5-6 準備万端で助けての声を待つ
土曜日を迎えたというのに、俺は忙しく行動していた。
机上の空論であるが対ギルク攻略作戦をどうにか思い付き、作戦を実行するための道具回収を目的に、太陽が昇る前から街中どころか市外にまで遠征している。
現在は正午直前になって一段落付くために家に戻っている。
遅い朝餉を昼餉も兼ねて食しているところだ。
『――本日未明、市内の工事現場でトラックが強奪されるという事件が発生しました――』
「物騒な事件だなー」
昨晩と同じカップ麺をズルズルと食う俺は、ローカルニュースに耳を傾けている。
「俺も朝方にトラックに乗っていたけど、あれって借りただけだし、違うよなー」
他人事であるべきニュースに弁明めいた独り言を呟いてしまう。その所為で、麺を食べる速度が異様に遅い。
『――通報を受けた警察の白バイ隊員が付近を警戒していたところ、不審なトラックを発――』
目が泳ぎ、部屋の中央に鎮座しているパンダ模様の二輪車をとらえる。
車体が大きいため、玄関においておくのが難しかった。床が汚れると敷金が返ってこないため、古新聞をタイヤの下敷きにしている。
外の駐輪場においておくのは自供しているようなものだ。邪魔であっても室内においておくしかない。
『――見しましたが、職質中に容疑者の抵抗を受けて軽傷。白バイ隊員を襲った容疑者は白バイを強奪して逃走したとの事です――』
午後からは市外の大型ホームセンターに行く。予定外の出費になるが、黒色ラッカーを数本購入しておこう。
「俺、二輪車は原付免許しか持ってないんだけどな。走らせ方も調べないとな」
『――白バイ隊員の証言は「突然、手品のようにバイクが消えてしまい、思わず転倒して頭を打って気絶してしまった」とやや錯乱しており、警察は朝から県内全域に緊急の――」
白――これから黒くなる予定のオートバイクが、部屋に不釣合いな大きさの所為で邪魔なのであれば、『暗器』スキルで隠してしまえば良い。実際、検問された道は、隠して突破できた。二輪車も『暗器』の対象内である事は確認できている。
が、今は駄目だ。
もっと大きくて邪魔なだけではなく危険な物体を『暗器』で隠している最中だ。スキルで隠せる物の上限は一品だけである。バイクの存在感は諦めるしかない。
「ここで解放しちゃうと、このマンションが壊れるだろうし」
『――続いては事件の続報です。○◇市の郊外にあるコンビナートで発生した消失事件の影響を受け、一時供給が停止されていた市内のライフラインは――』
ホームセンターに立てこもれば、世の中が感染型のゾンビワールドに変貌してしまっても生存できる。左右に縦並ぶ商品の豊富さが、そんな気分を客に与えてくれる。
「……ゾンビ程度が敵ならね。こっちは雑魚敵じゃなくて、ボスと戦わないといけないから」
ただし、天竜川の黒幕と戦わなければならない俺にとっては少々物足りない。
オークを倒すだけなら、ハンマーやロマン武器たる釘打ち機も使おうと思えば使えただろう。ただ、日本のホームセンターで明らかに武器転用可能な商品が販売されているはずがない。
ホームセンターへはメインウェポンの補充目的ではなく、補助装備の購入を目的に訪れていたので、あまり気落ちはしていないが。
俺が気落ちしているとすれば、それは預金残高が三桁になってしまった悲劇にだろう。
「――黒ラッカー十点、レーザーポインター一点、合計二万三千二十二円となります。レシートはご利用ですか?」
「はい、ください」
仕送りもアルバイト給料もまだ一週間先の話だ。必要だったとはいえ、大学生が万の位の買い物を繰り返していれば貯金なんてあっという間になくなってしまう。
不要となった暗視スコープをネットオークションで売っている最中だ。
明日中に入金されないと、俺は天竜川の化物にではなく、金欠によって死んでしまうだろう。今日の夕飯も買い置きのカップ麺――ラスト一個――が決定した。
今朝は色々盗んでおいて、ホームセンターでは万引きしない理由はなかったかもしれない。
ただ何となく、スキルを悪用するのは人事を尽くしてからでも良いだろうと思っている。
「物は揃った。細かい作業や下見は残っているけど、週末一日でできた対策にしては十分過ぎるだろう」
今日中に準備がすべて完了すれば、残りは魔法少女皐月からのSOSを待つだけの緊張感に富んだ生活が待っている。
皐月がいつギルクに襲われるのかは分からないし、襲われた皐月が助けを求める余裕がないかもしれない。
ならば、俺が待機するべき場所はたった一つだけだ。
「はぁ、また天竜川の草むらで夜を過ごす生活か。それとも――」




