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9-5(青) 青いのと赤いの

 夜を待って氷の魔法使い、浅子は家を出た。

 天竜川の黒幕を知っただけでは動かなかった浅子であっても、その黒幕に姉らしき女が含まれているのであれば嫌でも動かざるをえない。

 妹想いが過ぎる事。

 そんな姉にまかせっきりに生きている妹がいる事。

 三年前まではこの二点のみが欠点で他は完璧であった姉が、今になってヘルハウンドを引き連れて現れた。己がどのように化物に汚されたのかを、クスクスと笑いながら妹に語った。この変貌へんぼうを妹の浅子は許容できない。

 だから、姉に狙われていると知っていても、人気のない場所を選んで散歩を続ける。夜は読書とゲームと電子世界限定のサーフィンの時間であるが、ぎりぎりで姉の件を優先した。


「魔法少女の私の姉が敵に寝返った件について。……こんなの、ラノベのタイトルになりそうなぐらいに陳腐ちんぷ


 漫画やライトノベルを読んでいる最中に姉に襲われては、せっかく集めたコレクションに傷が付く。サブカルチャーを愛する浅子としては、外を出歩くのはリスク管理上、正しい行動だった。

 魔法使いとしての正装、青い着物の袖を寒風に揺らしながら、涼しい顔で街を歩く。レアアイテムで作られているだけあって、防寒性能に問題はない。

 浅子の縄張りである天竜川下流を散策しても良かったが、川の流れは見飽きている。下流は川辺が広くて、集団戦法で挑んでくるヘルハウンドを相手取るには不適切だ。

 思うがままに路地裏を歩き続けて、寂れた商業地帯に足を踏み入れる。

 いい加減、夜も深まって襲われるのに最適な時刻となっていた。


「……隠れるつもりがないなら、素直に姿を見せたら?」


 本命の姉が現れる前に、アジサイは背後にいる人物に声をかける。


「この『魔』の気配はサツキしかいない」

「こんばんは。奇遇きぐうね、アジサイ」

「嘘。どうせあのマスクに言われて、私をつけていた」

「――マスクって御影、以外にいないか。つけていたのは認めるけど、それはアジサイの『魔』がウロウロしていたからだし。どうして、アジサイの口からマスクって単語が出てきた?」


 浅子の予想通り、背後の横道から姿を現したのは紅い袴に長髪の少女、同業の魔法使い、皐月である。

 皐月は現れて早々、マスクの男が原因で機嫌をそこねて、語尾を強めてしまう。

「マスクから話を聞いてない?」

「メールでマカデミアナッツは好きかって聞かれたけど、それ以外は何も聞いていない。アジサイと何かあった訳?」

 皐月の反応をうかがう限り、マスクの男は己の女に何も話していないようだった。

 三次元の恋路など、相手がいるから面倒なものでしかない。二次元に敵うものではない。

 恋の病も病の内、万病の元。わずらうものではないという実例が、目前で携帯電話を取り出し、相手と繋がらなくてヤキモキしている。


「ハァ? 何でメールで返事?? 『今は電話に出られない』って何のための携帯よ!」


 浅子にとって目前の女は友人ではない。が、付き合いだけは三年近くある。嘘を付いているかどうかぐらい、表情で見分けがついた。

 マスクの男の指示ではなく、本当に偶然、皐月は浅子と出会った。街の異変を見つけるために巡回している皐月が、氷の魔法使いの気配を発見するのは必然とも言えたが。


「……それで、用事は何?」

「特別ないけど。一人で出歩くアジサイが、危なっかなしくて見過ごせなかっただけ」


 姉の件を一人で手早く処理したい浅子にとって、皐月の気配りは邪魔でしかない。

「問題ない。帰れ」

「天竜川の黒幕は本当に危険なんだって。襲われてからでは遅いって」

「もう襲われた後だから心配は無駄」

「硬い氷みたいな頑固者め。素直に私と組め!」

 隣の魔法使いと仲良くしろ、と師匠に言われていたから渋々協力していたに過ぎない女が、どうして何度も浅子を誘うのか理解できない。

 皐月と知り合った当初から、浅子は一貫して嫌われる態度しか見せていないはずだった。浅子本人が公式で自分は愛想がない女だと認めているのに、どこにかまいたくなる要素があると言うのか不明だ。

