5-4 己を知れば
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“●レベル:5”
“ステータス詳細
●力:6 守:2 速:8
●魔:0/0
●運:6”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』”
“職業詳細
●アサシン(Dランク)”
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スキルの考察は終わったので、今度はパラメーターへと話題が移る。
優太郎は頼りがいがある友人なので最後まで船頭役でいてもらう事もできる。だが、己の評価を全部人任せにしているのも格好が悪い。
今日のコンビニ代は全部俺持ちなのでギブ・アンド・テイクは一応成立しているが、俺自身が実験しないと分からない内容もあった。
パラメーター考察の主導権は俺が握るべきだろう。
大学の情報センターでプリントアウトしていた用紙を机に広げる。
「レベルアップによって、俺の『力』は2から6に上がった。数値的には三倍も増加している」
用紙のデータは表計算ソフトで作成した。簡単なマクロと単一色のセルで構成した質素、もとい、効率的なステータス表だ。レベル0とレベル1の頃の数値、それと現レベルの数値でセルが埋められ、申し訳程度の折れ線グラフが横に付いている。
最初の行には『力』の数値が入力されており、別の行には握力測定の結果が書いてある。以前に優太郎から得た意見を、きちんと実践していた。
『力』が2の握力は53キロ。男子の平均と比べればやや強い方だろう。
『力』が6の握力は88キロ。数日前の記録を大幅に更新している。ギネスにはまだ届いてはいないが、腕の筋肉量から言えば異常な数値だ。
「数値がそのまま力の増加量という訳ではない。その理由は推測になるが、倍化した力に耐えられるように体が本能的にリミッターをかけているからじゃないかと思っている」
レーシングカーに出力三倍のエンジンを搭載すれば、三倍の速度で走れるなんて超理論は幼稚だ。レーシングカーは己の出力に耐え切れずにシャーシをひしゃげさせて、最後にはコーナーを曲がれずに衝突、爆発炎上してしまうだろう。
例え構造上の問題を全部無視したとしても、空気抵抗を代表とする様々な物理的制約が邪魔をして、三倍の速度はそうそう出ない。
「身体能力が総合的に上がった結果が、握力88キロなんだろう」
「『力』については、雑誌裏の怪しい運動器具を使用した一ヶ月後みたいで納得はしたくないが、憶測そのものは妥当だな。で、『速』の方は?」
表には『速』のステータスに関するデータもある。
『速』については上昇率が良く、レベル0の頃の実に八倍もある。職業アサシンの特徴なのかもしれない。
『速』に関する計測結果も表に記載しているが、ステータス増加の恩恵は凄まじいものであった。
「百メートルおよそ八秒強って……人類新オメデトウ」
「アリガトウ。レベルアップってレギュレーション違反だと思うけどね」
大学のトラックをストップタイマー持ちながら走ってみた記録だった。
単純な速度向上以外にも肺活量も上がっていたらしく、全速力で走ったというのに息切れしなかったという点も注目したい。
「『守』については計測方法が思いつかないのでやってない。『運』については、これから試してみよう」
財布から机へと、スクラッチ宝くじを取り出し、十枚扇状に並べる。これらも夕食前に購入していたものだ。
購入したスクラッチの金額は一枚二百円。六等の二百円が当たる確率は十分の一と言われている。
「では削っていこう。優太郎も手伝ってくれ。あ、削るのは五円でな」
「え、五百円玉だろ? てか、俺が削ったら意味ないだろ」
購入した時点で当りか外れが決まるという俺理論。
波動関数の収束は削った時に起きるという優太郎理論。
「シュレディンガーさんは猫が嫌いだったんだろ!」
「ただの思考実験だろ。なんだよ、モルモットなら良かったっていうのかよ!」
二つの理論の決着は次回に持ち越し、俺がすべてのスクラッチを削っていった――もしかすると次回の結果によっては量子力学が激変してしまうかもしれない。
「――削った。当たりの数と当選金額の合計は?」
「数える……。十枚中、五枚当たり。合計金額は千円」
「当たりの数が異常だけどさ。これ、良く考えたら購入金額から差し引き千円損しているよな」
『運』の上昇による効果は確認できた。
レベル0の頃が『運』1、現在が『運』6。六倍の幸運を持つ俺が得た結果は、五倍の収入。六倍と五倍で多少の誤差はある。
目に見える程の検証結果だというのに、実りが少ない。
「俺の千円が……。やっぱり大した事ないな『運』」
「いや、連続して当たりを引いたのなら、『運』は異常だ」
どうにも『運』については優太郎と争う羽目になってしまう。
優太郎は信頼しているが、客観的な意見よりも主観的な経験を尊重してしまう。悪癖だとは分かっている、改めよう。
「……そういえば、『魔』が残っているぞ?」
「0のパラメーターをどうやって考察するんだよ!」
 





