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4-8 レベリングという凶行


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“レベルアップ詳細

 ●オークを三体討伐しました。経験値を二十入手し、レベルが1あがりました”

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 長い一日が終わろうとしている。

 たった一日の間に己の臆病さに絶望したり、奔走ほんそうしたり、オークを憎んだり、忙しくてもうクタクタだ。このまま帰宅して、熱い風呂に入って心を洗い流して、ベッドで泥のようになって寝てしまいたい。

 だが、そんな一日だからこそ、最後にもう一つだけ厄介事を済ませてしまいたいと思う。

 明日できる事かもしれない。後回しにしてしまおうと思えばできると思う。

 けれども、これから行う作業は、自己嫌悪が必須になる。明日に先送りにしてしまうと、きっと明日の俺は怖気づいて放任してしまうはずだ。

 今日のような出来事に富んだ一日の中でなら、ありふれた物事の一部として行為の印象が薄れてくれるかもしれない。




 大学で必要器具を入手してから、俺は再びあの路地へと戻って来た。

 警察が目を光らせていてくれたなら、諦めて帰宅できたというのに、現場には誰一人残っていない。路地へと通じる道に黄色のテープが張ってあるだけで、辺りは異様なまでに静かだ。

 黄色のテープを潜って内部を確認してみる。

 元々、重量鉄骨の落下で地面が砕けて補修が必要だった路地が、もっとボロボロになっていた。重機関銃の銃撃でも受けたのか、壁や地面が穴だらけだ。重機でなければ回収できないはずの鉄骨は壁を破って近くの民家の庭に突き刺さっていた。

 俺が去った後で何が行われたのか。興味はあるが、俺が探しているのは誰かが戦った痕跡ではない。

 愛用の武器、三叉槍は結局発見できなかった。長物の武器だったので警察に回収されてしまったのだろう。残念だが、無い物は諦めるしかない。



 路地から出た俺は、後回しにしていた本題へと向かう。


「まだ気絶したままか」


 近場のゴミ捨て場横にあるブルーシートで覆われた物体。

 気絶させたまま放置していたオークは、仲間に助けられる事なく未だに残っていた。槍を回収していた警察が、どうして周囲の不審物を調べなかったのか分からない。

 オークが残っていた。その所為で俺は手を汚さなければならなくなったではないか。

 重量鉄骨を拝借した建築現場から追加でリアカーを借り、気絶しているオークを物のように扱ってすくい上げ、目立たない場所まで運ぶ。

 野太く筋肉のある腕を、持参した頑丈なロープできつく縛り上げる。これから行う行為でオークが暴れたとしても逃げ出せないよう、何度も引っ張って確かめた。

 噛まれては危ないので、グラグラになっている顎もしっかりと固定しておく。


「……じゃあ、始めるか。一回目――」


 オークの首にロープを巻いて、締め上げる。

 ロープは天井の鉄骨を這わせているため、寸胴で重いオークでも俺一人で持ち上げられた。

 白目で気絶していたオークは多少暴れたものの、特別な苦もなく窒息死させる事に成功する。


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“レベルアップ詳細

 ●オークを一体討伐しました。経験値を五入手し、レベルが1あがりました”

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「これでレベル3か。さっきまではほとんど3に近いレベル2だったのか」


 このオークからは経験値五が手に入るようだ。効率は酷く悪いけれども、贅沢は言えない。犠牲となるオークもこいつだけで十分だろう。

「まだ消えるなよ。心肺停止状態確認。心臓マッサージ、一、二、三……」

 仰向けに死んでいるオークは上半身を裸にされて、仇である俺の手によって蘇生処置を受けている。

「……百。AEDによる除細動。通電」

 オークは脆弱な人間を襲う化物だ。醜く、知性がない代わりに人間など比べ物にならないタフさが備わっているはず。


「……自発呼吸確認。続けて二回目開始――」


 俺が今行っている凶行は、天竜川の黒幕共の計画と何ら変わらない拷問行為だ。オークに人権などありはしないが、こんな命を物として扱う行為、許されないのは当然。真っ当な精神を持った人間なら躊躇ためらいで手を止めているはずだ。


