8-5(青) 類似した面影の敵を討て~♪ ゲノム変身~♪ 魔法少女・マモ~♪
本気なのか、惚気なのか、法螺なのか。
皐月の話は酷く判断に悩まされ、魔法少女達を困惑させるには十分だった。すべて本当の話のはずなのに、黒いマスクの男の行動が非常識過ぎたため、現実味が抜け落ちてしまうからである。
ネームドの化物が瀕死状態から復活、巨大化したというのは実に化物らしく、信じられない事はない。
一方で、黒いマスクの男の行動には、他人を信用させようとする努力が足りない。トラックで化物ごと轢いてきた。何もない空間からガスタンクを出現させた。最後には化物を怯えさせた。どれもこれも不可解であるが、何故魔法使いを助けてくれるのかも良く分からない不気味な男である。
そんな非常識で信用できそうもない男に皐月が心底惚れているのだから、もう訳が分からないのだ。
何よりも、惚れている事をほのめかしてくるのだから、シングルの少女達は煩わしさを感じていた。
話が終わって皐月が口を閉じる。
次に言葉を発したのは、皐月の隣に座る浅子だった。
「……信じられない事はない。黒マスクの男のくだりを除いて」
「氷の人が他人を信じるなんて意外です。お隣同士、頻繁につるんでいるからです?」
「サツキが戦ったネームド・モンスターと、私も一度交戦している。姉さんも行方不明。説得されるだけの材料はある」
浅子は人間に化けた異常な強さのモンスターとの戦闘体験がある。そうでなければ、知人に毛が生えた程度の皐月など信じるはずがない。
「あー、私も信じていいよ。最弱で、引退直前の魔法使いを騙す理由はないだろうから」
「ラベンダーもです??」
元々魔法使い活動に消極的なラベンダーは、皐月を信じようと信じまいと現状はあまり変わらない。一ヶ月ほど引退時期が早まるだけである。
「仕方ありません。し、信じてあげても良いです!」
他二人の魔法使いが皐月を信じると言えば、落花生はたった一人の少数派になってしまう。孤独を楽しむつもりがないのであれば、不満があっても我慢して追従するしかなかった。
それに、皐月を信じる事自体は重要でないのだ。
「今日集まってもらったのは、天竜川の魔法使いは今後どう動くのか決めて欲しいから。炎の魔法使いである私は、天竜川の黒幕に屈するつもりはない。魔法使いを養殖魚にしてくれた憎い仇は、全員灰にする」
魔法使い達の恐怖を散々あおっておいて、皐月は好戦的な意思を表明する。
攻撃的な炎の属性に実直なだけではない。ネームドを排除した自信と、何より惚れた男の底知れない力を当てにした発言だ。
そして皐月は、他の魔法使いも当てにしている。
「アジサイも協力してくれない?」
「……しない。今まで通り勝手に動く」
「へ、何でよ??」
浅子はそれ以上語らない。というよりも、浅子の意思は既に語ったつもりでいる。
浅子にとって、天竜川の黒幕には興味の対象ではない。己よりも強い敵と戦って死のうと思う程に生き急いではないからだ。
だが、たった一つだけ。
先代の氷の魔法使い、浅子の姉の末路が分かるかもという期待は抑えきれない。知るためなら、多少命を危険にさらすぐらい許容できる。
いつもいつも、人見知りの激しい妹の面倒を見ていた姉。ああいった人間がどういう結果を残したのか、浅子は気がかりだった。
「一人は危ないから、一緒に、ね?」
「別に。一人でいい」
孤立に慣れっこな浅子にとって、皐月の鬱陶しい勧誘など扇風機の風と変わらない。
「……はぁ、落花生はどう?」
「氷の人もたまには良い事を言うのです。私も、炎の人と一緒に戦うなんて御免です。天竜川の黒幕を倒して、誰が最強の魔法使いか教えてあげます」
元々、皐月の話に怪訝な反応をしていた落花生は、協力要請に対して反発する。
「最強とかどうでもいいから!」
「話を聞く限り、油断さえしなければ炎の人でも勝てた敵です。私にだって奥の手の一つや二つあります」
元々、天竜川中流で張り合っていた皐月と落花生の間柄は良好とは言い難かった。人伝の窮地で仲間意識など目覚めはしない。
「ラベンダーは?」
「私は遠慮して、素直に引退しておくよ。卒業式まで隠れ続けておく」
「無理強いはしないけど、残念。ラベンダーの魔法はそう捨てた物じゃないのに」
敵を圧倒する攻撃力ばかりが持てはやされ、天竜川の魔法使いは威力の追求が過ぎる。
しかし、ラベンダーは完全な独自路線を行く。得意の泥と土を使った魔法は攻撃力以外のすべてを満たしており、応用力と持続性は本来の意味での魔法と遜色ない。
「――模倣、人形、自律人」
ラベンダーは小さく呪文をつむぐと、テーブルの上に丸まった泥が出現する。
泥はぐにゃりと形を変化させて、灰色からカラフルに着色され、精密な人形へと形成されていった。最終的には十分の一サイズのラベンダー本人の人形が出来上がる。
「「魔力をこめれば、大きさも肌質も私とまったく変わらない人形だって作れる。黒幕から逃げるぐらいはできるさ」」
ラベンダーと人形は同時に喋り、個室内でハウリングする。魔法製の人形の声はラベンダーのそれを完全に模倣していた。
火力極振りの皐月と落花生では、決して真似できない魔法が卓上でクルクルと踊る。
ちなみに、四人の中で攻撃と補助のバランスが最も優れているのはアジサイこと浅子である。彼女の作る人形なら氷でゴツゴツしているものの、内蔵兵器を備えて動くプラモデルを完全再現できるだろう。
「せっかく集めたのに、皆協調性がない。とりあえず、黒幕の存在は伝えたから後はもう自己責任で。後悔しても助けてあげないから」
一曲も歌わずに時間が掛かった四人の魔法使いの会合は、注意喚起が最大の成果となり、閉幕する。
「……せっかくだから歌う」
言う前からナンバーを入力し終えいていた浅子は、マイクヘッドからカバーを取り去り、口元に構えた。
「アジサイ歌えるの?」
「魔法少女・マモー後期オープニング」
アニメ調だが、魔法少女モノとは思えない熱いイントロが室内を流れる。
氷の魔法使いらしく、歌うだけで浅子は他三名を氷像のように硬直させた。
 





