表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/188

9-1 黒幕共の日常2

 暗い地下。天竜川某所。

 四方の壁は土がむき出しで、室内というよりは洞窟というべき場所。石器時代水準の建築様式で、化物共の巣としては相応しい。

 こんな場所だからだろう。人気がない代わりに、人ではない男女が雑談を行っている。


「ギルクは残念であった。レベル0のオークを大事に育ててみれば、我を敬い、甲斐甲斐かいがいしく働いていたのだがな」

「主様はどうして魔界の中では弱小の種族ばかり育成されるのかしら?」


 木の根で歪に作り上げた玉座には主様と呼ばれる男が座り、階段状の段差を隔てた先で不敬な微笑みを浮かべた女が立っている。


「魔王として、勢力拡大を図るためであれば下策であろう。が、オークを育てたのは手慰みだ。趣味の範疇はんちゅうを批判されたくはないものだ、デア・ピラズィモスよ」


 女は主様からデア・ピラズィモスと呼ばれる。

 適当に名付けられ、舌を噛みそうな発音をしなければならない名であるが、女はそのいい加減さが案外気に入っていた。

 デア・ピラズィモスは、天竜川の黒幕の中ではギルクと同列の幹部格だ。

 しかし、魔族としての格は、所詮はオーク族でしかなかったギルクとは比べ物にならない。同列にあつかわれる事自体が侮辱になりえる。

 この不当な扱いには理由がある。

「趣味だとすれば、もっと分かりませんわ。私達のような高位の魔族とは、脆弱ぜいじゃくな生物をいたぶって遊ぶものでしょ。脆弱な生物を大事にするなんて摂理せつりに反してしまっている」

 デア・ピラズィモスは、主様が大事に育てた下級魔族ではない。以前、異世界の魔界において、デア・ピラズィモスは己の力量を過信して主様に挑み、そして敗北したのだ。

 魔族が魔族に挑戦するのは珍しくない。領土を争う下克上は魔界の日常だ。

 魔族が楯突いてきた魔族を殺さず、配下に加える。これは珍しく、主様でなければ思い付きもしなかっただろう。特殊なスキルを保有する女魔族を消し去ってはもったいない、と主様が取り立てた結果だ。幹部として扱われているだけでも、異例の待遇と言えた。

「そもそも知能の低い生物を飼って、どこが楽しいのです? だって、せっかくレベル75にまで育てたというのに、それでも人間に殺されるような貧弱な生物なんて、クスクス、怖くて離し飼いできませんわ」

 主様に隷属れいぞくさせられた魔族が、デア・ピラズィモスの正体だ。

 レベルだけを比較すれば、デア・ピラズィモスはギルクとそう変わらない。

 しかし、オークとは生物としての格が違う。

 魔族とは、神に祝福されなくても繁栄し続けていられる程に異常な存在である。種族固有のスキルにはレベルでは測れない脅威が備わっているため、人間族の突然変異、勇者であっても倒しきるのは困難だ。

「こちらの世界にはな、モンスターを育てる趣向のゲームがあってな。確かに、強力なモンスターを配下にして育てるのが主流である。が、強いモンスターを強くする遊び方はすぐに飽いてしまう」

 主様は述べる。

 格下のモンスターを育てて戦いに勝った時こそ、それまでの苦労を上回る充足感を得られる。弱肉強食が跋扈ばっこする魔界の淡白な日常では得られない、貴重な感動の瞬間だ。

「殺戮以外の感情に価値を感じられますの??」

 魔王でありながら、あまりにも俗な趣味を持つ主様に、デア・ピラズィモスは理解不能と左右に頭を振った。


「デア・ピラズィモス、我からしてみれば、お前の方が余程趣味が悪く感じるがな。恐らく、人間族も同様の感情を覚えるだろう」

「クスクス。魔族としては至って平凡ですわ」

「殺した人間族の皮を被って笑う。それが悪趣味だといっている」


 デア・ピラズィモスは三年前に散々いたぶって殺した少女の顔でクスクス笑っていた。

 魔王である主様に人間的な倫理感などなかったが、格下の人間族の皮を好んで着込む配下にまゆをひそめている。


「まったく、人間の死体で人形遊びなど感心はできんな」

「今回は実益も兼ねておりますわ。本日も妹への挨拶と、多少の経験値の譲渡を行っておきました」

「我が命じた魔法使いの収穫時期まで二十日はあるというのに、お前は守る気がないのだな。数日前に、一人狩ってきたばかりだろう?」


 主様への報告は行っていなかったが、無駄な隠蔽工作も行っていない。主様には月桂花という駒がいる。

 天竜川の魔法使いを既に一人狩ってしまった事実は、下手に隠すよりもあっけらかんと振舞った方が良い。こうデア・ピラズィモスは考えた。実際、彼女の目前で、主様は言う事を聞かない部下を諦観している。

