11-6 第二回スキルの考察・スキュラと新武器
スキルの考察というよりは、敵の考察ですね。
紙屋優太郎が持参した菓子袋が空になるのを監視していたのごとく、玄関からドアベルの電子音が響く。
空港で頼んでおいたお土産品が、黒い猫がトレードマークの業者によって配達されたのだ。
「喜べ、優太郎。マカデミアナッツが届いたから飢えずに済むぞ」
ダンボール箱のガムテープを剥がして、蓋にチョコがカラー印刷された長方形の箱を取り出す。ダンボールの中には他にもお土産はあるが、優太郎のお土産は一箱のみだ。
口寂しそうに菓子袋をたたんで捨てていた優太郎に贈呈する。
「お前が海外に行っていたのは分かるが、どこに行っていた? ハワイか?」
「いいや、グアムだ。あそこが一番行き帰りし易い米国領さ。本当はカンボジアにも行きたかったのだけど、日帰りが難しくて」
「この時期に、バカンスに出掛けた訳じゃないのだろ?」
「当然。対スキュラ用の武器調達のためさ。往復回数が限られていたにしては、なかなか面白い武器が手に入ったよ」
貧弱パラメーターを補う最も単純な方法は、強い武器を装備すれば良い。
ゲームであれば誰だって考え付く解決方法である。広義で言えば、ギルク戦で用いたガスタンクも使い捨ての武器と言えるだろう。
米国産菓子特有の甘ったるさに顔をしかめた優太郎にコーヒーを要求されたので、台所でお湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れる。
「また『暗器』スキルで盗んで調達したのか。グローバルに迷惑な奴め」
「入手するまでは合法だよ。敷地外に持ち出したり、国内に密輸したりはアウトだけど」
「……得物についてはあえて問うまい。それがスキュラに通じる武器なのかが問題だ」
スキュラ。
ギリシア神話に登場する空想上の化物の名前である。
ギリシア神話の化物と言えば蛇の髪を持ったメデューサの方が有名で、スキュラはややマイナー感が否めない。
そのため、優太郎には昨晩の内に、スキュラについて事前学習を行うよう通達していた。
「元々は美しい女性だったが、魔女の嫉妬によって呪いをかけられて、魚の尾鰭、六頭の犬が下半身に融合した化物に変貌した。神話らしい無茶苦茶なキメラだな」
スキュラは海に潜み、船を襲う化物として酷く恐れられたらしい。六匹のイヌの頭を使い、同時に六人の船員を喰らったそうだ。
「海を泳げる化物か。やっかいそうだな」
「天竜川の水深は浅いから、あまり考慮しなくても良いとは思うけどね」
メデューサと比べてマイナーと評したが、化物になる前が神であったメデューサと、元が人間――ニンフであったとも言われる――であるスキュラとでは格が違う。視認した相手を石化するようなチートスキルを、スキュラは所持していない。
アジサイ姉がメデューサでなくて良かったと喜びたいところである。が、喜ぶのは早計が過ぎるだろう。
「メデューサの方が倒し易い相手だったのかもしれないな。何せ、メデューサは神話で討伐されているし、弱点だって判明している」
「そうなんだよ。スキュラは結局、討伐されていないんだ。神話の中ですら、スキュラは倒せない程に強かった事になる」
メデューサ相手なら遊園地のミラーハウスにでも誘き寄せて倒す事ができただろう。鏡で自分の姿を見た瞬間、石化スキルが発動して自滅してくれる可能性さえある。
だが、スキュラにそういった弱点はない。ギリシア神話で登場するスキュラは英雄達ですら――、
オデュッセウス「うひぃ、別の化物に気を取られていたら、船員六人食われたしっ! お前等、乙ッ!」
アイネスアース「パネェッ!」
――と畏怖され、エンカウントを避けようとした真性の化物なのである。
「英雄ですらないアサシンに、スキュラが倒せるのか?」
「倒すしかないというか。俺だって恐怖の感情はあるし、できれば戦いたくはないけど。桂さんから、スキュラがアジサイを狙っていると聞いちゃったからには、戦うしかない」
今用意できる最高の武器を揃えたつもりだが、スキュラに地球製の武器が通用しなかった場合のB案は存在しない。そんな崖っぷちの状況にも関わらず、絶対の勝利の自信なんてものはどこにも転がっていない。
それでも、魔法少女が襲われるのであれば、俺は戦う。茂みでガタガタ震えているだけの臆病者でいたくはない。
「まぁ、所詮は地球の神話上でのスキュラだ。設定を鵜呑みにするな」
「珍しい、優太郎が慰めてくれるなんて」
「……は? 異世界に実存するスキュラならもっと厄介な化物だと言いたいだけだ。どれだけ高レベルで、どんなスキルを所持しているのかも分からない化物とセーブなしに戦うなんて、自殺行為にも程がある」
一握も慰めてくれない優太郎には悪意すら感じる。俺に恨みでもあるのだろうか。
「スキュラについては俺も的確なアドバイスは難しいからな。とりあえず、お前が用意したという武器を見せてもらって、通用しそうかぐらいは判断してやろう」
優太郎が見たいというのであれば断る理由はない。
今回、俺が用意できた武器は二種類ある。
一つ目は賃貸マンションの一室で解放するには大きくて邪魔なので、後回しにしておこう。敷金が気になるため、床に新聞紙を敷いておきたい。
二つ目は先程宅配されたダンボール箱の中に隠してある。俺の『暗器』スキルで隠せる武器の数はたったの一つだけなので、かさばらない方の武器は一回目のグアムからの帰国時、金属探知機を越えた後に、お土産と一緒に梱包しておいたのだ。
ダンボールをリビングまで持ち運び、プチプチした梱包剤やら皐月へのお土産やらを机の上に取り出していく。
底の方に隠してあったソレを発掘して、優太郎に見せてやった際の感想は――。
「……詳しくないが、口径は? 熊に通用するのか? ん、無理なのかよ。案外使えないな」
――あまり芳しいものではなかった。
その割に触らせろ、と言ってくるあたりが男子っぽい。
次々回ぐらいからボス戦を開始するかと思われます。