 冷やした視線で皐月の瞳を射って、拒絶を強調する。


「アジサイねぇ。貴方のその目って敵を見る目じゃないのよね」


 炎属性の魔法使いだからといって、浅子の冷たい態度が皐月に通じないはずはないのだ。

 何せ、浅子のレベルは既に70を超えてしまっているからである。幹部級のボスを撃破した所為で皐月の『魔』は僅かな期間で上昇していたが、それでも浅子のレベルには追いついていない。

 皐月がどれだけあつかましい女であっても、痩せ我慢で浅子の氷の視線は防げない。

 丁度良い機会だ。隣人のよしみ程度の関係など、この場で清算してしまうべきだろう。


「例えるなら、そう、雨に濡れて凍えているペットだった野良猫の目。えてどうしようもないって頭では理解しているのに、一度裏切られた人間に頼れなくて、仕方なくうらんでいるような。そんな抱きしめたくなる目」

「ッ! 嘘を言うな」

「私達って、最初に接触してきたのはアジサイの方からなんだけど、覚えている?」


 天竜川の暗黙のおきての一つ、他の魔法使いとは関わらない事。

 これを初めて破った魔法使いは皐月ではない。一年生になったばかりの氷の魔法使いが、隣の炎の魔法使いの縄張りに侵入してきたのが最初である。


「『姉さんを知りませんか?』って私に訊ねてきたアジサイは、まるで消えた飼い主を探す猫みたいに弱っていた。最初にそんな姿目撃してなかったら、三年も愛想のない人間と交流を続けないって」


 ずっと隣人に同情されていた。これほどの羞恥心を我慢できる心を浅子は育てていない。

「私が師匠を思い出したのはつい最近なのに、アジサイはすごいな……」

 平然と話す皐月の態度が、浅子の逆鱗をほじくり返してしまっている。


「――ッ! 氷結、隔絶――」


 心を乱された浅子は皐月に向けて魔法を詠唱し始める。言葉をつむぐ口の動きに躊躇ためらいは一切なかった。


「――絶対防御、氷防壁ッ!!」


 過去を振り返りながら語っていた皐月は、魔法攻撃への反応が遅れていた。魔法の速度があまりにも速すぎたため、防御が間に合わなかった。

 だから仕方なく、浅子が代わりに防御・・魔法を完成させて皐月を守る。浅子にしても敵の察知が遅れたため、皐月一人分しか守れない大きさの魔法しか完成できなかったのは大きな痛手だ。

 視力を奪う程の閃光が体を撃つ。

 筋肉が意思に反して収縮し、過電圧により焦げた臭いを発する。



「――――稲妻、感電、電圧撃」



 そして、魔法の稲妻よりも遅れて耳に届いた敵の魔法詠唱。

 地面に片膝を付けても止まらない痙攣けいれん苛立いらだちながらも、浅子はビルの屋上にいる敵に顔を向けた。魔法で守り通した皐月に、敵の居場所を知らせるためである。

「ぴ、ぃ、なっ子……」

 肺まで痙攣けいれんしているのか、敵の名前を発音するのにさえ苦労する。


「ぴ……ピーナッ子!」

「ピーナッ子呼ぶなッ!! 落花生って言えッ!!」


 屋上の敵が吠えた事で、居場所が完全に露見した。

ようやく、青い子の内面を書けました。

青い子はどうしようもなく、甘えた妹というのが本性です。


最近は魔法少女に限らず、○ンダムも○面ライダーも○ルトラマンも

同類で戦いますよねぇ。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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