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11-7 意固地なる氷の魔法少女

 粗方感想を聞き終えて用済みになるかと思われた紙屋優太郎かみやゆうたろうだったが、皐月達との待ち合わせ時間になるまでは行動を共にした。

 頼まれていた冷蔵庫の買出し、百円均一での小物選び、ついでの本屋を二人で巡ったところで午前中は終了する。買い物という一般的な友人付き合いをするのも、新鮮味があって良いものである。


「大体が大学の食堂か、お前の部屋だったからな。それにしても、どうしてあんな大きい冷蔵庫を買ったんだ?」

「三人暮らしだから、あれぐらいが丁度良いんじゃないかな」

「……冷蔵庫に潰されてしまえ」


 昼飯をどうするか悩む前に皐月から電話が入る。

 皐月達の用事は完了したらしく、今は手荷物を持ってセーフハウスに戻っている最中のようだ。


「こっちの用事も済んでいる。時間も丁度良いから、昼飯を買って帰ろうか? それとも出前にするか?」

「外食にしようかとアジサイと相談していたところね」

「マスク付けたまま入店できる店があれば別だ」


 皐月には俺のマスクが顔の一部、眼鏡と同列として認識されているようだが、外食店の店員は違うだろう。入店を拒まれるだけならまだマシで、最悪通報されかねない。

 ただ、外で食事をするつもりでいる胃をなだめるのが難しいという気持ちは共感できる。

 朝食に白米を食べようとして炊飯器を開けて中が空だった際の絶望感。その後に仕方なくついばむ食パンの味気なさ。食事が外から内に変わった時の感情と似たり寄ったりだろう。

 どうしても外で食べたいというのであれば、個室席がある店を選び、先に入店してスタンバイしておく方法が残されている。


「……相変わらず面倒な男ね、御影。マスクを外すつもりがまったくないとは」


 アジサイの「ピザ」という鶴の一声となり、セーフハウスでの昼食が可決された。




 昼間から夕方までは荷物整理で忙しかったため、スキュラ対策について三人で話し合う時間を設けられたのは日が暮れてからだ。


「あ、冷蔵庫がある。御影って本当に金持ちだったんだ」

「水しか入ってないけどね」


 優先順位がはなはだしく間違っているような気もしたが、スキュラそのものについての情報は不足気味だ。話し合える内容は限られている。


「六頭の犬が引っ付いた女、が正体ねぇ。それだけじゃ何も分かっていないのと同じね」


 リビングのテーブル上に両方のひじを付け、組んだ両手の上にあごを乗せる。

 そんな体勢で皐月は優太郎がネットからかき集めたスキュラの情報を両断した。優太郎自身も午前中にそんな感想を言っていたので、傷ついたりはしないだろうが。


「先代の氷の魔法使い、アジサイの姉さんの体で魔法を使っていたのよね。ネクロマンサー的なスキルがあるのかな」

「そういう伝承はないし、タヌキやキツネのように変化ができる化物であるはずがない。そもそも、美しい姿だった女性がキメラ化したみにくい姿に絶望して、心まで化物になった成れの果てがスキュラだ。美人に変身できるのなら前提が崩れる」

「――アレの体は姉さんで間違いない」


 ふと、皐月と俺の話にアジサイが割り込む。

 アジサイも立派な作戦会議の出席者なので驚く方が間違いなのだが、自発的な発言を一切行わない子が発言を行うと新鮮味がある。

 例外は昼食時の「ピザ」のように、己に関心がある話題なのだ。

 スキュラはアジサイ姉の姿で登場していた。態度はそっけないが、関心の度合いは高いのだろう。


「体は姉さん。中の人は違う」


 以前にもアジサイはクスクス笑うスキュラを姉ではないと断じていた。妹ならではの第六感で確証があるのかもしれないが、一人っ子の俺には判断できない。

 アジサイの断言には他人を納得させる材料が不足している。ツッコミを入れたい気持ちはあるものの、以前のようにアジサイに脅されたくはないので止めておく。

 俺もアジサイ姉がスキュラ本人であると確信しているし。


「マスクと皐月が姉さんの心配をする必要はない。アレは私が始末する」

「アジサイさー、一人で意固地になるのは止めたら? どちらにしろ、レベル70以下の私達には有効な攻撃手段がない」


 天竜川の黒幕はレベル70以下の魔法を無力化する。ギルク戦以前に俺が入手し、皐月が実際に体験した敵の貴重な情報だ。

 俺の向かい席に並んで座る少女達が議論を始める。


「ギルクを倒した経験値でレベルアップした私でもまだ68。アジサイはもっと下だったはず。火竜の心臓もないから、スキュラとの戦闘で魔法使いは無力よ」

「ピーナッ子の時のように、足手まといと一緒に戦ってまたしびれたくない」

「あれはっ、奇襲だったから!」

「アレに魔法が通じないのなら、サツキがいてもいなくても変わらない」

「ふぐっ」


 実に的確なアジサイの指摘により、皐月が1ラウンドK.O.されてしまった。反論のしようがなくなった皐月は、生簀いけすから上げられた魚のようにテーブル上でピクピクもだえている。


「マスクには姉にもう手出しするなと言ってある。違う?」

「その通りだ。約束は破っていないだろ?」


 アジサイの視線はツララのように尖っていたが、グレー判定が行われたのか無言のまま目をそらされた。


「アサシンの俺には魔法みたいな攻撃手段がないからな。皐月を足手まといと言うなら、俺の方がもっと役立たない」


 アジサイの役に立つために情報を提供しているだけ。こう白々しく述べる俺に、もうアジサイは反応してくれない。

 共同生活には参加している癖に、やはりアジサイは排他的で、内向的なままだった。

 スキュラの単独討伐にこだわるアジサイの気持ちが分からないので、止めようがない。

 姉のかたきであるスキュラを己の手で息の根を止める。普通に考えれば、この理由しかない。

 だが、アジサイには大きな不安要素があるのだ。


「スキュラをアジサイが倒せるのなら、俺は何もしないさ」


 この娘、あきれる程にシスコンなんだよなぁ……。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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