5-2 スキルの考察1
他愛無い会話は書いていて面白いです
なろうっぽくスキルの話を書けるのも良いものですね
紙屋優太郎と、どこで夕食をとるべきか。
貴賓たる優太郎に失礼があってはならない。ならば、奇をてらわずに、馴染みの味を選ぶべきだ。
昼間に続いての大学食堂。
大学周辺の大盛りこそが正義の個人店。
街中まで出てのファミレス。
ファーストフード店というのも捨て難いか――。
「酷いラインナップだな、おい。面倒だからコンビニ行くぞ」
優太郎の一言が決めてとなって、俺の賃貸マンションが食事の場として決定した。
場所を選ばず、たった三分で出来上がる食事。
コンビニで調達したカップ麺が主食の味気ない夕食でも、優太郎と食べられるのであれば……やっぱりジャンクな味しかないぞ、このカップ麺。
「出前を頼むべきだったな」
「優太郎が言うなよ……」
楽しい夕食とはあっと言う間に過ぎるものだ。膨れた胃に血が適度に流れたお陰で、まったりとした議論ができる。
テレビ画面に流れる適当な番組をバックミュージックに、俺と優太郎はゲームのような内容を真剣に語り合う。
「これがお前のステータスだったな」
===============
“●レベル:5”
“ステータス詳細
●力:6 守:2 速:8
●魔:0/0
●運:6”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗視』
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』
●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』
●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』”
“職業詳細
●アサシン(Dランク)”
===============
大学で渡しておいた手書きの紙を二人で眺める。俺は意識するだけで、網膜上で確認できるのだが、優太郎の目線に釣られて紙を見てしまう。
「スキルが出鱈目な増え方しているな。低レベルの癖して働いた所為で、色々と実績を達成してしまったのか?」
優太郎はスキルの一覧を指でなぞっている。
実績によってもスキルを得られたのは、低レベルで強敵と戦わねばならない俺にとっては幸運だ。世の中にあるRPGゲームの低レベルクリア動画でも、スキルの使用を禁止したマゾプレイはやっていない。
「世の中の天才って呼ばれる人間は、こういった実績達成スキルを持っている可能性があるんじゃないかな。ただ、レベル0では『個人ステータス表示』のスキルを持っていないから確認できないだけで」
実績達成スキルは有能だが、ジレンマもある。
スキルを持っていたから実績を達成できたのではなく、達成した実績によりスキルは得られる。スキルを達成するためにはスキル発動時と同様の事柄を達成しなければならないのだ。
例えば、『エンカウント率上昇(強制)』スキル。
人並み以上の運を持っているはずの人間が、小数点二桁未満の確率でしか出遭えないようなモンスターと二夜連続してエンカウントする。そういう実績を果たした人間に対してのみ『エンカウント率上昇(強制)』スキルは付与される。
「紙にはスキルの達成条件も書かれていたな。とりあえず、一つずつ確認していくぞ」
スキルの深い理解があってこそ、適切な運用は可能となる。
優太郎に頷いて、続きを促した。
「『暗視』はアサシンの固有スキルだから後回し。『エンカウント率上昇(強制)』は飛ばすぞ。『非殺傷攻撃』の達成条件は――」
===============
“『非殺傷攻撃』、致命傷にできる攻撃を任意で加減可能。
攻撃手段が素手、剣、弓、等、それが攻撃であれば種類は問わずスキルは適用される”
“実績達成条件。己よりも高レベルの相手を殺害可能な条件下で殺害せず、無力化する”
===============
「これはお前がオーク一体を生け捕った時に得たスキルと俺は思うが?」
「俺も優太郎に同意するよ。それぐらいしかないから」
「実績達成スキルの中では比較的獲得が容易そうなスキルだ。その分、使いどころがあるのかは微妙だが」
「筋肉ダルマのオークとタイマンして生き残るのを容易とは言わないから」
何事も加減ができるのは良い事だが、優太郎の言う通り、化物に手加減してやる機会はあるかと言われると難しい。
使えないというよりは使う必要があるのか分からないスキルだ。
「……あ、またオークを生け捕って、何度か経験値を得るのには使えるか」
「止めておけ。今度こそお前の心がイカれる」
友人の警告は素直に受けておく。俺のステータスを開示している時点で、優太郎には絶対の信頼を寄せていた。
「『非殺傷攻撃』は持っていて悪いスキルじゃない、ぐらいの感想しかないな」
コンビニのビニール袋からサラミを取って二人で食う。
ちなみに、俺と優太郎は未成年なのでアルコールは買ってない。真剣な検討の場でもあるので、頭を空回りさせる酒は不要だ。
「次行くか。えーと、次の『正体不明(?)』は――」
===============
“『正体不明(?)』、姿を目視されても相手に正体を知られなくなる。
相手が『鑑定』のスキルを所持したとしても、己のステータス情報の隠匿が可能。ただし、このスキルは正体を隠すだけの機能しか持たないため、探索系魔法やスキルには何ら干渉はしない”
“実績達成条件。本来は実績より得られるスキルではない。神秘性の高い最上位種族や高位魔族のみに許された固有スキルである”
“≪追記≫
レベル差が50以上あり、かつ、強い興味を持たれている相手に対して正体を隠し続けた事により、人間族でありながら開眼したものと思われる。
しかし、これが本来の『正体不明』スキルであるかは、スキル効果により誰にも解らない”
“深淵よ。深淵が私を覗き込む時、私もまた深淵を覗き込んでいるのだ”
===============
「何でスキル名にハテナマークが付くんだよ。追記って誰が追記したんだよ」
「俺に聞かれてもなぁ……」
「お前のスキルだろ!」
カキ氷を一気食いしたかの如く、優太郎は苦悶を隠すように手の平で額を覆う。サラミしか食っていないはずなのだが。
「役立つか役立たないか、優太郎の判断は?」
「そりゃあ役には立つだろうさ。黒幕共はお前っていう敵を知らない。この状況をいい事に暴れまくって黒幕共がお前に気付いたとしても、正体不明な敵が存在するとしか分からないんだからな」
優太郎は俺の賃貸部屋を見回しながら例え話をする。
この部屋に頭文字Gの虫がいるとは思わず暢気に暮らしている俺A。
部屋の中で何らかの影を目撃したが、それが頭文字Gなのか泥棒なのかはたまた幽霊なのかさっぱり分からない。しかし、何らかの影が室内にいるのは間違いないと怯えている俺B。
行動に制限を受けるのは俺Aよりも俺Bの方である事は間違いない。
「人の部屋でそんな例えするなよ」
「まだ冬だから気にするな。ともかく、黒幕共を混乱させるのには有効なスキルだ。本当はたったレベル5の雑魚だから、無理はできないだろうけどな」
『非殺傷攻撃』が星半分、『正体不明(?)』が星二つというのが優太郎・ガイドの判定だった。
食べ終わったサラミの袋をビニール袋に入れなおして、今度はチップス菓子を選んだ。




