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8-8(青) 妹の私

ギルク戦以来の戦闘が帰ってきました。

張っていた伏線も一つ表面化です。

 最初に出現した七匹の群れを掃討し終えた浅子だったが、次なる群れの接近を感知したため、戦場を路地裏に移していた。

 古い街の路地裏は人二人分の幅しかない。モンスターとて、一列に並んで接近するしかないだろう。四方から教われずに済むため、一対多に向いた地形だ。


「――串刺、速射、氷柱群。鬱陶うっとうしい」


 路地裏は浅子にとっても逃げ場のなく、背水の陣を強いられる場所となってしまう。が、浅子の連射力はヘルハウンドの突撃力を上回っている。不意打ちの心配さえなければ、地の不利など問題にはならない。

「おかしい。私だけを狙っている」

 浅子のヘルハウンドに対する違和感は確信に成りつつある。

 モンスターは人間を無関係、平等に襲うからこそモンスターだ。ヘイトを集めた魔法使いを狙う事はあるだろうが、最初のヘルハウンドの群れは浅子の帰宅に合わせて突撃を開始した。

 どう考えても、浅子個人を狙った戦闘行動を取っている。

 天竜川に近い訳でもない住宅地にモンスターがいる時点で、何者かの意思は働いているのは確かだ。そして、ソイツは氷の魔法使いを指定して攻撃を仕掛けている。

 喧嘩を売られても浅子としては困るが、降りかかる火の粉を浴びる必要はない。

「全部殺す」

 第二派の殲滅後、再び出現したヘルハウンドの群れを、浅子は作業的に駆逐し始めた。



 第四派の最後の一匹をしとめた後、単調だった敵の行動に変化が訪れる。

 魔法の有効射程ギリギリでヘルハウンドは立ち止まり、今までと違ってそれ以上近づこうとしない。不審に思った浅子の方から一歩距離を縮めると、ヘルハウンドは群れ全体で一歩後退する。

 ダース単位で犠牲を出しておいて今更慎重になる理由が、浅子には思い付かない。


「……新手?」


 ヘルハウンドの群れの向こう側に、どこから現れたのか新しい魔力を確認する。

「馬鹿?」

 これまでの無謀な攻撃が浅子の『魔』を消耗させる作戦だったというのなら、あまり有効ではなかったと言える。浅子の攻撃魔法は制圧力の割に燃費は悪くない。操作の難しさが難点だが、そこは反復訓練で克服済みだ。

 浅子の『魔』の総量は172。

 戦闘開始から現在までの消費は50。

 戦闘開始からの自然回復は10。差し引き132。減っているのは確かだが、半分以上残っていればボスとだって戦える。消耗戦をしかけられたのではないのだろうか。

 現れた新手についても行動の意図が読めず、浅子としては首を捻ってしまう。

 隠れる才能はあったようだが、ならば、奇襲のために浅子の後方から静かに近づけば良かったはず。わざわざ姿を現した意味が不明瞭だ。

 遠目に見える愚かな新手は二本の足で立っている。どうやら、ヘルハウンドではないらしい。

 ただし、同色のフードとコートで全身の肌を隠しているため、何者なのかは分からない。

 現れておいてつらを隠す。そんな思わせぶりな態度が気に食わない浅子は、迷わず新手に向かってツララを投擲した。本命はフードだけであるが、特別頭部を避けるように狙いを付けてはいない。

 隠れて分からないはずの新手の顔。唯一見えている口元も、遠過ぎて浅子の視力では絶対に見えない。

 だというのに、浅子にはその新手がニヤりと口元を醜く歪めた、と理解してしまった。

 ツララがフードを破いて、新手の顔が外界にさらされる。

 長い髪が扇状に散り広がる。

 綺麗な造形の顔が、やっぱり醜く微笑んでいる。


「――えっ」


 疑問符が浅子の小さな口から漏れ出る。

 無意識に一歩足をすり出すぐらいに浅子は驚いている。とはいえ、新手の中身は化物ではなく人間で、人間に魔法を放ってしまった。この無用心に浅子は驚いていない。

「何、冗談? 悪趣味??」

 ヘルハウンドの群れは巨体を窮屈そうに路地の左右に寄せて道を開く。その道を新手の女が微笑みながらゆっくりと歩き出てくる。


「――クスクス」

「他人の空似? それとも、まさか本人?」

「クスクス、クスクス」

「そうやって汚らしく笑うなッ! 私が混乱しているだろ!」


 浅子は怒号の到着に合わせてツララをもう一本女に向かって投げ込む。

 再度の魔法投擲を新手の女はあえて避けない。だから額をかすめてしまい、表皮だけだが顔に傷を残してしまい、髪を数本切り裂く。

「避けろよッ。その顔を傷つけるなよッ」

 女の顔を傷つけた後悔を誤魔化すように、浅子は叫ぶ。

「姉さんの顔だろ、それはッ!」

「クスクス」

 マネしてもマネできなかった姉の顔を傷付けたという後悔をしたいのに、気に障る微笑みが止まらなくて腹立たしい。


「クスクス――悲しいわ。浅子」


 三年も聞いていなかった姉の美声に、心が揺さぶられたいのに、台詞が最悪で泣くに泣けれない。


「クスクス。それとも浅子、姉の私を忘れてしまったの?? そうよね、三年も経ったら忘れちゃうわよね」


 姉が好きではなかった浅子だからこそ直感できた。

 この女は、ガワは姉で間違いないのに、内臓とか魂とかが全部入れ替えられた偽者である。


「喋るなッ!! 姉さんの綺麗な顔でもう笑うな、ブスッ!」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[気になる点] >不意打ちの心配さえなければ、自我比など問題にはならない。 自我を比べる?のでしょうか。 よくわからないです。 自他の数量比とかでしょうか。
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