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6-4(裏) ……師匠は?


『直接電話してくるなんて初めて。何用?』

「……別に、同じ魔法使いなんだし、たまには電話ぐらい良いじゃない。アジサイ」

『用事がないなら切る』

「ま、待って! 最近変わった事なかった?!」

『変わった事? 事件なら多い』

「アジサイ自身が天竜川関係で、これまでにない経験とかした事がない?」

『…………ある。昨日の夜。殺人事件があった場所。あの事件は人間が犯人じゃない、モンスターが犯人』

「――え?」

『人間に化けた男がいた。逃げたから分からないけど、アレは絶対にモンスター。鉄骨を素手で投げる人間なんていない』

「そいつって、ま、マスクとかしてた?」

『マスクなんて装備していない。かなりの長身。筋肉の塊。血走った目がオークに似ていた』

「――ねぇ、アジサイ」

『なに?』

「この街から逃げるつもりはない?」


 アジサイの簡潔な口調は、不安定な精神状態にある皐月にとっては幸いした。

 震える声を心配されず、枯れた響きを聞き逃してくれる。本当のアジサイは冷たい女などではなく、他人の心を踏み荒らさない繊細さを持った優しい子なのかもしれない。

 土曜日の次は、言うまでもなく日曜日だ。

 多くの人間が次の日の月曜日に怯えつつも余暇よかを楽しんでいる。

 配慮したつもりで、朝の九時に魔法少女アジサイに電話をしてみたが、皐月はアジサイの不評を買ってしまった。アジサイにとって日曜日の午前中は午前五時から午後五時の間を示しているらしい。

 しかし、不評を買ってでも同業に連絡を取ったのは正解だった。

 アジサイの情報により、皐月はまた一歩、天竜川の真実に近づけたのだから。




 最後の確証を求めて、市内の一軒家を皐月は訪ねていた。

 ここは、皐月の師匠の実家である。どの辺りに住んでいるのか師匠本人に聞いていたはずだが、実際に訪れた経験はない。片隅に追いやられた記憶を頼りに、皐月は表札に師匠の苗字が書いている家を探し当てた。

 インターフォンを押して待っていると、皐月と同年齢ぐらいの女性が出てくる。恐らく、師匠の妹だろう。


「すみません。――さんのご自宅でしょうか?」

「……姉はもう住んでいませんよ。大学に行ったきり、帰ってきてもいませんから」


 師匠の妹いわく、師匠は大学に行ったっきり一度も実家に帰っていない。

 電話をすれば繋がりはするものの、大学が楽しいの一辺倒で話が通じない。両親も諦めているとの話だった。


「昔にお世話なったので、ご挨拶をしておこうと思っていたのですが」

「姉は人が変わりました。昔は家族を大事に思ってくれる人で、誰かをないがしろにする人間ではありませんでした」


 短い訪問であったが、師匠の現状は理解できた。

 マスク男の話が真実だった時点で、結論は出ていた。

 ……師匠はたぶん、もうこの世にいない。




『また連絡?』

「私の師匠と連絡が取れない。もう三年も……」

『今更』

「やっぱり、アジサイは街からは逃げてくれない?」

『――今更。私はもう三年も前から姉さんと会っていない』

「アジサイはとっくの昔に気付いてたか。三年も経ってから騒いでいる私が、オカシイのよね」

『天竜川で何が起きてる? 魔法使いってそもそも何?』

「全部は分かっていない。箇条書きで良いなら後で教えるけど――。うん、決めた」

『ん?』

「今日の夜は天竜川の黒幕とやらに喧嘩売ってくる。九時に開始するから、絶対に天竜川には近づかないで」

『……短絡的。敵の正体も良く分かってない』

「私が捨て球を買って出るって言ってるの。零時になってもLIFEで生存報告がなかったら、アジサイ、貴方は街から逃げ出して」

『また加勢、してあげなくもない。どう?』

「気持ちだけ受け取っておくけど、私の短気で誰かに死なれたら、もう立ち上がれないと思うから」

『…………朝まで起きてる』


 アジサイには皐月の知り得るすべての情報をメール送信した。魔法使いは監視されているとの話だが、もう知った事ではない。

 メールを傍受したいのであれば、ご自由に。

 それが皐月の宣戦布告だ。

 一応の遺書らしき物を書いて、机の引き出しに入れておく。

 時間は早いが、いつもの紅色の袴姿になっておく。思えば、この装備は師匠の形見なのだろう。

 最後に、師匠から譲ってもらったレアアイテム『火竜の心臓』を巾着袋に忍ばせておく。

 皐月は、もうマスク男の言葉を疑っていない。彼の情報では、皐月を狙う敵は特殊な耐魔アイテムを装備している。レベル70以下の魔法使いの魔法は通じない。

 しかし、敵は師匠が皐月にレアアイテムをたくしていると予想していないだろう。耐魔アイテムへの過信こそが、最上級の勝機となってくれるはずだ。


「燃やす。何もかも、燃やし尽くしてやる」


 夜の八時五十分。天竜川まで屋根伝いでたった五分。

 自室の窓から飛び出した皐月。彼女の瞳は天竜川だけを見ており、安全な我が家を一度も振り返る事はなかった。

次回は黒幕側視点で一息ついて、次々回から戦闘開始する予定です。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです! でも、予想よりもかなりホラー要素が多くて何度か鳥肌が立ちました笑 これからも読ませていただきます!
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