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“●オークを一体討伐しました。経験値を五入手しました”

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「……人工呼吸終了。蘇生確認。続けて三回目――」


 だが、俺は止まらない。

 俺の代わりにオークの心臓が再び停止する。

 狂った心と機械のように画一化された手順で、オークを殺しては蘇生させ続けている。

 以前にアサシンという職業は俺に向いていないと思っていたが、人に言えない暗部の仕事をこなすアサシンと今の俺、どちらがより人間に近いのだろうか。


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“●オークを一体討伐しました。経験値を五入手しました”

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 ふと、気付けば、オークの目に意識の光が戻っている。

 戸惑いと恐怖が入り混じった視線を俺に向けてきたけれども、お前も人間を殺した一匹だろ、と俺は死を強制する。


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“●オークを一体討伐しました。経験値を五入手しました”

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 哀れではある。

 種族的に人間を襲う生き方しか知らない、可哀想な生物なのかもしれない。生命を道具のように扱えば、己の最後も道具と化すという当然の予測ができない程に知能が低かっただけなのかもしれない。

 ……俺はどうなのだろう。


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“レベルアップ詳細

 ●オークを一体討伐しました。経験値を五入手し、レベルが1あがりました”

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 これまでの経験値を計算してみたところ、レベルアップに必要な経験値はレベルが1つ上昇するごとに五ずつ増えているらしい。


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“●オークを一体討伐しました。経験値を五入手しました”

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 オークは蘇生するたびに俺の顔の上半分を見るようになっていた。

 何か珍しいものでも顔に付着しているのかと思ったが、そういえば、黒いマスクを付けていたのか。恨むべき相手の素顔を知らないと、呪う事もできなくて困っているのだろう。

 報いは受けるべきだと思うので、オークに俺の本当の素顔を見せてやるのもやぶさかではない。


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“●オークを一体討伐しました。経験値を五入手しました”

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 ただし、その瞬間にショック死してしまうかが心配だ。


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“●オークを一体討伐しました。経験値を五入手しました”

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 心筋がただれるまで、オークには生き返って欲しいのだが。


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“●オークを一体討伐しました。経験値を五入手しました”

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 さあ、これが俺の――Void――という名の人間の素顔だ。

 酷く普通の顔した、一般的な大学生の顔だろ?


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“レベルアップ詳細

 ●オークを一体討伐しました。経験値を五入手し、レベルが1あがりました”

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 結局、俺の素顔を目撃したオークは以降蘇生する事なく、かすみとなって消失した。目からは涙が溢れていたが、狂人の顔とはそんなに恐ろしいものだったのか。

 使用したAEDを大学に戻してから帰宅する。

 現在時刻は早朝に近い夜だ。まともに眠れるか心配だったので、眠くなるまで俺の最新ステータスを確認する事にする。瞼を閉じていても、意識すればステータスの文字は確認可能だった。


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“レベルアップ1 → 5

 ステータスが更新されました

 スキルが更新されました

 職業が更新されました”


“ステータス更新詳細

 ●力:2 → 6

 ●守:1 → 2

 ●速:2 → 8

 ●魔:0/0 → 0/0

 ●運:5 → 6”


“スキル更新詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●アサシン固有スキル『暗器』

 ●アサシン固有スキル『暗視』(New)

 ●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』

 ●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』(New)

 ●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』(New)

 ●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』(New)”


“職業更新詳細

 ●アサシン → アサシン(Dランク)”

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 パラメーターは『速』を除いて低調と言える。『魔』にいたっては0のまま上昇する兆しがない。アサシンの職業では増えないのかもしれない。

 ただ、驚いたのは保有スキルの数が一気に七つに増えていた事実だ。

 レベルアップによる恩恵以外にも、実績達成によるボーナススキルが強みとなりそうである。


素直にレベルアップしなかった結果がこれです。

次からは新しい章となります。

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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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