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6-6(裏) 灰も残さず焼き尽くす、仇だから

 天竜川の中央付近で、圧倒的な熱量を周囲に撒き散らす火柱が建っている。

 五階建てビルに相当する火のオベリクスは遠目からも大変目立っており、天竜川の秘密を守ろうとする意思が一切感じられない。狩場の管理は魔法使いが魔法使いであるための義務であるが、火柱の下で仁王立ちしている少女は己の役割に反逆していた。

 長い髪が背後の火柱から吹き上げる気流に巻き上げられて、乱雑に漂っている。

 一般市民に対する隠蔽いんぺい魔法は一切発動させていない。身の深底から湧き上がる感情を燃料に、熱と光と魔力を街中に放っている。

 芝が覆う土手は赤く染まり。

 川に架かる橋は気温変化に軋みながら赤く染まり。

 最近何者かの悪質な悪戯で破壊されたため、修復中の橋の支柱付近の工事現場ではブルーシートが赤く染まり――。

 目立っていた。酷く目立たせていた。

 天竜川が魔法使いの養殖場であるのなら、ボヤ騒ぎを起せば、養殖場の管理者は急いで駆けつけてくれるだろう。こういう算段だ。


「――キタ」


 後五分現れなければ、天竜川を沸騰させて、干上がらせるという八つ当たりを、炎の魔法使い皐月は本気で実行していただろう。

「なるほど、ね。この異常な魔力はレベル80に相当する。結局、マスク男の言い分は全部正しかったか」

 紅色の袴が炎に照らされて、一層紅くなっている。

 いきなり百メートル圏内に現れる驚異的な気配。

 川の上流方向からやってきたと思われるレベル差10以上の強敵が、しぶきをあげ、川の浅瀬に着地してきた。


「――炎上、炭化、火炎撃」


 皐月は警告なしに高温高密度の火球を投げ付ける。苦情にやってきた同業の魔法使いの可能性であるという可能性を排斥して、敵が出現した事を前提に先制攻撃をしかけたのだ。

 川の一部が干上がって、水蒸気が爆発する。

 これまで天竜川にスポーンしていたモンスターなら、致命傷は間違いないはずの魔法攻撃。

 しかし、着弾点付近に見える巨体のシルエットが、さしたるダメージの見受けられない足取りで皐月に近づいてきていた。


「待たされた甲斐があった。活きが良い獲物を今晩は食えそうだ。魔力が全身に行き渡った肉は、さぞかし美味いだろう」


 日本人離れして、人間の域からも離れてしまった高い身長。

 タンクトップを盛り上げる筋肉の鎧。

 獣の瞳はギラギラと本能を剥きだしにして皐月の肢体を値踏みしている。色合いから瞳孔の動きまで、全部オークの汚らしい目にそっくりだ。


「オレが殺してやるから、オレを楽しませてみろ」

「殺されにやってきたのは、そっちだッ。――業火、疾走、火炎風ッ。灰も残さず消えろッ」


 天竜川を照らし続けていた火柱の渦が皐月の呪文に呼応する。回転数を増速させ、皐月を殺害しにやってきた大男を巻き込むために楕円軌道で高速移動する。

 ギルクは接近してきた高燃焼魔法を真正面から受け止めて抱え込むと、プロレス技のベアハッグの要領で、両方の腕の筋力だけで両断し、かき消した。


「焼き殺してみろよ、魔法使いッ」

「――ッ。炎上、炭化、火炎撃!」


 一歩一歩鈍足に動いて、ギルクは皐月が放った魔法を避けようともしない。肉を焦がして炭と化すはずの火炎魔法に全身巻き付かれながら、火力が足りないと皐月をあおっている。

