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4-3 暗殺者の武器

 魔法少女に犠牲者が出るのを防ぎたかった。

 だからといって、魔法少女以外に犠牲者が出る事を容認したつもりはなかったはず。近場の路地裏でオークが集団暴行している現場を見てから言い訳しても、全部遅いのだろう。


「手遅れなのは俺の所為じゃないんだ。オークが悪いんだ……ッ」


 路地を後方に置き去りにして、襲われている女性さえも置き去りにして、駆け出す。

 助けられるのならば助けたい。が、助けるからには確実な方法がなければならない。そうしなければ、どうせ臆病な俺の脚は動かなくなってしまう。


「たまたま通り掛かった俺にッ、責任なんてないじゃないかッ」


 邪魔な三叉槍をスキルで隠して走り続ける。

 オーク一匹だけなら『暗器』のスキルで隙を作れば打倒できるのは証明済み。だが、複数相手では不意打ちの鮮度が落ちる。路地の奥では三匹のオークがたむろしていた。初撃で一匹倒せたとしても、残りのオークによって返り討ちにあうのは確実だろう。

「通報ッ、して、おかないとッ」

 償いでもなんでもない。脆弱な市民の義務として、携帯電話の電話帳から『あ、警察』を選び出す。

「――もしもしッ! ●●町に住んでいて! 怒号と女の人の泣き声! 聞こえてきて――」

 組み立て作業中の建築現場の前で走るのを止めた。乱れた呼吸を整える暇を惜しんで警察に事件を告げる。

 俺は魔法少女ではなく、ただのアサシンだ。敵を一撃で屠るような魔法は唱えられない。職業に反して、殺傷能力があまりにも低い。

 一一〇に通報するのが、俺の本来の限界だ。

 気持ちだけで体を動かす愚者は早々に死ぬ。




「――助けないとは言っていないだろうが!!」


 腰ために三叉の槍を構えたまま、俺は路地の奥を目指して突撃している。


ネや! 腐れオークがッ!」


 躊躇ためらいなんて感情は、心には一切浮かばない。

 加速して倍化した威力を穂先にのせて、オークの後頭部を突き刺す。頭蓋骨を貫通させる感触は軽い。

 オークに肩をぶつけて転倒を防ぐ。転びはしなかったが、衝撃で三叉槍を手放してしまった。

 俺の代わりに地面を転がる死体がかすみとなって消えていく。


「頭の中が空っぽだった所為で止まれなかっただろうがッ!」


 大声で罵倒して背後を振り向かせ、消えていく仲間の存在を、腰を振っていた腐れオーク共に気付かせてやる。被害者の女性から一秒でも早く注意をそらし、迅速に屠殺とさつしてやる必要があるからだ。

 オークの薄汚い習性を知った今、オーク殺害に対する罪の意識はない。

 ただし、豚面、豚面とこれまで心の中で思っていた中傷に対する詫びはある。畜生未満のすえた体臭をばらまく汚らしい生物を、愛らしい豚と評していたなど、認識が甘かったにせよオークに対する言葉ではなかった。

 オークはオークだ。未確認生物でもなければ豚でもない。

 人間を襲う。弱きを襲う。そんな最低の化物が正体だ。殺して経験値にする以外に生きる価値のない。なんで生きているのかさっぱり分からない生物だ。本来は空想上の化物なので、現実世界から早く絶滅して欲しい。

 俺を襲っただけなら憎みはしても殺意までは持てなかったというのに、今夜は心境の変化が著しい。


「脳なしオークは仲間の数も分からないのか? オークは三匹いました、俺が一匹殺してしまいました。残りはお前とお前だろ!」


 ブヒブヒしか喋らず言語を解さない化物に対して、言葉での威嚇は効果がないかもしれない。

 だが、目前でオークを殺した俺が何かを喚いていれば、残り二匹になったオークが激情しないはずがない。

 下半身を露出し、中途半端に脱いだボロ布に足を取られた奴もいるが、二匹とも俺に向かって武器を構えて襲い掛かる。

 オーク共のヘイト収集は成功した。

 脳筋とまともに争うつもりは最初からなく、背中を向けて全力で来た道を引き返す。落ちた三叉槍に未練はなく、両腕を振って逃げていく。

 歩幅の違いがあるはずなのに、背後の気配は離れるどころかむしろ近づいている。やはりステータス上はオークに分があるか。

 たった数十メートル路地を駆け抜ける事さえ叶いそうにない。

 だが、せっかく狭い一本道で仲良く並んでくれたのだ。このまま路地の中で潰してしまおう。

 寸胴な体に見合わない速度で迫ったオークと、ひるがえって対面する。


「暗器解放!」


 まっすぐ頭上に突き出した両手に、『暗器』スキルで隠していた冷たい鉄の重量が蘇る。

 重力に従い、地上二メートルの高さから落下する重物質。

 落下の衝撃はアスファルトを叩いて砕き、アスファルトの粒が舞う。

 ビル建築で用いられる重量鉄骨を俺とオークの間に割り込ませた結果だった。工事現場で一番大きく、重く、化物の上に落とせば頭蓋を粉砕してくれそうな鉄骨を吟味して、スキルで隠し持っていたのだ。重さは十分で、長さも複数のオークを巻き込んで足りる十メートル前後。

 『暗器』スキルの真価にはスキル獲得時から気付いていたのだが、試す機会には恵まれていなかった。

 最大の利点は隠すところにはない。便利ではあるが、一番ではない。

 隠した武器の重量がなくなる点こそが、『暗器』スキルの真価だと思う。戦闘においては有力な打撃力と成りえる。


「――ゥギ!?」

「――ブィ!?」


 脳天に鉄骨の衝撃を受けた化物のくぐもった声は、骨が割れる破裂音にかき消された。

 質量というものはいつの時代でも武器として扱われる。

 過去には投石器として、火薬が発達してからは大砲として。未来予想としては、衛星軌道に打ち上げたタングステンの巨大な柱を自由落下させ、敵拠点を丸ごとクレーターと化す超兵器として考案されていると聞く。

 スケールに違いはあれど、質量とはそれだけで武器になるのだ。

 スキルの重量制限だけは気がかりであったのだが、少なくともトンの位であればスキルは機能した。

 鉄骨は地面に対して垂直ではなく、オーク方向にやや傾斜させて出現させていた。鼻先を落ちていく質量を眺めているだけで方がつく。

 全力疾走していたオーク共に避ける余地はなかった。狭い路地では逃げ場などはなく、鉄骨落下に巻き込まれた。

 健気に両手を天に向けて鉄骨を支えようとしたオークは、腕を胴体に埋めて潰されていた。あっという間にかすみとなって消え去る。

 残る一方も首を不自然に曲げている。相方の消滅で更なる重量が追加されて行動不能に陥っていた。

 とどめはあえて刺さない。俺はもう、オークの介錯はしたくない。

 苦しむ化物を放置して、俺は路地の奥に戻っていく。被害者の女性の安否が気がかりだった。


この物語始まって、はじめての化物退治。

随分と時間がかかりました……。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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