9-2 お宅訪問
御影のステータス張っておきます
===============
“●レベル:19”
“ステータス詳細
●力:18 守:6 速:36
●魔:0/0
●運:10”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●アサシン固有スキル『暗躍』
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』
●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(大)(強制)』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』”
“職業詳細
●アサシン(Cランク)”
===============
他人の家というものは新鮮であるが居心地が良いものではない。旅先の宿泊施設が高級ホテルのスイートルームであろうと疲れが完全に癒される事はないのだから、当然と言える。
「お、お邪魔します」
だが、今感じているこの感情は、他人の家に感じるストレスとはやや趣が異なる。
「邪魔、早く入れ」
きっと異性の家に招かれた経験がない所為だ。降って湧いたお宅訪問に、心拍数が平時のプラス10になってしまっている。
鍵のかかっていない窓を開き、サッシをまたぐと、そこは女子部屋だった。
青いカーテンと青いシーツのベッド。
本棚に並んだ少女漫画と少年漫画。
壁に掛けられた女子学園生の制服。
僅だが化粧品も一応存在する。
「い、異界だ。芳香剤なのか、匂いが違うぞ。本当にマスク付けた俺なんかが入って良い場所なのか!?」
「黙れ変態。靴を脱げ」
部屋の中で靴を脱いでいる理由は、玄関を経由せず、二階の窓から直接部屋に入ったからである。二階の窓まで登れるような取っ掛かりはないが、レベルが19もあれば二階までの垂直跳びぐらい造作もない。
正式に玄関から入れば良かったと思うのだが、部屋の主に拒否された。
「マスクの有無に関係なく、男を部屋に上がらせるなんて、親に知られたくない」
「ご在宅かッ」
一階に人がいるのであれば、若い娘の部屋に連れ込まれたからといって浮かれる訳にはいかない。
どんなにタンスの中身が気になろうと、狼藉を働くつもりは一切ない。が、一階の原住民に俺の存在が知られた場合、標準装備のマスクが仇となるだろう。通報された時点で残り一世紀はあるだろう人生が即時終了してしまう。
気を引き締めて泳ぐ目線を前に向け直す。
部屋の主、アジサイと呼ばれる魔法少女と目が合った。
「……何?」
学園生にしては小柄な方だ。そろそろ現実味を帯びた将来において、ファッションウォークが似合う美女になるとは嘘でも言えない。
だからといって、アジサイが平凡な顔付きをしているかと言われれば否定する。可愛いから卒業できない子である事は間違いないが、彼女の場合はその可愛いが際立つ。わざわざ長所を捨ててまで大人を振舞う必要はない。
「マスク越しでも男の目って気色悪い」
……俺を見る目線はトゲトゲしい。友好という言語を知らないエイリアンのような瞳の所為で、アジサイの最大の長所を台無しだ。せっかく二人で密室にいるのだから、もう少しフレンドリーに接してくれても良いと思うのだが。
「非友好的な癖に、どうして俺を部屋に招いたんだよ」
俺が親密になりたかった訳ではない。アジサイに請われたため、彼女の部屋までやってきたのだ。もう少し客人らしい扱いをされるべきだと主張したい。
性質はかけ離れているが、同じ年頃の美少女だからだろうか。ふと脳裏に、長髪で、押しの強い魔法少女の微笑んだ顔が浮かび上がる。彼女の顔が頭蓋骨の内側を押し上げてくるから、頭痛が酷くなる。
「色々な意味でこの状況、頭が痛い……」
彼女候補の部屋に行く前に、別の女の部屋で二人っきり。
バレたら燃やされそうな気がするので、必死に現状に陥った理由を思い出そう――。
一時間ぐらい前の俺は、夕飯を買うついでに街中をぐるりと巡っていた。皐月との電話で決めた事柄の一つ、定期巡回を実施していたのだ。
そして巡回途中、古い住宅街の路地裏から近所迷惑な犬が吠えていた。特別なカンが働いた訳ではなかったが、俺は何となく足を運ぶ。
昨晩までの巡回では特別な異変とは出遭えず、『エンカウント率上昇(強制)』スキルも大した事はないと侮り、それほど期待はしていた訳ではなかった。が、いざ確認してみれば、路地裏では氷を操る少女が狂犬の群を圧倒していたのだから驚いたものである。
