8-3 こうやって稼げよな
飛び飛びになりますが、8章は場面が交互に入れ替わります。ストックの問題上編集できません。
新しい御影のステータスも話ででてきます。
紙屋優太郎が意識を取り戻した午後のティータイム。
次の講義までの僅かな合間だが、優太郎と相談したい事案は多い。皐月との人間関係も優先度はそこそこ高いが、再び優太郎がフリーズしても面倒なので話題を変える。
次の話題は、ある意味学生らしいマネーの話である。
「金欠だ。化物と戦う戦費どころか、生活費も余裕がない。どうにかできないだろうか?」
「ケッ、女なんかに貢いでいるからだ」
「次の戦いまでに武器を調達したい。敵も警戒しているだろうから、もう一度ガスタンクって訳にもいかないだろうし」
来月分の家賃の引き落としがあったので、預金残高は完全に底をついた。食事もままならないのが現状である。
「もう使っていない暗視スコープは売れたんだろ?」
「原価の二割でなら売れたけど、頭金にしかならないなぁ」
粘ればもう少し高く売れただろうが、今は手元に現金が欲しい。
「いくら必要なのかは知らんが、俺は貸さない。友人間での貸し借りは友情を潰すからな」
「優太郎の小金なんて最初から当てにしていない。俺の欲しい装備には、十万とか、百万とかいうレベルで資金が必要になる」
学生の癖して金遣いが荒い、と嘆く優太郎。興味が薄れたのかスマートフォンを取り出して、耳だけで会話を続けている。
「店で買える程度の武器なんて、ボス戦で通用するのか?」
「ラスボス戦でなければどうにか。ギルク程度の中ボス相手なら使えると思っているさ」
クルクル指で小さな液晶画面を動かし続ける優太郎。
優太郎は俺とは違うレベル0の人間だ、何でも解決できる頭の良い男でもない。俺が赤の他人である魔法少女のために苦労している心情も、理解されてはいないだろう。
だが、解決の道しるべを示すのは、何故かいつも優太郎なのだから不思議なのだ。流石は俺の友人。
スマートフォンを使ったネット検索が完了し、優太郎は画面を俺に見せてくる。
「――あった、これだ。暗視スコープ売った二万円と、お前の『運』があればこれで十分だろうよ」
優太郎の手中に活あ……ありぃ?
“FXバイナリーオプション ~初心者でも簡単!~”
「……FX、次期主力戦闘機導入計画、か?」
「俺は別にライトニング兄さんの話はしてない」
FX。外国為替証券取引の英字の略称。
米国への海外旅行で円をドルに交換し、旅行から帰った後に円安で儲けたという話を聞いた事はないだろうか。大雑把に言えば、この話から旅行の部分を抜き去った金儲けがFXである。
最大の特徴は、少ない資金で最大二十五倍の利益を得られるレバレッジが使えるところである――最大二十五倍の損失を被る方が特徴とも言える。
「待て、優太郎。FXって破産しないか?」
「破産するだろうな。お前と違って『運』がない初心者が無謀な倍率で挑んだならな」
まさか異世界の化物を倒すためのゴールド稼ぎにFXを持ち出してくるとは思わなかった。ガスタンク使ったアサシンが言うのも難だが、優太郎は奇抜だ。
「このバイナリーって、十六進数で構造解析でもするのか?」
「バイナリーオプションっていうのは、ようするに上がるか下がるかの二者択一を示している。例えば、十分後の相場の上下の動きを予想して金を賭ける」
二者択一なので儲かる確率は二分の一。騙されたような数値である。
「ああ、丁半か」
「賭博じゃねーよ」
液晶画面に写るURLの先では、甘い謳い文句が初心者を誘惑している。
“すごい、たった二日で百万円が!”
メイド・イン・アメリカの着色塗料でコーティングされた菓子のごとく、甘ったるい謳い文句だ。切羽詰っていなければ手を出したくない類の世界だろう。
「たかだか二分の一の勝負、スクラッチで見せた強運があるなら大丈夫だろうさ。良いよな、『運』が6もあるなんて羨ましい」
「あー、実は、今の『運』は10なんだ」
「……おい、またレベル上がったのか?」
「ギルク倒した経験値が凄くて、今のレベルは19」
===============
“●レベル:19”
“ステータス詳細
●力:18 守:6 速:36
●魔:0/0
●運:10”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●アサシン固有スキル『暗躍』(New)
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』
●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(大)(強制)』(New)”
“職業詳細
●アサシン(Cランク)”
===============
メタル系のモンスターを討伐した以上の上昇率で、レベルは5から一気に19まで高まった。
流石にもう低レベル攻略とは呼べないか。とはいえ、ギルク級の敵を相手にするにはまだまだ頼りない。レベルが増えただけで倒せる相手だとも思ってはいないが。
「登録方法は調べてやる。ネットバンクも用意してやろう。取引はお前がやれ」
「物は試し……。まぁ、よろしく頼むよ」
教授が現れたが、ついでに軽い話を済ませておく。
「あ、優太郎。詳しい話は後でするけど、最後に一つ」
「まだあるのかよ?」
「今週の講義、ほとんど欠席するから代弁してくれ」
「俺に不正の手伝いをさせるつもりか?」
優太郎は否定的だ。俺も不正は好きではないが優先度の問題でもある。
「魔法少女の人命優先、俺の単位も優先」
「代弁って講義全部させるつもりだろうが、バレるだろ」
「そうか? 俺と優太郎の声って似ているらしいし、いつも席近いから、出席確認さえ誤魔化せれば大丈夫だって」




