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12-1(青) 余人の知らないところで実績達成

対スキュラ戦の序幕です。

アジサイのステータスを初公開しています。

 深夜を待ってアジサイこと、伊藤浅子いとうあさこは活動を開始する。

 野暮ったくも着こなせるジャージを脱ぎ去ると、代々氷の魔法使いに受け継がれている青い着物を細い体に巻き付ける。平成生まれの学園生としては珍しく、独力で着物を着る仕草は洗練されている。

 鼻緒の柄が青いアジサイのゲタを履き、身長を二センチ程伸ばす。

 これで準備は完了したらしい。他に特別な装備は一切身に付けようとしない。氷の魔法使いの標準装備のままである。

 これから、スキュラなる姉を喰らった化物の始末に向かうにしては、あまりにも軽装が過ぎだろう。

 セーフハウスの奥部屋の窓を開け放つと、浅子は躊躇ちゅうちょなく夜の街へと跳び出した。近隣の民家の屋根を伝って、天竜川下流を目指す。


「……今日は冷える」


 浅子がセーフハウスの住民に何も告げずに出て行ったのは、二人を嫌っているから、というシンプルな理由だけではない。

 確かに、浅子はマスクを被った変態も、その変態を好いている頭が沸いた女も嫌いである。新鮮カップルの同棲生活を傍で見せ付けられた拷問には反吐が出そうだった。初々しい空気と科学反応を起し、着物に描かれたアジサイの花さえ青からピンクに変色してしまう恐怖を覚えてしまった。

 それでも、メモ一つ残さないでセーフハウスから跳び出したのは、妙な共同生活に肌が粟立あわだったからではない。

 姉妹の事に口出しして欲しくない。これも建前だ。


「これだけ寒ければ、氷の魔法も冴える」


 基本的に、浅子は他人を信じない。家族以外の生物に関心は抱かない。

 しかし、浅子が優しさを知らない冷血生物かというと、そういう訳でもない。

 液晶画面の報道番組の中で他人が死んでも心は痛まないが、黙祷もくとうは欠かした事はない。

 猫は下手をすれば人間よりも好みの生物であるが、以前に飼っていた一匹が大往生とはいえ死去してからは、死ぬのが可哀想なので飼うのを止めている。

 ここ数日、会話する機会の多かったカップルが姉を模した化物に殺されるのは、想像しただけで心停止してしまいそうになる。絶対に巻き込んではならない。

 浅子は己の我侭で、美空皐月みそらさつき御影みかげの両名に何も告げずに戦場に赴く決断をした。

 たった一人で何ができるだろう、という不安は無表情が主体の浅子にもある。

 屋根を跳躍している浅子の表情は常よりも硬いのだ。


「――違う。私は一人じゃない。姉さんがいる」


 浅子は瞳孔に意識を集中して『個人ステータス表示』スキルを発動させる。


===============

“●レベル:72”


“ステータス詳細

 ●力:26 守:35 速:55

 ●魔:181/181

 ●運:1”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●魔法使い固有スキル『魔・良成長』

 ●魔法使い固有スキル『三節呪文』

 ●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』

 ●魔法使い固有スキル『四節呪文』

 ●実績達成ボーナススキル『耐幻術』

 ●実績達成ボーナススキル『氷魔法研鑽こおりまほうけんさん

 ●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』

 ●実績達成ボーナススキル『姉の愛』”


“職業詳細

 ●魔法使い(Aランク)”


“装備アイテム詳細

 ●雪女の和服(氷魔法威力二割増)”

===============

“『姉の愛』、姉にとって妹がすべてだったという証明スキル。


 姉が人生で得た総経験値の十分の一を妹に譲渡じょうとできる。

 妹の実績というよりも姉の実績というべきスキルで、真性のシスコンのみが達成できる”


“実績達成条件。

 一、長きに渡る拷問で、削られ、磨耗した姉の精神の最後に残されたものが、妹への愛である事。

 二、最後の鼓動の瞬間、姉がモンスターに経験値を隠蔽いんぺいし、妹本人が該当モンスターを倒す事。

 三、妹も常に姉を愛している事”

===============


 実績達成スキル『姉の愛』が増えている事に気付いたのは、実家近くでヘルハウンドの群れに襲われ、姉に化けたスキュラが退却した直後だ。

 己にしか見えない網膜の中に、ステータス更新のポップアップが浮かび上がったのだ。

 スキルの衝撃的な内容をその場で信じるのは到底無理で、泣き崩れる姿を御影に見られたのは浅子の恥である。

 しかし、実績達成からもう数日が経過している。

 浅子の心は落ち着きを取り戻し、現実と向き合う覚悟は済ませた。

 『姉の愛』の詳細情報は真実だ。だから浅子のレベルは急上昇している――達成する以前のレベルは64、隣人でしかなかった皐月にはレベル59とサバを読んでいた事があったかもしれない。

 だから実績達成条件も真実で、浅子の姉はもうこの世にいない。行方不明という曖昧な状態から、思わぬ方法で正式に死亡が通知されてしまった。

 そして、真実がもう一つ。

 浅子は結局、何だかんだと思いつつも己の姉を愛していたのだ。嫌いという感情はスキルを得た後も否定できない。が、愛という感情の否定もできなくなってしまった。

 伊藤姉妹の駄目な方に、まさか愛なんて真っ当な感情があったという事実は赤面ものであるが、真性のシスコンとしては誇らしくもある。

 何より、スキルのお陰で浅子のレベルは72に上昇した。これで、天竜川の黒幕が持つという厄介な耐魔アイテムを無力化できる。

 スキュラという姉を殺した化物を、浅子は殺害できる。


「これはきっと姉さんの遺言なんだ。憎い化物をほうむって欲しいという願いなんだ」


 浅子はレベルやスキルが実在している世の不可思議に、心より感謝した。お陰で姉の最後の意志を尊重できるからだ。

 ……そう、浅子は信じきって、曲解している可能性を捨て去っていた。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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