夕暮れが終わった直後、夜が開始した途端に戦闘中の魔法少女と出逢ってしまうのだから、やっぱりこの街の夜は異常だ。
戦っている魔法少女の服装はセーラー服で、あまり魔法少女っぽくはない。氷系魔法を使用していたので、以前皐月が援軍として呼んでいたアジサイという名の魔法少女、と連想するのは難しくなかったが。
アジサイは化物犬を危なげなく圧倒していたので、加勢しようとは微塵も思わなかった。レベル19になったというのに、相変わらず直接的な攻撃手段が不足しているため、足手まといにしかならないと判断したのだ。格好悪いとか、情けないとか、そういう大局を軽視して表面しか見ていない感想は、例え俺のものであっても受け付けない。
そもそも、唯一の攻撃手段である『暗器』スキルで隠すべき武器がなく、俺は丸腰だったのだ。
今回はその丸腰のお陰でアジサイを助けられたが。
アジサイの様子が急変したのは、フードを被った敵を攻撃した頃からか。
魔法攻撃により破れたフードの下には、顔立ちの良い美人が隠されてた。ただし、クスクスとワザとらしい笑い方をする残念美人で、犬の化物を率いている時点で俺の敵でしかない。ギルクも下手なりに人間に化けていた。より人間を真似るのが得意な敵がいたとしても不思議ではないだろう。
氷魔法で凍えたかのように震えるアジサイの背中を確認した俺は、即時行動を開始。
ギルク討伐時に得ていたアサシン固有スキルを発動させてから、路地の壁に足を掛け、民家の屋根を伝ってアジサイと敵集団を見渡せる位置まで移動する。
===============
“『暗躍』、闇の中で活躍するスキル。
気配を察知されないまま行動が可能。多少派手に動いても、気にされなくなる。
だからと言って、近所迷惑レベルの騒音を起こして良い訳ではない”
“実績達成条件。
アサシン職をCランクまで極める”
===============
『暗器』以来の使える職業スキルだったようで、敵にもアジサイにも気付かれる事なく行動できた。元々、藪に隠れたぐらいで察知されていなかった俺なので、スキルなしでも気付かれなかった公算が高い気がしなくもない。
戦場を俯瞰する立ち位置にいた俺には、アジサイが魔法をミスり、反撃される様子が眺められる。
『速』のパラメーターは動体視力の向上効果もあるのか、敵の女が投擲した物体が魔法のジャベリンだと認識できた。ジャベリンでなかったとしても、アジサイの身を庇うために民家の屋根から路地に下りただろうが、敵が投擲したものが武器で助かったのは事実だ。
『暗器』スキルで隠せる物体は武器のみ。が、誰の武器であるかまでは言及されていない。
俺はジャベリンの移動先に手の平を広げて、手を貫通する前にジャベリンを『暗器』スキルで隠した。
「その後はアジサイも知っている通りだが、不思議だ。これだけ状況を確認しても、俺が部屋に招かれた理由がさっぱり分からない」
部屋の主、魔法少女アジサイは泣いて赤くなった顔を伏せている。
アジサイが姉だと言った敵の女が去った後、路地裏で膝を抱えて泣くアジサイを見捨てて夕飯の買出しを続ける訳にもいかず、傍でしばし置物のように立っていた俺。
泣き止んだアジサイは俺の外套の端を掴むと、理由を告げずに、路地裏から徒歩三分の場所に建っている家まで誘導した。だから今も夕飯はお預けだ。
「なぁ、もしかして、何も考えずに俺を連れ込んだのか?」
「……ありがと」
「ん?」
「マスクにだけど、助けられた。お礼は言っておく」
まさか素直に感謝されるとは思わなかったので、どういたしましての返事が遅れる。
俺にとって魔法少女を助けるのはあまりにも当然過ぎる事柄だったため、アジサイが感謝を言いたくて部屋に招いたとは思い付かなかった。
口では感謝の言葉を述べながらも、顔は伏せたまま。こんなアジサイの絶妙な態度の所為で、何に感謝されているのか分からなかったとは言うまい。
「……あと、姉さんの事。相談する」
感謝も早々に、アジサイは俺を招いた次なる理由を開示する。アジサイにとってはこちらの方が本命だろう。
「姉さんって、犬をけしかけた女の事だよな。助けたいのか?」
「違う」
助けたいと言われても面倒だったが、アジサイの希望はもっと面倒だった。
他人を信じず、肉親だけを愛する人間も世の中いるだろう。アジサイが己の姉を特別に深い感情を抱いているのは間違いない。
「姉を、私の手で殺したい」
極度に悪い方向に傾いた、黒い感情であったが。
お礼を言うぐらいなので、
アジサイ→御影の好感度が1以上になったのは間違いありません。




