12-3(青) 妹は姉より優れたくはなかった
ボス戦開始です。
浅子のステータスを張っておきます。
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“●レベル:72”
“ステータス詳細
●力:26 守:35 速:55
●魔:181/181
●運:1”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『耐幻術』
●実績達成ボーナススキル『氷魔法研鑽』
●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』
●実績達成ボーナススキル『姉の愛』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●雪女の和服(氷魔法威力二割増)”
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天竜川の下流は川幅が広い。相応に両岸に沿っている平地も広大だ。
しかし広さに反して、魔法使いの狩場としてはB級と言わざるを得ない。単位面積あたりのモンスターのスポーン率は、皐月や落花生が縄張りとしている中流には及ばない。無駄に広い分、走り回る面倒もある。
ただし、誇れる利点が一つもない土地という訳でもない。
緩衝地帯が広いため、周りを気にせずボス級のモンスターと全力で戦う事ができる。スキュラという強敵を迎え撃つのであれば、地の利がある土地を戦場として選ぶ必要もあった。
浅子は川の流れる音を聞きつつ、着物の袖を夜風に揺らしながら佇んでいた。
剥げた芝生と乱雑に伸びた雑草が入り混じる深夜の川辺。そんな場所に立つ浅子は、まるで幽霊のようなおぼろげな存在に見えてしまう。
「……姉さん」
幽霊のような存在は浅子ではなく、天竜川上流から川の中央を歩いて近づく浅子姉の方であったが。
川の上辺だけを凍らせた氷の道を伝って、浅子姉は徒歩で現れた。氷自体が川の流れに乗っているのでただ歩いているよりは早いだろうが、動く歩道の上を歩く以上の速度は出ていない。余裕ぶった登場の仕方である。
「姉さん。もう終わりにしよう」
「クスクス。そうね、姉妹が離れ離れで暮らすなんて不自然だわ。元々、私と浅子は同じ魂が半分に砕けて、三年差で誕生したような姉妹だったもの」
「姉さんが偽物なのは知っている。外見だけのまやかしだって理解している。でも言う――」
流氷は接岸する。
以前の路地裏で対峙した時よりも近い距離で、姉妹は三年越しの対面を果たした。
青いアジサイが描かれた青い着物を着る、短髪で、童顔な伊藤浅子。
赤いアジサイが描かれた青い着物を着る、長髪で、妖艶な浅子の姉。
「――姉さん。私の目の前に現れてくれてありがとう。嬉しかった」
「この私に感謝するなんて、なんて愚かっ! クスク――」
「だから、死んでッ!」
浅子姉の甲高い嘲笑の途中で、浅子は戦闘を、最後の姉妹喧嘩を開始した。
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“『インファイト・マジシャン』、接近戦趣向の異端な魔法使いの証のスキル。
スキル発動中は、どれだけ息が切れても詠唱をとちらない。
また、レベルアップ時の『速』の成長率が補正される”
“実績達成条件。
魔法使いが格闘技でモンスターを討伐する”
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浅子は地面を蹴り、姉までの僅かな距離を一気に縮めていく。姉との相対距離がゼロになる瞬間に魔法が発動できるように詠唱タイミングを合わせる。
「――串刺、貫通、氷結槍ッ!」
浅子の狙いは、姉の胸の中央。心臓だ。
右の掌を打撃として打ち込んだ後、手の中心に氷の槍を生成していく。
「――氷結、隔絶、氷結盾。そんなに密着させた状態で発動させては駄目よ、浅子? 魔法が正常発動しているか目視できないじゃない」
浅子の槍は、姉の盾によって防がれる。皮膚の上に展開された氷の層に、浅子の氷の槍が吸収されていく。
中身は偽物とは言え、記憶だけは本物の浅子姉。魔法の技量は確かだ。
「目に頼るなんて三流」
しかし、生前の姉の実力など百も承知している浅子は、矛盾発生を驚かない。
「空気を読んで二流」
浅子は小柄な体を捻らせて、その場でフィギュアスケートのアクセルを決める。
「――旋脚、斬撃、氷結刃。姉を感じ取れて、シスコンは一流!」
体を一回転させながら、遠心力と魔力を加味した右足で姉の体を切り裂く。
打撃力よりも切断性能に重きを置いた格闘魔法が腹部を一閃した。死体であっても臓器は稼働しているのか、まるで生者のように血を流している。
「……浅子。そんな野蛮な戦い方を教えた覚えはないわよ」
「この三年間、姉さんから学んだ事なんて一つもない。全部独力で覚えた」
先代までの氷の魔法使いの戦闘スタイルは、中距離攻撃を主体とし、弾の数で敵を圧倒するものである。その意思も、浅子は受け継いでいる。
しかし、氷の魔法使いとして完成していた姉が蒸発した事で、浅子はそれまでの伝統に疑問符を持ったのだ――姉が完璧なら、悪いのは戦闘スタイルの方という公式である。
手っ取り早くお手本にしたのは、雷の魔法使い、落花生だ。
雷の魔法使いの系譜が好む格闘魔法は、他の魔法使いから揶揄される事も含めて伝統とされていた。安全な遠距離からモンスターを屠れる魔法使いが、格闘術を用いるなど冗談以外の理由が思い付かないからである。
……冗談以外に理由があるとすれば、実績達成スキルの達成条件ではないだろうか。浅子はそう考えて、実践する。元々、複数のモンスターが入り乱れる乱戦を得意としている浅子にとって、実践は難しいものではなかった。
その結果が『インファイト・マジシャン』スキルである。弱らせたゴブリンを蹴り殺した際に取得できた。
スキル効果は単純であるが、詠唱を失敗しなくなるのは地味に使える。浅子がまだ低レベルだった頃に取得できたお蔭で、『速』パラメーターも良好に成長した。
浅子姉は腹部を押させている。強敵相手に、『インファイト・マジシャン』が有効なスキルであると実証できた。
そして、やっぱりスキル取得後も格闘術を主体としている落花生は愚かだという事実も証明できた。
「やるわね、浅子。でも魔法使いなら、魔法で戦わないと――串刺、連射、氷柱群!」
「――串刺、連射、氷柱群。……無駄」
浅子姉が飛び退きながら放ってきた魔法のツララの群れを、浅子は同じ魔法で迎撃する。
姉妹の間でツララ同士がぶつかり合い、粉粒となって相殺されていく。
威力はほぼ互角で拮抗していたが、ふと、一本のツララが中間地点を突破して、そのまま浅子姉の左腕に突き刺さった。
「同じ魔法でも、生成速度では私が上回る。単純に技量の差」
異端な格闘術だけはなく、魔法対決でも姉を圧倒する浅子。
これ以上の抵抗は見苦しいと、浅子は浅子姉に……いや、姉の体を操るスキュラに提案する。姉妹を題材とした茶番劇には、いい加減 嫌気が差していた。
「私はすべてにおいて姉を上回った。姉の死体で遊ぶよりも、新鮮で若い私を得たいと思うなら、さっさと本性を現せ、スキュラ!」
姉のいない三年間は浅子にとっては無駄であったが、結果は残った。
魔法使いという一部分とは言え、浅子は姉を超えてしまったのだ。
「…………良いでしょう。その体、コレクションするに値するわ」
浅子姉の体が天竜川の水中へと飛び込んで、姿が見えなくなる。
逃げられたと危惧する必要はない。次の瞬間には川の中央で大量の水飛沫が上がる。
飛沫の中には、六頭の犬の顔を持つ化物の異形が伺えた。




