5-3 スキルの考察2
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ちなみに前回の続き物ですので、主人公のステータスをのせておきます。
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“●レベル:5”
“ステータス詳細
●力:6 守:2 速:8
●魔:0/0
●運:6”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』”
“職業詳細
●アサシン(Dランク)”
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「最後の実績達成スキルも特殊だな。『オーク・クライ』、どこかの国にそんな民族舞踊があったような」
「違うと思うよ、優太郎。直訳で言えばオークの泣きとかオークの叫びとか」
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“『オーク・クライ』、オークに対する絶対優勢の証。
相手がオークの場合、攻撃で与えられる苦痛と恐怖が二倍に補正される。
また、攻撃しなくとも、オークはスキル保持者を知覚しただけで言い知れぬ感覚に怯えて竦み、ステータス全体が二割減の補正を受ける”
“実績達成条件。オークに対して憐憫、憤怒を覚える事。オークに安堵、恐怖、の両方の感情を抱かせる事。
反する感情を抱き、抱かせる存在となる経験により、オークに対する絶対的な優位性を持った存在へと昇華する”
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オークを憐れんだのは、瀕死のオークを介錯した時だった。
オークを怒りに任せて殺したのは、昨晩だった。
「たったそれだけの実績で、酷いスキルを得てしまったよ……」
「オークが頻出している現状では、単純で分かり易い効果を持ったスキルだ。素直に喜んでおけ」
スキルの効果は限定的だが、その分強力である。
俺が獲得するスキルの共通項なのか、直接的な攻撃力はないものの、俺と対峙したオークはステータスが80%に減少してしまう。
レベルが5に上がった今の俺なら、もうオークに遅れは取らない。見つけ次第駆逐してやろう。
……このオークに対する強い嫌悪感もスキル効果なのだろうか。
「実績達成スキルはこの三つか」
スキルを書いた紙を手にとってから、優太郎は眉をひそめる。
「んーむ……。正直に言おう、補助的なスキルばかりだ。役立つだろうが、決定打には成りえない」
「スキルぐらいしか俺に頼れる物はないんだけどなぁ」
「スキル単独では強敵には届かない。攻撃と組み合わせれば悪辣な効果を発揮できるのに、そもそも攻撃手段がないんじゃ意味がない」
野球で例えるなら五番以降だけが優秀な打線。ポイントゲッターが不在では球技で勝つのは難しい。
アサシンにガチ前衛の真似事を期待されても詮無いのだろうが。
「工夫するしかないんじゃないのか?」
ステータス表がペラリと卓上に置かれる。
チップス菓子の最後の一枚を丸呑みして、優太郎は俺の実績を両断した。履歴書を見て、大学生ならこんなものと身も蓋もない判断を下す、コンビニの店長みたいだ。
コーヒーを飲みたくなったので、台所でお湯を沸かす。
粉末コーヒーを二杯分用意して、優太郎にも渡してやった。
「実績達成スキルについてはこれぐらいで良いだろ。次はアサシンの固有スキルだな」
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“アサシン固有スキル『暗視』、闇夜でも良く見える。
可視領域は広がるが、視力向上の効果はないため、視界はスキル保持者に依存する。
Dランクに昇格したアサシンに与えられる固有スキル”
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「良かったじゃないか。もう重い暗視スコープがいらないぞ」
「あれ十万もしたんだぞ……」
暗視スコープは、毎夜苦楽を共にし、そこそこ役立っていただけに悲しさが雫となって目から滲み出る。
「実績達成スキルと違って、分かり易い。赤外線が見えるなんて人間離れしたな」
「『暗器』が便利だった分、期待外れだったよ」
「その『暗器』なんだが、職業ランクが上がった事で性能は向上していないのか?」
台所からナイフを二本持ってきて、机に並べる。
一本目のナイフを『暗器』で隠した後、二本目を手に取って念じた。が、二本目は手品のように隠れてはくれない。
「……変化なし。少なくとも隠せる数は増えていない」
重量制限がない癖に、数の制限があるのは不思議でならない。
「何でだろうね、優太郎?」
「重量については、アサシンが鉄骨を武器にするような馬鹿なマネを想定していなかっただけなんじゃないのか?」
「サイクロプスなら平気で振り回しそうだが?」
「単眼巨人が暗殺者なはずがないだろ。そもそも、肉体的に可能かどうかの話じゃない。オークやサイクロプスが実存する世界の加工技術って、基本的にヨーロッパ中世ぐらいだろ。数多い物語の中では、だけどさ」
優太郎は二本目のナイフを取り上げて、重力を立証したいのか右手から左の手の平へと落としてみせる。
「『暗器』が隠せる武器は、きっと加工物全般を示している」
剣、槍、槌、弓、ハルバート、刀、手斧、クロスボウ、グラディウス、ジャマダハル、ICBM、モビルなスーツ――。
武器という単語を聞くだけで、用途も形状も異なる武器が様々脳内に浮かび上がる。イメージのし易さが災いして、特定の何かで線引きするのが難しい。
優太郎はその曖昧な線引きを、自然物であるか加工物であるかで区切る。その上で加工物ならどこまでが許容範囲であるかを論じている。
「中世にトン単位のH鋼を加工する技術力はない。だから、スキルに重量制限を設ける必要もない」
加工物の限界が、スキルが本来あるべき世界では低かった。スキルに長さや重さといった制約を設定しておく事さえ考え付かないぐらいに。
だが、ここは人類の最盛期を迎える現代地球。武器の定義はSFレベルにまで拡大してしまっている。明確な制約が必須であるべきだが、スキルに週間更新パッケージはないらしい――某OSも保守期間は十年ぐらいだったため世間を混乱させている。スキルの保守期限も切れてしまっているのかもしれない。
「つまり?」
過去に制定されて、改定されずに忘れ去れ、現代にそぐわなくなってしまった珍妙な法律のようなものだ。
「大雑把。スキルは穴だらけ。世界も穴だらけ。科学全盛の現代をまったく想定できていない」
だから、重量制限は気にしなくても良い。
可能な限り重い加工物を叩きつければ、どんなボス級モンスターでもプチっと潰せる。優太郎はこう断言した。
「……物理ってすげぇ。魔法が形無しだ」
対ギルク戦は、完全なゴリ押しになってしまいそうだ。




