる。激しく欲情しているから、手短にいた美少女を地面に押し倒しているのか。
動機も分かるし、行動に整合性もある。が、アジサイを助けるという始点から何を経れば現状に至るのか。考えてもさっぱり分からない。
酔っ払っているかの如く思考が一切まとまらない。一秒前までの思考が霧と化してしまうため、ボロボロ崩れる積み木のように考えがまとまらない。
体の下にいるアジサイから立ち上る匂いに思考力が病んでいく。
皐月を除けば、アジサイはここ最近で急接近できた女子である。愛想の無い子だったため気付かなかったが、間近で見れば酷く綺麗な顔をしている。お世辞なく、皐月とは別方向で好みな顔だ。
アジサイが綺麗な所為で、俺の中で躊躇が薄れていく。
「――御影、助けて」
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“『破産』、両手から消え去った金に泣くスキル。
資産がなくなった圧倒的な喪失感により精神崩壊する。既に精神異常状態であるため、魔法やスキルによる精神攻撃を拒否できる。
垂れた顔になるのはスキルの仕様ではない。
本来は強制スキルであるが、『一発逆転』を達成した事により自由発動可能”
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『破産』スキルは発動しない。スキルは発動させる気があって初めて発動できる。
どれだけ悲惨なボタンの掛け違いを行えば、ほとんど裸体な少女を下敷きにできるのかは分からない。が、この状況を『破産』スキルでふいにするなど勿体無くて不可能だ。
「ハハッ、ハッ、ハッ」
少女の頬を涙が伝う。
アジサイの泣き顔を見るのは二回目か。嗜虐趣味があれば心底楽しめたのだろうが、今のような精神異常状態でなければ楽しみようがない。
女を泣かせる最低行為は、禁忌に触れているようなゾクゾク感がある。
これで興奮している俺は、最低なのだろう。
「――お願い、御影。助けて」
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“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。
極限状態になればなるほど『運』が倍化していく。
このスキルを得る前提条件として、『破産』系スキルを取得しなければならないため、『運』のベースアップは行われない。
スキル取得によって『成金』『破産』は強制スキルではなくなり、自由にスキル能力を発動できるようになる”
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“ステータス詳細
●力:18 守:6 速:36
●魔:0/0
●運:10 + 0”
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『運』はまったく増えていない。
極限状態とは己が意識するもの。が、今の俺は人工的な高揚感に包まれてしまっていて、アルコール摂取後の自動車運転の如く危機意識がない。
『運』では、この状況は覆らない。
「ハハハッ、アハハッ」
他人に対して拒絶的だったアジサイが、必死に懇願している。
それはそうだろう。マスクを付けているような変態に体を触れられているのだ。気持ち悪くなって、泣いてしまうのは当然だ。
貞操を守るためになら、マスクの変態にだって助けを請うだろう。
泣き顔のアジサイは、不細工に笑う俺を希薄な視線で見上げながら、更に請う。が、今の俺は何を言われたところで止まりようがな――。
「――姉さんを、助けて。私はどうでも良いから。姉さんだけは救ってください」
「アハハッ、……ハ?」
前後不確定な状況とアジサイの無理難題。
襲っているはずのアジサイから、魂を失い、死体さえ灰に帰った姉の救命を依頼されている。そんな馬鹿な懇願はないだろうと思いたいのに、少女の己の犠牲を了承するような台詞が、俺の混乱を加速させる。
「姉さんをお願いします。私には姉さんしかいないんです。姉さんのいない世界で生きる自信がない」
卑屈な願いが俺を責め立てる。
ポンプと注射器で押し込まれるような性的快楽と、切開された腹から軽石を胃袋に詰め込まれていくような違和感がせめぎ合う。頭が痛くて行為に集中できない。
「姉さんを……」
「姉、姉うるさいッ。とっくの昔に死んだ女をッ、グズグズ言うな!」
「でも、だからって諦められない! 私達は魂が二つに分かれたように表裏な姉妹だった。姉さんが私を好きだったように、私も姉さんが大好きだった。姉さんともっと話がしたい、構われたい」
俺だけが混乱のステータス異常かと思いきや、アジサイの姉狂いは相当のものだった。アジサイは、貞操さえも姉のためなら投げ捨てようとしている。
「御影は魔法使いを救ってくれるはず、なら姉さんを助けて欲しい! そのためになら、私の体を好きに使ってくれて良いっ!」
「襲っている俺に頼むなッ」
「私は御影の物になる。だから姉さんをっ!」
アジサイの決意が、俺のあるスキルの発動条件を整える。
だが、このスキルもパッシブではなく任意発動型。俺が発動したいと思わなければ結局は『破産』と同じ。
ただし、今の俺の心を支配しているのは性欲だけではない。アジサイの態度に対する動揺と苛立ちが支配地域を広げている。
アジサイの姉想いは一途と言えば聞こえは良いが、この挺身は実に無責任だ。姉を想うばかりで、姉の想いを汲み取っていないではないか。
奥歯と共に性欲を噛み殺す。
アジサイのように他人知らずな人間になりたくはないと、俺はスキルを発動させた。
「『成金』、発動だ」
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“『成金』、両手から溢れ出る金にほくそ笑むスキル。
金銭感覚が麻痺するが、持ち資産で実現可能な欲望に対する耐性が百パーセントになる。
本来は強制スキルであるが、『一発逆転』を達成した事により自由発動可能”
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現代日本では考えたくもないが、スキル的には人間も資産の一部という事か。アジサイが本気で己の生殺与奪を俺に預けようと思わなければスキルは発動できなかっただろうが。
俺はアジサイの真剣な想いに、答える。
「分かった。アジサイの願いを叶えよう」
「――ッ! じゃあ、姉さんが生き返――んッ!」
アジサイの喜色をスキュラから隠すよう、俺はアジサイに覆いかぶさってキスできる距離で対面する。本当は、アジサイの勘違いを聞きたくなくて口を塞いだだけだ。
「俺は、アジサイの姉を救おう。姉の潰えようとしている願いを、姉に代わって俺が叶えてやろう」
唇を離して目線を水平にするが、体はアジサイから離さない。むしろ求め合うかのように密着させる。
アジサイの平べったい体格を無視できれば、立派な伏射姿勢だ。
「シスコンの姉の本当の願いを叶えよう」
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“ステータスが更新されました(非表示)
スキル更新詳細
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(無効化)”
“実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』、最終的な悲劇の約束。
実績というよりも呪いに近い。運が悪くなる事はないが、レベルアップによる運上昇が見込めなくなる”
“非表示化されているので『個人ステータス表示』では確認できない”
“姉の悲願達成のため、ある人物に心身を対価にした実績により、現在は無効化されている”
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目線の先には、六匹の犬と剣山のように生える犠牲者の群。十メートルも離れていない近距離で、マグマ溜まりで半身浴しているため全体を狙える。
群体魔族は俺の精神の復調に未だに気付いていない。
「『暗器』解放ッ!」
銃身長一メートルオーバー。
総重量約六十キロ。
口径12.7mm。
第二次世界大戦以来の超ロングセラー製品でありながら、今も各国の軍隊で調達され続けている武具。完成度と信頼性と信頼感において、これ以上の武器は見出せない。
「九ヤードをくらえッ!!」
姿を現したブローニングM2重機関銃は、天竜川に巣くう化物を誅する。
御影が某国で入手した武器がようやくすべて登場しました。