「ギルクがいなくなった分を私がいただいても問題ありませんでしょ?」

「その所為でゲッケイを無駄に働かせている。ギルクを討った敵の正体の調査を優先したかったというのに、だぞ?」

「まさか、主様がそのような些事さじに本気で関心があるとは思えません」

 口の減らない女に顔の彫りを削られた気分となり、主様は玉座に背中を預けて天井を見上げた。生前のギルクをさとした言葉を用いられると、反論のしようがない。


「クスクス、クスっ」


 デア・ピラズィモスは主様の反応を存分に笑って楽しんだ後、己の有能性を証明するため笑うのを止める。

「ご安心を、主様。ギルクを殺した敵の調査は私が行っております」

「お前にしては甲斐甲斐かいがいしいな」

「趣味でお育てになっていたとはいえ、ギルクの消えた穴は小さくありませんでしょ? その分は私が埋めてみせましょう。クスクス」

 本来敵であった女魔族が主様の怒りを得ず、自分勝手に行動できる理由は、単純に女魔族が有能だからである。


「狩った魔法使いをレベリングに使わず、間者スパイとして魔法使いの会合に参加させました。そこでギルクを倒したという男、御影というアサシンの情報を入手しました」


 数日前。奇しくも、ギルクが御影というアサシンに倒された日。

 天竜川の魔法使い四人の内、既に一人をデア・ピラズィモスは捕獲していた。

 捕獲する際に数度殺して経験値を得ていたが、それでもまだ本格的なレベリング作業は開始していない。

 昼間は御影という男の調査を行わせ、夜は経験値稼ぎを行わせている。今も牢獄では、囚われた魔法少女とデア・ピラズィモスがスキルで湧かせたヘルハウンドの群れとが殺し合い、レベルアップに努めているだろう。


「言う事聞いてくれる。可愛い子ですよ。クスクス」


 生存権の保証。何度も殺された上で提示された甘い罠。

 魔法少女が化物共に従い、同じ運命にある少女さえ裏切った行動を取っている理由だった。


「……アサシンか。また奇妙な職だ」

「奇妙なだけでは、巨大化したギルクを討伐するのは難しいかと。何らかの特殊なスキルを保持している可能性が高いと考えております」


 アサシンを喰らった経験のない主様としては小さな興味を覚えるが、デア・ピラズィモスのように喉を鳴らす程ではない。


「御影というアサシン、私が喰らいます。主様に歯向かった敵を排除した褒美ですから」

「……魔法使い二人に、アサシン一人か。健啖けんたんが過ぎる気もするが、良いだろう」


 すべてがデア・ピラズィモスの思った通りに推移している。

 主様の寝首をく日も近いと、デア・ピラズィモスは本当に楽しそうに笑った。


===============

“●レベル:77”


“ステータス詳細

 ●力:201 守:120 速:23

 ●魔:251/261

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●???固有スキル『耐毒』

 ●???固有スキル『ヘルハウンド生成』

 ●???固有スキル『??』

 ●???固有スキル『??』

 ●オーク固有スキル『弱い者いじめ』

 ●リザードマン固有スキル『耐打撃』

 ●オーガ固有スキル『力・良成長』

 ●ヘルハウンド固有スキル『群統率』

 ●セイレーン固有スキル『歌声』

 ●隠者固有スキル『??』

 ●剣士固有スキル『刃物扱い上手』

 ●魔法使い固有スキル『魔・良成長』

 ●魔法使い固有スキル『三節呪文』

 ●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』

 ●魔法使い固有スキル『四節呪文』”


“職業詳細

 ●???(Aランク)”

===============

“『ヘルハウンド生成』、己の眷属けんぞくを生み出すスキル。


 『魔』を1消費する事で一体のヘルハウンドを生成可能。

 天然物のヘルハウンドとの差はなく、人間が倒せば経験値を得られる”

===============


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