 この魔法は、ギルクよりも体格で勝るサイクロプスを一瞬で炎上させていた。魔力や温度は十二分のはずなのに、魔法の火はギルクに触れた途端に勢いを弱めてしまう。


「この化物は、まったくッ。――粉砕、砲撃、火山弾ッ!」


 天竜川の魔法使いは実戦的である事を尊んでいるため、長ったらしい呪文は用いる事はしない。動きながらでも詰まらずに唱えられるよう単語をいくつか続けるだけだ。

 三節のキーワードからイメージを形成し、イメージに従って魔力を物理現象に置換する。

 火口からの噴火の如く、皐月の足元の地面が爆発し、ビル解体で使用される鉄球大の岩石が飛んでいく。

「火から土に属性変えたからって、意味ねぇよ!」

 岩石の着弾に合わせてストレートパンチを繰り出して、ギルクは魔法を打ち落とした。

 力技で破壊された岩石の破片にもそれなりの威力はあっただろうが、ギルクの着る服に穴があいたぐらいの結果しか残せない。

「あと十歩だぞ、ほら、逃げろ逃げろ」

「逃げるかッ、化物め!」

 皐月とギルクの相対距離が縮まり過ぎている。一度距離を稼いでおくべき、というタイミングは既に失われてしまった。

 逃げる隙を見せるよりも、愚かであっても攻撃を続けるしか手段がない。

 ……己の絶対的な有利を見せ付けるためにあえて正面から攻撃魔法を受け止め続けているギルクが、こう勘違いしてしまうのも仕方がない。実際、ギルクに魔法が通じていないのだから魔法使いを脅威に感じられないのだ。


「――加熱、融解――」

「無駄だと分かっていても、魔法しかねぇのは悲惨だよな」

「――熱崩壊。五月蝿うるさい男は溶岩におぼれていろ!」


 ギルクはこれまでの皐月の攻撃の意図を気付こうともしなかった。

 だから、彼の足は高熱によって溶けていく地面から抜け出せずに、どんどん体が地下へと沈んでいってしまっている。


「ッ、魔法使い、てめぇ」


 耐魔アイテムによって攻撃魔法がどのように無力化されるのかを、皐月は数種数度の攻撃によって確認を済ませていた。

 彼女の魔法は発動そのものがキャンセルされる訳でもなければ、魔法が起した物理世界への影響を、映像を逆再生するかのようにかき消している訳でもない。

 魔法は、ギルクの体に接触した瞬間から効果を失っている。

 言い換えれば、ギルク以外を攻撃対象とするのであれば、いつも通りの効果を発揮できるという事だ。

 例えば、地面を高温で熱して溶鉱炉と化す、とか。


「底なし沼って、本当はそんなに深くないって話、化物が知っている訳はないか」

「出しやがれ!」

「泥沼には取っ掛かりなんてないから、自力で脱出できなくなる。私の持続系の魔法の射程って五十メートル程度だけど、そこまで地面を融解させる必要はなさそうね」


 自重で下半身が埋まりかけているギルクは、脱出するためにまだ溶けていない地面へと手を伸ばす。が、掴んだ場所を中心に円状に土地は赤くただれた泥となり、動く事さえままならない。逆に暴れる挙動がギルクを沈める手助けになってしまっている。


「煮えたぎった溶鉱炉に浸って熱で死なないのは、映画の化物じゃないんだし、あきらめてあげる。その代わりに頭まで沈んで窒息死しろ」


 耐魔アイテムの有無など関係なく、力量で上回る敵をハメ殺す。皐月は凶悪な罠にギルクを沈めた。

「こ、この――ッ」

 ギルクが空気を吸わなくても生きられるぐらいの化物なら、話は別であっただろう――その時は地下五十メートルまで地面を溶かして封印しただけだが。

 頭の旋毛つむじまで浸ってギルクの言葉が聞こえなくなった。

 皮膚の上から数ミリだけが、めてガラスの混じった層と化す。このままギルクが窒息死すれば、中身入りの石像が出来上がるだろう。


「天竜川の魔法使いを舐めるから、こうなる」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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